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傭兵の乱4−ヌミディアの青年貴族(さらに続き)
数日後の早朝。
カルタゴ陣営の門を守っていた兵は、目をごしごしこすった。
「む。あれは」
朝もやの中、ヌミディア騎兵らしき影が数騎、こちらに接近してきたからだ。
それも一兵卒ではない。見事な金銀細工の施した鎧兜に身を包み、深紅のマントを翻した青年の将が、馬上悠然と闊歩してきた。
「何者だ!」
カルタゴ兵の誰何にも、その人物は慌てず、柔和な笑みを浮かべた。
「私はヌミディア軍司令官ナラヴァス。カルタゴ軍司令官ハミルカル殿にお会いしたい」
「ええっ!」
陣門付近は騒然となった。敵将が僅かな供を連れ現れたのだ。
ナラヴァスは、馬から降り立つと、騒ぐカルタゴ兵を尻目に、つかつか陣営内に入って来た。まるで友人の陣営を訪問したかのようだ。
カルタゴ将校が飛んで来た。
「あ、お待ちを」「すぐにハミルカル閣下にお取次ぎいたしますれば」
「なんの。ハミルカル殿はおおどかな人物。快くお会いしてくれよう」
ナラヴァスは構わずに歩いて行く。
「し、しかし。そういう訳には」
「あ、そうか。これを持っていてはまずいのだな」
ナラヴァスは一人合点すると、槍と剣を部下に預け、丸腰のまま入っていった。
この頃には、カルタゴの陣営は大騒ぎとなり、彼の周りに群がって来た。
ナラヴァスは、それらにいちいち愛想を与え、歓声を得ていた。
ハミルカルはナラヴァスと会見した。
「いかなる了見でお越しになられたのか」
ハミルカルも訝しげであった。ヌミディア王国は、ハミルカルの軍勢を滅ぼすために大軍を送り込んで来ているのだ。
「私は閣下の友にございます」
「なに」
「いや、全てのカルタゴ人の友と自負しており申す」
ナラヴァスは人懐っこい笑みを浮かべた。
「どういうことなのか。お聞かせあれ」
好意溢れる相手の言葉に、ハミルカルの言葉も丁寧になった。
「幼い頃よりカルタゴを幾度も訪れたことがあり、将来は、この国と手を携えることが我が国のためと考えるようになりました」
ヌミディア貴族は、アフリカ最大の都市カルタゴに遊学することがあった。ナラヴァスもその一人であった。
「ほう」
「特に、貴殿のバルカ一門が、カルタゴ国家の武権をたびたび握り、国家繁栄に貢献していることも知りました。その頃より、私はバルカ家を敬愛しているのでございます」
ハミルカルは、ナラヴァスの瞳を見た。やましい曇りは一つもない。
ようやくハミルカルの表情が和らいだ。
「それは嬉しいことを申される。我が父祖も喜んでいよう。が、腑に落ちないことが一つある」
「何でござるか?」
「ならば、なにゆえ、このたび我が軍に敵対する反乱軍に与したのかということだ」
「それならば簡単な話です」
「簡単とな?」
「はい。我らヌミディアとて国家の繁栄を図らねばなりませぬ。もし、貴国の将来に見込みなしということであれば、我らとて将来のため勢力を拡大しておかねばなりませぬ。そのためには、傭兵どもに与して、貴国を滅ぼすのもやむなしと考えた次第」
ナラヴァスは、率直に、肚の底を全てさらけ出した。
「ふーむ」
物事に動じぬハミルカルも、この人物には相当驚いたようだ。
「が、実際の貴軍を見ると、そのような頽勢にあらず。英気凛々、まさしく勝利の軍勢。我がヌミディア国家のため、貴国にお味方するのが当然と心得て、本日参った次第にございます」
「なるほど。…が、このことを貴国の王は承知しておられるのか」
「勿論にございます。臨機に応じ采配を取れと命じられておりますれば」
「そうであったか…」
ハミルカルは唸った。
彼の中で言いようのない感動が沸き起こって来た。
かかる英傑が、カルタゴ存亡の危機に、味方に馳せ参じて来てくれたのだ。
「我がカルタゴは、喜んで貴殿を味方に迎えよう」
「ありがたきお言葉」
「いや、言葉だけでは貴殿の勇気に報いるには足りぬ。貴殿が我がカルタゴへの信義を守り通してくれたならば、余は我が娘をそなたに与えることを約束する」
「なんと!」
今度はナラヴァスが驚いた。
ハミルカルはカルタゴの大貴族である。その人物が、国家の危機にあるとはいえ、辺境の国ヌミディアに嫁にやろうというのだ。破格のことだ。
「共にこの難局を乗り越え、共に明日の栄華を見ようぞ」
「ははっ」
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