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アエガデス諸島沖の海戦(さらに続き)
その頃、カルタゴ艦隊は、リリュバエウム西方、アエガデス諸島西端の『神島』と呼ばれる島に錨をおろしていた。司令官はハンノン。内地派総帥の彼とは別人である。
ハンノンに与えられた任務は、まずはエリュクスで戦うハミルカルの軍勢に兵糧・物資を送り届け、次いで、ハミルカルと精鋭を船に乗せ、それからカトゥルス率いるローマ艦隊と戦うことであった。
だから、ハンノンは、名目こそ司令官ではあったが、その主たる任務は、物資の輸送にあったといってよいであろう。ローマ軍に相対して采配を振るうのはハミルカルと想定されていたのだから。現に、カルタゴの軍船は、どれも物資を満載していた。
彼は、ローマ艦隊の警戒をくぐるため、この島に渡ったものであった。そして、北に迂回し、エリュクスに向かおうと思っていた。
が、そうはいかなかった。
「司令官大変です!ローマ艦隊がドレパヌムを出港し、アエガデス島に移りました」
「なんだと!」
ハンノンは驚くとともに、大きく舌打ちした。
「くそ、気づかれたか」
一戦が避け難くなったからだ。しかも、物資の満載した船で敵と戦うのは、船足が遅くなり機動性が奪われるため、大いなる不利である。
とはいえ、ハンノンは、それほど悲観していなかった。彼も海洋国家カルタゴの武将である。彼なりの勝算があった。
「カトゥルスめ。さぞ与し易しと考えているであろうが、そうはいかんぞ」
翌朝。日の出とともに、ローマ・カルタゴ両艦隊は出撃した。
が、その頃より強い西風が吹き始めた。即ち、カルタゴ艦隊には追い風、ローマ艦隊には逆風となる。海戦において、当然、追い風に乗って戦う方が有利である。
ハンノンが慌てなかったのは、この天候を予測していたからかもしれない。
「むう…これはどうしたものか」
カトゥルスは戦端を開くべきか否か悩んだ。
絶好の戦機なのだ。敵は、兵糧満載で船足遅く、また、急きょかき集めた兵で調練も十分ではない。普通に戦えば、大勝疑いないのだ。
が、ローマの軍船は、帆をたたんでいるにもかかわらず、風にあおられ、船列は乱れがちだ。あちこちの船から、怒鳴りあう声が響いてくる。
「コンスル閣下。ここはいったん引き返し、風向きの変わるのを待ち、その後に戦いを挑めばよいのでは…」
副官が進言した。
「いや、今しかない」
「なにゆえ…」
「ここで引き返せば、敵艦隊はエリュクスに至り、兵糧など荷物を下ろして船足が軽くなるばかりではなく、精鋭を乗せ、なおかつ指揮を振るうはハミルカル。容易ならざる戦いとなる」
カトゥルスは、ハミルカルの恐ろしさを十分認識していた。だから、着任以来、彼はハミルカルの陸上からの挑発には、ひたすら無視を決め込んでいた。
カトゥルスは、目をかっと開くと、抜刀した。
「全艦隊、前進せよ!ひるむな!勝利は目前ぞ!」
ローマ艦隊は、前進を再開した。
両艦隊は、神島とアエガデス島の中間の海域で激突した。
当初は、追い風に乗って、カルタゴ艦隊が優勢に戦った。が、ローマ艦隊が隊列を乱しながらも、カルタゴ艦隊に接近して取り付くと、形勢は一変した。
ローマ兵は、この二十年の戦いで海戦に慣れていた。また、包囲戦中も訓練に励んでいた。だから、接近するや、次々と敵艦に我先と飛び込んでいく。
他方、カルタゴ側は、輸送が主な任務とあって、兵員の多くが調練不足であった。ために、躍り込んでくるローマ兵に、戦うどころではなく、次々と付き伏せられ、また逃げ惑った。
あちこちで、軍船を分捕ったローマ兵の勝ち名乗りが響いた。
カルタゴ艦隊はあっという間に潰滅した。
五十隻が沈没、七十隻の船が捕獲され、捕虜となった者は一万人以上にのぼった。
司令官ハンノンの船は、海戦の途中に風向きが変わったため、幸運にも神島に逃げ込むことができた。
戦いはローマ軍の大勝利に終わったのである。
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