新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第3章イベリアの章

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 花嫁所望
 紀元前220年初夏。ここカルタゴ。
 アフリカ大陸にあるこの街は、まぶしい陽光を燦々享け、ますます隆盛していた。
 かつて、ローマに敗れ、傭兵の反乱に絶望した、あの暗い記憶は遠い過去に忘れ去られようとしていた。
 港には無数の船が碇を下ろし、海外からの物産を積み下ろしていた。
 怒鳴るように指図する商人、せっせと走る使用人、威勢よく叫ぶ船乗り達。皆、必死に生きていた。
 が、その顔は輝いていた。この光景こそ、この国が発展していることの証なのだ。


 そのカルタゴの港に、一隻の船が新たに入ってきた。桟橋に着け、碇を下ろし、渡し板がかけられた。
 二人の人物が港に降り立った。
 一人は年長の男。もう一人は少年…いや、もう青年の域に差し掛かっていた。
「御曹司…このような所に参って大丈夫なのでございますか」
「なんの。読んで知るより、見て聞くに如かず」
「されど…。仮にもかつての敵国・・・・・・。父君のお怒りが心配でございます」
「それが駄目なのだ」
「駄目…とは?」
「敵国という色眼鏡で見るから、そのように歪んで見えるのだ」
「とは申せ…」
「ジスコーネ殿を見よ。彼の御仁はなかなかの人物。それも、胸襟開いて話し合ったからこそ分かりあえたもの」
「かもしれませんが…」
「かもしれない、ではなく、そうなのだ。まずは相手をよく知ることこそ肝要。父上も必ずやご理解くださるに違いない」
 そう。二人は、プブリウスと執事アッティクス。
 帰国の途をわざわざ遠回りして、このカルタゴにやって来たものであった。


 ここビュルサの丘。ジスコーネの屋敷。
 彼は、ギリシアから帰国するや、騎兵隊司令官に着任し、各地で散発する反乱や騒動の鎮圧にあたっていた。
 そう。アフリカの民の誰もが、カルタゴ支配を歓迎しているわけではない。
 特に、リュビア人など被支配階級は、傭兵の乱における敗北以降、鬱屈した状況にあった。彼らは民族独立を賭け、乾坤一擲の勝負に出た。そして敗北した。やむなくカルタゴの統治を再び受け容れたものの、いいようのない無力感に苛まれていた。それが、自暴自棄な暴動や反乱となって、時折爆発していたのだ。
(このままではいかぬ。このままでは再び傭兵の乱の如き大乱がこの大地を襲おう)
 ジスコーネは危惧した。
 ために、必然あることばかりを考えるようになっていた。
「諸民族との和合をどう図るか」
 これに意を砕いていた。
 気を配っていたのは、ハミルカル以来、友好関係にある遊牧の民ヌミディア人との和合である。この民族は、東のマッシュリ族、西のマサエシュリ族に分かれている。
 王家の人々や有力貴族をカルタゴ市に招き、カルタゴの子弟と同じ教育を施した。学問を共にすれば、親愛の情も湧く。ひいては善隣友好にも結び付く。
(教育こそ国家の基盤を固める要)
 ジスコーネは、アカデメイアで学び、弱小国アテネが独立を保っているのをみて、こう悟った。
 そして、ヌミディア人の歓心を買うため、ジスコーネはこんな約束さえもしていた。


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 イベリアの覇者ハンニバル(さらに続き)
 そこに、象の突撃を受けてはたまらない。カルペタニ族の兵は、次々と象の鼻にふっ飛ばされ、そして、無慈悲に踏み潰された。
「うあっ!」「ぎゃあ!」
 中には勇敢に立ち向かってくる兵もいる。
「おのれ、これでもくらえ」
 槍を象の体に突き立てた。
 が、それは無謀でしかなかった。
 象の皮膚は頑丈で、普通の槍で突いたところでどうなるものでもない。
「ワオオ!」
 怒りの咆哮と共にその兵を踏み潰した。
「ひーっ!」
 カルペタニ族の兵は震え上がった。
「駄目だ!」「とても敵わん!」
 象とて、一斉に鋭利な投槍で襲えば、倒すことはできる。が、指揮系統の失われた今のカルペタニ族にそんな攻撃は不可能。


