新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第5章アルプスの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)




 アルプス越え−襲撃(さらに続き)
 ハンニバルは、そこを弓兵たちに任せると、さらに後方へ馬を駆った。
 その傍らをマニアケスが必死に付いていく。なにせ、すぐ横は断崖。手綱さばき一つ誤れば、主の姿はこの世から消え去るからだ。
 ハンニバル、後方の隊に着くや、委縮する味方を叱咤した。
「戦場に立つ以上、臆病の内に死すか、勇気の中に生きるか、いずれしかない!勇気なくば死あるのみ!そんな者は進んで崖下へ落ちよ!」
 敵中に現れ叱咤する総司令官の姿に、カルタゴ兵はようやく我に返った。そして、大いに発奮した。
「そうだった」
「戦わずして死ぬぐらいならば」
「敵兵に槍をつけて死のうぞ!」
 カルタゴ兵は、決死の覚悟を見せ、槍の穂先を上に構えると、飛び降りて来る山岳民を突き伏せにかかった。
「おりゃあ」「これでも喰らえ!」



 弓兵の一斉射撃、カルタゴ歩兵の猛反撃、形勢は一変した。
 山岳部族の隊は、規律もない烏合の衆に等しい一団。首領が射倒され、指揮官がいなくなると脆かった。
「もう駄目だ」「逃げろ」
 先ほどまでの威勢はどこへやら、一転、山岳部族の兵は一目散に敗走していく。
「追撃せよ!やつらの本拠を攻め落とせ!」
 ハンニバルは、馬から飛び降り、敵の追撃に、尾根へ続く小道を我先に登っていく。
「おお!総司令に続け!」
 カルタゴ兵は勇躍し、その後に続いた。
 尾根を越えると、谷合に集落が見えた。山岳部族の聚落に違いなかった。敵兵は、そこに一目散へ逃げていく。
「追え!あの集落を攻め潰せ!」
 ハンニバル、再び馬上に戻ると、先頭に立って飛ばしていく。
「総司令に負けるな!」「おおう!」
 間もなく平坦な土地に出た。こうなるとカルタゴ軍は万余の大軍。
 途中、抵抗する敵兵の群れを簡単に蹴散らすと、聚落に突入した。
 


 聚落内に入ると、既に住民たちは避難した後で、人っ子一人いなかった。
「総司令!火をつけましょう!」
 誰かが叫んだ。
 血みどろの激闘を経た直後だけに、兵は殺気立っている。
「待て!」
 ハンニバルは制止した。
「味方が連れ去られている!それを探すのだ!」
 そう。戦利品として、味方の将兵が拉致されている筈であった。
 カルタゴ兵は、建物の扉を槍尻で片っ端からぶち破っていった。
「あっ!いました!総司令、ここにいましたぞ!」
 ハンニバルはその建物に馬を飛ばした。
 見ると、住民の集会場か何かであろうか、カルタゴ兵の捕虜が大勢、後ろ手にくくられ閉じ込められていた。
「すぐに縄をほどき解放してやれ」
 その間にも、四方八方から様々に注進があった。
 ハンニバルは、それに一々的確に指示を下した。
「総司令、奪われた兵糧が積まれてありました」
「ここにある馬車と荷車で我が陣営に運び込め」
「総司令、敵の備蓄された食糧がありましたぞ」
「全て運びだしてしまえ」
「が、馬車が足りませぬ」
「全員が協力し、少しずつ運ぶのだ」
 段取りを指示すると、その日は、その集落で休むこととした。屋根のある宿舎は、アルプスの中では貴重だからだ。事実、これが最後となった。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 アルプス越え−襲撃(続き)
 後方では、山岳部族の兵に斬り込まれ、カルタゴ兵が逃げ惑っていた。
 横は断崖絶壁、石ころだらけの悪道。この足場の悪さに腰砕けとなり、槍を構えるどころではなかったのだ。
 逆に、この地形は山岳部族の恰好の戦場。当然、彼らの独壇場となった。
「わはは!物資を奪え!」
 山岳部族の兵は、物資を山と積んだ台車を上へ続く脇道へと、器用に引っ張り運び去っていく。その中には、抵抗を諦め捕らえられた人々も多数含まれている。彼らも、奴隷という商品になるからだ。
「カルタゴ兵は何と弱いのだ」
 凱歌に沸きながら、山岳民たちは戦果にホクホクしていた。
 彼らは、一隊に略奪品を運搬させると共に、自分たちはなおも他の荷駄部隊に舌なめずりをしながら襲いかかり、たちまち追い散らすと、それを運びにかかる。



