新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第3章イベリアの章

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 カルペタニ族 
 ハンニバルの快進撃は続いた。
 翌紀元前220年春。ハンニバルは再び行動を起こすと、イベリア半島北西に大勢力を誇るウァッカエイ族の領地に進攻した。そして、遭遇した部族の大軍を撃破すると、ヘルマンティケ(現サラマンカ)を包囲した。
 これを昼夜問わず猛攻を加え、僅か数日で陥落させると、さらに北に進み、アルブカレ(現トーロ)を包囲した。ここは要害で、さすがのハンニバルも攻めあぐねたが、ひと月に渡る激しい攻防戦の末、ここも攻め落とした。
 ウァッカエイ族は抗戦を諦め、降伏を申し入れてきた。
 ハンニバルは、ここでも、人質を取り、貢納金を納めさせる代わりに、領土を安堵してやった。
 ハンニバル軍は意気揚々凱旋の途に就いた。
 が、彼の敵は、この退却する時を虎視眈々と狙っていた。


 大軍がタグス川(現タホ川)付近の山麓に隠れていた。
「ハンニバルを討つ時は今ぞ」
 カルペタニ族の兵だ。
 打倒カルタゴ、打倒ハンニバルのため立ち上がったものだ。
カルペタニ族は、タグス川流域を支配するイベリア最強の部族である。
 新カルタゴの総督政府とは、これまで特に対立することはなく推移してきた。カルタゴの勢力がここまで浸透するに至らなかったということもあるし、カルペタニ族の力にバルカ家が一目を置いていたからでもあった。
 そういう両者の関係もあり、ハンニバル軍のウァッカエイ族討伐に際しても、その領土通過を黙認していた。
 しかし、ウァッカエイ族降伏は、ここにも少なからざる影響を与えた。
 部族の首都トレトゥム(現トレド)の街には、戦いに敗れたウァッカエイ族の指導者たちが、ハンニバルの追及を逃れるため、大勢流れ込んでいたのだ。


 彼らは王や長老たちに懇願した。
「貴公らが、もしカルタゴに降れば、もはやこのイベリアでは、バルカ家に敵対する勢力はなく、全土がカルタゴ人の所有物となり下がりましょう」
 懸命に説いた。もし、カルペタニ族が、カルタゴとの和親を選べば、新カルタゴに身柄を送還され処刑されること間違いないからだ。
「あなた方の部族は、今はイベリア最強。されど、バルカ家の勢威が今以上に大きくなれば、あなた方といえども、太刀打ちできなくなりましょう」
 大いに持ち上げ、大いに危機感を煽りたてた。
 カルペタニ族の長老たちは不安を抱いたものであろう。
「よろしい。長老と主だった者を集め、会議を開きましょう」
 こうして長老会議が開催された。
 会議は紛糾した。
 これまでどおり是々非々でカルタゴ国家と相対すべきであるとの意見も強かったが、
「今こそ好機。いかに強いとはいえ、ハンニバルはまだ青二才に過ぎぬ。戦勝に驕っているところを急襲すれば、討ち取ることは容易だ」
「そうだ。ハンニバルさえ討ち取れば、あとは雑魚だ。弟のハシュドゥルバルもマゴーネも、若年で取るに足りぬ」
 と、開戦を求める熱気で充満した。
 長年の平穏が戦いを求めるものか。平和を求める大人たちの声はかき消された。
 こうして、長老会議は、対カルタゴ開戦を決議したのであった。


 戦いの地はイベリアのど真ん中。しかも、一方はイベリアの雄カルペタニ族。
 その檄が各地に飛んだこともあり、続々兵が集まって来た。
 総勢十万。
 その軍勢をタグス川北岸の要所に配置した。
「ふふふ。ハンニバルが意気揚々と渡河する際に一斉に襲いかかり全滅してしまうのだ」
 勝利すれば、一躍イベリアの覇者となる。
 カルペタニ族の兵の戦意は旺盛であった。


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 歴史を刻む時(続き)
 ハンニバルは、オルカデス族の領地に攻め込むと、火のように攻め立てた。
 そして、オルカデス族が反撃を試み、攻め寄せて来ると、いったん退却し、敵が深追いしてきたところを、一転向き直って、騎兵と象軍を主力とした部隊で突撃を敢行した。
「あっ!敵が待ち構えているぞ!」
 勝勢に乗じて追撃してきたオルカデス族の兵は仰天し、たちまち潰乱した。
 それは、まさしく父ハミルカルが得意とした旋回戦術であった。
 その後も幾度か交戦したが、いずれもカルタゴ軍が圧勝おさめ、オルカデス族は、ついに首都アルタイアに逃げ込み籠城した。
 ハンニバルは、弩弓と投石兵機をずらりと並べ、日夜を問わず矢と石を城に浴びせた。ために、城壁のあちこちが崩れ、あっという間に陥落寸前となった。


