新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

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 傭兵の乱7−旧敵を頼る
 カルタゴ元老院は苦慮した。
 ハミルカルとハンノン、二人は海外派と内地派の巨頭。その葛藤は、当然、深刻な国内対立を引き起こす。
 案の定、事件が伝わると、両派の争いが再燃した。両派の元老院議員たちは、激論を繰り広げた。
「ハミルカルの増長、目に余るものあり!」
「なにお!ハンノンこそ、慢心極まれり!」
 両党派は、いつものように互いに激しく罵った。
 が、今はそんな悠長なことをしている時ではない。それに気付くのに時間はかからなかった。なにしろ、首都近郊には反乱軍が充満しているのだ。
「とにかく、このままではいけない」
「その通りだ。国が滅んでしまうぞ」
 ということで、ハミルカルとハンノンのいずれか一人を総司令官とし、一人を解任することに話がまとまった。
 しかし、どちらかを選ぶ段となると、またしても話はまとまらなくなった。元老院自体が割れている以上、どちらかを選ぶことはできないのだ。
「やむを得ぬ。現地の将兵に選ばせよう」
 ということになった。というか、もうそれしかなかった。
 本国の命令が届くと、早速に兵士は集会を開いた。そして、投票にかけた。いずれが総司令官にふさわしいか、と。
 すると、それまでハンノンの指揮下にあった者たちも含め、圧倒的多数はハミルカルを選んだ。これは当然のことであった。ハンノンの戦下手は有名であったからだ。彼が勝利を喧伝している対リュビア戦争も、所詮烏合の衆の如き相手でしかなかった。


 ハンノンは本国に帰っていった。
 入れ替わりに新たな将が送り込まれてきた。ハンニバル将軍である。
 もちろん、ハミルカルの息子のハンニバルではない。同名の別人だ。
 経験豊富な指揮官で、シチリア島でハミルカルの下で働いていたこともある。従って、ハミルカルとは心通じている。大軍の指揮を取るハミルカルの補佐を任された。
 こうして、総司令官にハミルカル、副司令官にハンニバル、そして騎兵隊を率いるヌミディア貴族ナラヴァス、この三人がカルタゴ軍を主導した。
 こうして、カルタゴ軍の反転攻勢の態勢は整った。
 ところが、まさにその時。カルタゴに大悲報がもたらされた。
 頑強に抵抗していた、ウティカとヒッポ・アクラの両都市が、傭兵軍に降伏したのであった。そして、それとほぼ同時期に、サルディニア島でも反乱が勃発し、島内在住のカルタゴ人が虐殺されたとの報が届いた。


 本国から前線のハミルカルに悲報がもたらされると、本営の幕舎の中は静まり返った。誰も声一つ立てない。
 チュニス、ウティカ、ヒッポ・アクラ。これらは、カルタゴ連合中枢の都市である。
 それらが全て敵の手中に落ちたのだ。しかも、これまで兵糧の供給地であったサルディニアまでもが離反したという。
 カルタゴは、まさしく陸の孤島になり下がった。
 静寂の中、ハミルカルが口を開いた。
「…して、敵はどう動いておる」
「は。両都市を包囲していた傭兵軍は大挙カルタゴに迫っております」
 傭兵軍は、チュニスからさらに東進し、カルタゴと大陸を結ぶ地峡に長大な陣を構築し始めていた。首都カルタゴを、大陸から遮断し封鎖するつもりだ。
「当然そう動くであろうな」
「このままではカルタゴは飢餓に陥ります。どうしたものか、閣下の英知をお伺いせよと命じられております」
 元老院が狼狽するのも無理はない。
 首都カルタゴに食糧を供給するのは、リュビアとサルディニアであったが、前者はとうに離反している。そして、今、後者が離反した。このままでは、カルタゴには麦一粒も流れてこなくなる。


