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紀元前241年頃のカルタゴ周辺の地図です。ここにある都市が、カルタゴ連合中枢の都市群となります。ちなみに、海岸線は現在、沖合にかなり進み、ウティカの遺跡は内陸にあります。グーグルアースなどで確認してください。
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傭兵の乱2−ウティカ攻防戦
反乱軍司令官マトスは、リュビア全土に檄を飛ばした。
「今こそ自由のために立ち上がる時ぞ!男は武器を取って集まれ!女は装飾品を軍費のために供出せよ!」
リュビアの人々は、カルタゴ政府の貪欲を憎んでいたから、これに呼応して、すぐさま立ち上がった。男たちは鎧に身を包み、槍を抱えて、喚声を上げながら続々出征した。ために、チュニスには、七万人もの兵が集結した。
また、女たちはこぞって宝石の類を差し出し、チュニスの総司令部の前に、たちまち山の如くに積み上がった。当面必要な給金や兵糧に充てても、どっさり残るほどであった。
傭兵軍は動き出した。
圧倒的な兵力で、次々と周辺地域を制圧した。もともと内陸部はリュビア人の居住地域でもあるから、反乱軍に共感し、進んで城門をあける街も多かった。
が、もちろん抵抗する都市もある。特に頑強に抵抗したのが、ウティカとヒッポ・アクラの二つの街である。この二つの都市は、フェニキア人の建設によるもので、カルタゴを盟主と仰いでいる。そう簡単に降るわけもなかった。
「ここを落とせば大勢が決するぞ」
傭兵軍は、一部の兵力をチュニスに残すと、他の軍勢を二つに分け、一つをマトスが率いヒッポ・アクラを包囲し、もう一つをスペンディオスが率いウティカを包囲した。
大陸は、真黒な戦雲に覆われ始めた。
それは、掟なき残酷な戦いの始まりでもあった。
「なんと!リュビア全土に反乱の火の手が上がったと!」
カルタゴ市民は、失意のどん底にたたき落とされた。
ローマとの長い戦争が終わり、ようやく平和が到来し、平穏な生活が戻ってくるとの期待に膨らんでいた時なのだ。いや、それでは言い足りない。
リュビアの地は、カルタゴの属領として、食糧と兵員を潤沢に供給してくれる、国家存立の根幹。いわば国家の手足の如きもの。その手足が牙を剥いたのだ。
これは内乱だ。海外の権益をめぐる闘争ではない。海外の権益ならば、シチリアの如く諦めれば済む話だ。内乱は違う。民族の存亡を賭けて戦う、生きるか死ぬかの瀬戸際の攻防なのだ。勝利しなければ、自己の生存はありえない。
カルタゴ市民は自己の生命に迫る危機に恐怖した。
躊躇している暇はなかった。カルタゴ政府は、これまでリュビアの地で戦果をあげてきたハンノンを、叛軍討伐の司令官に任命した。
ハンノンは、乏しい国庫を傾け、新たに傭兵を徴募すると同時に、兵役に耐えうる市民の若者を集め、これを軍隊に組み入れた。
紀元前241年も暮れる頃、ハンノン率いるカルタゴ軍は、ウティカ救援に向かった。ここはカルタゴにとっては兄弟の如き重要な同盟都市。陥落してしまえば、首都カルタゴは孤立し、滅亡の淵に追い詰められてしまうからだ。
ハンノンは、象部隊を先頭に敵に突撃した。巨大な象の突進に仰天した傭兵軍は脆くも崩れた。こうして、ウティカを包囲するスペンディオス軍を突破すると、ハンノン軍は城内に入り、街の守備隊と合流することに成功した。
「よし。敵は逃げ腰のリュビア人。飛び道具を揃え、一斉に攻撃せよ」
ハンノンは、リュビア人が一度崩れると、どこまでも逃げるという性質を知っていた。そのため、初動の戦いに打撃を与えることが有効であると心得ていた。
カルタゴ兵は、城門前に投石兵機と弩を多数揃えると、傭兵軍に向かい一斉射撃した。
「わあっ!」「ぎゃあ!」
この時代の据え置き型投石兵機は三百メートル以上の射程を有する。破壊力も抜群。弩とて、それから放たれる矢も百メートルは有に射程に捉え得る。従って、カルタゴ軽装歩兵は、城に群がる傭兵を狙い、次々とこれを倒していく。
傭兵たちはひとたまりもなく、血しぶきを上げて倒れた。
「こいつはいかん!退却だ!引くのだ!」
傭兵軍の将スペンディオスも仰天し、慌てて馬上逃げ出した。
リュビア兵もそれに続いて算を乱して逃げていく。
「わははは。リュビア人など一ひねりよ」
喜んだハンノンは、城内に戻り、部下の将兵たちを集め、早速に宴を開いた。
ハンノンは、これまでの戦いで、リュビア人がいったん敗走に転ずると、二日でも三日でも逃げ続けることを目にしていた。だから、もう決着がついたと思い込んだのだ。
が、スペンディオス麾下のリュビア人は違った。彼らは、シチリア島で、あのハミルカルの采配のもと戦い続けていた屈強の兵なのだ。
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