新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第5章アルプスの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 ティキヌスの戦い(さらに続き)
 マニアケスとラエリウス、ただ二人で相対した。
「貴様…」
「なんだ」
「密偵ではなかったのか」
「任務を果たす。それだけだ」
 そう。命を捨て、亡きハシュドゥルバルの遺した志を実現する、そのためならばどのようなことでも厭わぬ覚悟であった。
 相手の覚悟を見たラエリウス、剣を真正面に構えた。
「ならば来い!勝負だ!」
「…では、御希望通りに」
 マニアケス、少しうつむき加減になった。
(なんだ…この構えは)



 途端、マニアケスが姿を消した。
「えっ!」
 ラエリウス、一瞬戸惑った。
 次の瞬間、影が彼を覆った。
「頭上か!」
 ラエリウス、仰ぎ見た。
 そう。マニアケス、頭上高く飛び、剣を振りかぶっていた。
「覚悟っ!」
 轟音と共に剣を振り下ろす。
「おおお!」
 ラエリウス、負けじと振り上げた。
 二人の剣が激しく火花を散らした。
 凄まじい剣力に、ラエリウス、がくと膝をついた。
 そこを、マニアケス、自重に任せ刃を押し込んだ。
 切っ先がラエリウスの頬に触れる。
 つつと、血が彼の頬を垂れていく。
「死ねぇいっ!ラエリウスっ!」
 冷酷な殺意が襲いかかった。
 


「く…く」
 ラエリウス、懸命に支えた。
(このままでは…斬られる)
 かっと目を見開いた。
「おおおおっ!」
 ラエリウス、咆哮するや、全身ばねの如くに躍動させた。
 そして。相手の剣を、その体ごと、どんと押し飛ばした。
「おおっ」
 マニアケスの瞳が見開いた。
 さしものマニアケスも、吹っ飛ばされていく。
 が、そこは抜群の身体能力を誇る彼女のこと。
 空中、くるりと反転して着地すると、体勢を立て直し、こちらを向いた。
 彼女は、にっとして見せた。
 ラエリウスは、ぞっとした。
(なんたるやつ…)


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ティキヌスの戦い(続き)
 そのカルタゴ騎兵は、馬から飛び降りると、マゴーネの許に駆け寄った。
「弟君!大丈夫ですか!」
 マニアケスであった。
 美貌の彼女が鎧に身を包むと、美少年にしか見えない。
「おお…マニアケス…」
「ここは私にお任せを」
 マニアケスは、マゴーネの手をぐいと引っ張り、立たせた。
「し、しかし、お前は…」
 マゴーネは心配した。新手のローマ兵の一隊がまた迫って来ていたからだ。
 マニアケスは微笑した。
「将が密偵の心配をしてどうなさいます」
「お前をむざと死なせては兄に怒られる」
 マゴーネは顔を背け、呟くように言った。
「何を御冗談…」
「冗談ではない」
 マゴーネはこちらをきっと見た。
「兄はそなたを信じておる。あの冷徹そのものの兄がだ。だから…怒られてしまう。それがよく分かるのだ」
 それは、年少の頃、他愛もない喧嘩をして兄に怒られた、それと似た口調であった。



 マニアケス、ぐっと言葉に詰まった。
「そのようなお話…また伺いますゆえ」
「おい…よせ」
 彼女は、問答無用に自身の馬にマゴーネを乗せ上げると、馬の尻を剣の柄で突いた。
 馬はひひんと嘶くと、飛ぶように駆けだした。
「マニアケス!死ぬなよ!」
 馬の背にしがみついたマゴーネ、叫びを残して、後方へ駆け去った。
 マニアケス、くすりと笑った。
 と共に、全身に力がみなぎってくるのを覚えた。
(総司令も弟君も…このわたくしを信じてくれている)
 ありがたかった。泣きたいほどに嬉しかった。
(ハシュドゥルバル閣下を殺めてしまった…罪深きわたくしを…)
 人は罪を許された時、感謝と共に、生きる勇気がふつふつ湧き上がって来る。



「おい!貴様!」
「む」
 振り返ると、ラエリウスが、顔を泥だらけに、長剣を構えていた。
「よくも邪魔しおったな!勝負だ!」
 と、そこでラエリウス、ふと気付いた。
「お前…どこかで会ったような…」
「ふ」
 マニアケスは笑った。
「マッシリアの娼館以来よな」
「あ!貴様か!」
「思い出したか」
「マニアケス!」
「ははは」
 マニアケス、敵中というのに愉快そうに笑った。
 生死を超えた彼女に、恐怖など微塵もなかった。
 つい先ほどには、生きる勇気も与えられた彼女。
 その頃、ローマ騎兵が駆け付け、二人をぐるり取り囲んだ。
「この獲物は俺が仕留める!」
 ラエリウスは左手を上げ、彼らを制止した。
 一対一で戦おうというのであろう。ために、駆け付けたローマ騎兵は別の戦場に去っていった。



