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スキピオの訓示(続き)
広場に集められた将兵は、頭上に広がる曇天と同じく、暗い顔ばかりであった。
「ハンニバルの許にはガリア兵が多数集まっているそうな」
「イベリア兵やギリシア兵など、麾下は猛卒揃いというぞ」
「ヌミディア騎兵は、騎馬の上手で、自在に馬を操るとか」
ひそひそ、分の悪い話が、さざ波のように伝わっていく。
「諸君、静粛に!」
現れたマルキウスが怒鳴った。
「コンスル閣下よりお言葉がある!心して聞くように!」
スキピオが登壇した。
ガリア人の通訳を一人従えていた。味方にはガリア兵もいたからだ。
「諸君!」
その声は決して大きくない。が、ぴしと張りがあり、人々に強く届いた。
「諸君は、眼前に現れた敵を、さぞ強大なものと思っておろう。アルプスを越え、タウラシアを攻め落とした軍勢と。が、それは大きな誤りである」
言葉を切った。訝しげな視線が返って来る。
「なぜならば、やって来るのは、あのカルタゴの軍なのである。思ってみるがよい」
執政官の語調は、諭す如きものになった。
「カルタゴと言えば、先に我がローマに敗れ、数十年間ずっと賠償金を我が国に捧げてきた国である。そして、率いる将は、我が国に敗れたハミルカルの息子。諸君は、一体何を恐れるというのか」
スキピオは、兵が密かに心配するところに、反問して見せた。
そういえば、と将兵らは顔を見合わせた。
「現に、先にロダヌス川で交戦した折りには、カルタゴ騎兵隊は我が騎兵隊の前に散々に負け、這う這うの体で逃げ帰ったのである。その挙句の果て、進路をアルプス越えに変更することを余儀なくされたものだ」
執政官は、ときに誇張を織り交ぜつつ、相手を徹底的にこき下ろした。
「今やアルプスを越えて疲労困憊。タウラシアを攻め落としたとはいえ、それはタウリニ族が油断しきったことが原因と調べがついている。兵の大半は幽鬼の如く、獣のような有様とある。とても、まともな軍勢とはいえぬ」
スキピオの言葉は、どんどん熱を帯びていく。
この際、味方に勇気を与えることができれば、少々嘘が混ざっていても良いのだ。
「諸君は堂々敵の前に姿を現すだけで良い!ならば、敵は算を乱し退散すること間違いない!勇気を持って敵の前に進むのだ!」
スキピオの言葉が終わった途端、将兵たちから、けたたましい歓声が上がった。
「わああ!」「おおう!」
すぐにも敵に立ち向かうべきであるとの勇ましい声までが飛び出した。
「カルタゴに鉄槌を!」
「ハンニバルを討て!」
先ほどのどんよりした空気が嘘のように、広場は熱気と興奮で充満した。
スキピオは、彼らの意気を褒めつつも、
「隊列整え敵に立ち向かうことこそ肝要。諸君は、合図があれば直ちに出陣できるよう、英気を養っておかねばならない」と言い聞かせた。
将兵らは、自信の頷きを見せ、各々の持ち場に散っていった。
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