新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第5章アルプスの章

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 負傷(さらにさらに続き)
「父上!大丈夫ですか!」
 プブリウスは馬から飛び降りると、崩れそうになる父の体を支えた。
「矢を抜きますぞ」
 ぐいと引き抜くと、血が溢れてきた。
 出血のため、スキピオの顔がみるみる青ざめていく。
 プブリウスは、袖を千切ると、それを包帯代わりに父の足をきつく巻き止血した。
「父上、こうなっては退却するほかありませぬ」
「…うむ」
 スキピオも頷くしかなかった。足に重傷を負っては打ちもの振るうこともできない。
 プブリウスは、父を馬に押し上げると、自身も馬上に戻り、自分と父の手綱をとりつつ駆け始めた。
 ローマ軍は、執政官スキピオ以下、僅かな手勢だけを連れ、東の方角指して逃れるしかなかった。



 こうして、ローマとカルタゴの緒戦は、ハンニバル軍の圧勝に終わった。
「ハンニバル閣下万歳!」
「カルタゴ国家万歳!」
 カルタゴ兵の凱歌が野に轟いた。
 ハンニバルは、将兵の歓呼の中を悠然と進んだ。
 だが、その顔には笑みはない。明日の戦いを、はや心に描いていたものであろう。
(ここから…ここから本当の戦いが始まる)



 交戦した両軍の兵力から見るに、これは小さな遭遇戦に過ぎない。
 だが、この勝利の意味は小さくない。
 カルタゴ軍勝利の報は、瞬く間に北イタリア全土に広まったからだ。
「ハンニバル強し」
 カルタゴ軍総司令官たる彼の名声は否応なしに高まったのだ。
 パドゥス川流域のガリア人がこぞってハンニバルの許に駆け付けて来ることとなった。
 そして、ハンニバルの言葉通り、これからが本当の戦いの始まりであった。



第5章アルプスの章終り。第6章カンネーの章へ続く


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 負傷(さらに続き)
「ふふ」
 若き将ハンノンはほくそ笑んだ。
(思う壺…勝てばよい。敵将を殺せばよいのだ)
 こういう割り切りは、カルタゴの武将によく見られる。
 カルタゴは、伝統的に軍司令官に対する視線がとても厳しい。功を上げてもそれほど報いるでもなく、反対に、敗戦を招くと、すぐに磔にかけてしまう。そういう、武将に対する酷薄さがあった。
 だから、武門の人々は、勝利を得るためには手段を選んではならなかった。
(勝たねば何にもならんのだ)



 ハンノン、ためらいもなく弓を手にするや、矢を番え、弦をぐっと引いた。
 そして、迫るスキピオに、ぴたと照準を合わせた。
「弓で向かうは卑怯であろう!打ち物とってかかってまいれ!」
 スキピオは怒った。
 ローマ人も、ギリシア人同様、飛び道具を軽視した。特に、一人の敵と相対する場面では、槍か剣で立ち向かうことを美学とした。
 だが、カルタゴ人にとって、そんな観念は知ったことではない。
「ははは。勝利なくして正々堂々など何の意味があろうや」
 ハンノンは嘲笑うや、矢をぶんと放った。
 放たれた矢は、光線を描き彼方へ飛んだ。
「うぐっ!」
 スキピオは呻いた。
 狙い違わず、矢は執政官の右大腿に深々突き立っていた。
 スキピオは、ぐらりと姿勢を崩すと、どうっと落馬した。
 繰り返しになるが、この時代、鐙はまだ存在しない。だから、騎乗するには、大腿で馬の背をぐっと挟み込むようにしなければならない。つまり、大腿を負傷しては、馬上姿勢を維持することはできないのだ。



「あっ!父上!」
 プブリウスは、父の許へと馬を駆った。
 対するカルタゴ騎兵隊は、敵将の負傷に、わあっと歓声を上げた。
「今だ!皆殺しにしろ!」
 ハンノンは総掛かりをかけて来た。
「そうはいくか!」
 副官マルキウスが、肩を怒らせ、槍を振り回し駆け向かった。
「この俺が相手するっ!」
「ええい!邪魔するな!」
 マルキウスとハンノンは激しく打ち合った。


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 負傷(続き)
 ハンニバルは、戦局が勝勢に傾くと、二百騎ほどを連れて、小高い丘にあって全軍を采配していた。傍らには、ボミルカルの子ハンノンが、そして、マニアケスが何事もなかったかのように控えていた。
「やや!あれは!」
 ハンノンが異様な声を上げた。
「総司令!敵将が逃げていきますぞ!」
 眼下に、東の空へ急ぐローマ騎兵の一隊を、あざらかに捉えることができた。
 間髪容れず、指揮官は命じた。
「追え」
「は!」
 紅顔の将ハンノンは勇躍し、百騎を引き連れ、一散に駆け下った。



 ハンノン率いる騎兵隊は、二手に分かれ、逃げ行くスキピオの一隊の両側から迫った。
 挟み撃ちにして捕獲せんとの肚であろう。
「そこにあるは敵将スキピオであろう!我はカルタゴ行政長官ボミルカルの子ハンノン!勝負せよ!」
 ハンノン、ギリシア語で高々名乗りを上げた。
 だが、スキピオは、それに無視を決め込んだ。
 ならばと、ハンノンはさらに二の矢を放った。
「味方を捨て命惜しみ真っ先に逃げるが将の振る舞いか!恥を知るならば勝負せよ!」
 若者らしい熱情で嘲笑い、辛辣な毒を放った。
 そう。人に痛手を与えるは武器だけではない。
「むう…なんだと」
 思わず振り返ったスキピオの面には、明らかな血潮が差していた。
 傍から見るに、いたって大人しい人物の彼。その彼も名門の子。元来の名誉心が、むらむらと闘争心を掻き立てたに違いなかった。
「おのれ…小賢しや…」
 スキピオは、怒りをくわと見せ、手綱をぐいっと引いた。
「わっ!」「あっ!」
 急停止したため、後続の騎兵は、あわや執政官の馬にぶつかりそうになった。



