新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

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 傭兵の乱8−用兵の妙(さらに続き)
 傭兵軍は、峡谷を必死に駆け抜けると、ようやくのことで平地に出た。
「ここまで来れば安心だ」
 スペンディオスらは、ようやくほっと息をついた。
 が、そこに、彼らを待ち構えているものがあった。
「あああ!」「おおっ!」
 スペンディオスとザルザスは、慌てて手綱を引いた。
 目の前に、ヌミディア騎兵と象軍が待ち構えていたからだ。
「ふふふ。待ちくたびれたぞ」
 率いるは、副司令官ハンニバルとヌミディア軍司令官ナラヴァス。
「それ!賊を討つは今だ!」「突撃だ!」
 中央を象が地響き立てて突進し、その両翼をヌミディア騎兵が飛ぶように駆けてくる。
「げっ」「うわっ」
 傭兵たちは仰天した。
 平地において騎兵と象は無敵だ。傭兵どもは、ヌミディア騎兵の槍先や放つ矢の餌食となり、また、ずしずし進む象に無造作に押し潰されていく。
「ひいーっ!」
「とても敵わぬ!」
「逃げろ!」
 傭兵は算を乱して逃げだした。もうそれしかなかった。ひたすら逃げた。
 象軍と騎兵隊は、追撃に追撃し、思う存分に討ち取った。
 戦いはハミルカル軍の大勝利に終わった。戦場には万余の傭兵の死骸が転がっていた。


 その後も傭兵軍は負け続けた。
 山間に進むと不意に現れる伏兵の攻撃にさらされ、平地に逃れると騎兵と象の無慈悲な突撃が待ち構えている。どこで戦ってもそうだった。
 ハミルカルは、地形を碁盤の目の如くに把握し、敵の急所に、的確に一石を打っていったのだ。
 傭兵軍、これにはたまらず、やむなくチュニス方面へ移動していった。いや、それは敗走も同然であった。ただ、その間も、カルタゴ軍の攻撃が止むことはなかった。
チュニスまで数日の地点に辿り着いた時、二万の兵が失われていた。
「このままでは全滅してしまう」
 さしものスペンディオスも憔悴しきっていた。
「うむ。なんとか地の利の良い場所を占めねば、一時も心休まらぬ」
 アウタリトゥスもげっそりしていた。
 そう。ハミルカルは、昼だけでなく、毎夜の如く夜襲を仕掛け、安眠すら彼らに与えなかった。ために、傭兵たちはへとへとになっていたのだ。
「一つ良い地点がある」
 ザルザスが言った。
 彼はリュビア人だから、この辺りの地理に詳しい。
「ここから遠くない場所に鋸と呼ばれる山がある。三方を切り立った断崖で囲まれ、出口は一か所のみ。ここに籠れば、さしものハミルカルも手が出せまい」
 ザルザスの言に、スペンディオスもアウタリトゥスも一も二もなく賛成した。
「それはよい」
「そこでしばし兵を休ませ、そこから反転攻勢に出るのだ」
 疲れ果てていた彼ら、とにかく休息を欲していた。
 こうして一決すると、傭兵軍は移動を開始し、鋸山に布陣した。背後が鋸のような山並があるからそう名付けられた山は、まさしく天然の大要害。彼らは、そこでようやく落ち着きを得たのだ。


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 傭兵の乱8−用兵の妙(続き)
 ここヘカトンタピュロス。
 ハミルカルは、ここで兵を休息させていた。
「そうか。敵軍が攻め寄せてきたか」
「はっ。総勢五万。火の如き勢いで急進しております」
「ハンニバルよ」
 ハミルカルは、息子と同じ名の副司令官を呼んだ。
「はっ」
「敵は、我らが山間にあるため、勝てると思っているであろうな」
 ヘカトンタピュロスは、四方を山に囲まれた険しい地勢にあった。
「左様。傭兵軍は主に歩兵で構成されております。我らの騎兵や象軍が用をなさない山間にあるところを急襲したいと思っておることでしょう」
「ふふ」
 ハミルカルは自信たっぷりの顔となった。
「見せてやろうではないか。このハミルカルが山間でも戦の出来るところを、な」
「御意」
「皆の者、余の作戦を伝える」
 恐らく、この数か月、ずっと練っていたものであろう。彼は、誰がどこに布陣し、どこに進むべきかを伝えた。ハンニバル、ボスタル、ナラヴァスの各将は、頷くと勇躍して幕舎を出ていった。
 ハミルカル軍三万が動き出した。


