新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 傭兵の乱13−大決戦(さらに続き)
「ふふ、ガリア兵め。猪突猛進してくるわ」
 ハミルカル、馬上悠然と構えていた。
「閣下!中央を突破されてしまいますぞ!」
 副官ハシュドゥルバルは真っ青になっている。ハミルカルの娘婿である。
 彼も事前に作戦は聞いている。だが、迫るガリア騎兵の獰猛に動揺した。
「慌てるな、我が婿よ。ここからが余の戦い。余の采配をよく見ておれ」
 ハミルカルは笑って見せると、右手を上げた。
 その時である。ガリア騎兵の前方に、突如、がばっと兵が現れた。
 平地に溝を掘り、その中に伏せていたものだ。


「おっ!」「なんだ!」
 ガリア騎兵は怪しんだ。
 現れたカルタゴ兵は、手にした武器を構えた。
 弩だ。
 次の瞬間、ぶうんという唸りと共に、無数の矢がガリア騎兵を襲った。
「ぎゃっ」「わっ」
 ガリア騎兵は血しぶきをあげ、のけぞり、また落馬した。
 ガリアの兵は、自身の武勇を誇り軽装備である。半裸に等しい者も多かった。ために、放たれた矢は、悉く彼らの体に命中した。


「落ち着け!弩は連射できぬ!」
 ガリア騎兵の誰かが叫んだ。
 そう。弩は威力が大きい分、矢をはめるのに時間がかかる。体重をかけて、矢を発射台にはめ込むのだ。
 ガリア騎兵は再び一散に駆け始めた。接近すれば、歩兵などひとたまりもないからだ。
 が、次の瞬間、再び、矢が雨のように降り注いできた。
「ぎゃあ」「ぐわっ」
 ガリア騎兵は、ばたばたと打ち倒される。
 それからも呼吸を置かず連射されてくる。
「ば、馬鹿なっ!」「弩で連射してくるぞ!」
 ガリア騎兵は狼狽した。
 ハミルカルも弩の弱点は心得ている。そこで、隊を三列にし、第一列が射終われば後ろに下がり矢を充填し、次に第二列が射終われば後ろに下がり、というようにして弩の連射を可能にしたのだ。
 こうなると、射程の長い弩の前に、ガリア騎兵はひとたまりもなかった。逃げもならず、何の抵抗もできず、無数の矢を浴び続けるほかなかった。
「ぎゃあ!」「うわぁっ!」
 猛烈な射撃の前に、ガリア騎兵は空しく倒れるばかりであった。
 ガリア騎兵五千は、ここで全滅した。



https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

 ※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください


 傭兵の乱13−大決戦(続き)
 ひとときの静寂があたりを包んだ。草の囁く音だけが耳に聴こえてくる。
 マトスはすっと抜刀した。
「進めっ!」
 ほぼ同時に、ハミルカルも叫んだ。
「前進だ!」
 ここに、大陸の命運を賭けた決戦の火蓋が切って落とされた。
 両軍喚声を上げて進んだ。
 まず、突進したのがカルタゴの象軍だ。中央前面に配された象の大群は、象使いの叱咤に、狂ったように鼻を振り回しながら敵兵の群れに迫った。
「む。おかしいぞ」
 象の背に乗る象使いたちは訝しんだ。
 いつもなら、重戦車のように迫る象に怯え、逃げ惑う筈の敵が、整然と隊列を保っていたからだ。
すると、象がある距離まで接近したとき。前面にいた傭兵軍の一隊は、くるりと背を向けた。そして、退却を始めた。いや、一散に逃げ始めた。
 象は彼らをどこまでも追いかけた。が、敵はどこまでも逃げていく。
 何分小回りが利かないから、急停止はできない。従って、敵の後方、遥か遠くまで駆けていくことになり、象軍は戦線から離脱した格好となった。


