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ハンノンの演説(続き)
「その昔、対立したハミルカルは貿易を、余は農業を国家の主柱とすべきであるとした。大そういがみ合いもした。彼は、余に斬りかかってきたことすらあった」
大ハンノンは苦笑いを浮かべた。
傭兵の乱の折り、采配を巡り諍いとなり、ハミルカルは思わず抜刀した。
「が、いずれも国を思っての主張であった。ハミルカルが、その後、イベリアに進出したのも、鉱山から上がる金銀により祖国繁栄をもたらすため。即ち、我らが行動を正当化するのは、ただ一つ、祖国のためになるかどうか、それだけなのである」
そこで、彼は、再び議場全体を見回した。
「ならば、ハンニバルの行動が何を帰結するか。このまま放置すれば、ハンニバルは独断でローマと戦うであろう。それは、この祖国カルタゴを危うくするものでしかない。なにゆえか。シチリアは既にローマの勢力下にあり、西地中海もローマの支配下にある。それゆえに…」
彼の眼光は鋭くなった。
「ハンニバルの行動は認められない。祖国の安全を脅かす、その一点で許されぬことなのだ。ゆえに、彼の行動を認めぬ決議を上げることはローマに怯えてのことではない。祖国の繁栄のため、祖国の存続のためのものなのだ」
さすがに大ハンノンである。理路整然とハンニバルを弾劾した。
議場は静まり返った。バルカ党の者からも声が上がらない。
彼らは、党首ハンニバルの行動を称揚するあまり、党首の行動を十分に吟味してこなかったものであろう。
「しかし…」
青年貴族ヒミルコが立ちあがった。
「このまま時過ぎれば、我がカルタゴは、必ずやローマにしてやられる」
強弱こそあれ、この危機感こそが、バルカ党を束ねる意識となっていた。
「ハンニバル殿はその見通しの下で立ちあがられたものと存ずる。ならば、機先を制して行動することは、まことに理に適ったもの。我らは、ハンニバル殿の行動を認め、全力で支援すべきである」
ヒミルコは力説した。が、ハンノンは、
「無用である」と一言の下に退けた。
「なにゆえか」
「我がカルタゴとローマは、先の講和条約締結以降、ずっと友好のまま推移している。それは、我らはアフリカとイベリアの地を、彼らはイタリアの地とシチリアを、互いに領分を弁えていたからである」
「…しかし、ローマが攻め寄せて来るやも知れぬではないか」
「両国の間にはリュビア海(地中海)があり、イベリアとイタリアの間にもガリアの地が横たわる。俄かに攻め寄せることは難しい。ローマの脅威など、汝らが作り出した幻影に過ぎぬ」
最長老ハンノン、青年貴族の血気の反論など物ともせず、たちまち一蹴した。
バルカ党は押し黙った。
(よし…これで採決に入れば…)
ジスコーネは、腕組みして、見通しを立てていた。
彼は、ハンニバルとの関係悪化も厭わず、ここはハンニバルの行動に法的承認を与えない決議を上げることで、ローマ代表団を納得させようとしていた。しかる後に、バルカ家との協議に臨み、ハンニバルの独走を止めようと考えていた。
(やはり、ここは戦いに打って出るべきではない)
妹ソフォニスバの意見に、一度は戦いしかないと心が傾いたが、ローマ代表ファビウスの落ち着き、その的確な識見に、和平に再び望みを託すようになっていたのだ。
だから、ハンノン党の面々に総動員をかけ、今日の会議に臨んでいた。
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