新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第2章カルタゴの章

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 ※カルタゴ周辺の地図は1月6日掲載分を御覧ください。


 傭兵の乱3−ハミルカルの電撃作戦 
 紀元前240年の初め、ハミルカル軍は出陣した。
 が、事態は、想像以上に悪化していた。
 カルタゴは、南をチュニス湾(チュニス湖)と湿原、北と東を海に囲まれた岬の上に建設された都市である。傭兵軍は、カルタゴが唯一陸とつながっている西の丘陵地帯に布陣し、内陸への道筋全てに兵を配した。
 また、北西は平坦な土地が広がるが、マカラス川が内陸方面への出口を封じ、しかも、唯一架けられた橋のたもとにはマトスの兵が砦を築いて厳重に警戒していた。
「閣下、道筋全てに敵兵が充満し身動きがとれませぬ」
 帰って来た密偵はそう報告した。
 が、ハミルカルは諦めなかった。
「よし、余自ら調べてみよう」
 ハミルカルは、夜陰に紛れ、数人の側近を引き連れ、偵察に出かけた。
 駆けに駆け、マカラス川の畔に出た。
 時は冬。奔流であった。
 平時ならば、水量多きことは、豊かな実りをもたらす感謝すべきものだが、この戦いにおいては、カルタゴの首を絞める鉄鎖の如きものにしか映らない。


「将軍。これでは渡ることはできませぬ」
「む。もう少し河口の方に行ってみよう」
 ハミルカルは、川岸に沿って、河口に向かって走った。
 河口に着いた頃から、次第に東の空が白々明け始めた。
「将軍。夜が明けてきました。お引き返しください」
 この地域は、傭兵軍の勢力下にあるのだ。いつ傭兵どもが現れないとも限らなかった。
「うむ」
 ハミルカルは頷いたが、動かなかった。
 河口の幅は広くなり、ために流れが若干緩やかになっていた。そして、両岸には砂州が広がっていた。
 彼は、ある地点に気付くと、そこをじっと凝視した。そして、笑みを浮かべた。
「ふふ」
「閣下。早くお帰りにならねば…」
 側近は、気が気でないのか、あたりを見回しながら、しきりに促した。
「作戦は決まったぞ」
「え」
「帰るぞ」
ハミルカルは、馬首を巡らせると、馬に鞭打ち、一散に元来た道を駆け戻った。
 帰営すると、直ちに矢継ぎ早に作戦を部将に伝えた。
 その夜、ハミルカル軍は密かに動き始めた。


 ここヒッポ・アクラ。傭兵軍は、街を十重二十重に包囲していた。
「ハミルカルの動きはどうだ」
 司令官マトスが訊いた。
 今や数万の傭兵軍の総司令官。金銀ちりばめた鎧を着け、豪奢なマントをまとい、その姿は、あたかも大国の王侯の如くであった。
「はっ。カルタゴの郊外に陣取ったまま一切動きませぬ」
 副官のリュビア人傭兵ザルザスが答えた。
「油断いたすなよ。敵はあのハミルカルなのだ。何を企むやら知れぬ」
 このマトスも、シチリアでハミルカルの下で働いていた。それだけに、彼の恐ろしさを知り抜いていた。
「陸上の道筋を警戒することはもちろん、マカラス川の砦の守備兵にも、注意を怠るなと命令しておけ」
「ははっ」
 ザルザスは、きびきびした動きで立ち去った。
 傭兵軍の士気は高かった。リュビア全土からは、日々続々と軍資金が集まってくる。ために、兵は十二分な給金を与えられ、陣中には食糧が溢れんばかりであった。さらに、これまでカルタゴ軍に連戦連勝してきたことも、兵の士気を大いに高めていた。
 ここまでの戦略は、マトスの才覚によるところが大きかった。カルタゴ封鎖作戦も彼の考案によるもの。
(いかにハミルカルといえども、この陣容と相対してはどうにもなるまい)
 最強の敵ハミルカルの出現にも、彼は自信を深めていた。
(不思議なもの。ハミルカル麾下の一兵卒に過ぎなかったこの俺が、今や、そのハミルカル最大の敵になっておる)
 かつては、ハミルカルの前に出ると、その威厳に委縮するばかりであった。人間的な大きさに圧倒されたものだ。
 マトスは、一傭兵としてカルタゴ人指揮官に顎で酷使される日々を思い出し、絶対者の如き今の境遇に、不思議な感慨に浸り、大いなる愉悦を覚えていた。