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 傭兵の乱6−政敵(続き)
 ハミルカルは陣営に戻ると叫んだ。
「どうした!なぜ退却の合図を出した!」
 兵たちは顔を見合わせた。
 明らかに、何かに物怖じしている様子だ。これまでにない光景だった。
「なぜ答えぬ!」
 ハミルカルの声は癇立った。
「わしが命じたのだ」
 そういって現れたのはハンノンであった。
 背後には、副官が十人、ぞろぞろ従っている。
 この頃のハンノンは、壮年の域に差し掛かった頃。今や、カルタゴ政界の大実力者にのし上がっていた。
 ために、陣中にもかかわらず、威儀を取り繕うことばかりに腐心していた。
 今もそうだ。豪奢な鎧に身を包み、実用に耐えぬ丈の長いマントを翻している。
(この国家の危機に…)
 ハミルカルは危うく舌打ちしそうになったが、なんとかこらえた。


「おう、ハンノン殿、なにゆえぞ。見たところ、陣中に変わった点はない。我らは、あと一歩の所で敵を打ち倒すところであったのですぞ」
「汝は独裁者か」
 ハンノンはいきなり詰問した。
「なんですと」
「ここでは、汝と余は同じ司令官。即ち同権じゃ。その余に何の相談もなく軍を動かすとは何事か。それゆえ退却を命じたまで」
「馬鹿な」
 ハミルカルは吐き捨てた。
「我ら、敵を破ることを国家に命じられ、ここにある。その敵が打ち破るに格好の地にあるのを、指を加えて見ていてどうする。それこそ、将失格ではないか」
「無礼であろうハミルカル」
 ハンノンは大上段に反り返り、相手を見下した。
「その汝の思い上がりが、シチリアの敗北を招いたのだ。少し慎むがよかろう」
「なんだと」
 ハミルカルはぎろりと睨んだ。凄まじい眼光を放っていた。
「言わせておけば…。そもそもは、汝をはじめとする本国の者どもが兵糧補給を怠ったからこそ、シチリアの戦線放棄のやむなきに至ったのではないか。いや、そればかりではない」
 次第に激してきた。と同時に、今まで押さえつけていた感情が一気に沸点に達した。
「この乱もそうだ。貴様が、傭兵どもをむやみに刺激し暴発を招いたもの。それがためジスコーネはあえない最期を遂げたというに…。それを、あろうことか、このハミルカルに左様な雑言を…。許さぬ」
 これまでの憤懣をぶちまけると、ハミルカルは思わず抜刀していた。
 ハンノンの取り巻き連中は、ハミルカルの形相に仰天した。
 が、それはハミルカルの側近たちも同じだ。
「あ!いけません!」
「ハミルカル殿、なりません!」
 ボスタルとナラヴァスが必死に止めた。
 その間に、ハンノンの身は、彼の側近により、いずこかへ隠された。
「離せ!その不埒な賊を懲らしめてくれる!」
 ハミルカルは叫び続けた。


 この事件は、当然のことながら、陣中は勿論、たちまちカルタゴ本国の知るところとなった。結果、しばし忘れられていた海外派と内地派の対立が再燃することとなった。
 国家存亡の時に、カルタゴ国内に深刻な亀裂が生じたのだ。


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 傭兵の乱6−政敵
 ジスコーネとその部下の処刑の様子が知れ渡ると、カルタゴ全市民はいいようのない衝撃を覚えた。次いで、凄まじい憤りが全市に満ち満ちた。
「傭兵どもの所業を許すな!」
「制裁の鉄槌を加えよ!」
 カルタゴ元老院は、怒りを抑え、傭兵軍に軍使を送り、遺体の返還を要求した。
 ジスコーネとその部下たちの遺族が、悲泣の下から懇請していたからだ。
 ところが、マトスはすげなく拒んだばかりか、こう脅した。
「今回は見逃すが、以降、やって来た使者はジスコーネ同様の刑に処し、死を与える」
 軍使の身体保護という、戦中における最低限の秩序さえ傭兵軍は拒否した。
 遺族の僅かな切なる願いすら拒まれたのだ。カルタゴ元老院は激昂した。直ちに遠征中のハミルカルに伝令を送り、傭兵絶滅を厳命した。
 ここからのカルタゴと傭兵の戦いの様相は一変した。
 これまでの戦いは、あくまでも勝利を目指すものであった。が、ここからは、相互の絶滅を目指して殺し合う、憎悪と憎悪の激突となった。
 ハミルカルは、これ以降、捕虜を一切許さなかった。斬って捨てるか、象の前に放り出して踏み潰させた。傭兵軍も同じである。カルタゴ人捕虜は全て殺した。
 

