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アルプスを流れるイゼール川(古名イサラス川)です。
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アルプス越え−支流を遡る
ハンニバル軍は、アロブロゲス族の主邑『島』を出発すると、イサラス川(現イゼール川)沿いをひたすら東に進み、やがて今日のグルノーブル辺りに到達した。
途中、何の妨害もなかったのは、アロブロゲス族のブランクス王が付けてくれた護衛兵のお陰であった。だが、彼らはここに至るとこういった。
「我らは、このあたりで失礼いたします」
そう。登山口までという約束であった。
「…そうか。ブランクス王には、このハンニバル篤く感謝しておったと伝えてくれ」
「かしこまりました」
護衛兵の一隊は『島』へと帰っていった。
「さて…いずれに進むか」
ハンニバルは、道案内に立っていたボイイ族の族長マガルスに意見を求めた。
「まっすぐ進むのが容易ではありますが」
イサラス川沿いをひたすら東へ進む道だ。北へ迂回する形となり、他の道に比べイタリアに入るには遠回りとなるが、地形上の危険は少ない。
「が、この道には別の危険がございます」
「敵対部族か」
「はい。軍勢の装備や物資を見て山岳部族が虎視眈々狙っているに違いありません」
山岳部族は痩せた土地にあり、常に飢寒に苦しんでいる。その彼らが、目前を通り過ぎる物資を、指を加えて見ている訳がない。ガリア人であるマガルスは、自らの民族の特質としてあり得ないことを力説した。
「ならば、南の支流沿いを進むか」
ハンニバルは南の山々を望んだ。狭い峡谷に一筋の道が続くのが見える。その先ははっきりとせず、整備された道の存在など期待できないのは明らかだった。
「確かに道は険しゅうございます。妨害もきっとありましょう。が、広い道を進むよりは、妨害は少ないことでしょう」
「よし。では、全軍そちらへ進もう。案内せよ」
「ははっ」
こうしてハンニバル軍は、イサラス川を離れ南の支流−今日のドラック川−沿いの峡谷に進路を取った。
ここからが本当の苦難の始まりである。試練に次ぐ試練が、ハンニバル以下カルタゴ将兵を待ち構えていた。
果たして、ハンニバル軍が登山口に差し掛かると、第一の妨害が現れた。
山道の要所に武装した兵が多数群がり柵を延々築いていた。山岳部族だ。
彼らはアロブロゲス族に属する。部族の王ブランクスはハンニバルの味方なのにと思われる方もいるであろうが、この山間までは王権が及ばなかったものであろう。
「早速現れたようだな」
「総司令いかがいたします。一気に突破いたしますか」
マゴーネが訊いた。
「いや…兵の消耗は極力避けたい」
それは、この遠征において、ハンニバルが最も心を砕くことであった。
いかにアルプスを越え得ても、手元に戦力が残らなければ、ローマと戦うことはできない。いや、イタリアのガリア人たちにも離反され、結局自滅するしかないであろう。
「物見を出して調べさせよ」
「かしこまりました。…とは申せ、誰を遣りましょうか」
眼前の道は敵兵がびっしり塞いでいる訳だから、物見のためにはどこかへ迂回して、ということになる。が、カルタゴ軍の誰もが地理不案内。案内役を務めるボイイ族に頼むしかないが、彼らとて、兇暴な敵対部族の中にどこまで入っていけるか。
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