新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第3章イベリアの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 マサエシュリ王シファクス
 翌日、ジスコーネ達一行は出発した。
 数日後、マサエシュリ王国との国境の辺りに近づいた。
 ただ、今日のように、国境線を確実に標識できるものはない。川やら山並みが頼りだ。が、漠々たるアフリカの大地では、それすらも怪しい。しかも、領土を巡り争っている両国なのだ。
「ここらあたりから、マサエシュリ王に服する牧畜民が出没します。気をつけねばなりませぬ」
 マシニッサが注意した。
 部族ごとに行動する遊牧民には、独特のネットワークがある。そして、馬という、当時にあって、陸上最速の通信手段を有するのだ。
 不審者と見られては、たちまち通報され、最後はマサエシュリの騎馬隊と遭遇する羽目になるであろう。


 一行は、辺りを警戒しながら、先を進んだ。
 それから数日。何事もなく平穏に推移した。たまに行き交う遊牧民たちも、特に不審な動きを見せなかった。
 平穏無事と分かると、その時間は退屈なものになってくる。
 無限の空間にあって、退屈を紛らすものは、人との会話だ。
 ジスコーネは、馬に揺られながら、執事アッティクスと故事について語り合っていた。共に教養人。馬が合ったようで、話が途切れることはなかった。
 一方、マシニッサは、馬をプブリウスの側に寄せて来た。
「貴公は何者か」
 フェニキア語で訊ねた。ずっと疑問としていたことなのであろう。
 が、プブリウスは、フェニキア語を解しない。だから首を振った。
 ならばと、マシニッサはギリシア語で語りかけた。この時代、ギリシア語は、現代の英語のような国際言語であった。だから、マシニッサも、カルタゴ遊学中に学んでいた。
ちなみに、ジスコーネとプブリウスの会話は、全てギリシア語で行われている。
「貴公は、ジスコーネ閣下の従者、ではあるまい」
「お見通しでございましたか」
「うむ。騎乗する身のこなし、そして、その落ち着きぶり。名のある家の者であろうと」
「実は」
 プブリウスは、ここで全てを明かした。ローマ人であると。
 出立時に説明しようとも思ったが、かえって面倒なことになってはと、思いとどまったものだ。そして、ジスコーネの従者として、ここまで付いてきたのだ。
「そうか。閣下とギリシアで共に学ばれた仲であったか」
「そうです。ジスコーネ殿のご心痛を伺い、共にイベリアに向かうこととなった次第」
「ふーむ。…でも、貴殿はローマ人なのであろう」
 カルタゴの敵国の人ではないか、ということなのであろう。
「そうです。…されど」
 プブリウスは唇をねぶった。
「カルタゴ人にジスコーネ殿がおられるように、ローマ人にもこのプブリウス・コルネリウス・スキピオがおるのです」
 共に平和を願う者である、そういっているのだ。
 その瞳には、偽りの曇りがなかった。
「左様ですか」
 マシニッサは、気持ちの良い笑顔となった。
「なるほど…。ジスコーネ閣下が、貴公とイベリア行を共にするのも得心がゆきました」
「わたくしも、ジスコーネ閣下がソフォニスバ殿を嫁がせる理由がよく分かりましたよ」
 二人は声を合せて笑った。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 ヌミディアの大地を往く(さらにさらに続き)
 部屋に戻ると、二人と執事アッティクスは、体を寝台の上にぐったり横たえた。
「これはいかん。まるで丸太のようだ」
 プブリウスが腹を撫でながら独り言つと、ジスコーネとアッティクスは笑った。
「丸太か。はははは。違いない」「ほほほ」
 そこに衛兵が現れた。
 三人は慌てて身を起こした。
「どうしたのだ」
「マシニッサ王子がお見えになられました」
「なに」
 三人は狼狽した。もう休むだけと思い、衣服も脱ぎ捨てていたからだ。
 次の瞬間、マシニッサがもう部屋に入って来ていた。
「あ、そのままそのまま」
 マシニッサは、客たちが衣服を着けようとしているのを止めた。
「そういうわけにいかん。マッシュリの王子の前で無作法な…」
「何を仰せになられます。我らはもはや親族同然。他人行儀は無用でございます」
「そうか。そう言ってくれるとありがたい」
 ジスコーネはほっと息をついた。