「わははは。これで我らは安楽に暮らせるぞ」
 山岳部族の首領らしき男が、髭一杯の顔を笑みにしていた。
 が、その時。その首領は声もなく崩れ落ちた。
「あっ!首領!」
 見ると、背に矢が突き立っていた。
 次の瞬間、矢が雨あられと横殴りに降り注いできた。
「わっ!」「ぎゃっ!」
 短い叫びと共に、次々倒れていく。
「だ、誰だ!」
 背後を見遣ると、カルタゴ弓兵が勢揃いし、矢を番えている。
 中央に立つはハンニバルその人。
「おお!敵兵だ!」
「新手の敵だぞ!」
 彼らは、槍構え、わあっとハンニバルの一隊に向かっていく。
 ハンニバルは、その群れに向け、びしと剣の切っ先を向けた。
「撃て!一人残らず射倒せ!」
 カルタゴ弓兵はくんと弦を大きく引き、びゅんと放った。
「わっ!」「ぎゃ!」
 山岳民はバタバタ倒れていく。
 その上に、さらに無数の矢を仮借なく浴びせた。



「くそっ!飛び道具ばかり使うとは卑怯だぞ!」
 彼らは地に這いつくばりながら、口々に同じ意味のことを喚いた。彼らの背にも矢籠があるから、そんなことをいえた義理ではない筈だが、襲撃時に使い果たし弓を捨てていたものであろう。
「奴らは何と言っている、マニアケス」
 ハンニバルは、手綱を握る彼女に訊いた。
「飛び道具ばかり使うは卑怯、と申しております」
「ふふ、はははは」
 ハンニバルは哄笑した。
「金銀に目が眩み不意を襲う不埒な山賊どもめが。槍や剣で相手する価値もないわ。構わぬ、一人残らず矢の餌食にしてしまえ」
 カルタゴ兵は情け容赦なく矢を浴びせた。
 剣を振り上げ、槍を構えて突進してくる山岳部族の兵らは、射倒されて崖を転げ落ち、絶叫を残し奈落の底に消えていった。

イメージ 1


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 アルプス越え−襲撃
 翌朝。敵の拠点を制圧したハンニバルは、登山口の味方に登攀を始めるよう命じた。
 狭隘な渓谷を抜け登っていくと、やがて、断崖絶壁の細道が現れた。
 カルタゴ兵は、断崖に頼りなく貼り付く山道を喘ぎ喘ぎ登っていく。
「踏みしめて登れ!」
 さぞかし足が竦んだことであろう。踏み外せば奈落の底へ真っ逆さま。助かる見込みは万に一つもないのだ。
 身軽な軽装歩兵はまだいい。しかし、重装備の騎兵や重装歩兵にとって、この山道は苦痛そのものであった。槍を抱え重い装備に喘ぎ、しかも現代と違い登山用の装備はないに等しい。ブランクス王が登山用にと贈ってくれた革製のサンダルだけが頼りであった。
 騎兵は怯える馬を宥め手綱をなんとか引いていく。人馬一体が自慢のヌミディア騎兵ですら、馬の機嫌を取るのに苦心している。
 兵糧物資の運搬にも細心の注意が払われた。
「荷駄は、前後四方を固め、押して上がれ!」
「馬の脚元に注意し、手綱をしっかり引け!」
 揺れる台車を四人がかりで必死におさえ、前へ前へと押し上げる。