 カルペタニ族の兵は、押し合いへしあいしながら、悲鳴を上げて川岸に向かって逃げ惑った。が、川をすぐに渡ることはできない。当然、大群衆の塊となった。
 そこを、象使いの叱咤の鞭に狂奔する象が突入してきた。そして、まるで芋の子か何かのように敵兵を踏み潰して回った。
「ぎゃあっ」「うあぁ」
 無論、幸運にも象から逃れ得た人たちもいた。が、彼らも無事では済まなかった。
「ああっ」「ここにも…」
 彼らは絶望の声を上げた。
 川岸の野原に、カルタゴ歩兵が槍を揃えて待ち構えていたからだ。
 率いるはハシュドゥルバル。
「それ!今こそカルペタニ族を根こそぎ討て!」
 槍衾が一斉に襲いかかった。
 さらに、退却したハンニバル率いる騎兵が引き返し攻撃に加わると、三方から包囲されたカルペタニ族の大軍はみるみる潰滅していった。
「もう駄目だ!」
「川を渡って逃げるほかない!」
 川へ逃げた者も、背後から猛烈な矢の乱射を浴び、多くが水中に命を落とした。
 カルペタニ族とそれに味方する兵十万人は、ここでほとんど全滅状態となった。
 トレトゥムに逃げこめた者は僅かであったという。


 数日後、カルペタニ族の長老たちはこぞってカルタゴ軍陣営を訪れ、ハンニバルの足元にひれ伏し、無条件降伏を申し入れた。
「我らの身柄は全て閣下に委ねます。それゆえ、御寛大な処置を、なにとぞ、なにとぞ…」
 地に額をすりつけ懇願した。
 もはや敵の寛容を期待するしか、彼らの生存の途はなかった。
「よろしい」
 ハンニバルは許した。いつものように人質を取り、貢納を約束させて。
 イベリア最強カルペタニ族の降伏により、北西イベリアの帰趨は定まった。ここに、ハンニバルが、名実ともにイベリアの覇者となったのだ。
 時は紀元前220年春も終わりの頃である。

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 イベリアの覇者ハンニバル(続き)
 ハンニバル軍はタグス川北岸沿いに東に進み、とある地点に達すると、南に渡河し始めた。歩兵は浅瀬を選び、川をざぶざぶ渡っていく。予め、渡河に適した地点を、念入りに調査していたに違いない。
 ハンニバルは、騎兵を後方に配して敵に備えさせ、その間に歩兵を先に渡河させた。
 そこにカルペタニ族の騎兵隊が追いついた。
 司令官ハンニバルは、しんがりの騎兵隊にあって敵を睨みつけた。
「突撃せよ!敵を食い止めよ!」
 たちまち激戦となった。
 が、カルタゴ騎兵は、幾多の敵との戦いで鍛えに鍛えられている。ぐいぐいカルペタニ族騎兵を押しまくった。
「つ、強いぞ」「これは敵わぬ」
 カルペタニ族の騎兵は逃げ腰になった。
 しかし、そこにカルペタニ族の大歩兵軍団が追いつくと、戦況は一変した。
「川に追い落とせ!」
「皆殺しにしろっ!」
 大喚声をあげて、川岸に集結するカルタゴ騎兵に殺到したのだ。
 こうなっては、少数の騎兵隊では、川を背に持ちこたえられるはずもない。
 カルタゴ騎兵隊はどっと隊列を崩した。
「退け!川を渡れ!」
 ハンニバルは命令し、自らも馬を川の流れにざぶと乗り入れた。
「ハンニバルが逃げ出したぞ!」
 カルペタニ族の兵は、わあっと叫び、水飛沫をあげて、我先に川へ飛び込んだ。
 春から夏へと向かう季節ということもあり、水量はそれほど豊かではない。とはいえ、タグス川は大河であり、兵は大腿まで水に濡らした。
 カルペタニ族の軍勢は遮二無二渡河していく。