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 ※カルタゴ周辺の地図は1月6日掲載分を参照ください

 傭兵の乱2−ウティカ攻防戦(続き)
「なに、敵はもう勝利に酔い、城内で寛いでいると」
「はっ。敵将ハンノンは城内で宴を催し、兵たちも城外に屯してのんびり食事をとっています」
「そうか…」
 スペンディオスは笑みを浮かべた。
 出自こそ逃亡奴隷の彼だったが、ローマとの長年の戦いを経て、また、ハミルカルの下で働いていたこともあり、戦機を読むことができるようになっていた。
 ハミルカルは、常々彼ら士官に言っていた。
『勝敗に一喜一憂してはならぬ。勝利しても驕らず、敗北しても次の勝利につなげよ』
 ハミルカルは、その言葉通り、敗北を次の勝利につなげ、ヘイルクテ山そしてエリュクスで奮闘し、ローマを苦しめ続けた。
 その時、スペンディオスは、敗北の中にも次の勝利があることを知った。
 皮肉なことに、カルタゴは、明日の敵を自軍で鍛えた結果となっていた。
「アウタリトゥスよ」
 彼は、傍らのガリア人隊長に呼び掛けた。
 ガリア人は、今日のフランス一帯に居住する民族。彼らは、パドゥス川(現ポー川)流域の土地を巡りローマと争っていた。即ち、ローマは仇敵である。ために、カルタゴに雇われ、ハミルカルの下で働いていた。
 そして、今、傭兵軍の重厚な一翼を構成していた。
「絶好の戦機が巡って来たぞ。すぐに兵をまとめ、反撃に転ずるのだ。四方の門に殺到し、緩む敵兵を討ち取れ」
「おう、分かった」
 傭兵軍は、態勢を立て直すと、再びウティカの城門前に殺到した。


 ウティカのカルタゴ兵は、引き返して来た傭兵軍に驚いた。
「あっ、敵が戻って来たぞ!」
「こいつはいかん」
 彼らは、すっかり勝利したと思い込み、武装を解き、酒を飲み、くつろいでいたのだ。
 慌てて武装に取り掛かったが、鎧を着ける間もない。とっさに武器を掴むも、
「それは俺のだ」「馬鹿野郎!俺の剣だ!」と奪い合う始末。
 そこに、一斉に傭兵軍の突撃を受けたものだから、たまらない。
 城外にいたカルタゴ兵の多くが討ち取られた。そして、城外に放置されていた、投石兵機やら弩は、傭兵軍の戦利品となってしまった。
 結果、ウティカ城外の戦いは、スペンディオス軍の大勝利に終わった。


 その後も、ハンノン率いるカルタゴ軍は負け続けた。いや、いずれも勝利を掴みかけるのだが、詰め甘く逆襲を食らい、結果敗走するということを繰り返した。
 ハンノンの軍勢は、首都カルタゴに逃げ帰って来た。
「これはいかん」
 カルタゴ政府は狼狽した。
 ハンノンに全軍の指揮権を与えたのは、多分に、ハンノンの権勢に靡いたものだが、事ここに至っては、そんな内輪の権力や見栄に右顧左眄している場合ではなかった。
 元老院は、ハンノンの任を解き、ある人物を叛軍討伐の司令官に据えた。
 ハミルカル・バルカである。
 象七十頭、新たに徴募した傭兵、敵からの脱走兵、さらに市民からなる騎兵に重装歩兵、今のカルタゴがあらん限りの力を振り絞ってかき集めた、総勢一万の軍勢を彼に与えた。

