新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

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現在のエリュクス(現エリチェ)の町です。サンジュリアーノ山頂にあります。絶景を望むことができ、シチリアの観光地の一つとなっています。


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 講和条約
 ここエリュクス。
 ハミルカルの本営に、姿を農夫にやつしたカルタゴの密使がやって来て、事の顛末を伝えていた。
「なにっ!我が艦隊がアエガデスで潰滅したと!」
 ハミルカルは愕然とした。
 彼は、従前率いていた艦隊を、先に本国に送り返していた。今回の海戦にはその軍船も参加していたが、それも海の藻屑となったという。
「はい。元老院は、閣下に全権を委任し、速やかにローマ側と講和をなすよう指示なされております」
 そういって密使は、書面をハミルカルに捧げた。
 そう。カルタゴ政府は、ついに戦争の遂行を諦めたのだ。輸送の手段が奪われたのだから、妥当な判断だったであろう。
 が、現地で戦う将兵の感情は、全く別であった。
「むむむ」
 ハミルカルの心中でも、急には収まりのつかない感情が渦巻いた。
 なにしろ、このエリュクスでは、ローマ軍相手に優勢に戦っているのだ。兵糧さえ続けば、アクロポリスに立て籠もるローマ軍を降してエリュクス全市を制圧し、一挙にシチリア東部に進攻しようと考えていた矢先なのだ。
(うぬぬ。本国の無能どもが兵糧補給を軽視したばかりに、かかる始末に終わろうとは…)
 ハミルカルとしては歯ぎしりするような思いであったろうが、事ここに至ってはやむを得なかった。いかなる名将も、補給なしに戦うことなど不可能である。
 彼は、大きく息を吐き出すと、一気に言った。
「分かった。直ちに、ローマ側に使者を送り、講和の交渉を始める。そのように本国の人々に伝えよ」
「ははっ」


 ここリリュバエウム近郊、ローマ軍の本営。
 カトゥルスは、カルタゴの軍使を引見した。
「なに、講和とな」
「はい。ハミルカルは、全戦局の帰趨定まれりと申し、貴国との講和を望んでおります」
「ふむ」
 実のところ、カトゥルスにとっても、講和は望むところであった。
 なにしろ、ローマ本国は疲弊している。また、同盟国の中にも戦費の重圧に耐えかね、この頃には、兵を送ってこない国が続出し始めていた。
 さらには、私ごとになるが、終戦に導いた功績が自身に輝くのだ。
(相手はハミルカル。いたずらに窮鼠とすべきではない…)
「よろしい。それではハミルカル殿と会見いたそう」
「畏まりました。そのようにハミルカルに伝えます」

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 アエガデス諸島沖の海戦(さらに続き)
 その頃、カルタゴ艦隊は、リリュバエウム西方、アエガデス諸島西端の『神島』と呼ばれる島に錨をおろしていた。司令官はハンノン。内地派総帥の彼とは別人である。
 ハンノンに与えられた任務は、まずはエリュクスで戦うハミルカルの軍勢に兵糧・物資を送り届け、次いで、ハミルカルと精鋭を船に乗せ、それからカトゥルス率いるローマ艦隊と戦うことであった。
 だから、ハンノンは、名目こそ司令官ではあったが、その主たる任務は、物資の輸送にあったといってよいであろう。ローマ軍に相対して采配を振るうのはハミルカルと想定されていたのだから。現に、カルタゴの軍船は、どれも物資を満載していた。
 彼は、ローマ艦隊の警戒をくぐるため、この島に渡ったものであった。そして、北に迂回し、エリュクスに向かおうと思っていた。
 が、そうはいかなかった。
「司令官大変です!ローマ艦隊がドレパヌムを出港し、アエガデス島に移りました」
「なんだと!」
 ハンノンは驚くとともに、大きく舌打ちした。
「くそ、気づかれたか」
 一戦が避け難くなったからだ。しかも、物資の満載した船で敵と戦うのは、船足が遅くなり機動性が奪われるため、大いなる不利である。
 とはいえ、ハンノンは、それほど悲観していなかった。彼も海洋国家カルタゴの武将である。彼なりの勝算があった。
「カトゥルスめ。さぞ与し易しと考えているであろうが、そうはいかんぞ」