 ハミルカル軍と傭兵軍は、ヘカトンタピュロス東方の、山間の地で激突した。
 この時代、この両者ほど、互いに憎悪している人々はいなかったろう。ために、ぶつかったとたん凄まじい血戦となった。
「くたばれ!傭兵ども!」
 カルタゴ兵が叫ぶと、傭兵も負けじとわめいた。
「殺せ!カルタゴ人を全て殺せ!」
 しばらく互角の戦いを続けていたが、やがてハミルカル軍が退却を始めた。
「おお!敵が逃げていくぞ!追え!」
 傭兵軍の将スペンディオスはここぞと馬に鞭を入れた。
「待て!」
 ザルザスが慌てて止めた。
「策かも知れぬ。迂闊に追うのは危険だ」
 退却し一転正面に向き直って突撃する、いわゆる旋回戦法はハミルカル十八番の戦術。この手で、ウティカ近郊で、手ひどい目に遭っている。
「はははは」
 スペンディオスは大きな体を揺らせた。
「心配要らぬ。ここは峡谷。騎兵や象が旋回するのは容易ではない。しかも、敵が逃げ行く方角を見よ。どんどん道が狭くなっておる。あれでは、いつもの旋回攻撃は無理だ」
「なるほど」
「おう。こうしている間にも敵は逃げていく。追え!ハミルカルを討ち取るは今ぞ!」
 傭兵軍全体からおおっと雄叫びが上がった。


 傭兵軍は全軍追撃の態勢に入った。
 ハミルカル軍をひたすら追い、どんどん狭い谷合に入り込んでいく。
 相手がハミルカルでなければ、この地形を警戒するに違いなかった。が、傭兵軍の将たちは、ハミルカルは当然騎兵と象軍を駆使する、そう思い込んでいた。だから、ここを自軍の勝利の地形と信じて疑わなかったのだ。
 その時である。
 左右の崖に無数の兵が突如現れた。
「ああっ!」「敵兵だ!」
 指揮するは副官ボスタル。
「敵は罠にかかった!それっ!」
 途端に無数の槍と矢が降り注いできた。
「ぎゃあ!」「うああ!」
 傭兵たちは悲鳴を上げてバタバタ倒れた。
 倒れる彼らの頭上に、仮借なく槍と矢を土砂降りのように浴びせた。
 狭い峡谷、そこに万余の軍勢がひしめいているのだ。悉く命中した。
 傭兵軍は大混乱に陥った。
「いかん!引け!引くのだ!」
 スペンディオスは狼狽して叫んだ。


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 傭兵の乱8−用兵の妙
 カルタゴ軍は、ローマとシラクサという、旧敵から潤沢な物資を得ると、息を吹き返したように、目覚ましく動き始めた。
 ハミルカルの作戦は明快だ。
「敵の糧道を断つ」
 そこで、カルタゴを包囲する敵はひとまず措き、リュビアの奥地に進攻した。
「わあ!カルタゴ軍だ!」
「ハミルカルの軍勢だ!」
 傭兵軍の大半がカルタゴ近郊やチュニス周辺に集結している。ために、各地の拠点を守備するは小部隊に過ぎない。ハミルカル率いる精鋭に太刀打ちできるはずもなく、次々と撃破された。
 ハミルカルは、各地の拠点を攻め落とすと、そこに山と積んである兵糧物資を片っ端から奪い、運びきれない分は焼き払った。傭兵軍の手に渡らぬようにするためだ。
 この作戦の効果はてきめんであった。なにしろ傭兵軍の兵力は、膨れに膨れ十万近い大軍となっている。日々消費する兵糧は莫大である。


 ここカルタゴ西方、地峡にある傭兵軍本陣。
「なにっ!兵糧が乏しくなってきたと!」
 マトスは驚いて立ち上がった。
「はい。このままではあと半月ほどで食い尽してしまうでしょう」
「むむっ」
 マトスは唸った。
 真っ先に頭に浮かんだのが、麾下の傭兵たちの騒乱だ。
(まずいぞ。食えぬと知れると、余の采配には服すまい)
 そう。傭兵どもがマトスに服従しているのは、彼の差配で給金を払い食わせてやっているからだ。もしそれができなくなれば、たちまち指揮官失格の烙印を押され解任されるであろう。いや、下手すれば殺されてしまうに違いない。