 ハンニバルとカルタゴ騎兵は、対岸に上がると、隊列整え一目散に南へと駆けていく。
 その後を追い、カルペタニ族の兵が喚声を上げ、次々対岸を踏んだ。
 渡河を急ぐあまり、隊列は麻の如く乱れていた。結果、上陸したとき、カルペタニ族十万の大軍は、烏合の衆にも似た有様となっていた。
 が、彼らは皆自信の塊だった。なにしろ、目前にカルタゴ兵が算を乱して敗走しているのが見えたからだ。
「追え!逃がすなっ!」
「ハンニバルを討て!」
 もう采配も何もない。誰もが、戦利品を脳裏に描き、餓狼の如き貪欲の虜となった。
 歩兵は槍をかついで無我夢中に駆け出し、騎兵は、馬前を邪魔する歩兵どもを怒鳴りつけながら馬を駆っていく。
 

 カルペタニ族の大軍はみるみるカルタゴ軍に迫った。
「俺たちは勝ったぞ!」
 彼らが勝利を確信したその時。
 突然、左右の深い草むらから、凄まじい咆哮が沸き上がった。
「なんだ?」「どうした?」
 それは、地響きを立てて現れた。
 カルタゴ象軍、総勢五百頭。率いるはハンニバルの弟マゴーネ。
「ああっ!象だ!」「伏兵だ!」
 カルペタニ族の兵は仰天した。
 マゴーネは抜刀した。
「さあ、一気に敵を踏み潰せ!」
 象の大群が左右から一斉に殺到してきた。
「いかん!」「逃げるんだ!」
 カルペタニ族の兵は慌てふためいた。
 が、すぐに退却することはできない。今もなお、大勢の兵が後から後から押し寄せて来ていたからだ。
 十万の兵が、一方では後ろに退こうとし、他方で前に突き進んでくる。
「おいっ!急に止まるな!」
 後ろから押し寄せる兵は苦情を言い、
「馬鹿野郎!象が来るんだよ!」
 前から退く兵はわめいた。
 あたりは言語を絶する混乱となった。

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 スペインの古都トレド(古名トレトゥム)の街です。タグス(現タホ)川が蛇行しているのが分かります。

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 イベリアの覇者ハンニバル 
 ハンニバルは丘に布陣し、じっとトレトゥムの城を睨んでいた。
 少し離れた場所で、次弟ハシュドゥルバルと末弟マゴーネが、ひそひそ会話していた。
「マゴーネよ。兄上は、どうなさるおつもりかのう」
「さあて…。ただ、何かのお考えがあるのではと…」
「そんなことは分かっておる」
 ハシュドゥルバルは苛々した口調となった。
「そなたは兄上と長年行動を共にしてきた。そなたなら分かるであろう、そう思って訊いているのだ」
「分かりませんよ。わたくしにも」
 マゴーネは仏頂面になった。
「兄上は、アカデメイア遊学の折にも、ジスコーネ殿の勧めもどこ吹く風、学園には足を向けず、一人ソシュロス先生からギリシアの歴史の講義を熱心に受けていたのですから」
 そのソシュロスは、今も、記録官としてハンニバルの傍らに控え、その人の言行を一分も漏らすまいとしていた。
「ふーむ」
 ハシュドゥルバルは唸った。
「わたくしにも窺い知れぬ深慮がある、それしか分かりませんよ」
 マゴーネは、どこか諦めたような口調でいった。
 いつの間にか、兄ハンニバルは、兄弟たちからも畏敬の眼差しを向けられる、そんな存在になりつつあった。


「マゴーネ」
 兄ハンニバルの呼ぶ声がした。
「は、はっ」
 マゴーネは慌てて兄の許に駆け寄った。
「敵が背後から接近しているようだな」
「はい。我が軍がトレトゥムに兵を向けたことを知り、慌てて引き返してくる模様」
「なぜ、余がこの街に兵を向けたか。…そなたは分かるか」
「いえ…ここを攻め落とせば一挙に戦況が打開できるから、でしょうか?」
「安全にタグス川を渡河するためだ」
「え?」
 マゴーネの目は点になった。
(それだけのために、こんな大がかりな城攻めを…)
「ふふふ」
 ハンニバルは弟の呆気に取られた表情に笑った。
「そなたは、今宵、ひそかに象軍を率い南に川を渡れ」
「新カルタゴに退却するお心で?」
「勝利するためだ」
「それは…」
「象を安全に渡河さえさせれば、我が軍の大勝利なのだ。そなたは象を渡河させた後…」
 ハンニバルは声を潜めた。
「なるほど!それは妙案!」
「象を渡河させるのは難渋する。慎重にいたせよ」
 重戦車の如き象を渡河させるのは一仕事だ。手だれの象使いでも容易ではない。
「かしこまりましてございます」
 マゴーネは、その夜、象軍と歩兵の一部隊を率いて、そっと陣を離れ南に進んだ。そして、川に筏の橋を架け、その上を、象をなだめすかして渡らせた。