 マトスはニヤッとした。
(象にまともにぶつかって勝てるわけない。逃げてやり過ごすのが最上なのよ)
 この三年の大戦の間、彼も様々な戦訓を得てきた。一介の傭兵に過ぎなかった彼も、将として大きく成長していた。ために、象軍の前に身軽な軽装歩兵を配し、象が迫ればどこまでも逃げて行けと命じておいたのだ。
 そして、策はこれだけではなかった。彼は、その軽装歩兵の両翼に、全ガリア騎兵一万のうち半数の五千騎を配していた。その騎兵隊が、軽装歩兵のいなくなった隙間に、横に広く隊列をとった。
(作戦の要はここよ)
 マトスの目は前方を睨みつけた。象軍のいないカルタゴ軍中央は、象軍がいなくなったため、明らかに奥行きが薄くなっていた。


 マトスは、剣先をまっすぐ、その前方に向けた。
「今だ!騎兵隊は敵中央に突進せよ!」
 ガリア騎兵は、猛然とカルタゴ軍中央目指し突き進んだ。
 そう。これこそ作戦の秘中の秘。敵の最大の強みである象軍の背後にこそ弱点があると読み、そこを自身の最大の強みであるガリア騎兵に襲わせる。
 案の定、前面にカルタゴ軽装歩兵が慌てて現れて展開し、槍を投げ突撃を阻止しようとしてきた。
 が、ガリア騎兵はそれをものともせず突進すると、彼らを馬蹄で弾き飛ばした。
「わあ!」「ひいっ!」
 カルタゴ兵の悲鳴があちこちで上がった。
 一対一の接近戦となれば、歩兵は騎兵の敵では絶対あり得ない。
 カルタゴ軽装歩兵は、あっという間に打ち破られ、算を乱して潰走した。
「わははは。ざまを見ろ」
 ガリア兵は勝ち誇った。
 彼らガリア兵の特長は、優勢となると、何倍もの勇を発揮する所にある。
「このまま中央を突破し、敵を混乱せしめ、背後よりハミルカルの本陣を衝くのだ!」
 ガリア騎兵は、わあっと叫び、再び飛ぶように駆けていく。


https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

 ※関係地図は2月7日分を御覧ください


 傭兵の乱13−大決戦 
 紀元前238年晩秋。
 マトス率いる総勢十万の傭兵軍はチュニスを出陣した。
 応じてハミルカル率いるカルタゴ軍五万も押し出した。
 チュニス南方の平原で、両軍は対峙した。
 この時代、地中海世界では、決戦に際し、兵を鼓舞するため、総司令官は短い演説をするのが慣習となっていた。


 マトスは、例の如く、五人の通訳を連れて、全兵士の前に進み出た。
「諸君!」
 彼の前には、人波が雲霞の如く広がっていた。
 華やかな鎧兜の重武装に身を包むギリシア人やリュビア人。対照的に半裸のガリア人。そして、獣の皮や骨でつくられた鎧兜をつけたアフリカ奥地の傭兵たち。もう冬が間近に迫り、肌寒い風が吹くというのに、皆、汗を光らせ、目をぎらつかせていた。生命が、自身の危機に緊張し、未来の栄光に興奮しているのだった。
「見よ!」
 マトスは、眼前に迫るカルタゴ軍を指差した。
「あれこそ、諸君が打ち破る最後の敵ぞ!負ければ彼らの奴隷!全てを失うのだ!」
 マトスはそこで言葉を切り、兵を睨みつけるように凝視した。
 通訳が人々に伝える時間が必要なのだ。
 意が伝わったとみると、言葉を続けた。
「勝てば彼らの主人となる!全てを得るのだ!諸君はこの大陸の支配者となるのだ!」
 通訳たちにも気迫が乗り移ったのか、身を震わせて叫ぶように言葉を伝えた。
 やがて、獣の如き咆哮が全兵士から沸き上がった。
「奮えや人々!勇を見せよ!」
 マトスは絶叫した。
 将兵の大喚声がつんざき、あたりの空間を覆い尽くした。