 頃合いを見て、ハンニバルは、城に向かって怒鳴った。
「降伏せよ!城破れた後は誰一人許さぬ!」
 オルカデス族は震え上がった。彼らも、かつてのオリッセス族の末路を知っている。
ついに抵抗を諦め、降伏を申し入れた。
 ハンニバルは、全軍率い堂々入城すると、オルカデス族の長老を集めて言い渡した。
「以降、カルタゴ国家に刃を向けぬよう。ならば、諸君は安泰である」
人質を取り、貢納を約束させ、カルタゴへの忠誠を誓わせると、領土を安堵してやった。寛大な処分であった。
 これが聞こえると、周辺の都市も、続々ハンニバルの許に伺候し、帰服を誓った。
 司令官ハンニバル初めての戦いは、大勝利に終わったのだ。
 その鮮やかな采配ぶりに、将兵はやんやと喝采を浴びせた。
「ハミルカル様もかくやという采配ぶり」
「さすが、偉大なるハミルカル様の御子」
 ハミルカル以来の熟練兵も、この戦勝により、ハンニバルに心服したのであった。
 ハンニバルには、このことが、目先の勝利以上に大収穫であったろう。配下が自己の指揮に従う、それでこそ、機略縦横を現実のものとすることができるからだ。


 ハンニバル軍は新カルタゴに凱旋した。
 街は沸きに沸いた。凱旋した将兵と市民たちの喜びが爆発し、酒に酔い、祝い歌の声が、深更まで街中に轟いていた。
「先生。いかがでしたか。わたくしの采配は」
 ハンニバルは、静かに酒盃を口に運んだ。
「見事な戦いぶり。このソシュロス、感服いたしました」
 ソシュロスは静かに興奮を露わにした。歴史家として、歴史の躍動を目の当たりにすることほど、喜びとすることはなかったであろう。
 そう。ハンニバルは、このスパルタ人学者を、早くも記録官として同行させていた。この戦いをはじめにハンニバルが刻む歴史を、正確に後世に遺すためだ。
「これからです。先生」
「これから…」
「ええ。これから、この私が、この世界の歴史を刻んでいくのです」
 ハンニバルは朗らかに笑った。
 それは、世界史に対する挑戦を、強烈な自負をもって宣言するものであった。


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 歴史を刻む時 
 総督就任以降、ハンニバルは、日々、兵の調練に励んでいた。
 それは来る時に備えるため。
(時は近い。意外なほどに近い)
 今、このイベリアは平穏である。
 新カルタゴには無数の貿易船が碇を下ろし、港には、遠く西アフリカやブリテン島からもたらされる珍しい物資が山と積まれている。また、イベリアの広大な領地からは豊かな収穫と膨大な金銀が絶えず運び込まれてくる。
 バルカ家は、既に、東方ヘレニズム諸王朝を優に凌ぐ富を蓄えていた。
 もし、ハンニバルが、イベリア総督という地位に甘んずるならば、平穏な一生を約束されたに違いなかった。
(が…それは俺の世代だけの平和。それでは駄目なのだ)
 幼い頃。
 バァル神殿で父ハミルカルが遺した言葉が、今でも耳にこだまする。
『我が祖国カルタゴは、手をこまねいていれば、間違いなくローマに滅ぼされよう』
 その信念が、ハミルカルのイベリア征服への熱情となり、それは、娘婿のハシュドゥルバル、そして、ハンニバル兄弟へと継承された。
(ローマとの対決…これは祖国を守るために不可避の…歴史の必然なのだ)
 彼は確信した。それは、父ハミルカルの境地に、彼がようやく到達したことを意味していた。



 紀元前221年秋。
 ハンニバルは、突如行動を起こした。大軍を率いて内陸深くに進んだのだ。叛旗を翻した部族オルカデス族を討伐するためだ。
 司令官としての初陣だ。
 傍らには、弟ハシュドゥルバル、マゴーネを従えていた。
 将兵はバルカ家に篤い信頼を向けていた。だから士気はすこぶる高い。
 だが、彼らは傭兵である。元来、指揮官を見る目に厳しい人種である。
 当然、こういう言葉も囁かれた。
「バルカ家の御曹司、いや、新総督閣下のお手並み拝見といこうではないか」
「うむ。偉大なる父君ハミルカル様の御子、いかなる采配を振るうものやら」
 それは、人の才能を測る好奇心であり、人の心にある底意地の悪さでもあった。