「なりませぬ!父上!」
 先を駆けていたプブリウス、馬首巡らせ、急ぎ父の馬の許に寄せてきた。
「止めるな」
「ここで足止めを喰らっては!」
「懲らしめてやる。敵将と戦うは武人の誉れ」
「父上!今はそのような時ではありませぬ!」
「プブリウス、そなたはここで見ておれ」
 スキピオは、馬腹を蹴るとハンノンに向かって駆けだした。
「父上!」
 スキピオらしくないと言えば、これほど彼らしくないこともなかったろう。
 常に冷静沈着、かつ、大局を誤ることのなかった彼。
 その彼も、思わぬ遭遇戦、思わぬ敗戦に、平静を失ったものかも知れなかった。
「父上っ!お戻りくださいっ!」
 プブリウス、懸命に呼び止めたが、父スキピオは一散に突進した。

負傷−アルプスの章47


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 負傷
 その後も戦いは続いていた。
 戦況は、一進一退で進んだ。
 が、ガリア騎兵を破ったヌミディア騎兵がローマ軍の一翼を突破し、さらに後方深く突き進み、退却中の投槍兵に追い付くと、これを思う存分に駆け散らした。
「わあ!」「ひい!」
 歩兵としての戦闘訓練も充分に受けていない投槍兵、勇猛なヌミディア騎兵相手にまともに戦える筈もなく、次々突き伏せられた。ただただ逃げ惑うだけだった。



「止まれ!」
 騎兵隊司令官マハルバル、騎虎の勢いの味方を制止した。
 彼が狙うのは、こんな小魚たちではない。
 馬首を巡らせると、剣を高々掲げ命じた。
「ローマ騎兵の背後を衝け!敵の大将スキピオを討ち取れ!末代までの誉れを輝かせ!」
「おおおっ!」
 ヌミディア騎兵は雄叫びを挙げて応えた。
 一斉に反転すると、ローマ騎兵隊の背後に真っ直ぐ迫った。



 ローマ騎兵はカルタゴ騎兵と激しく斬り結び、一歩も引かず頑強に戦っていた。
 が、背後から襲来する強敵を知ると、大いに狼狽した。
「ああっ!ヌミディア騎兵だ!」
「背後から攻め寄せてきたぞ!」
 それまでは、落馬しても歩兵となって頑強に戦い抜いていたローマ軍であったが、前後をカルタゴ騎兵とヌミディア騎兵に挟撃され始めるや、苦悶を露わにした。彼方此方の隊が、どっと崩れ立った。
 ローマ軍は四分五裂し、みるみる潰乱していった。
 もはや、勝敗は明らかとなった。



 執政官スキピオは、自ら槍を懸命に振るい、その槍が折れるや剣に替え、奮戦に奮戦していたが、刻々と旗色の悪くなる戦況に、苦さを面に見せていた。
(く…戦機を逸したか…)
 スキピオは無念であった。
 ハンニバル出馬を知った初めの混乱がなければ、もう少し、互角の戦いを展開できたものをと残念であった。
 が、もう追い付かない。
(この上は退却し、態勢を立て直し、再戦に臨むよりほかなし)
「コンスル閣下!一旦ご退却を!」
 忠実なる彼の副官マルキウスが叫んだのを良い潮に、スキピオは馬首を巡らせ、血路を求め、僅かな兵を率いて馬を走らせ始めた。



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 ティキヌスの戦い(さらにさらに続き)
「どこまで受けられるかな。楽しみだ」
 マニアケス、氷の微笑を浮かべ、草を踏みしめ近づいてくる。
 それは、無数の生死の境を越えて来た、暗殺者の言葉だった。
「うぬ」
 ラエリウス、剣を握る手に力を込めた。



 が、その時である。
 カルタゴ軍の方からラッパの音が響いた。
 マニアケスを心配したマゴーネが送ったものだ。
「お…」
 マニアケス、苦笑を浮かべた。
「ラエリウスよ。あれは退却の合図だ。勝負はお預けだな」
 そういうと、あっさり剣を鞘におさめた。
「逃げるな!勝負しろ!」
「ふふ、負けず嫌いだな」
 マニアケス、ようやく女性らしい、透明な笑い声を立てた。
「これから幾らでもその機会はあろう。それまで命を大切にしろ」
 剣闘技の試合後に好敵手にかけるような言葉を口にした。
「な…お前」
 ラエリウス、とっさに何か言い返そうとしたが、もうその時には、マニアケス、馬を駆って風の如く消えてしまっていた。



 ラエリウス、がくと膝をついた。
「恐ろしい敵だった…」
 そう。あのまま戦い続ければどうなったか。
(十中八九…俺の負け)
 ラエリウスは立ち上がった。
(あのような者がハンニバルの側にいる。気を引き締めねば大変なことになろう)
 彼は、主を失った馬を捕まえると、再び馬上の人に戻った。
 きっと彼方を睨むと、
「それっ!」と馬を飛ばしていった。
 あれこれ思い悩む暇はない。彼の敵は、まだまだあったからだ。

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