新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第6章カンネーの章

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 −これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔におびき寄せ、濃霧の中に奇襲して潰滅せしめる。
 この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。
 ハンニバルとファビウス、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
 軍内の不満にファビウスに代わり指揮を取るミヌキウス、ゲルニウム近郊でハンニバルを一敗地にまみらせることに成功。が、ファビウスは従来の持久戦をなおも主張し、ミヌキウスとついに分裂。
 ハンニバル、これを見て、再び動き出す。



 知る者の務め(さらに続き)
 ラエリウス、足早に戻ると、ミヌキウスは既に矢継ぎ早に諸将に指示を発していた。
「閣下」
「お、ラエリウス、早かったな。ププリウス君の公用はなんであったか?とにかく、そなたにも一隊を率いてもらうぞ」
 ミヌキウス、早くも闘志満々であった。
「閣下、そのことなのですが…」
 ラエリウス、おずおずとした口調で切り出した。
「何だ」
「今少し、様子を見てから行動を起こされた方がよろしいのではないかと」
「なに」
 ぎろりと目玉を動かした。



「プブリウス君がそう言ったか。…いや、ディクタトルの差し出口であろうが」
「いえ、実は私も少し不審に思っていたところでして」
「何が不審か」
「先の敗北から日も浅いのに、ハンニバルがこのように進んできたことです」
「冬営の前に戦果を上げ、士気を高めんとする所存であろう。取り立てて不思議なことはあるまい」
「ハンニバルは、そのように浮き足立った人物とは思えませぬ。アルプスを越え、幾多の苦難に打ち克ってきた男。用心が肝要です」
 いつの間にか、ラエリウス、懸命に説いていた。この男の元来の誠実さがそうさせるのであろう。
 ここは自重し、しばらくは出撃を見合わせるよう、切々と説いていた。
 だが、ミヌキウスの額には、みるみる太々と血管が浮き上がっていた。
「もうよいっ!」
「さ、されど…」
「実相はいかようにも見える!最後は己の判断!それに賭けるか否か、それだけだ!」
 その剣幕に、ラエリウスは黙らざるを得なかった。
 不興を買ってしまった格好のラエリウス、結局、後に残って陣を守備することを命じられたのであった。



 数日後、ミヌキウスの読み通り、カルタゴ兵の小隊が三々五々、丘を下り始めていた。
「敵は水の補給に困り始めたに違いない」
 ミヌキウスは手を打って喜んだ。
「それっ、今こそハンニバルを滅ぼす時ぞ!」
 直ちに軍を勢揃いさせ、大挙出動していった。



 見送ったラエリウスは、自分の幕舎に戻ると、急いで書面を認めた。
 兵に命じ、ある人物を呼びつけた。
「お呼びですか」
 兵士は膝をつき恭しく訊ねた。
「そう畏まらなくともいいよ」
「でも、貴方様は副官だから」
「はは、幼馴染みじゃないか」
 そう。やって来たのは漁師のディキトゥス。
 一時、馴れ馴れしい態度に出て、他の上官からこっぴどく叱られてから、ひどく他人行儀を構えるようになっていたものだ。



「頼みがある」
「何ですか?」
「これをファビウス閣下の陣にあるプブリウス殿に許に届けてほしいのだ」
 といって手紙を差し出した。
「大事な手紙だ」
「なぜ…俺に?」
「私は副官とはいえ若年。しかも、先にミヌキウス殿の不興を買ってしまった。他の者に頼めば、ミヌキウス殿への忠義を先にして、届かぬやも知れぬ。それゆえ、幼馴染みの君に頼むのだ」
 ラエリウス、少し寂しげに笑った。
 戦場での働きができず、こういう役回りを演じる羽目になってしまったからであろう。
 幼馴染みの心情に触れたディキトゥス、持ち前の男気がみなぎってきた。
「…分かった。届けよう」
「頼む」
 間もなく、付近の住民の姿に扮したディキトゥスが一人、ファビウスの陣に向かって駆けていく姿があった。


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−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔におびき寄せ、濃霧の中に奇襲して潰滅せしめる。
 この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。
 ハンニバルとファビウス、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
 軍内の不満にファビウスに代わり指揮を取るミヌキウス、ゲルニウム近郊でハンニバルを一敗地にまみらせることに成功。が、ファビウスは従来の持久戦をなおも主張し、ミヌキウスとついに分裂。
 ハンニバル、これを見て、再び動き出す。