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 刈り取られた怨念(さらに続き)
「そうか…オリッセス族の生き残りであったか」
 ハンニバルは呟いた。
 彼は、敬愛する義兄ハシュドゥルバルを殺されたというのに、不思議と恨む気持ちになれなかった。
「閣下もバルカ家の当主。仇を報じなければなりません」
 ボスタルが言い聞かせるようにいった。
「復讐せよ、とか」
 ハンニバルの表情は曇った。
(きりがないな)
 彼は、まずそう思った。
(我が義兄は父ハミルカルの仇を討つためオリッセス族を。そのオリッセス族の生き残りマニアケスは義兄を。そして、この俺がそのマニアケスを…か)
 彼とて、かつて復讐心に燃えたことがあった。ローマに対する復讐である。
 いや、傍目からは、今もそう思われているに違いなかった。
『ハンニバルは、ローマへの復讐戦を企んでいる』
 カルタゴ人は、皆、そう思い込んでいるのだ。
 現に、バルカ家に理解のあるジスコーネですら、それを危惧して、この新カルタゴにやって来る前に、しつこいぐらいに釘をさしてきた。
(そういうことではないのだ)
 ハンニバルにはハンニバルの志がある。復讐という激情に走り、国家の命運を賭けてはならない、大人になるにつれ、そう考えるようになっていた。そして、それは父ハミルカルも同じなのだということを。


「生きているのかどうかも分からないのであろう。どうせよと申す」
 ハンニバルがうそぶくように言った。
 ボスタルは、その語気に、ハンニバルが下手人を取り逃がしたことに不満なのだと解釈した。だから、汗を拭き拭き弁明した。
「マニアケスは、生きて逃亡している可能性があります。全土に急使を派し、目下探索に努めておりますゆえ。今しばしお待ちを」
 それに対し、ハンニバルは首を振った。
「よしにせよ」
「え…」
 ボスタルは目を点にした。
「我が義兄は別段恨んでもいないであろう」
「そ…それはどういうことで」
「見よ。あのお顔を」
 ハシュドゥルバルの遺体は、当時の貴人に対する葬儀の慣例に従い、腐敗を防ぐため、蜜を全身に塗られていた。従って、その顔は、生前同様、光輝く美貌のままだ。
「まこと穏やかなお顔。察するに、義兄上は、マニアケスを恨んでないと見た」
「さ、されど…マニアケスは大逆人。それを許すとは…」
「義兄は、我がバルカ家のため、カルタゴのため、怨念の種を刈り取ってくれたのだ。そして、大逆人マニアケスは、神罰を蒙り、海に落ちて死んだ。それでよいではないか」


 カルタゴ本国及びイベリア全土から弔問客が押し寄せる中、前総督ハシュドゥルバルの葬儀は滞りなく挙行された。
 それから間もなく。
 新カルタゴ全市を挙げて新総督就任を祝う式典が行われた。ハンニバルはイベリアの新総督として、カルタゴ将兵の歓呼の声を浴びたのであった。
 この時、ハンニバル二十五歳。
 紀元前221年春。花も散り、新緑深く薫る頃であった。


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 刈り取られた怨念(続き)
 神殿にどやどや入って来た衛兵らは、思わず立ちすくんだ。
 部屋の真ん中に、主ハシュドゥルバルの体が、血の気なく横たわっていたからだ。
「あっ!閣下!」
 彼の寵臣マニアケスが、血にまみれた短剣を手にこちらを向いている。
 事は明らかだ。
「マニアケス…貴様っ!」「乱心したか!」
 衛兵らはマニアケスを取り囲むと、槍を突きつけた。
「剣を捨てろ!」「捨てないと串刺しにするぞ!」
 マニアケスは応えない。短剣を構え、衛兵らを睨みつけた。
 衛兵らは、なかなか打ちかかろうとしなかった。それは、彼女が、人も知る剣の使い手だったからだ。その腕で、ライオンを一突きで倒し、今、猛将ハシュドゥルバルをも討ち取っていたのだ。
「おい…早くかかれ」
「お前が先にいけよ」
 そんな囁きを交わし、互いに二の足を踏んでいた。


「ふ、ふふ。はははは」
 マニアケスは哄笑した。
「何がおかしい!」
「安心せよ。汝らは、総督閣下の思し召しに免じ、許してやる」
「な、なんだと」
「ハンニバル兄弟に伝えよ。我、オリッセス族の生き残り。汝らも害するつもりであったが、総督ハシュドゥルバル様の願いもあり、今日限り許すとな」
 マニアケス、血にまみれた顔を輝かせ、言い放った。
「おのれ…言わせておけば」
 衛兵は一斉に槍を繰り出した。
 マニアケス、だっと跳躍し、衛兵の一人を斬り捨てた。
「わっ!」「強いぞ!」
 マニアケスは、迫る穂先を巧みに払い、広い神殿の中を駆け回った。
 が、多勢に無勢。ついに神殿の端に追い詰められてしまった。
 いや、自らその場所を選び走ったと言えなくもなかったが…。
 外は断崖。遠浅の海湾が広がっている。
「もう逃げられぬ」「観念しろ」
 衛兵はじりじりとマニアケスに詰め寄った。
 彼女は笑った。
「さらばだ」
 瞬間、マニアケスは身を翻し、断崖の下へ飛び込んだ。
「あっ!」
 衛兵たちは慌てて覗き込んだが、もうマニアケスの姿はどこにも見えなかった。


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