 確かに、アウタリトゥス発案の策略は残虐非道極まるものだったが、これが功を奏し、傭兵軍からは一人の脱走者も出なくなった。脱走するとなれば、カルタゴの勢力下に入るしかないが、それはすなわち死を意味するからだ。
 結束を固めた傭兵軍は強かった。
 このため、ハミルカル軍は度々窮地に陥った。
 ハミルカルは考えた。
(全軍を一つにまとめ、敵に当たらねば、後れを取る恐れがある)
 彼はハンノンに呼びかけた。
「合流して、一丸となって敵と当たろう」
ハンノンは、この頃、司令官職に復帰すると、一軍を率いて、リュビア奥地に攻め込み、一帯を荒らしまわっていた。
 ハンノンも、同じ考えだったのか、軍勢を率い、ハミルカルの陣営にやって来た。こうしてカルタゴ軍も総勢三万の兵力となった。
「これで敵と戦える」
 ハミルカルもそう思ったし、カルタゴ市民もそう思った。
 が、ハミルカルとハンノンは宿年の政敵。すぐに、その軋轢は表面化した。


 とある日。カルタゴ軍は、山間に隠れ、敵の現れるのを待っていた。というのも、平地に陣取っていたのでは、傭兵軍が用心して近寄ってこないからであった。
 すると、彼方から傭兵軍部隊が現れた。別の地点に移動するためか、傭兵軍は広い平地の真ん中を進んで来た。しかも、大量の荷駄を従えていた。
「これは好機!」
 平地は、騎兵と象軍の威力の発揮する地形。即ち、ハミルカル得意の地形だ。
 ハミルカルは勇躍すると直ちに全軍を率い出陣した。
「あっ!敵軍だ!」
 傭兵は、不意に現れたカルタゴ軍に仰天した。
 地の利を生かし戦うのは名将の証左。ハミルカルは、兵を自在に動かし、騎兵をして存分に傭兵どもを突き倒し、象の餌食とした。
 あと一歩と追い詰めた時である。
 突如、ラッパが鳴り響いた。退却の合図だ。
「な、なんだ。なにゆえ退却の合図が?」
 ハミルカルは訝しみながらも、軍律は絶対である。やむなくハミルカル軍は退却を始めた。傭兵軍は、退却するハミルカル軍に勇気を取り戻し、反転して追いすがり、相当数のカルタゴ兵を討ち取った。


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 傭兵の乱5−掟なき戦い(続き)
「一つ手がある」
 アウタリトゥスが言った。
「どんな手だ」
「要は、傭兵たちがカルタゴへの期待を断ち切るようにすればよい」
「それはそうだ」
「ということは、我ら全兵士がカルタゴの永遠の宿敵になればよい。仇敵になればよい。自身カルタゴの憎悪の的と知れば、敵に降伏しようなどとは思わぬであろう」
「なるほど…しかし、どうするつもりだ」
 スペンディオスが訊いた。
 すると、アウタリトゥスの目は残忍な光を宿した。
「ジスコーネ以下、全員を拷問にかけた上で処刑するのだ」
「えっ!」「なにっ!」
 マトスとスペンディオスの二人は異様な声を上げた。
 マトスは、反乱決起の際に捕えたジスコーネとその部下たちを、監禁したままにしていた。将来のカルタゴとの交渉で、人質に利用できると思ってのことだ。
「しかし、ジスコーネを密かに慕っている兵も少なくない。そんなことをしては、ますます動揺することになりはせぬか」
 ジスコーネは、シチリアからの帰還に際し、傭兵たちに良くしたこともあって、その処刑に反対する者も多かったのだ。
「だからこそだ」
 アウタリトゥスは語気を強めた。
「そんな恩義ある人間を刃にかけるのだ。もはやカルタゴに許されぬ身と知る筈だ。誰もカルタゴに降伏しようなどとは思わぬであろう」
 アウタリトゥスは平然といった。
 彼らガリア人傭兵とて、ジスコーネには良くしてもらっている。こんな残酷な策を思いつき、なおかつ平気で口にできるのは、彼らの故郷ガリアが、この時代、闘争や陰謀が渦巻く大地で、かかる野蛮が日常茶飯事だったからであろう。


