新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

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 ※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください。


 傭兵の乱12−決戦へ
 ここチュニス。傭兵軍本営。
「なにっ!ハミルカルがレプティス(現スース近郊)を攻め落としたと!」
 総司令官マトスは愕然とした。
 レプティスは、チュニスから南へ百三十キロほど離れた港町で、傭兵軍が食糧や兵をリュビア全土からここに集め、各地の部隊に補給する重要な拠点である。
「ハミルカルはカルタゴに撤退したのではなかったのか」
「どうやら、ハミルカルはハンノンと和解した様で…」
「な、なにっ、ハンノンと和解したと!」
 マトスは驚愕した。
 ハミルカルとハンノンの犬猿は、傭兵たちにも知れ渡っていたからだ。
「はい。そのハンノンの支援を受け兵力を増強するや、ハミルカルたちまち動き出し、南方へ矛先を向け、レプティスを攻め落としました。周辺都市も、その威勢に恐れおののき、続々城門を開いているとのこと」
「なんたること…」
 マトスは、副将ハンニバルの死で戦力を失ったハミルカルはカルタゴに退却するほかなしと踏んでいた。そこを包囲し、何年かけてでも攻め落としてやろうと思っていたのだ。
 そこに、このレプティス陥落の知らせである。
「閣下、これは放置できませぬぞ」
 副官アルケラオスが言った。
「この調子でリビュア各地の拠点が押さえられては、我らはここに孤立いたします」
「それよりも何よりも…リュビア民衆の我らへの支持が失われる」
 マトス最大の懸念はそれだ。
 リュビアの地を蹂躙されるに任せては、マトスの声望は失われる。リュビア民衆のカルタゴへの怒りこそ、この反乱の原動力だからだ。
「兵を分散させることになるがやむを得ん。各地に援軍を送り、拠点を守備させよう。アルケラオスよ、直ちに手配いたせ」
「ははっ」
 傭兵軍は慌ててリュビア各地に援軍を差し向けたのであった。


 それから半月後。
「なんだと!差し向けた援軍が悉く打ち破られたと!」
「はっ!ハミルカル、我らの来援を予期していたと見え、それぞれの道筋に伏兵を配し、不意に攻撃してまいりました。ために、いずれの隊も潰滅したとのこと」
「くそっ。誰も臨機に対応できなかったのか。役立たずめが」
 マトスは吐き捨てた。
 傭兵軍の弱点は、将たる人材の不足であった。先に、スペンディオスら首領級の三人を失い、一層それが顕著になってきていた。総帥マトスを除くと、満足に兵の指揮を取ることもできなかったのだ。
「閣下。このままではハミルカルによって各個撃破されてしまいましょう」
 アルケラオスは懸念した。
 が、そんなことはマトスも分かっている。
「こうなれば決戦に打って出るしかないな」
 マトスは歯を食いしばって空を睨んだ。
 各地に兵を分散すれば、今の傭兵軍の陣容では、どうしても将才乏しき人物を指揮官とすることになる。
(それではハミルカルの思うつぼ。悉く殲滅されよう)
 逆に兵力を一カ所にまとめれば、ハミルカルも全軍率いてやって来ざるを得ない。
(それを打ち破ればよいのだ。ならば決着する)
 とはいえ、精鋭中の精鋭ハミルカル軍との対決である。その軍は、既に彼の盟友スペンディオスを滅ぼしている。尋常ならざる覚悟が必要だ。


「決戦…」
 アルケラオスはごくと唾を呑み込んだ。
「勝てましょうか…」
 当然の疑問を呈した。
「今、我らは五万の兵力を擁する。が、これでは足りぬ。リュビア全土に檄を飛ばし、さらに兵を集めるのだ」
「されど敵にはヌミディア騎兵や象軍がおります」
 アルケラオスは当然の不安を口にした。
 寄せ集めの歩兵戦力だけでは、ハミルカルに到底敵わないことは、スペンディオスの敗北によって明らかであった。
「我が軍にもガリア騎兵がいる。また、象軍については考えがある。十分に戦える」