https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 ティキヌスの戦い 
 これは、両者互いに予期しない遭遇戦であった。
 とはいえ、大将同士が直接相まみえたこともあり、簡単に引きもならず、猛烈な激戦となった。
 もっとも、騎兵戦は、カルタゴ軍の得意とするところ。後方に退却し、突如反転し、再び突撃する。この旋回戦法は、あのハミルカル以来受け継がれてきたものだ。
 加えて、ハンニバルの軍には、人馬一体のヌミディア騎兵が戦列にある。彼らは、抜群の体力・技量で、馬上体を支え、槍をずんと繰り出し、矢をびゅんと放った。
「うわっ!」「ああっ」
 ローマ騎兵も、これにはたまらず、次々落馬した。
 が、強情なローマ兵の真骨頂はこれからであった。
 落馬した彼らは歩兵となった。
 元来野戦を得意とするローマ兵、落馬してから、むしろ頑強な戦いぶりを発揮した。
 そのため、マゴーネ率いるカルタゴ騎兵隊は、一転じりじり押される展開となった。



「ええい!ひくな!戦え!」
 マゴーネは味方を励まし、自身、馬を敵中に乗り入れ、勇戦していた。
 だが、深入りしたがため、いつの間にか敵の一隊に囲まれてしまった。
「やつを討ち取れ!」
 ローマ騎兵は、相手を大物と見て、次第に包囲の輪を縮めていった。
 その一隊には、あのラエリウスがいた。彼も、この戦いが初陣であったが、敵将の一人を討ち取らんと大いに逸っていた。
(わたくしも、フラミニウス殿のような大市民となりたい)
 その希望だ。奴隷から成り上がった彼の、年来の宿願といってもよい。



「ちぃっ!」
 マゴーネ、繰り出される穂先を懸命にあしらっていたが、そのうちの一つが彼の鎧をどんと突いた。頑丈な鎖帷子を着用していたため貫くことはなかったが、馬上態勢を大きく崩した。
「あっ!」
 一声叫び、どうっと落馬した。
「くそっ」
 マゴーネ、慌てて身を起こした。
 そこに影が一つ飛び込んでくる。
 ラエリウスだ。
「敵将覚悟!」
 短剣を振りかざし脱兎の如く飛び掛かる。
 マゴーネ、慌てて剣を抜こうとしたが、落馬の衝撃からか、剣が鞘から抜けない。
「し、しまった」
 万事休すか。
 その時、びゅんと矢唸りがした。
「わっ」
 ラエリウス、ひっくり返った。肩に矢が突き立っていた。
 遠くに一騎の影が。
 その騎兵は、獲物を槍に変え、ローマ騎兵の中に突っ込んだ。
 無言の許に、次々とローマ騎兵を突き伏せる。
「うわっ!」
「強いぞ!」
 ローマ兵は逃げ出した。

イメージ 1

   ↑
 現在のティチーノ川(古名ティキヌス川)です。パヴィア周辺でポー川(パドゥス川)に合流します

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 遭遇(続き)
 その頃、ローマ軍も停止していた。
 執政官スキピオは、手をかざした。
 日没直前の夕陽眩しく、その光が野に反射し、きつく照り返っていたからだ。
「戦闘配置につけ!」「隊列を整えろ!」
 スキピオの命令を受けた副官たちが、駆け回り怒鳴っていた。
 投槍兵とガリア騎兵を前面、その後ろにローマ騎兵を配した。
こちらも闘志満々。マルキウス率いるローマ騎兵は先にヌミディア騎兵を打ち破っていたからだ。



「敵の斥候かの」
 スキピオは手綱をぐっと握りながら訊いた。
「いや…それにしては兵数が多うございますぞ」
 マルキウスが言った。
 その間にも、敵の騎兵隊がみるみる迫って来る。
「あれは…」
 プブリウスが、その大きな瞳をぐっと見開いた。
 迫る敵の中央に、見覚えある人物がいたからだ。
 それは、かつて学園アカデメイアでいつも遠目で見詰めた人物。そして、イベリア使節団に随行した折りに、間近に見詰めた人物。
「父上っ!」
 その声は上ずっていた。
「どうしたプブリウス」
「ハンニバルです!ハンニバルがいますぞ!」
「なにっ!ハンニバルだと!」
 その途端、執政官の周囲は騒然となった。いきなり大将同士の戦いとなったからだ。



 単なる敵情視察の筈が、急転直下、決戦となったことに、ローマ兵は大きく動揺した。
 特に、初年兵で構成される投槍兵の動揺は大きかった。
「ハンニバルだ!」「敵将ハンニバル自ら攻めて来たぞ!」
 隊列が大きく乱れ立った。
 彼らは第一撃を放つ役割。それが乱れては戦いの秩序が崩れる。
「落ち着け!」
 スキピオは、その浮足立ちぶりを叱咤した。
 そして、何とか鎮めると、すぐさま命じた
「槍を投擲せよ!」
 が、遅かった。
 槍の投擲は、相当の距離をおいてなさねばならないが、敵騎兵隊は間近に迫っていた。時を逸していたのだ。
 駆けて来るは、百戦の猛者、人馬一体のヌミディア騎兵。
 戦闘経験のない投槍兵は、猛然と迫り来る姿に恐怖した。
「馬蹄に蹴飛ばされるぞ!」
「駄目だ!間に合わない!」
 怯えた彼ら、回れ右して後方に退き始めた。 
 投槍兵は投槍を一斉に放ち、それから後退すること、そう決められていた。それが槍を放ちもせずに持ち場を捨てたのは、よほど怖かったものであろう。