「拷問にかけることまでないのではないか」
「うむ。速やかに死を与えればよい」
 マトスとスペンディオスが言った。
 二人は、リュビア人とカンパニア人。ガリアよりは遥かに多く文明に浴している。ために、酷薄無残な振る舞いをためらった。
「御主らは分かっておらんのう」
 アウタリトゥスは、苦々しげに、そして腹立たしげにいった。
 一応、総司令官はマトス、副司令官はスペンディオスと定められていたが、もともと傭兵の仲間たち。この三人の間では、上下関係はないに等しい。
「人倫にもとる行いを共にすればこそ、深い罪悪感も生まれる。強い連帯感も生まれるのだ。罪悪を共にした者は裏切らぬものぞ」
 もうこれは盗賊や山賊の首領の発想そのものだ。下劣極まる。
 が、追い詰められていたマトスは、結局、このアウタリトゥスの策を採用した。


 ジスコーネとその部下は、傭兵の群れの中に引き出された。
 マトスは、彼らの前に進み出た。
 ジスコーネは、きっとマトスを睨んだ。
「御覚悟はよろしいか」
「かかる振る舞いに及ぶとは…貴様ら正気か」
 彼の耳には、既に、刑罰の内容が伝えられていた。ために、ジスコーネこそ毅然としていたが、彼の部下たちはもう死んだようにぐったりとなっていた。
「今さら引き返せませぬ」
「ああ、確かに手遅れのようだな」
 彼は、取り囲む傭兵の狂喜に満ちた眼光を見た。
 一部、この処刑に反対する者がいたが、つい最前、その者たちに石打ちの刑を喰らわせ、まとめて始末したばかりだ。傭兵たちは、皆、血に酔っていたのだ。
「ならば、我らに命乞いなされますか」
「命乞いだと?」
「左様。それしか閣下の救われる道はありますまい」
「ふふ」
 ジスコーネは僅かに笑った。数か月に及ぶ拘禁生活で憔悴しきっていたが、なおカルタゴの武官たる気概を保っていた。
「マトスよ、逆だ」
「逆とは?」
「今なら、お前らの命は救われよう。が、我らを殺してしまえば、カルタゴ市民は汝らだけでなく、その配下の兵を一人たりとも許すまい。汝らこそ、今しか救われる道はない」
 マトスはじっと相手の瞳を見た。強い光が返ってきた。
 つい耐え切れずに顔をそむけた。数年前までは同じ砦の中で、同じ飯を喰らい、酒を酌み交わしていた仲間なのだ。
「やれ」
 マトスは合図した。
 残酷な儀式が始まった。カルタゴの男たちは悲鳴を上げた。
 ジスコーネは、さすがに耐えていたが、途中、気を失った。
 傭兵たちの、狂気の歓声が刑場に充満した。
 が、私は、これ以上、その部分を描写することができない。関心のある方は、歴史家ポリュビオスの書をご参照いただきたい。
 とにかく、あらゆる痛苦を加えられ、ジスコーネとその部下は処刑された。その死体は、ばらばらにされ、穴に投げ捨てられた。
 傭兵たちは、この戦いが掟のないものだということを、そして、自身カルタゴから許しを得ることのできない存在だということを、こうして覚悟した。