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 ※関係地図は2月7日掲載分を御覧ください。


 傭兵の乱11−和解(続き)
 翌日。
 ハミルカルとハンノンは、ハミルカルの本営とカルタゴ市の中間の地で会見した。
 そう。出向く距離を平等に、ということだ。二人の巨頭の微妙な関係に、こんなことにも気を遣わなければならなかったのだ。
 もっとも、会談は終始穏やかなものだった。
というのも、双方の側近たちは、交わす言葉についても細心の注意を払い、間違っても相手を刺激するような言葉を使わせることではなかったからだ。
(これではまるで道化だな…)
 台詞の如き言葉を吐きながら、ハミルカルは内心苦笑していた。
 もっとも、相対するハンノンも、日頃の傲岸不遜はここでは封印し、充分自重している様子がうかがえ、その言葉は至極丁寧であった。


「ハミルカル殿」
「はい」
「我らの間に様々な確執があったことは否めぬ。が、それは双方とも国を思ってのこと。そうであろう」
「左様。わたくしとて、私怨で閣下をお恨みしたことなどありません。それは閣下も同様と心得ています」
「ならば、一切の行きがかりを捨て、救国の大義のため、協力しようではないか」
「勿論にございます。そのためにここに参ったもの」
 ハミルカルとハンノンは、互いに不思議な感覚に包まれていた。
 人間とは不思議なものだ。
 作為ある空間とは分かっていても、周囲からお膳立てされると、それなりの関係に発展していくことがある。今もそうだ。人々の期待と、祖国の危機という状況が、宿敵にも似た二人の手を否応なく握らせることとなった。
 ついに、ハミルカルとハンノンは和解した。
 国家滅亡を前に、ようやく二人は手を携えたのだ。


 カルタゴ軍は動き出した。
 前線で兵の指揮を取るのは専らハミルカル、後方で味方を支援する任務は専らハンノンが引き受けることとなった。
 采配を取らせれば、当時ハミルカルの右に出る者はいなかった。また、兵站の任務遂行に関しては、当時ハンノンの右に出る者はいなかった。この二人が手を結んだのだ。
 ハンノンは、まず、国庫の全てを傾け、新たに傭兵を徴募した。また、シラクサやローマに使節を送り、兵糧を山の如くに調達した。そして、前線のハミルカルに、兵力と兵糧を潤沢に補給したのだ。このあたりの手際は、さすがに鮮やかであった。
 これに力を得たハミルカルは動きだした。傭兵軍の後背地たるリュビアに攻め込み、諸都市を次々と攻め落としていった。
 チュニスのマトス軍への補給を断つ作戦を再開したのだ。

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 ※鋸山の所在は、未だはっきりせず、上記の地点はあくまでも私の推定です。


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 傭兵の乱11−和解
 ハミルカルは、ハンニバルとその兵を失うと、チュニス攻略をいったん諦め、マカラス川の河口付近に移動した。いざというときには、首都カルタゴに戻れるようにするためであろう。
 敗報が届くと、カルタゴ全市は嘆きに包まれた。
 鋸山の大勝に沸いていたところを、この急転直下である。人々は絶望した。
「こうなれば、あの二人を和解せしめるより他ない」
「そうだ。国家存亡の淵に追い詰められ、内地派・海外派などと争っている場合ではない」
 人々は、ハンノンの再出馬を望んだ。
 確かに、ハンノンは戦下手である。が、戦備を整えるに当たっては、抜群の才能を発揮した。人々が期待したのはそれだ。ハミルカルの必要とする軍備を、彼が適確かつ迅速に用意することを望んだのだ。
 戦争は、前線後方それぞれに優れた人材を求める。
 そのためには、二人を和解させなければならない。
 二人は、二年前に決裂してから、そのままだ。二人の感情をなだめ、真実和解させなければ、再び軍は分裂してしまうであろう。そうなれば、カルタゴは崩壊する。