「馬鹿者っ!誰が下がれと申したかっ!」
「踏み止まれ!止まって槍を投擲せよ!」
 味方の指揮官の怒声もお構いなしに、投槍兵の隊は、味方の隊列の間を通って、後方へ一目散に逃げていった。
 次の瞬間。
「我がカルタゴの名を輝かせ!」「それ!一気に駆け破れ!」
 マゴーネ、マハルバルを先頭に、カルタゴ軍の騎兵隊が突入してきた。
 西地中海を二分するカルタゴとローマの両大国。
 イタリアを舞台に、新たな戦いの火蓋がここに切って落とされた。



 ヌミディア騎兵隊は右へ旋回し、ガリア騎兵の左を攻め立て始めた。
「それっ!それっ!」
 ヌミディア騎兵は自在に馬を操り、巧みに槍を繰り出した。
 他方、マゴーネ率いるカルタゴ騎兵は左から、つまりガリア騎兵の右に突っ込んだ。
「敵の右側に回れ!」
 盾で守られない右側は弱点とされる。
 投槍兵が逃げ出したこともあり、ローマ軍のガリア騎兵隊の左右は無防備となってしまっていた。そこを烈しく攻め立てられると、あっという間に崩れ立った。
「ようし!一気に敵将を討ち取れ!」
 ハンニバル軍、ここぞと嵩にかかってきた。
 だが、ローマ軍の備えはこれだけではない。
「そうはいくかっ!」
 後方からローマ騎兵の隊がどっと繰り出してきた。
 マルキウス率いる騎兵隊である。彼を先頭に、マゴーネの騎兵隊に斬り込んだ。
 ローマ騎兵は勇猛、そして、先に勝利した記憶もまだ新しい。だから、勇敢にカルタゴ騎兵と斬り結んだ。
 あたりは敵味方入り乱れての激闘となった。

遭遇−アルプスの章45

イメージ 1


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)



 遭遇 
 パドゥス川(現ポー川)流域には広大な平野が広がっている。
 パドゥス川は、ミネラル豊富なアルプスの雪解け水を大量に集め、大河となりこの土地を潤している。当然、ここは、地味豊かな、実りを約束された大地であった。
 昔エトルリア人が入植し開拓したこの沃野を、今はガリア人が占有している。だから、ここは決して未開の土地ではない。
 とはいえ、都市といえる町は僅かで、村落が各地に点在する程度であった。
 だから、麦畑やぶどう園が彼方此方に広がるほかは、大地がどこまでも続く風景であったに違いない。
 つまり、晴れた日ならば、どこまでも見渡すことができた。
 この平原の中をローマ騎兵隊は駆け抜けた。
 いや、彼らだけではない。ハンニバル軍も駆け続けていた。
 ただ、この時、両者はそのことにまだ気づいていなかった。



 やがて、時刻は夕刻に差し掛かった。季節は冬。帳が下りるのが早い候だ。
 それは、視界が急速に縮まることを意味する。
「む、あれは…」
 先頭を進むは、ヌミディア騎兵隊の将マハルバル。
彼方の土煙を、遊牧民の持つ抜群の視力に捉えた。
「総司令閣下!敵兵です!」
 途端、ハンニバルが右手を挙げた。
「止まれ!」
応じて全騎兵は手綱をぐっと引き、進軍が止まった。



「斥候部隊でしょうか」
 弟マゴーネが馬を寄せて来た。
「いや…違うようです」
 そういったのはマニアケス。一騎兵として従っていた。
「あれには敵将スキピオがいるに違いありませぬ」
 その彼女は、迷うことなくそう断じた。
「な、なにっ」
 驚いたのはマゴーネ。
「どうしてそんなことが分かる」
 どんなに目を凝らしても、騎兵らしき姿が見えるだけで、大将の姿など確認できない。
 そう。接近しているとはいえ一里(約1.5㎞)はあった。
「執政官にはリクトルと呼ばれる警吏が十二人、常に付き従います。彼らは棍棒を束ねたファスケスという武具を携行しております。そのファスケスが遠目に見えますので」
 マニアケスは、根拠を添えて涼やかに答えた。
「な、なんと…」
 マゴーネは絶句した。
 その彼にマニアケスは僅かな笑みで応えた。
 マゴーネは、何ゆえか、慌てて顔を背けた。



「よし、望むところ」
 ハンニバル、凛とした笑みを浮かべた。この突然現れた戦機を好機と捉えた。
 抜刀すると高々掲げた。
「恰好の好敵ぞ!一気に駆け破れ!」
「おおう!」
 ハンニバル軍は、疾風の如く、飛ぶように駆け始めた。


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • JAPAN
  • ダイエット
  • 時間の流れ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事