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↑※下から上へ、第一の局面、第二の局面、第三の最終局面の順となっています。
※両軍の当初の隊形は4月23日の分を御覧下さい。
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カンネーの戦い−包囲撃滅戦
ハンニバルの精鋭、カルタゴ人重装歩兵隊は、満を持して前進を開始すると、押し寄せるローマ重装歩兵部隊に真っ向ぶつかった。
さすがに、イベリア以来、ハンニバルに忠誠を誓う軍団だけあり、ローマ軍団の進撃をぐっと押しとどめた。
が、ローマ軍も必死である。ここを破らねば活路はない。
そして、ここを打ち破りさえすれば、全軍の勝利なのだ。
「前面の隊を破れば、もはやハンニバルを守る者はない!」
執政官パウルス、自ら馬を中央深く乗り入れ、これを一期と獅子奮迅を見せた。
既に、自軍の三方を、リュビア兵の部隊、カルタゴ兵の部隊と、敵兵にぐるり囲まれる形となっていたが、いずれもローマ側が押しに押していた。
だから、ローマ兵には包囲されているという感覚はなかった。
中央を突破すべく進んだため、自然とこうなっただけであり、現に、ハンニバル直属の精鋭と戦っている。敵の総大将が手の届く場所にある。即ち、まさしく格好の決戦場に自分はある、そんな感覚に誰もが奮い立っていたのだ。
だから、カルタゴ人の部隊が押し出して来るのを見ても、尻込みするような兵は一人もおらず、武勇を輝かせるは今とばかり、ここぞと攻め立てた。
(よし!あと一息!あと一押し!)
パウルスは、スキピオ家より贈られた『星天の剣』を、敵兵の頭上に振り下ろした。そして、近づく勝利の足音を確かに感じ取っていた。
が、その時、異変が起きた。
重厚なるローマ重装歩兵隊の後方が、突如、どっと乱れ立ったのだ。
「どうした!何事か!」
執政官パウルスは振り返った。
そこに、兵が駆け込んで来た。
「大変です!背後に敵の騎兵隊が突入して来ました!」
「なにっ」
パウルス、愕然とした。
ハシュドゥルバルとハンノン率いる騎兵隊は、ローマ側の騎兵隊を木っ端微塵に撃破すると、すぐさま取って返した。
「それ!」「敵の歩兵を蹴散らせ!」
意気天を衝かんばかりの彼ら、馬蹄響かせ、ローマ軍後方に突っ込んだ。
「あっ、敵兵だ!」「敵の騎兵隊ぞ!」
ローマ兵は甚だ狼狽した。後方は、歴戦の勇者トリアリィ(熟練兵)が最後の突撃の出番を待って連なっていたが、その彼らをもってしても慌てた。
重装歩兵は、元来、前面攻撃には滅法強いが、側面背後の敵には脆いという短所があった。しかも、相手は精強をもって鳴るカルタゴ騎兵にヌミディア騎兵。
しかも、密集の隊形を取っていたため、すぐには後方に向き直ることができない。
それゆえ、熟練の猛者たちの彼らも、カルタゴ軍の騎兵の繰り出す槍の穂先に、降り注ぐ矢の雨に、なす術なく倒れていく。
「わあっ!」「ひいっ!」
後方の隊列は、どっと内側へと崩れていく。
「後ろへ向き直れ!騎兵隊を押しとどめよ!」
ミヌキウスがやって来て声を枯らした。
あと一時、あと一支えあれば、前方のハンニバルの歩兵戦力を粉砕できるのだ。
だが、後方に敵騎兵隊が押し寄せて来たということは、ローマ軍は、今や四方全てを包囲されたということになる。
そう。ローマ軍は中央で優勢に戦っているつもりが、いつの間にやら、ハンニバル軍の包囲の中に追い詰められた格好になっていたのである。
これは偶然ではない。
「事の展開が将兵に何をなすべきかを教える。それこそ最良の作戦」
戦前、ハンニバルは、そういった。
まず、騎兵隊は前面の敵騎兵隊を追い散らすと、当然のようにローマ歩兵戦力の背後を衝こうとした。これはハンニバルの定石ともいえる作戦行動だから、騎兵の指揮官ならば誰もが心得ている。
次に、ガリア人の隊を三日月隊形にしたこと。三日月が崩壊し、そこにローマの兵力が雪崩れ込むのを見て、リュビア人の歩兵隊はローマ軍を挟撃すべきことを理解した。
つまり、指揮系統が乱れがちな大掛かりな会戦において、ハンニバルは、己の作戦の意図を余す事なく将兵に周知させることに成功した訳だ。
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