 十人の元老院議員がハミルカルの陣営を訪れた。
「ハンノンと和解とな」
 ハミルカルは渋い顔をした。
「左様。今、一致団結しなければ、カルタゴは滅亡してしまいましょう」
 本国にあって彼を熱烈に支持する、海外派の元老院議員たちも説得にこれ努めた。
 いや、ハミルカルも聡明な人物。そんなことは言われなくとも分かっているのだ。
(が、どうにもならんのだ。こればかりは…)
 彼は、かつての経緯もさることながら、権柄づくなハンノンの態度が癇に障って仕方がなかった。いわば、体がその人物に拒否反応を示すのだ。
「将軍。今、そのような小さいことにこだわっている時ではありませぬ」
 副官ボスタルも説得に加勢すると、ヌミディア軍司令官ナラヴァスも
「今ほど、閣下の度量が試されている時はありませぬ」と強調した。
 いわば、彼の党派が挙げて党首のハミルカルを説得したのだ。
 今頃、ハンノンの党派でも同じことが行われている筈だった。


「分かった分かった」
 ハミルカルは顔をしかめて手を振った。
「左様にうるさく申すな。分かっておる。和解の席に臨むといたそう」
「おお」「それでこそハミルカル殿にございます」
 側近たちは喜んだ。
「ただ…断わっておくが、やつの顔を見て耐えられるか自信はないぞ」
 ハミルカルは正直に言った。
「なりませんぞ」
「左様。今は御堪忍が大事」
 それからも、側近たちは、和解の席の言葉について、くどくどハミルカルに注意した。


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 傭兵の乱10−磔(続き)
 傭兵軍の将三人の最期を見せつけられ、チュニス城内は悄然となった。ハミルカルが、城門前で刑を執行したのは、見せしめと併せ、このような効果を狙ってのことだろう。ために、三人の遺骸は、磔柱にくくりつけられたまま放置されていた。
 が、マトスは意気阻喪していなかった。彼にはある考えがあった。


「どうだ。敵陣の様子は」
 副官のアルケラオスに訊いた。
「は。さすがハミルカル、その本陣は警戒怠りなく、一分の隙もありません。が、副将ハンニバルの陣は、明らかに油断している様子が窺えます」
「ふん。我らに騎兵なしとの油断があるのであろう」
 マトスは笑った。
「閣下。これは絶好の機ですぞ。副将ハンニバルを討てば、敵軍に大打撃を与えることができます。ハミルカルの用兵をもってしても、我が大軍と戦うことはかないますまい」
 そう。ハミルカル率いる兵力は三万余に過ぎない。しかも、ウティカとヒッポ・アクラが依然傭兵軍の味方であったから、背後にも兵の手当をしなければならなかった。
 従って、チュニス城に攻めよせて来たのは二万ほどで、それで南門と北門に分かれて布陣しているのだ。
「敵が二手に分かれている今こそ好機。用意はできているであろうな」
「はい。騎兵(・・)五千(・・)が今か今かと閣下の下知を待っております」
 アルケラオスはニヤっとした。
 そうだった。マトスは、騎兵戦力のないことが自軍の弱点と悟ると、アルケラオスを遠くガリア(現フランス)に派して、大金をばらまいて騎兵を募った。たちまち、五千人の命知らずのガリア人がやって来たという次第。
「よし!今夜奇襲をかけるぞ!」
「はっ!」


 その夜。
 傭兵軍は、北門から不意に出撃した。
 ガリア人騎兵を先頭に、ハミルカル軍の副将ハンニバルの陣営を襲ったのだ。
「なにっ、敵が騎兵で攻め寄せてきたと!」
 ハンニバルは仰天した。
 敵には騎兵なしとの思い込み、また鋸山の大勝の余韻、その二つにより、彼は完全に油断していた。今も、部下と宴を開き、早くも戦勝気分でいたのだ。
「直ちに戦闘態勢を取れ!」
 彼が叫び、そして鎧に身を包んだ頃には、既に柵を破られ、味方はガリア騎兵に駆け散らされていた。
「いかん!ハミルカル殿に知らせよ!」
 ハンニバルは奮戦に奮戦し、ハミルカルの救援を待った。
 しかし、城の北門に至るには西の湖岸をぐるりと回らねばならない。南に布陣するハミルカルは、すぐには救援に駆け付けられない。
 周囲から殺到するガリア騎兵の標的となったハンニバル、乱軍の渦中、ついに討ち取られてしまった。
 ハミルカルがようやく駆け付けて来たときには、敵は既に引き揚げており、あとに無数のカルタゴ将兵の遺骸が転がっていた。