 翌朝。日の出とともに、ローマ・カルタゴ両艦隊は出撃した。
 が、その頃より強い西風が吹き始めた。即ち、カルタゴ艦隊には追い風、ローマ艦隊には逆風となる。海戦において、当然、追い風に乗って戦う方が有利である。
 ハンノンが慌てなかったのは、この天候を予測していたからかもしれない。
「むう…これはどうしたものか」
 カトゥルスは戦端を開くべきか否か悩んだ。
 絶好の戦機なのだ。敵は、兵糧満載で船足遅く、また、急きょかき集めた兵で調練も十分ではない。普通に戦えば、大勝疑いないのだ。
 が、ローマの軍船は、帆をたたんでいるにもかかわらず、風にあおられ、船列は乱れがちだ。あちこちの船から、怒鳴りあう声が響いてくる。


「コンスル閣下。ここはいったん引き返し、風向きの変わるのを待ち、その後に戦いを挑めばよいのでは…」
 副官が進言した。
「いや、今しかない」
「なにゆえ…」
「ここで引き返せば、敵艦隊はエリュクスに至り、兵糧など荷物を下ろして船足が軽くなるばかりではなく、精鋭を乗せ、なおかつ指揮を振るうはハミルカル。容易ならざる戦いとなる」
 カトゥルスは、ハミルカルの恐ろしさを十分認識していた。だから、着任以来、彼はハミルカルの陸上からの挑発には、ひたすら無視を決め込んでいた。
 カトゥルスは、目をかっと開くと、抜刀した。
「全艦隊、前進せよ!ひるむな!勝利は目前ぞ!」
 ローマ艦隊は、前進を再開した。


 両艦隊は、神島とアエガデス島の中間の海域で激突した。
 当初は、追い風に乗って、カルタゴ艦隊が優勢に戦った。が、ローマ艦隊が隊列を乱しながらも、カルタゴ艦隊に接近して取り付くと、形勢は一変した。
 ローマ兵は、この二十年の戦いで海戦に慣れていた。また、包囲戦中も訓練に励んでいた。だから、接近するや、次々と敵艦に我先と飛び込んでいく。
 他方、カルタゴ側は、輸送が主な任務とあって、兵員の多くが調練不足であった。ために、躍り込んでくるローマ兵に、戦うどころではなく、次々と付き伏せられ、また逃げ惑った。
 あちこちで、軍船を分捕ったローマ兵の勝ち名乗りが響いた。
 カルタゴ艦隊はあっという間に潰滅した。
 五十隻が沈没、七十隻の船が捕獲され、捕虜となった者は一万人以上にのぼった。
 司令官ハンノンの船は、海戦の途中に風向きが変わったため、幸運にも神島に逃げ込むことができた。
 戦いはローマ軍の大勝利に終わったのである。


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 アエガデス諸島沖の海戦(続き)
「されど、その艦隊を打ち破っても、またカルタゴは新手の艦隊を建造して立ち向かってくるのでは?」
「それは無理だ」
「なにゆえ?」
「その前に、こちらのカルタゴ軍の兵糧が尽きるからだ」
「え」
 副官の目が点になったのを、カトゥルスは笑った。
「今、我らが港を占拠して敵の糧道を絶っている。ここにあるカルタゴ軍の兵糧は日に日に乏しくなっていよう。それゆえ、その敵艦隊はおそらく兵糧やその他物資を満載してくるに違いない」
「なるほど…」
「それを破られると、こちらのカルタゴ軍は、もはや補給の望みがなくなるのだ。となれば、降るよりほかあるまい」
 さすがカトゥルス。戦況の全貌を見事に俯瞰していた。
「さすがは御慧眼」
 副官は、腹から唸るように感心した。
「ははは。それゆえ、我らも遊んでいる訳にもいかないのだ。命令通り、兵には日々訓練させているであろうな」
 カトゥルスは、戦闘がないときも、兵が無為に過ごすことを許さず、日々訓練を課し、また自ら指導して演習を行っていた。
「それはもう…。御蔭で、兵らは日々逞しくなっております」
「それでよい。あとは、ひたすら敵の現れるのを待つだけだ」
 しばらくして、カトゥルスは、ドレパヌム包囲に一軍を残すと、主力をリリュバエウム近郊の港に集め、敵の来襲に備えた。
 が、待てど暮らせど、カルタゴ艦隊は現れなかった。艦隊建造に時間がかかっていたのと、もう一つには、リリュバエウム籠城軍やハミルカル軍の兵糧が、結構潤沢に残っていたものであろう。