イメージ 1

    ↑
 紀元前241年頃のカルタゴ周辺の地図です。ここにある都市が、カルタゴ連合中枢の都市群となります。ちなみに、海岸線は現在、沖合にかなり進み、ウティカの遺跡は内陸にあります。グーグルアースなどで確認してください。


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 傭兵の乱2−ウティカ攻防戦 
 反乱軍司令官マトスは、リュビア全土に檄を飛ばした。
「今こそ自由のために立ち上がる時ぞ!男は武器を取って集まれ!女は装飾品を軍費のために供出せよ!」
 リュビアの人々は、カルタゴ政府の貪欲を憎んでいたから、これに呼応して、すぐさま立ち上がった。男たちは鎧に身を包み、槍を抱えて、喚声を上げながら続々出征した。ために、チュニスには、七万人もの兵が集結した。
 また、女たちはこぞって宝石の類を差し出し、チュニスの総司令部の前に、たちまち山の如くに積み上がった。当面必要な給金や兵糧に充てても、どっさり残るほどであった。
 傭兵軍は動き出した。
 圧倒的な兵力で、次々と周辺地域を制圧した。もともと内陸部はリュビア人の居住地域でもあるから、反乱軍に共感し、進んで城門をあける街も多かった。
 が、もちろん抵抗する都市もある。特に頑強に抵抗したのが、ウティカとヒッポ・アクラの二つの街である。この二つの都市は、フェニキア人の建設によるもので、カルタゴを盟主と仰いでいる。そう簡単に降るわけもなかった。
「ここを落とせば大勢が決するぞ」
 傭兵軍は、一部の兵力をチュニスに残すと、他の軍勢を二つに分け、一つをマトスが率いヒッポ・アクラを包囲し、もう一つをスペンディオスが率いウティカを包囲した。
 大陸は、真黒な戦雲に覆われ始めた。
それは、掟なき残酷な戦いの始まりでもあった。


「なんと!リュビア全土に反乱の火の手が上がったと!」
 カルタゴ市民は、失意のどん底にたたき落とされた。
 ローマとの長い戦争が終わり、ようやく平和が到来し、平穏な生活が戻ってくるとの期待に膨らんでいた時なのだ。いや、それでは言い足りない。
 リュビアの地は、カルタゴの属領として、食糧と兵員を潤沢に供給してくれる、国家存立の根幹。いわば国家の手足の如きもの。その手足が牙を剥いたのだ。
 これは内乱だ。海外の権益をめぐる闘争ではない。海外の権益ならば、シチリアの如く諦めれば済む話だ。内乱は違う。民族の存亡を賭けて戦う、生きるか死ぬかの瀬戸際の攻防なのだ。勝利しなければ、自己の生存はありえない。
 カルタゴ市民は自己の生命に迫る危機に恐怖した。
 躊躇している暇はなかった。カルタゴ政府は、これまでリュビアの地で戦果をあげてきたハンノンを、叛軍討伐の司令官に任命した。


 ハンノンは、乏しい国庫を傾け、新たに傭兵を徴募すると同時に、兵役に耐えうる市民の若者を集め、これを軍隊に組み入れた。
 紀元前241年も暮れる頃、ハンノン率いるカルタゴ軍は、ウティカ救援に向かった。ここはカルタゴにとっては兄弟の如き重要な同盟都市。陥落してしまえば、首都カルタゴは孤立し、滅亡の淵に追い詰められてしまうからだ。
 ハンノンは、象部隊を先頭に敵に突撃した。巨大な象の突進に仰天した傭兵軍は脆くも崩れた。こうして、ウティカを包囲するスペンディオス軍を突破すると、ハンノン軍は城内に入り、街の守備隊と合流することに成功した。
「よし。敵は逃げ腰のリュビア人。飛び道具を揃え、一斉に攻撃せよ」
 ハンノンは、リュビア人が一度崩れると、どこまでも逃げるという性質を知っていた。そのため、初動の戦いに打撃を与えることが有効であると心得ていた。
 カルタゴ兵は、城門前に投石兵機と弩を多数揃えると、傭兵軍に向かい一斉射撃した。
「わあっ!」「ぎゃあ!」
 この時代の据え置き型投石兵機は三百メートル以上の射程を有する。破壊力も抜群。弩とて、それから放たれる矢も百メートルは有に射程に捉え得る。従って、カルタゴ軽装歩兵は、城に群がる傭兵を狙い、次々とこれを倒していく。
 傭兵たちはひとたまりもなく、血しぶきを上げて倒れた。
「こいつはいかん!退却だ!引くのだ!」
 傭兵軍の将スペンディオスも仰天し、慌てて馬上逃げ出した。
 リュビア兵もそれに続いて算を乱して逃げていく。
「わははは。リュビア人など一ひねりよ」
 喜んだハンノンは、城内に戻り、部下の将兵たちを集め、早速に宴を開いた。
 ハンノンは、これまでの戦いで、リュビア人がいったん敗走に転ずると、二日でも三日でも逃げ続けることを目にしていた。だから、もう決着がついたと思い込んだのだ。
 が、スペンディオス麾下のリュビア人は違った。彼らは、シチリア島で、あのハミルカルの采配のもと戦い続けていた屈強の兵なのだ。