「これからのことでございます」
 マシニッサは出し抜けに言った。
「これから?どういうことだ」
「イベリアに向かうには、我が領国を抜け、さらにマサエシュリの土地を通過する必要があります。ここは父の通行証など意味をなしませぬ」
「そうか…」
 マッシュリとマサエシュリは、あくまでも自立している国家。『ヌミディア』という言葉で一括りにしてしまうと、つい忘れがちになる。繰り返すが、『ヌミディア』とは、ギリシア・ローマ世界側の呼称である。
「何か良い策はおありかな。我ら、何としても陸を通って行きたいのだが…」
 今回のイベリア行は隠密裡のもの。といって、アフリカ沿海を要人ジスコーネの船が通れば、バルカ家に筒抜けとなる。
 それでは意味がない。だから、海上ルートは取れないのだ。
「そこで考えました。マサエシュリにも我らに好意を抱く部族があります」
「ほう」
「その部族の土地まで参り、そこからは、その部族の者に扮して、ヘラクレスの柱(現ジブラルタル海峡)へ向かいましょう」
「なるほど、それは良い考えだ」
 といってから、ジスコーネは気付いた。
「…マシニッサ殿。今の口吻だと、貴殿もついてこられるおつもりか?」
「勿論にございます。ここまでお供申し上げたのですから」
 当然の如く言った。
「それは危険だ」
 そう。マッシュリとマサエシュリは犬猿の間柄。マシニッサの潜入が露見すれば、戦闘が勃発してしまう。
「なに。私も従者姿に変装いたしますゆえ」
「いや、ガイア王に悪い。そなたは世継ぎ」
「なんの。父にも話すと、是非とも供して身辺の警護をいたせ、と勧められましてございます。この程度のことで怯む不抜けでは困るぞと。けしかけてくる有様」
 マシニッサは、はははと笑った。
 遊牧の民、天性豪放磊落なのだ。

イメージ 1

           ↑
 現在のキルタ(コンスタンティーヌ)です。アルジェリアの内陸に位置します。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ヌミディアの大地を往く(さらに続き)
「お安いこと」
 ガイア王は快諾した。
「ヌミディアの民に扮し、領国を抜ければよろしゅうござる。私の通行証を見せれば、どこの集落も部族の土地も問題なく通過できるはず」
 かつて、ハミルカルに味方したナラヴァス以来、マッシュリ王国は、カルタゴの友邦であり続けた。しかも、マシニッサ王子とジスコーネの妹ソフォニスバの婚儀が約束されているのだ。だから、王は協力を惜しまなかった。


 王は、盛大な宴を張って彼らを歓待した。
 遊牧の長らしく物惜しみしなかった。美女を侍らせ、酒をふんだんに振る舞い、御馳走を埋め尽くさんばかりに並べたてた。
「もう結構でござる」「いや、もう十分でござる」
 客が幾ら断っても、酒が並々注がれ、料理の皿が目の前に積み上げられる。
 三人は、これには閉口した。
「ふふふ。お困りのようですな」
 含み笑いしながら、王子マシニッサが二人の席に近づいてきた。
「マシニッサ殿。王の歓待には感謝いたすが、これはどうにか…」
 ジスコーネが救いを求める眼差しを向けた。空腹は辛い。が、満腹の上に詰め込まれるのも辛いものだ。
「ははは。我が国の習慣にございます。存分にお召し上がりくだされ」
 マシニッサも、あおるように呑んでいた筈だが、ほんのり赤くなっているだけ。草原を駆けて生きる彼ら。胃腸の容量も破格なのかもしれない。
「いや、もう本当に一杯なのだ。それゆえ貴殿に頼んでおる」
「なに、席を立てばよいのです。ならば、客人たちは満足したのだな、ということになりますゆえ」
「そういうことであったか」
 それではと、三人は逃げ出すように席から立ち上がり、そそくさ退出した。


イメージ 1

    ↑
 ヒトコブラクダです。GNUフリードキュメントライセンスに基づいて掲載しています

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ヌミディアの大地を往く(続き)
 数日後。マシニッサ一行は帰国の途に就いた。
 王子とそれを警護する兵の一団、その後に物資を運ぶラクダの群れが続いた。
 その一団の中に、あの二人がいた。
「これはなかなかうまい策にございますなぁ」
 プブリウスは、槍を手に、ヌミディア騎兵のいでたちに身を包み、馬に揺られていた。
「そうであろう」
 同じくヌミディア騎兵の姿のジスコーネ、少し得意げな顔になった。
 そう。二人は、ヌミディア人兵士に扮し、帰国するマシニッサ一行に紛れ、密かにイベリアに向かおうというのだ。
「が、君の執事殿は大丈夫か?」
「なんの。我がスキピオ家の執事。この程度のことで泡を食ったりは致しませぬ」
 ジスコーネは後ろを振り向いた。
 すると、執事アッティクスが、初めてのラクダの上で、ヌミディア人従者に助けられながら、必死に手綱を取っていた。
 アッティクスは、口を酸っぱくして、今回のイベリア行きに反対したのだが、いつものように押し切られて渋々ついてきたものだ。
「ご覧の通り、涼しげに従っております」
「涼しげに…のう」
 ジスコーネは苦笑した。
 一行は、緑の草原が果てしなく続くアフリカの大地を、西へ西へと進んだ。