「ハミルカルはどこにいるのだ?」
 スペンディオスが訊いた。
「はい。しばらくはシッカにいましたが、さらに西進し、ヘカトンタピュロス(現アルジェリア領テベッサ)に攻め込みました」
 ヘカトンタピュロスは、カルタゴから南西約二百六十キロも離れた内陸の都市だ。
「そんな遠くに進んでいるのか」
 アウタリトゥスは驚いた。
 彼らは、天然の大要害カルタゴがすぐに落ちるとは思っていなかった。それよりも、背後からハミルカルが救援に現れるものと予想し、四方に兵を隠し、落とし穴を掘り、あらゆる罠を張り巡らし、今か今かと待ち構えていたのだ。
 が、その目論見は完全に空を打った。


「これは放置できぬぞ」
 スペンディオスが言った。
「うむ。これでは我らが包囲されているようなものだ」
 アウタリトゥスも頷いた。
 後背地のリュビアが侵略し尽くされれば、兵糧が枯渇してしまう。たちまち飢餓に陥ることは明白。兵糧攻めという点では、包囲されているのと同じだ。
「よし。包囲は解こう」
 マトスは断を下した。
「カルタゴを守備する軍勢は少数だ。チュニスから睨んでおけば足りるであろう」
 こうして、軍を二つに分け、マトス率いる五万の軍勢がチュニスに残り、スペンディオスが五万の軍を率いてハミルカル討伐に向かうことになった。ガリア人アウタリトゥス、リュビア人ザルザスもスペンディオスに従った。

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 傭兵の乱7−旧敵を頼る(さらに続き)
 ここシラクサ。
 シラクサは、ローマと同盟を結んで以降、ずっと泰平を享受してきた。戦火が消えて二十五年。国内はよく治まり、地中海交易の中心として繁栄を極めた。
 平和こそ国家建設の礎である。この国は、この自明の理を証明して余りあった。
 これは、国君ヒエロンの功に帰してよいであろう。彼の巧みな統治により、外に平和を維持し、内に安定を得て、シラクサの国威は輝いていた。
 この時、ヒエロンは既に六十歳を超えていたが、いよいよ意気盛んであった。
「ほう、カルタゴのハミルカルから書が届いたと」
「はっ。国君に御高覧頂きたいと申しております」
 侍臣は書を捧げた。
「何を言って来た」
 ぱらと広げると、ギリシア語でこう記されていた。
『カルタゴの将軍ハミルカル、シラクサの国君ヒエロン閣下に言上す。我がカルタゴ、政治を誤り、只今、傭兵に背かれ存亡の渦中にあり。まことに上の不徳のいたすところなり。我、国を正し、平和を取り戻すため、貴国に誼を求めるものなり。聡明なる賢君の御深慮により、我が国家・国民に御温情賜らんことを切に願う』
 その文面は、卑下することなく、されど礼は失せず。簡潔かつ明瞭なものであった。


「ほう。さすがハミルカルよの…」
 ヒエロンは、唇の端を僅かに綻ばせた。
 彼は、平和の裡にあっても決して油断はしていない。若い頃、野心満々のピュロス王の軍中にいたから、地中海世界の秩序が、微妙な均衡の上に存在することを知悉していたからだ。
 そのため、ローマとカルタゴの戦争中、指揮官にどんな人物がいて、どんな性情の持ち主なのか、密偵を使って細かく調べ上げさせていた。
 その彼をして、一目を置かせていたのが、このハミルカルであった。
 イタリア半島の海岸を荒らし、ヘイルクテ山とエリュクスでの勇戦ぶりは、彼をして肌に粟粒を立てさせるに十分だった。
(容易ならざる相手だ。このハミルカルが大挙東進して来れば一大事)
 ヒエロンはそう考え、余念なく戦備を整えていたが、幸いにも戦いを交える前に終戦となり、ハミルカルは撤退していった。
 そのハミルカルが、こんな手紙を送って来た意図も、彼にはすぐに分かった。
(ただ助けを求めているのではない。余に気付かせようとしておる…)
 もし、傭兵軍が最終的に勝利し、カルタゴ国家が瓦解すればどうなるか。その後のことを、である。
(傭兵軍の首領マトス如きでは治まるまい。となると、アフリカ大陸は、ローマの勢力により風靡されるに違いない)
 これは、ヒエロンの妄想では決してない。
 現に、ウティカは、傭兵軍の側に寝返った後、自国の統治を委ねたいとローマに申し入れていた。ローマは、この申し出を拒否したが、その気さえあればアフリカ北岸の諸都市を押さえることは容易であったろう。
(そうなれば我が国は困ったことになる。それを気付かせようとしておるのだ)
 イタリアとアフリカの広大な地域をローマが支配下に収めれば、巨大な勢力となる。もはや、シラクサ一国では到底太刀打ちできなくなる。当然、今の対等な関係は崩れ、ローマに従属するしかなくなる。
(さすがハミルカルよ。自分たちの存在の価値を弁え、余に援助するよう求めておる)