 明けて紀元前241年春。
 カトゥルスの任期が間もなく終わろうとする頃。
「コンスル閣下!」
「どうした」
「敵艦隊が現れました!その数二百!」
「そうか…」
 カトゥルスは、すっくと立ち上がった。
 彼の顔には安堵の笑みが広がっていた。彼も人の子。しかも、人も知る名家の子。自身の任期中に決着をつけたかったものであろう。
「随分待たされたが、ようやく現れたか。よし、我らも出撃するぞ」
「ははっ」
 待ちに待っていた時が来たのだ。鍛えに鍛えた、選りすぐりの精鋭を船に乗せると、ローマ艦隊は勢いよく出撃した。

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 ※上記画像はGNUライセンスに基づいてシェアされているものです。
 ※エリュクス山頂より西方ドレパヌム(現トラパニ)の街を望んだものです。
 この山頂に、エリュクスのアクロポリスがあり、ローマ軍が守備していました。
 遠く見える島々がアエガデス諸島となります。


 アエガデス諸島沖の海戦 
 ハミルカルの奮闘、そして、リリュバエウムに立て籠もるカルタゴ守備隊の抵抗。シチリアでの戦いはなかなか決着しなかった。
 気がつけば紀元前242年。開戦が紀元前264年だから、二十年を経過していた。
 この想像を絶する消耗戦に、両国は疲弊しきっていた。
「やはり、海での戦いで決着をつけるしかない。補給を断ち切らねば際限がない」
 ローマ元老院はようやく決断した。
 そう。エリュクスのハミルカル軍も、リリュバエウムのカルタゴ軍も、カルタゴ本国からの補給があればこそ持ちこたえていた。カルタゴ側は、ローマ海軍の手薄をいいことに、ろくな警護も付けずに輸送船団を頻繁に往来させていたのだ。
 勿論、艦隊再建は、これまで幾度となく議題には上がっていた。しかし、度重なる海難事故に、さしものローマ人の猛き心も折れ、実行に移すことができなかったのだ。
 しかし、ローマ人は決断した。
 艦隊総司令官に、次期執政官に選出されたばかりのガイウス・ルタティウス・カトゥルスが任命された。冷静沈着の将であった。
 が、一つ大きな問題があった。人的物的資源において優位にあるといわれたローマも、ここにきて国庫が底を尽き、艦隊建造の費用を捻出できなかったことである。
「富裕の人々の協力を得るしかない」
 ローマ政府は、いわゆる国債を発行し、戦勝の暁には利子をどんと付けると約束して、半ば強制的に富裕者に割り当てた。もちろん、富裕層の一員たる元老院議員も率先して引き受けた。
 ローマは、ここまで追い詰められていた。
 こうして、国力の全てを傾け、オスティアの港に、新造なった二百隻の五段櫂船が進水した。紀元前242年夏の初めのことである。
 カトゥルスは直ちに出撃した。


 カトゥルスの行動は迅速で、意表を衝いて現れてカルタゴ側を驚かせると、カルタゴ艦隊が本国に引き揚げている隙に、ドレパヌムの港と、リリュバエウム近郊の港をあっという間に占領した。そして、ドレパヌムの周囲に攻城機を据え付けると、猛然と攻撃を開始した。
 とはいえ、ドレパヌムも無類の要害。なかなか落ちなかった。
「コンスル(執政官)閣下、なかなか落ちませんな」
 副官が言った。
 カトゥルスは、既に攻撃を停止させ、兵糧攻めに切り替えていた。
「気にすることはない」
「…と申しますのは?」
「決着は陸上ではない」
「は?」
「間もなく現れる敵の艦隊、それを打ち破らねば、この戦いは終わらぬであろう」
 カトゥルスの許には密偵から知らせが入っていた。カルタゴ側もローマ大艦隊の出現に驚き、こちらも国費を傾け艦隊増強を急いでいるという。
 この頃のカルタゴ本国の指導者たちは、極めて楽観的であった。ローマが艦隊再建に出ることはないと思っていたのだ。度重なる海難事故がローマ人に衝撃を与えていることを知っていたからだ。
 それに、もう一つ。当時、内地派総帥として、あのハンノンが台頭し、彼の主導による、内陸部への領土拡張作戦が極めて順調に進んでいたことにある。彼ら内地派は、その戦功もあって発言権を強め、膠着状態にあったシチリアの戦いに消極的になっていたのだ。
 内地派の勢力拡大は、この戦争の行方に少なからざる影響を与えることとなった。
 もし、カルタゴ側が、ローマに先んじ、シチリアの戦局に総力を上げていたならば、ローマに勝る大艦隊を建造し派遣していたならば、機略縦横のハミルカルの采配と併せ、どのような結果になっていたことか。おそらく予断を許さないものとなっていたに違いなかった。