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 傭兵の乱1−暴発(さらに続き)
「なんだと!リュビア人たちが反乱を起こそうとしておると!」
 ジスコーネは愕然とした。
 彼は、傭兵たちの要求を叶えるため奔走していた。給金に充てる資金を調達し、傭兵が日々の生活に困らないよう生活物資も運び込んだ。そのため、ようやく陣営内が静まって来た。
(これで鎮まるであろう)
 そう一息ついていたところに、この急変である。
「はい。陣営内には不穏な空気が充満しております。もうここは危険です。一刻も早くカルタゴへお逃げください」
 彼の副官の顔も蒼白であった。それだけ事態は切迫していたのだ。
「そうはいかん」
「なにゆえです。このままでは、彼奴らめは、必ずや閣下に狂気の刃を向けてまいりましょう」
「今、カルタゴ本国に戦力の余裕はない。リュビア人が攻め寄せて参れば、国家存亡の危機に陥ろう」
 カルタゴ軍の編制は、繰り返すが、軍指揮官はカルタゴ人、兵はリュビア人ほか傭兵で成っている。カルタゴ市民は兵役に就かないのが原則だ。となると、戦闘力の要である兵士たちに背かれては、そもそも軍の編制ができなくなるのだ。
 無論、市民も緊急時には武器を取るが、それは例外中の例外だ。
「よし。わしが説得しよう」
 ジスコーネは立ち上がった。


 リュビア人の集会にジスコーネが現れた。
「軽挙はならぬ。妄動に出れば、汝らは必ずや後悔するであろう」
 彼は懸命に説得した。身の危険も忘れていた。
(この者たちが武器を取れば祖国は滅亡してしまうかもしれぬ)
 が、殺気立ったリュビア人たちに、もう彼の言葉は届かなかった。
 数人のリュビア人が前に進み出た。
「ならば、なにゆえ我らに給金は支払われないのか」
「そうだ。その理由を聞かせよ」
 彼らは、ジスコーネを取り囲み、詰め寄った。
 驕慢な態度に、ジスコーネもついカッとなった。
「汝らはマトスを司令官に選んだのだ。彼に要求すればよかろう」
 そう吐き捨てた。
 その途端、リュビア人の群衆は獣の如く咆哮し、ジスコーネたちに襲いかかり、彼ら捕縛してしまった。そして、彼らの所持する金品を全て奪った。
 こうして、傭兵たちは、ついに反乱に立ち上がった。
 時は、紀元前241年秋のことであった。