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 傭兵の乱5−掟なき戦い
「なにっ!ヌミディア軍がカルタゴ側に寝返ったと!」
 スペンディオスは仰天した。
「はっ。司令官ナラヴァス以下、ヌミディア騎兵五千騎は既に敵軍に合流しております」
「それはいかん!」
 スペンディオスは叫んだ。
 彼らの騎兵戦力があればこそ、山麓から平地に進み出てきたのだ。が、その虎の子の戦力が敵方に回ってしまえば、どうなるか火を見るより明らかだった。
「全軍直ちに山麓に向かって退却だ!急げ!」
 彼は、再び、騎兵や象軍が用をなさない地に逃れようとした。
 傭兵軍は大騒ぎとなった。慌てて陣をたたむと、山影の方に退却を始めた。
 が、それをハミルカルが見過ごす筈もない。
 カルタゴ軍は、ハミルカル率いる軍勢と、ナラヴァス率いるヌミディア騎兵の二手に分かれ、傭兵軍の前後に殺到した。
「あっ!ハミルカル軍だ!」
「こちらからはヌミディア軍だ!」
 傭兵たちは右往左往した。
 隊列を乱れて進むところを、ハミルカル、ナラヴァス両将率いる精鋭に攻め立てられてはたまらない。
 激戦の末、傭兵軍は徹底的に打ち破られてしまった。一万人が戦死し、四千人が捕虜となったのだ。
 ハミルカルは、ここでも捕虜たちを寛大に処遇した。ためにカルタゴ軍に身を投じる者も多かった。帰服を拒む者には、先の戦いと同じく「次に捕らえたときには極刑に処するぞ」と脅してから解き放った。


 ここチュニス、傭兵軍本営。
「なにっ!またしてもハミルカルに敗れたと!」
 マトスは愕然とした。
 彼は、戦局の帰趨を決めるのは、ハミルカルとの戦い如何にかかっていると考え、ヒッポ・アクラの包囲を部下のザルザスに任せると、ここに戻って来ていた。
「申し訳ない」
 スペンディオスとガリア人部隊長アウタリトゥスは頭を垂れた。
 二人は、ヌミディア軍の寝返りに始まり敗走に至った経緯を逐一報告した。
「むむっ」
 マトスは唸った。
(こいつはいかん。まずいぞ…)
 彼が懸念した。この敗北のことではない。戦局全体を見渡せば、まだまだ傭兵軍が優勢だ。兵力は膨れ、兵糧も山のように運び込まれていたことでもある。だから、目先の敗北のことを気にかけたのではない。
 懸念したのは、ハミルカルのとった寛大な措置のことである。


「ハミルカルが解き放った兵の一部は我が軍に戻って来ておるのであろうな」
「ああ。戻って来ておる筈だ。ここには家族がいるからな」
 スペンディオスが答えた。
「ということは、当然ハミルカルの処置についても、話が広がってゆこうな」
「もう広がっている」
 そう答えたのはアウタリトゥス。
「捕らえられても許されると知って、兵の間に動揺が広がっている」
 ハミルカルは、このような事態が生じることを予期して、また期待して、寛大な措置を取り続けていたものであろう。
「くそっ」
 マトスは吐き捨てた。
 自身の相手が、容易ならざる難敵であることが明らかとなったからだ。このままでは、傭兵軍は空中分解してしまうかもしれない。
 何分、傭兵たちは多種多様な民族や部族の寄せ集めであるため、言葉が通じず意思疎通が困難ときている。反乱決起の時もそうであったが、疑心暗鬼が広がれば、あっという間に広がり、しかもそれを払拭することが難しいという事情がある。
 マトスとスペンディオスは、これを反乱決起に利用したわけだが、今度は逆に、ハミルカルにより内から滅ぼす策略に利用されそうな雲行きだった。


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