 翌日。日が高くなった頃。
 マトスの指令の下、傭兵どもは、城門前に磔にかけられたままのスペンディオスらの遺骸を降ろすと、代わりにハンニバルらの遺骸を貼り付けた。
 傭兵たちは大歓声を上げた。
 副将ハンニバルを失ったハミルカル。敵をあと一歩のところまで追い詰めながら、大きな後退を余儀なくされることとなった。



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 傭兵の乱10−磔
 大勝利を収めたハミルカルの軍勢は、引き返してくると、傭兵軍の本拠チュニスの攻略に取り掛かった。ここが落ちれば、この戦いは決着する。
 このチュニスは要害である。東に海(チュニス湖)、西に塩湖を望む、地峡に建設された都市。
 ために、ハミルカルは、本軍を率いてチュニス城の南門前に陣取り、副司令官ハンニバルは、別軍を率いて北門前に陣取った。
「閣下。ついに、ここまで攻めよせられましたな」
 マトスの副官アルケラオスがいった。ギリシア人傭兵である。
「ふん。これからよ。戦いは」
 マトスは嘯くように言った。
 確かに、スペンディオス軍は全兵力の半数。その全滅は痛手には違いない。
 しかし、まだ手元には五万の兵力が残っている。しかも、後背地のリビュアの人々の支持は篤い。兵力の補充はいくらでも利くのだ。また、鋸山の場合と異なり、ここには兵糧が山と積まれている。何年でも籠城することができる。


 にらみ合いが始まって数日後。
 カルタゴ兵は、北門の前、城からよく見える位置に十字の柱を三つ運び込んだ。そして、後ろ手に縄で縛られた三人の捕虜が、連れて来られた。
 城壁の上は騒然となった。
 それは、スペンディオス、アウタリトゥス、ザルザスの三人だった。
「さっさと歩け!」
 カルタゴ兵の鞭が容赦なく彼らを打ちすえた。
 それまでも、さんざん痛めつけられていたものであろう。三人は、うめき声を上げるのみで、反抗する気振りも見せなかった。
 三人は、手足をくくりつけられると、柱は立てられ、土中に打ち込まれた。
 磔刑である。
 三人の表情は、すぐに苦悶のそれとなった。そう。磔刑は、まさしく磔にかけられるだげて、言語に絶する苦痛を罪人に与えることができる。槍でとどめをさす場合もあるが、そのまま放置しても、いずれは死に至る。


 スペンディオスは、遠のく意識にあって、その光景を見た。
 既に、アウタリトゥスとザルザスは気を失っている。間もなく、死が二人を捕えるであろう。
(逝ったか…)
 眼下には、無表情のカルタゴ兵、その背後には刑の執行に立ち会うハミルカル、ハンニバルらの将軍たち。
 そして、城壁の上に転ずると、運命を共にしたマトスの姿があった。
「マ…マトスよ」
 彼は僅かに笑った。そして、最後の気力を振り絞り叫んだ。
「かかる不運に終わったが俺は後悔していない!貴様も最後まで戦え!」
 マトスは大きく頷いた。
 そして、彼は眼下のハミルカルを見た。
「か、閣下、おさらばです。あんたのような人と出会え、戦えたことは…よかった…」
 応じて、ハミルカルはかすかに頷いた。
 途端、スペンディオスは、がくとうなだれた。
 カンパニアの奴隷として生を享け、傭兵としてシチリアで戦い、大乱の首謀者としてカルタゴ国家と戦ったスペンディオス。彼はこの世を去った。奴隷という宿命に、生涯かけて反抗した一人の男が倒れた。


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