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マサエシュリ王シファクス
翌日、ジスコーネ達一行は出発した。
数日後、マサエシュリ王国との国境の辺りに近づいた。
ただ、今日のように、国境線を確実に標識できるものはない。川やら山並みが頼りだ。が、漠々たるアフリカの大地では、それすらも怪しい。しかも、領土を巡り争っている両国なのだ。
「ここらあたりから、マサエシュリ王に服する牧畜民が出没します。気をつけねばなりませぬ」
マシニッサが注意した。
部族ごとに行動する遊牧民には、独特のネットワークがある。そして、馬という、当時にあって、陸上最速の通信手段を有するのだ。
不審者と見られては、たちまち通報され、最後はマサエシュリの騎馬隊と遭遇する羽目になるであろう。
一行は、辺りを警戒しながら、先を進んだ。
それから数日。何事もなく平穏に推移した。たまに行き交う遊牧民たちも、特に不審な動きを見せなかった。
平穏無事と分かると、その時間は退屈なものになってくる。
無限の空間にあって、退屈を紛らすものは、人との会話だ。
ジスコーネは、馬に揺られながら、執事アッティクスと故事について語り合っていた。共に教養人。馬が合ったようで、話が途切れることはなかった。
一方、マシニッサは、馬をプブリウスの側に寄せて来た。
「貴公は何者か」
フェニキア語で訊ねた。ずっと疑問としていたことなのであろう。
が、プブリウスは、フェニキア語を解しない。だから首を振った。
ならばと、マシニッサはギリシア語で語りかけた。この時代、ギリシア語は、現代の英語のような国際言語であった。だから、マシニッサも、カルタゴ遊学中に学んでいた。
ちなみに、ジスコーネとプブリウスの会話は、全てギリシア語で行われている。
「貴公は、ジスコーネ閣下の従者、ではあるまい」
「お見通しでございましたか」
「うむ。騎乗する身のこなし、そして、その落ち着きぶり。名のある家の者であろうと」
「実は」
プブリウスは、ここで全てを明かした。ローマ人であると。
出立時に説明しようとも思ったが、かえって面倒なことになってはと、思いとどまったものだ。そして、ジスコーネの従者として、ここまで付いてきたのだ。
「そうか。閣下とギリシアで共に学ばれた仲であったか」
「そうです。ジスコーネ殿のご心痛を伺い、共にイベリアに向かうこととなった次第」
「ふーむ。…でも、貴殿はローマ人なのであろう」
カルタゴの敵国の人ではないか、ということなのであろう。
「そうです。…されど」
プブリウスは唇をねぶった。
「カルタゴ人にジスコーネ殿がおられるように、ローマ人にもこのプブリウス・コルネリウス・スキピオがおるのです」
共に平和を願う者である、そういっているのだ。
その瞳には、偽りの曇りがなかった。
「左様ですか」
マシニッサは、気持ちの良い笑顔となった。
「なるほど…。ジスコーネ閣下が、貴公とイベリア行を共にするのも得心がゆきました」
「わたくしも、ジスコーネ閣下がソフォニスバ殿を嫁がせる理由がよく分かりましたよ」
二人は声を合せて笑った。
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