 その輜重部隊がその難所に差し掛かった時のこと。
 突如、喚声が沸き起こった。
「なんだ?」「どうした!」
 見上げると、崖の上に山岳部族の兵が多数現れた。
 次の瞬間、剣を閃かせ襲いかかって来た。
「わっ!敵だ!」
「こんな所に!」
 そう。山岳部族の兵は、ハンニバルに拠点を制圧されたため、獣道に等しき所を伝って崖上に広がる草むらに張り付くように潜み、頃合いを見計り飛び掛かって来たのだ。
 貧苦に喘ぐ彼らの、略奪の執念であろう。
「崖から突き落とせ!」
「荷駄を全て奪えっ!」
 まるで山猿のように駆け回り、右往左往するカルタゴ兵の頭上から斬り込んだ。
 足場が悪い所に不意を襲われたのである。これはたまらない。
「うあぁ!」「ぎゃあ!」
 哀れ、カルタゴ兵は、断末魔の悲鳴を残し、牛馬もろとも崖の底へ消えていく。



「なにっ!敵が襲って来たと!」
 ハンニバルは一驚した。
 敵の陣営を制圧し、てっきり、登山口における安全は確保されたものと思っていた。
「直ちに救援に向かう」
 馬首を反転させた。
「お待ちを!」
 先導役のマガルスが慌てて止めた。
「あそこは足場が悪く、救援に向かっても戦うことは難しゅうございます。閣下が向かえば、彼奴らの格好の標的となりましょう」
「何を申す」
 ハンニバルは取り合わなかった。
「荷駄を奪われて先に進むことなどできぬ。また、ここで味方を見捨てる男を将兵は信ずるであろうか。マガルス、そなたはここにいよ。マニアケス、ついてこい!」
「はい!」
 ハンニバルは馬に鞭打ち後方へ飛ばした。美貌の密偵マニアケス、直属の精鋭五百の兵が続いた。



https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 アルプス越え−支流を遡る(続き)
「戻って来ている筈だが…」
「戻っている…誰のことで」
 マゴーネが訊き返した時、近くに付き従っていた歩兵の一人が兜のひさしを上げた。
「それは私のことですか」
 マニアケスであった。女だてらに重装歩兵の姿になっていた。
「あっ、お前!いつの間に!」
 マゴーネが素っ頓狂な声を上げた。
「ずっとおそばにおりましたわ、弟君」
 彼女はくすりと笑った。
「全然気付かなかった…」
 マゴーネは唖然とした。
 ハンニバルは僅かに微笑した。
「ならば丁度よい」
「敵の偵察ですね」
「そう。できるか」
「御命さえあらば」
「ならば命じよう」
「それでは直ちに」
「気取られるなよ」
「御懸念は無用に」
 マニアケスは、一陣の風とともに姿を消していた。



 その夜。ハンニバルは、マニアケスから敵の様子を詳細に訊きとっていた。
 彼女は、山岳部族の姿となって戻って来ていた。
「そうか。敵は夜になると、近くの城砦に戻るのか」
「はい。見張りの兵だけを残し、陣は空となります」
「なるほど」
 ハンニバルの目が光った。
「マゴーネ、策は決まった。耳を貸せ」
 ハンニバルは弟の耳に囁いた。
「なるほど。それは妙案にございます」
「直ちにかかれ」
「はっ」
「マニアケス、そなたは道を案内せよ」
「かしこまりました」



 翌日、ハンニバルの大軍は川沿いに前進を開始した。
 が、断崖に挟まれた狭隘な地形を前に、歩みを止め、陣営を構築し始めた。
 山岳部族の兵らはこれを嘲笑った。
「はは。さしものハンニバルも、進みあぐねているものであろう」
「ふふ。進んでくれば、崖を駆け下りて襲ってくれようぞ」
「カルタゴ軍の金銀兵糧全て頂戴するのだ」
 その日は、睨み合いのまま何事もなく推移した。
 が、その夜。
 ハンニバルは突如行動を開始した。
 マニアケスを先導に、自ら軽装歩兵二千を率い、間道を伝い敵陣の背後に出たのだ。
「げっ、カルタゴ兵だ!」
 山岳部族の見張りは仰天した。
「それ!攻めかかれ!」
 喚声と共にカルタゴ兵は一斉に攻めかかった。
 山岳部族の兵は転がるようにして逃げ失せた。