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 傭兵の乱1−暴発(続き)
 スペンディオスは、仲間のリュビア人傭兵マトスの許に走った。
「マトスよ、このままでは騒乱が終息してしまう。カルタゴにとっては良くても、俺たちにとっては良くないことだぞ」
「うむ、その通りだ」
 マトスは頷いた。
 マトスはリュビア人傭兵の部隊長を務めていたが、カルタゴのリュビア統治への反感から、今回の騒動を煽りたてていた主導者の一人だった。
 元来、カルタゴ政府は、フェニキア人の同盟都市には自治を保証するなど寛容な政策をとる一方、土着の住民であるリュビア人には過酷に報いる傾向にあった。特に、対ローマ戦争末期の数年は、戦費調達のために重税を課し、男たちを兵に駆り出し、住民の苦しみを全く閑却していた。
 ために、マトスたちリュビア人はカルタゴ政府を恨んでいたのだ。
 とはいえ、元の秩序に回復してしまえば、と考えるとやりすぎた。
(カルタゴ政府から要注意人物と睨まれているに違いない)
 彼も平和になれば困る人間の一人なのだ。


 マトスは言った。
「俺たちが助かるためには、カルタゴと事を構えるしかないな」
「どうするのだ。給金の支給が始まり、落ち着き始めているぞ」
 そう。まさに現金なもので、給金の支給が開始され、生活物資がどっさり運び込まれてくると、傭兵たちは次第に平静を取り戻し始めていた。それが騒動の原因なのだから、当然といえば当然なのだが。
「リュビア人には支給が始まっていない。リュビア人を煽りたてるのだ」
 カルタゴ人にとって、リュビア人は被支配民族に過ぎないと考えられていたのか、まずギリシア人やガリア人など他の民族から支給が始まっていた。
「どう煽るのだ?」
「耳を貸せ」
 マトスはスペンディオスの耳元にあることを囁いた。
「なるほど。考えたな」
「リュビア人の憤懣は暴発寸前。それに点火するだけよ」
 マトスは、不気味な笑みを浮かべた。


 翌日から、マトスとスペンディオスは手分けして、行動を開始した。
 二人とその仲間たちは、リュビア人傭兵の耳元にこう囁いた。
「給金の支払いが済み、皆が故郷に戻れば、カルタゴ政府は、我らリュビア人に今回の騒動の罪を問い、他の民族への怒りまでも我らにぶつけてくるに違いない」
「ええっ」
 まずは、皆、一様に驚きを見せる。
「それがどういうことがわかるか?重税を課され、というのはまだましな方だ。奴隷にされるか、悪くすれば、投獄され処刑されてしまうぞ」
「そんなバカな。どうして俺たちがそんな目に遭わねばならんのだ」
 こう憤慨する者には、さらに様々なことを吹き込み、自派に取り込んでいった。
「でも、給金の支払いが始まっているではないか」と疑問を呈する者には、
「リュビア人を後回しにしているのが何よりの証拠だぞ。カルタゴ人は、我らが憎くてならぬのだ」と、カルタゴ人の優越意識を強調した。
 カルタゴ人のエリート意識は事実でもあるので、彼らの囁きは、真実味を帯びて伝えられていった。
 悪意の囁きは、たちまちリュビア人全体に野火の如く広がっていった。
 憤激したリュビア人たちは、あちこちで集会を開いた。そして、口々にカルタゴへの怒りを叫び始めた。
 頃合いを見図り、マトスが前に進み出て、
「今こそ、我らリュビア人の自由のために決起する時ぞ!立ち上がるのだ!」と反乱決起を促した。
 わあっと歓声が巻き起こった。


 が、中には冷静に判断する者もいる。彼らは暴発に反対した。
「カルタゴと戦うとなれば、我らは全滅してしまうであろう」
 その時、マトスが手を挙げて合図した。
 その途端、一斉に石つぶてが飛んできた。それはマトス一派だけではない。リュビア人全体から投げつけられた。それほどに憤懣が充満していたのだ。
 反乱に反対する者、いや、何か意見を述べようとするだけで、悉く殺された。
「殺せ」
 この一言で石つぶての嵐となったのだ。
 リュビア人といっても多種多様で、様々な部族がいる。その言葉は、部族の違いを越えて理解できる唯一の言葉となった。
 この一言で、隊長や一兵卒の見境なく殺された。昨日の上司も友も関係なかった。
 狂気が空間を支配した。
 こうなると意見を述べようとする者は一人もいなくなる。
 こうして、リュビア人たちは、マトスとスペンディオスの二人を司令官に選んだ。


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