 同じ時、ハミルカルも、兵の前に進み出ていた。
「諸君!目前の獣たちを見よ!」
 ちょうどその時、傭兵どもは咆哮を上げていた。あたかも、大移動する動物の群れが、他の群れに遭遇した時の如くであった。カルタゴ側からは、まさしく獣たち、そうとしか見えなかったろう。
「あの獣どもがカルタゴを落とせばどうなるか。当然、我が国は滅亡する。いや、それにとどまらぬ。誰一人穏やかな死すら与えられまい。諸君の家族は、辱められ、苦痛の中、死の世界に突き落とされるのだ」
 兵は蒼白い顔のまま黙って頷いた。
 だからこそカルタゴ市民は団結した。ハミルカル党とハンノン党も和解も遂げたのだ。
「よいか!獣に人の言葉は意味をなさぬ!獣を従わしめるのは鞭だけなのだ!」
 ハミルカルは、かっと目を見開くと、右手を突き上げた。
「我が采配迷うことなし!我に従え!ならば勝利は必ず諸君の頭上に輝くであろうぞ!」
 それは、彼の魂の叫び。
 自信の塊の如き言葉に、カルタゴ兵から大きな喚声が上がった。



https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

 ※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください。



 傭兵の乱12−決戦へ(さらに続き)
 その頃、ハミルカルも、将たちを一堂に集めていた。
「この戦いこそ祖国興廃の一戦ぞ」
 そう。敗北はカルタゴ滅亡を意味した。傭兵どもに人々は祖国を追われ、エリッサ以来の由緒ある都市は、跡形なく破壊されるに違いなかった。
 が、彼の顔に悲壮感の色は微塵もない。そこにあるのは、勝利に対する信念だけだ。
 名将とは、自身を信ずる達人でもある。
「傭兵どもは尋常ならざる布陣をもって挑んでくるとのこと。総勢十万余。騎兵も一万を数えるとのこと」
 将たちは蒼白い顔のまま、身じろぎ一つしない。
 当然であった。ハンノンの働きにより増強されたとはいえ、味方の兵力は、ようやく五万を数えるほどでしかなかったのだ。


「兵数の多寡など問題ではない」
 ハミルカルは微笑んだ。
「それよりも、まさしく望むところではあるまいか。これに勝利すれば、我がカルタゴに再び平穏と繁栄が戻ってくるのだ」
 そう。局地戦では決着はつかない。決戦に打ち勝ってこそ、最終的な果実を手にするこどができるのだ。マトスだけではなく、ハミルカルにとっても待ち望んだ時がやって来たのだ。
 ハミルカルは布陣を伝えた。
 要は、左右にヌミディアとカルタゴの騎兵を配し、中央に重装歩兵を置くという伝統的な布陣だった。違うといえば、国家の危機ということで、選抜されたカルタゴ市民兵一万人が戦力に加わっていることぐらいか。
 将たちは拍子抜けした顔になった。
「…して、象軍はどこに置きまするので?」
 ボスタルが訊いた。
 先に副将ハンニバルを失った戦いで、傭兵軍にも騎兵のあることは明らかとなった。となると、象軍の活用が戦いの帰趨を決めるものと思われたからだ。


「さあて、そこが問題」
 ハミルカルは、にやっとした。
「象は張り子の如きものとなろうよ」
「えっ」「なんと」
「ふふ。マトスもこの三年に及ぶ戦いで成長していよう」
 紀元前241年秋に始まったこの大動乱も、時が過ぎ、いつの間にか紀元前238年秋の終わりを迎えていた。
「奴が象のことを見落とすわけがない。となると、我らはその上を行かねばなるまい」
「その上とは?」
 ナラヴァスが訊いた。
「その作戦を申し渡す。聞くがよい」
 ハミルカルは秘策を囁いた。



https://www.blogmura.com/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください。