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 パノルモス(現パレルモ)の北に聳えるヘイルクテ山(現ペレグリーノ山)です。あの山頂に、ハミルカルは要塞を築きました。

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 雷光(続き)
 紀元前244年。
 ハミルカルの活躍もあり、ずっとローマの優位が続いたシチリア戦線は、ずいぶんとカルタゴ側が押し返すこととなった。が、シチリアのほとんどがローマの勢力下にあることは相変わらずで、カルタゴ側に寝返るような都市はなかなか現れなかった。
「局面を打開しなければならぬ」
 考えあぐねたハミルカルは、とある都市に目をつけた。
 エリュクスである。
 エリュクス(現エリチェ)は、エリュクス山(現サンジュリアーノ山)、標高751メートルの山腹に建てられた都市である。山頂にアクロポリスがあり、アフロディーテ(ヴィーナス)の神殿があった。
 この街はドレパヌムの西十kmほどに位置する都市で、少し前までカルタゴ側の都市であった。が、紀元前249年、ローマ軍の奇襲に陥落し、以降、ローマ軍が占領していた。
 ハミルカルは、密偵を、エリュクスに潜り込ませた。
 その密偵は、ローマ軍の布陣を調べ上げ戻って来た。
「そうか。ローマ軍は、麓と山頂のアクロポリスに駐屯しているのか」
 ハミルカルの目は光った。
「はい。麓の港には軍船を係留しておりますゆえ、放っておけませぬ。また頂上のアクロポリスは無双の要害。ここを押さえておけば安心ということなのでございましょう」
「ということは、山腹の市街には兵はあまりいないということか」
「ほとんどおりませぬ」
「よし、我が軍の作戦は決まった」
 その夜。
 カルタゴ軍は、ヘイルクテ山の砦を夜陰に紛れて出ると、疾風の如く西に進み、エリュクス山に登り始めた。麓のローマ軍に見つからないよう、道なき道を登っていった。


 翌朝。
 エリュクスのアクロポリスに駐屯するローマ兵は、眼下の市街を見て仰天した。
 街のあちこちから煙が立ち上り、街路にはカルタゴ兵が充満していたからだ。
「おお!街は既にカルタゴ軍に占領されておるぞ!」
 が、さらにそのカルタゴ兵の群れが、次第に近づいてくる様子が見て取れた。
「こちらに接近してくるぞ!」
「全員戦闘態勢を取れ!」
 それから間もなく、アクロポリスをめぐる激戦が始まった。
 双方必死であった。
 ローマ側は、ここが落とされれば、エリュクス全市の陥落。それは、南方でリリュバエウムを包囲するローマ軍の後方が脅かされることを意味する。
 カルタゴ側とて、市街地こそ占領に成功したものの、麓の港と頂上のアクロポリスのローマ軍に挟まれているのだ。アクロポリスを攻略しなければ活路は見いだせない。
 が、エリュクスのアクロポリスは、周囲を断崖絶壁に囲まれた要塞。しかも、兵糧も十分に蓄えていたこともあり、ローマ軍は頑強に抵抗した。
 ハミルカルは、麓と頂上に挟まれる困難な地勢にあって糧道限られるなか、巧みに物資の補給を図って、ローマ軍の反撃をしのいだ。
 なんと、このエリュクスでの局地的な戦いは二年にも及んだ。


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