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※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください。
傭兵の乱12−決戦へ(続き)
マトスの使者はリュビア全土に飛んだ。
『今こそ奮起する時ぞ!今を逃せば故郷の解放は叶わぬ!立て!立つのだ!リュビアの民衆よ!』
マトスの信望はまだ失墜していない。なんといっても、マトスは、リュビアの地が生んだ初めての指導者といってもよい。その彼に対する期待は大きかったのだ。
民衆は檄に呼応した。リュビア全土が奮い立ったのだ。やがて、熱狂と興奮に包まれ、郷土の期待を一身に背負った五万人もの若者たちが、続々チュニスへやって来た。
チュニスには十万以上の兵が集まった。城内に収まり切れず、リュビア兵は城を取り巻くように野営した。
マトスは、各隊の将を政庁の大広間に集めた。その数、五十人に上った。
その多くはリュビア人の各部族の長たちだ。が、同じ民族とはいえ言葉も違う。リュビア人とは、いわばカルタゴ人やギリシア人が、自分たちと区別するためにつけた呼称に過ぎない。
いや、リュビア人だけではない。そこには、ギリシア人やガリア人、バレアレス諸島の人々、さらにはカルタゴから自由を求め逃れてきた奴隷たちもいる。
広間は、さながら地中海世界の民族の標本の如き様相を呈していた。
従って、彼らの前に立つマトスは、五人の通訳を傍らに置いていた。
「諸君!我らは民族独立の分かれ目にある!敗北すれば無残な死!勝利すれば歓喜!」
彼は、五十人もの将を前に、乾坤一擲の戦いに挑む覚悟を口にした。
「この戦いに勝利すれば、独立はおろか、たちまち大陸の覇者となることも夢ではない。我らはローマやエジプトと肩を並べる大国となるのだ」
やや間があって、彼の意が全員に伝わると、唸り声の如き歓声が上がった。
目前に、カルタゴ三百年の支配から脱する機会が訪れたのだ。いや、一躍大国の仲間入りを果たすことも可能なのだ。その興奮が座を支配した。
「今から、勝利のための作戦を伝える」
マトスは、この数か月心血を注いで考え抜いた作戦を、将たちに伝えた。何分、意思疎通の難しい多民族の連合軍のこと。繰り返し、分かりやすく、懸命に伝えた。
要は、左右両翼にガリア騎兵を配し、ヌミディア騎兵の攻撃を押さえ、その間に中央の分厚い歩兵部隊により敵中央を突破してしまおう、というものだった。圧倒的な兵力をぶつけて、そのまま戦局を決してしまおうとの作戦だ。
あるリュビア人の年長の将が手を上げた。
「よい作戦であると思います。…が、敵の象軍をどうするおつもりか」
確かに、傭兵軍には一頭の象もいない。象軍の脅威は、鋸山などで経験済みだから、これを看過するわけにはいかなかった。
ここで疑問が生じるかもしれない。象は大陸の地に広範に生息していた筈だから、それを捕えて象軍を組織すればよいではないか、と。傭兵軍は、いや、マトスは一体何をしていたのか、と。
確かに、象はもともとリュビアの地に生息するものを捕獲したもの。
が、象軍とするには、長期にわたる調教が必要不可欠だ。また、優秀な象使いを集めねばならない。象使いの多くはインド人であり、カルタゴ政府が遠く東方から高給で呼び寄せ召し抱えていたのだ。
象軍を組織するには、二三ヶ月でどうこうなるものではないのだ。
「左様。我らには象軍はないのですぞ」
「象に隊列を崩されては、全軍は混乱してしまいましょう」
他の将たちも同感だったらしく、口々に言った。
「それには考えがある。いや、象軍の存在こそ、我が勝利の鍵なのだ」
マトスは自信たっぷりにいった。
彼は、ある秘策を、皆に囁いた。
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