「ふふふ」
 ヒエロンは笑った。
 自らの置かれた位置に面白みを覚えたものだ。
 シラクサは、ローマとカルタゴの均衡の間にあってこそ、この繁栄を享受しうる。どちらか一方が強大になり過ぎては困るのだ。
「ハミルカルの使者に伝えよ。趣は分かった。喜んで貴国との誼を受け入れよう。その誼の証として、直ちに兵糧・武具を貴軍の陣営に送り届けよう、とな」
「ははっ」
 間もなく、シラクサの港から、武具兵糧を満載した百隻もの船がカルタゴに向け出発した。それとほぼ同時期に、ローマの外港オスティアからも、兵糧を山と積んだ船がカルタゴに向け出航していた。


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 傭兵の乱7−旧敵を頼る(続き)
「ローマとシラクサを頼るほかないな」
 ハミルカルは言った。
「えっ!」
 使者は驚いた。
 講和条約を締結して和解なったとはいえ、ローマは二十四年もの長きにわたり戦った、かつての敵国。シラクサもローマ最大の同盟国だ。
 ハミルカルは笑った。
「ローマは、旧敵ながら道理を重んずる国である。先に、反乱軍に兵糧補給しようとした船を拿捕した時にもそうであった」


 傭兵反乱の当初、ローマ人商人は絶好の商機とばかりに、傭兵軍に食糧を売るためにリュビア沿岸に入った。明白な利敵行為であるから、カルタゴ海軍は、当然これを拿捕し、乗組員五百人をカルタゴに連行して拘束した。
 ローマは抗議した。相互の国民の保護を約した講和条約に違反している、と。
 カルタゴは反論した。
「講和条約では、両国は相手国を攻撃せず、相互の安全を保障するとの定めがある。しかるに、こたびのローマ人の行為は、我がカルタゴ国家に敵対する勢力を助長するもの。それゆえ拿捕したものであり、条約に反しているのはそちら側である」
 理は明らかにカルタゴ側にある。
 そこで、乗組員の解放を条件に、以降、ローマ国家は傭兵軍に対する食糧供給を禁止するとの約束が交わされた。
 約束は直ちに履行された。カルタゴ政府は、乗組員を速やかに解放し、ローマ本国にその身柄を丁重に送り届けたのだ。
 ローマ政府は、カルタゴの素早い対応に感謝した。そこで、対傭兵軍禁輸命令を発するとともに、抑留していたカルタゴ捕虜を無条件に解放した。講和条約では、身代金との引換えが解放の条件と定められていたが、謝意を込め無償としたのだ。


「それゆえ、頭を下げ、協力を求めればローマは食糧を供給してくれるであろう」
 ハミルカルは、やや自嘲気味に言った。
 無理もない。紀元前247年から同241年の六年間、彼はそのローマと戦い続けたのだ。その自分がローマを頼るのだから。
「分かりました。…が、シラクサは援助してくれましょうか?」
「ははは。こちらは、何も言わずとも援助してくれるであろう」
「それはどういうことで?」
「シラクサの国君ヒエロンは聡明な男である」
「はあ」
「我がカルタゴが滅びれば、自国の位置が危うくなることを悟っていよう」
「それはどういうことで?」
 ハミルカルはそれには答えなかった。
「ふふ。親書を認める。それをシラクサに届けよ」
 彼はさらさらと書を認めると、それを使者に手渡した。


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