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ヘウレカ
と、その時。
「ヘウレカ(分かったぞ)!ヘウレカ!」
叫び声が聞こえ、と同時に、部屋に一人の老人が飛び込んできた。
が、その姿は、なんと素っ裸。
ローマの使節たちは唖然とした。
いや、さしものヒエロンも、口をあんぐりさせていた。
「国君!分かりましたぞ!」
その老人は叫んだ。風呂にでも入っていたのか、体から湯気が上がり、顔を赤く上気させている。
「ついに分かったのです!先日、仰せになられた問題の解決法が!」
興奮した口調でまくしたて始めた。
「アルキメデス」
ヒエロンは静かにその名を呼んだ。
「そなた、無作法にも程があろう。外国の使節の前であるぞ」
「あっ、これは…失礼いたしました」
その老人は、ようやく自分がどこにいるかを弁えたようだ。
ヒエロンは目で合図した。
すると、侍女たちが駆け寄り、衣服を身にまとわせた。
が、アルキメデスは、それを待つももどかしげに、老君に向かって語りかけた。
「国君、あの黄金の冠の件が解決したのです!計算方法が分かったのです!」
それを聞くと、ヒエロンの瞳は大きくなった。
「ほう、そうか。それはでかした」
そして、ファビウスの方に向き直った。
「ファビウス殿」
「はい」
「この者が、貴殿に紹介しようと思っておった、アルキメデスだ」
「この御仁が…」
ファビウスはまじまじとその人物を見詰めた。
(裸で宮廷を徘徊するなど奇人の所業だが…)
その視線は、必然、怪訝なものとなった。
「はは。見た目は変人そのものだがの。その気宇、才能、おそらく当代随一ぞ」
ヒエロンは愉快そうに笑った。
「そうじゃ。アルキメデス、その解決方法とやらを賓客に披露して差し上げよ」
国君の発案に、アルキメデスは素直に頷いた。
「分かりました。ご覧頂きましょう」
大広間に、大きな水槽が運び込まれた。そして、大きな天秤が用意された。
「トラソン、賓客に、経緯を説明せよ」
国君が命じた。
側近のトラソンは、通訳を介し、ファビウスらに事の次第を説明した。
「国君は、ある金細工師に、王冠の製作を依頼し、その材料として金塊を渡しました。出来上がったのがこちらにございます」
見事な細工の施された冠が台に鎮座している。
ギリシア美術の粋が、そこに凝縮されていた。
「ほう」「これは見事な」
ローマ人たちから感嘆の声が上がった。
「ところが…」
トラソンが笑みを浮かべた。
「どうも、製作の過程で、混ぜ物をしたのではないかという噂が立ちまして」
「なんと」
副使のパウルスとサリナトルが、改めて、その冠をまじまじ見詰めた。
「うーむ」「どこにも変な点はないようであるが…」
眼を皿のようにしていたが、外見からは全く分からない。
「そこで、国君はアルキメデスに命じました。この王冠を壊すことなく、混ぜ物をしているか否かを調べよ、と」
「それは難題にございますな」
ファビウスは唸った。
「それをアルキメデスが証明してくれる、というわけだ」
ヒエロンは笑った。
全幅の信頼を置いているものだろう。その瞳は、興味津々の光を見せていた。
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