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褒賞
タウラシア城内各所でなおも抵抗は続いたが、そこは厳しく訓練されたハンニバル軍。翌未明までに、城内の拠点を悉く制圧し、その掃討を終えた。
その日の午後。
総司令官ハンニバルは、主力部隊を率い、堂々入城した。
沿道に並ぶ部族民の不安そうな眼差しが、彼を出迎えた。
ハンニバルは将兵を広場に勢揃いさせると、今回の論功行賞にとりかかった。
「エピギュテス君」
決死隊の隊長を前に呼んだ。
「ははっ」
「第一の功は、そなたである。よって、これを授ける」
それは将の証、深紅のマントである。元来バルカ家の面々しか着用できないものだ。
破格の賞であった。
「これはありがたきこと」
エピギュテスは感激した。
この褒賞に将兵らも納得顔であった。
「大将の一人でありながら、身の危険を冒し、水路に飛び込み城中に突入された」
「天晴れな働き」
拍手が沸き起こり、誰もが彼の勇を称えた。
が、この様子を憮然と見ている男がいた。
マガルスである。隣にはマニアケスが立っていた。
「おい、マニアケス」
ガリアの言葉で語りかけた。
「何か」
「これでいいと思うのか」
「何が」
「今回の功の第一はお前だと思うのだが…」
今回の策は、彼女たち決死隊が水路より城内に潜入し、内より味方を迎えるもの。
が、潜入はやすやす行われた訳ではない。
水路の途中には、強固な遮蔽物があった。
格子状の分厚い板が行く手を妨げたのだ。
(おい!どうするんだ!)
何分水中のこと、エピギュテスをはじめ味方は恐慌に陥りかけた。
(慌てるな)
ここでも活躍したのは、マニアケス。
彼女の巧みなナイフさばきにより、格子の一つを切断し、瞬く間に遮蔽物をいとも簡単に取り除き、突破することができた。ために、全員溺れることなく無事に城内に潜入することができた。
あとは、城兵の隙をついて城門を内から開けて味方を迎え入れたという訳だ。
「ふふ。ボイイ族の長よ、貴殿も意外とものを知らぬような」
「なんだと」
「怒られるな。私はそなたの言葉に感謝している。が」
「が、何だ?」
「私は、このような姿でここに控えてはいるものの、あくまでも日陰者。表に出てはならんのだ。総司令も、わたくしを賞する訳にはいくまい」
エピギュテスを隊長としたのは、そのためであった。ギリシア人傭兵隊長ヒッポクラテスの弟でもあり、名目上の重しとして申し分ない。
「…でも、お前は、あの渓谷の戦いでは、武者の姿となり味方を励まし、獅子奮迅の働きを見せたではないか」
そう。彼を始め味方はどれほど勇気づけられたか知れない。
あのときも、ハンニバルは彼女を称揚することはなかった。
「あれは…やむを得ずにしたこと。日向に出た訳ではない」
マニアケスは微かに笑った。
「…でも、それでいいのか」
「私は働き場所を与えられている。それで充分満足だ」
そういって彼女は踵を返し立ち去ろうとした。が、ふと振り返った。
「ボイイ族の長よ、ありがとう」
その笑顔は、敵を震え上がらせる、常の怜悧なものではなかった。人としての温かみがあった。
「お、おう」
マガルスは戸惑い、その彼女の背をじっと見詰めた。
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