 翌日。 
 カルペタニ族の大軍が、いよいよカルタゴ軍の陣営に接近してきた。
 ここで決戦する肚を固めたものであろう。隊列を整え、槍を構え、いつでも突撃できる態勢のまま、歩を進めてくる。
「うまくいけば、城兵と挟み撃ちにできる」
「そうなれば、ハンニバルとてどうにもなるまい」
「一挙にイベリアの覇者となるのだ」
 その興奮が、カルペタニ族とその同盟部族の兵の士気を異様に高めていた。いや、カルタゴ兵の華麗な装備に、略奪の欲望も手伝っていたに違いない。
(カルタゴ本陣には金銀が唸っているに違いない)
 そんな餓狼にも似た欲望だ。
 この時代、略奪は不法でも何でもない。勝利者は全てを奪うことができる。それが戦いの厳然たる掟である。
 その時である。カルタゴの陣の門が突如開かれ、兵が大挙溢れるように出てきた。
「おっ、カルタゴ兵が出て来たぞ」
「迎撃する気か」
 が、カルタゴ兵は前方のカルペタニ族は眼中にないかのように、東の方角に向かって進み始めた。
 予め十二分に準備していたものであろう。陣から出てくる兵は、隊列を整え、機敏な動きで走っていく。
「おお!ハンニバル軍が逃げていくぞ!」
「追え!追うのだ!」
 カルペタニ族の兵は勇躍して追撃態勢に入った。

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 カルペタニ族(続き)
 ここカルタゴ軍の宿営地。タグス川から北へ十キロほどの地点。
「なに。カルペタニ族の大軍が待ち構えていると」
 総督ハンニバルは、僅かに目を見開いた。
「はっ。タグス川の北岸のあちこちに展開し、我らが渡河するところを襲う意図かと」
「そうか…」
 そりきりハンニバルは黙った。彼は、イベリアに帰還して以来、ますます寡黙となっていた。無用な言を一切吐かぬ、そう思い定めているかのように。
 自然、幕舎の中は静まり返った。
「兄上」
 マゴーネがたまりかねたように口を開いた。
「なんだ」
「渡河の際を襲われては危険。あのタデル川の例もありますれば」
 そう。父ハミルカルは、タデル川渡河の最中、オリッセス族に不意を衝かれ、あえない最期を遂げたのであった。
「心配いたすな。余に考えがある」
 兄ハンニバルはかすかに笑った。
 その夜。カルタゴ軍は密かに行動を起こした。


 翌未明。ここカルペタニ族の首都トレトゥム。
 城兵たちは、いつものように、寝ぼけまなこをこすりながら城壁に登った。が、その途端、目を見開き、腰を抜かさんばかりに仰天した。
 城の前に、カルタゴの大軍がずらりと並んでいたからだ。
「ああっ!」「おおっ!」
 カルタゴ軍の中央先頭には、イベリア新総督ハンニバルが悠然と馬上にあった。
 ハンニバルはさっと右手を上げた。
 途端に大喚声が上がり、カルタゴ兵は咆哮を始めた。
 そして、城に向かって殺到した。
 総攻撃の開始だ。
「起きろ!」「戦闘配置につけ!」
 カルペタニ族の兵は慌てて防戦に入った。
 激しい攻防が始まった。
 が、この街は、近世にも幾多の激戦の舞台となる無類の要害。街の三方を蛇行するタグス川に囲まれ、唯一陸に接している北は堅固な城壁が連なっていた。ために、カルタゴ軍の猛攻にも、容易に落ちると思えなかった。
 さらに、首都攻囲に驚いたカルペタニ族の本軍が、大挙引き返してきて、既にその一隊の姿がちらほら見えだしていた。



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