 十日後、一行は、マッシュリ王国の都キルタ(現コンスタンティーヌ)に到着した。
 ここはカルタゴから西に五百キロ、内陸にある山間の都市である。
 周囲の地勢はそれほど険しくもないが、街の周囲を切り立った断崖と河川が取り囲み、無類の要害となっていた。
 マッシュリ族は半農半牧の民である。遊牧民は都市生活に興味はない。だから、農耕民がこの町に集住していた。とはいえ、多くの遊牧民が、農民との交易のため、ここを訪れる。小麦や塩などの食料のほか衣服など雑貨を買い、肉やら乳や毛皮を売る。
 つまり、王都キルタは、国王の居城であり、農民の拠り所であり、遊牧民の市場の機能を果たしていたものと思われる。


 マッシュリ王の名はガイア。マシニッサの父である。
 彼は、不意に訪れたジスコーネたち一行に驚きながらも、大いに歓迎した。
「ようこそお出でなされた」
 ジスコーネは、今回の来訪の目的を率直に打ち明け、協力を依頼した。イベリアまでの道中の安全確保の協力である。
 この時代の旅行は、現在とは比較にならぬほど危険に満ちていた。陸には山賊、海には海賊。捕まれば、財を奪われるだけでは済まない。人生を真黒に塗り潰される。奴隷として売られてしまうのだ。
 本国の親族を通じ身代金を支払えば、解放されることもある(ちなみに所持金を払っても無駄である。身柄を奪われた時点で賊たちの物になっているのだから)。が、彼ら餓狼を満足せしめる金がなければ―ほとんどの場合はこちらだ―見知らぬ土地に運ばれ、奴隷市場で売り飛ばされることとなる。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 ヌミディアの大地を往く 
 東ヌミディアのマッシュリ王国のマシニッサ王子が訪れたという。
「マシニッサ殿が?何ゆえお越しあられたのか?」
「はい。先日、妹御との婚儀を認めていただいたお礼のために参上仕りました、と」
「そうか…」
 ジスコーネは何やら思案していたが、にやりとした。
「プブリウス君。これは丁度よいぞ」
「何が…でございます?」
「こういうことよ」
 ジスコーネはあることを囁いた。
「なるほど、それは良い策」
 プブリウスは賛同した。


 と、そこに軽やかな足音と共に、一人の貴公子が現れた。
 マッシュリ王国の王子マシニッサ。
 この時十八歳。将来の王位を約束されている彼、颯爽としていた。
 その彼、現れるなり、ジスコーネに礼を述べた。
「閣下、先日は丁重なるおもてなしの上、それがしの厚かましき願いも快くお聞き届けいただき、感謝の極み」
 マシニッサは、流麗なフェニキア語で挨拶した。
 その穏やかな物言いは、とかく蛮族と見られがちなヌミディア人にも、文明の風が浸透しつつあることを示していた。
 これは、カルタゴ政府の、いや、ジスコーネの努力の成果でもあった。ヌミディアの子弟をカルタゴ風に教育する。そして、カルタゴの確固たる同盟国とすること。ジスコーネは、それがカルタゴ国家安泰の基盤となると考えたのだ。


「これはそれがしのほんの気持ちにございます」
 マシニッサは手を叩いた。
 すると、彼の家臣たちが、獅子の毛皮や、象牙、その他もろもろの珍品を捧げ、次から次と入ってきた。品々は、部屋の真ん中に、うず高く山と積み上げられた。
「マッシュリの王子よ。気遣い痛み入る」
 ジスコーネは、この誠実な異国の王子に優しい瞳を送った。
「なんの。蒙った御恩に比べればこれしき。もし、それがしにできることならば、何なりとお申し付け下さいませ」
「そうか…」
 ジスコーネは、左に控えるプブリウスと目を見合わせて僅かに笑った。
「言葉に甘え、王子に一つ願い事があるのだが…」
「何でございましょう」
「実は…」


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • 時間の流れ
  • JAPAN
  • ダイエット
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事