イメージ 1

       ↑
 アルプスを流れるイゼール川(古名イサラス川)です。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 アルプス越え−支流を遡る
 ハンニバル軍は、アロブロゲス族の主邑『島』を出発すると、イサラス川(現イゼール川)沿いをひたすら東に進み、やがて今日のグルノーブル辺りに到達した。
 途中、何の妨害もなかったのは、アロブロゲス族のブランクス王が付けてくれた護衛兵のお陰であった。だが、彼らはここに至るとこういった。
「我らは、このあたりで失礼いたします」
 そう。登山口までという約束であった。
「…そうか。ブランクス王には、このハンニバル篤く感謝しておったと伝えてくれ」
「かしこまりました」
 護衛兵の一隊は『島』へと帰っていった。



「さて…いずれに進むか」
 ハンニバルは、道案内に立っていたボイイ族の族長マガルスに意見を求めた。
「まっすぐ進むのが容易ではありますが」
 イサラス川沿いをひたすら東へ進む道だ。北へ迂回する形となり、他の道に比べイタリアに入るには遠回りとなるが、地形上の危険は少ない。
「が、この道には別の危険がございます」
「敵対部族か」
「はい。軍勢の装備や物資を見て山岳部族が虎視眈々狙っているに違いありません」
 山岳部族は痩せた土地にあり、常に飢寒に苦しんでいる。その彼らが、目前を通り過ぎる物資を、指を加えて見ている訳がない。ガリア人であるマガルスは、自らの民族の特質としてあり得ないことを力説した。
「ならば、南の支流沿いを進むか」
 ハンニバルは南の山々を望んだ。狭い峡谷に一筋の道が続くのが見える。その先ははっきりとせず、整備された道の存在など期待できないのは明らかだった。
「確かに道は険しゅうございます。妨害もきっとありましょう。が、広い道を進むよりは、妨害は少ないことでしょう」
「よし。では、全軍そちらへ進もう。案内せよ」
「ははっ」
 こうしてハンニバル軍は、イサラス川を離れ南の支流−今日のドラック川−沿いの峡谷に進路を取った。
 ここからが本当の苦難の始まりである。試練に次ぐ試練が、ハンニバル以下カルタゴ将兵を待ち構えていた。




 果たして、ハンニバル軍が登山口に差し掛かると、第一の妨害が現れた。
 山道の要所に武装した兵が多数群がり柵を延々築いていた。山岳部族だ。
 彼らはアロブロゲス族に属する。部族の王ブランクスはハンニバルの味方なのにと思われる方もいるであろうが、この山間までは王権が及ばなかったものであろう。
「早速現れたようだな」
「総司令いかがいたします。一気に突破いたしますか」
 マゴーネが訊いた。
「いや…兵の消耗は極力避けたい」
 それは、この遠征において、ハンニバルが最も心を砕くことであった。
 いかにアルプスを越え得ても、手元に戦力が残らなければ、ローマと戦うことはできない。いや、イタリアのガリア人たちにも離反され、結局自滅するしかないであろう。
「物見を出して調べさせよ」
「かしこまりました。…とは申せ、誰を遣りましょうか」
 眼前の道は敵兵がびっしり塞いでいる訳だから、物見のためにはどこかへ迂回して、ということになる。が、カルタゴ軍の誰もが地理不案内。案内役を務めるボイイ族に頼むしかないが、彼らとて、兇暴な敵対部族の中にどこまで入っていけるか。


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • 時間の流れ
  • ダイエット
  • JAPAN
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事