 傭兵の乱12−決戦へ(続き)
 マトスの使者はリュビア全土に飛んだ。
『今こそ奮起する時ぞ!今を逃せば故郷の解放は叶わぬ!立て!立つのだ!リュビアの民衆よ!』
マトスの信望はまだ失墜していない。なんといっても、マトスは、リュビアの地が生んだ初めての指導者といってもよい。その彼に対する期待は大きかったのだ。
 民衆は檄に呼応した。リュビア全土が奮い立ったのだ。やがて、熱狂と興奮に包まれ、郷土の期待を一身に背負った五万人もの若者たちが、続々チュニスへやって来た。
 チュニスには十万以上の兵が集まった。城内に収まり切れず、リュビア兵は城を取り巻くように野営した。
 

 マトスは、各隊の将を政庁の大広間に集めた。その数、五十人に上った。
 その多くはリュビア人の各部族の長たちだ。が、同じ民族とはいえ言葉も違う。リュビア人とは、いわばカルタゴ人やギリシア人が、自分たちと区別するためにつけた呼称に過ぎない。
 いや、リュビア人だけではない。そこには、ギリシア人やガリア人、バレアレス諸島の人々、さらにはカルタゴから自由を求め逃れてきた奴隷たちもいる。
 広間は、さながら地中海世界の民族の標本の如き様相を呈していた。
 従って、彼らの前に立つマトスは、五人の通訳を傍らに置いていた。
「諸君!我らは民族独立の分かれ目にある!敗北すれば無残な死!勝利すれば歓喜!」
 彼は、五十人もの将を前に、乾坤一擲の戦いに挑む覚悟を口にした。
「この戦いに勝利すれば、独立はおろか、たちまち大陸の覇者となることも夢ではない。我らはローマやエジプトと肩を並べる大国となるのだ」
 やや間があって、彼の意が全員に伝わると、唸り声の如き歓声が上がった。
 目前に、カルタゴ三百年の支配から脱する機会が訪れたのだ。いや、一躍大国の仲間入りを果たすことも可能なのだ。その興奮が座を支配した。
「今から、勝利のための作戦を伝える」
 マトスは、この数か月心血を注いで考え抜いた作戦を、将たちに伝えた。何分、意思疎通の難しい多民族の連合軍のこと。繰り返し、分かりやすく、懸命に伝えた。
 要は、左右両翼にガリア騎兵を配し、ヌミディア騎兵の攻撃を押さえ、その間に中央の分厚い歩兵部隊により敵中央を突破してしまおう、というものだった。圧倒的な兵力をぶつけて、そのまま戦局を決してしまおうとの作戦だ。


 あるリュビア人の年長の将が手を上げた。
「よい作戦であると思います。…が、敵の象軍をどうするおつもりか」
 確かに、傭兵軍には一頭の象もいない。象軍の脅威は、鋸山などで経験済みだから、これを看過するわけにはいかなかった。
 ここで疑問が生じるかもしれない。象は大陸の地に広範に生息していた筈だから、それを捕えて象軍を組織すればよいではないか、と。傭兵軍は、いや、マトスは一体何をしていたのか、と。
 確かに、象はもともとリュビアの地に生息するものを捕獲したもの。
 が、象軍とするには、長期にわたる調教が必要不可欠だ。また、優秀な象使いを集めねばならない。象使いの多くはインド人であり、カルタゴ政府が遠く東方から高給で呼び寄せ召し抱えていたのだ。
 象軍を組織するには、二三ヶ月でどうこうなるものではないのだ。
「左様。我らには象軍はないのですぞ」
「象に隊列を崩されては、全軍は混乱してしまいましょう」
 他の将たちも同感だったらしく、口々に言った。
「それには考えがある。いや、象軍の存在こそ、我が勝利の鍵なのだ」
 マトスは自信たっぷりにいった。
 彼は、ある秘策を、皆に囁いた。



.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • ダイエット
  • 時間の流れ
  • JAPAN
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事