 知る者の務め(続き)
(御曹司の言うように、わたくしは保身を先に思っているのか…)
 確かに、近頃、とみに重用してくれるミヌキウスを大事に思う気持ちが強くなっていたのは事実だ。このままミヌキウスが大勝利を収め、終戦の立役者となれば、彼が平民党の指導者として圧倒的地位を築くのは目に見えていた。
 ラエリウスが、ミヌキウスにかつてのフラミニウスの姿を見、そのそばで活躍する自分を望むのは、むしろ素直なことであろう。
 が、それを、プブリウスは保身そのものと喝破した。



 プブリウスはこう言った。
「栄達を望むこと自体、何ら悪いことではない。我らパトリキとて、栄誉を求める気持ちは強いのだからな。されど、それは国家が先にあってのこと。国家を後回しにしての栄達など、亡国の前に見る夢幻に過ぎぬ」

「ど、どうして、いつも私にばかりこういう役回りが巡ってくるのです?このような損な役回りが…」
 ラエリウス、恨めしげな口調で言った。諫言すれば、ミヌキウスの心に添わぬことになろう。ひいては不興を買うこととなり、折角の栄達の伝手が断たれることにもなる。
 彼が、そんな風にいうのには訳がある。先のトラスメヌス湖畔の戦いの前に、フラミニウスに直言して遠ざけられてしまった。未だに、それを心の傷としていたからだ。



「それは当然さ」
「…なぜです?」
「知っているからだよ」
「え?」
「お前が賢いから…即ち、知る者の務めだ。物事を知っているからこそ、他人の過ちが見えてくる。他の者は見えないから、そういう役回りが回って来ぬのは当然」
「そんな…」
「その役回りを務めることも、立派な市民たる者の務め。そうではあるまいか。国家を先に考え、味方の安全を図る者、それこそ、真に仁徳ある者であろう」
 ラエリウス、身分の違う親友の言葉にうつむいた。心に響いたものであろう。
 やがて顔を上げた。
「分かりましたよ」
 苦笑を見せていた。
「わたくしとてローマ市民。国家のことを第一に思う者。お言葉は、しっかと騎兵長官殿にお伝えいたします」
 その言葉は力強く、いつものラエリウスらしい覇気のあるものであった。
 プブリウスはニコとした。
「うむ。頼むぞ」


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 知る者の務め 
「なに、ハンニバルが、我が陣営近くの丘を占拠したと!」
「はっ、閣下の目でご確認ください」
「うむ」
 ミヌキウスは幕舎を出た。
 すると、目と鼻の先の丘の上に、雷光をあしらったカルタゴの旗が翻っていた。
「おお、いつの間に…」
 夜陰に紛れ制圧したものであろう。無数のカルタゴ兵が忙しく動き回るのが見えた。丸太を地に打ち込み、せっせと柵を構築している。
 だが、ミヌキウスは何ゆえか笑い出した。
「ふふふ。やつらめ。性懲りもなく、また痛い目に遭いたいらしい」
「それはどういうことです?」
 副官ラエリウスが訊いた。
「はは。以前そなたが申していたこと。あれを見よ。この前の丘と同じく、木々が生えておらぬ。ここで睨んであれば、水の不足で、否応なく動き出すに違いない」
「なるほど」
 ラエリウス、頷いたものの、釈然としなかった。
(ハンニバルともあろう者が、同じ過ちを繰り返すであろうか…)
 その疑問だ。
 そこに兵が現れて告げた。
「ラエリウス殿。ファビウス閣下の陣から、副官スキピオ殿が参られております」
「スキピオ殿…ププリウス殿のことか?」
 家名ではピンと来なかったものか、そう訊き返した。
「はい、左様にございます」
 兵が答えると、ラエリウスはミヌキウスを見た。
「はは、会うて参れ。こたびは公用であろ」
「は、ありがとうございます」
 ラエリウス、一礼すると、プブリウスの待つ方へと歩き出した。



 騎兵長官の幕舎の前、副官の幕舎が連なっている道に、プブリウスが立っていた。
「お、プブリウス殿」
「今日は公用で来た」
 プブリウス、先頃、ファビウスの副官を拝命していた。
「何事で?」
「ディクタトル閣下の御忠告を伝えに参った」
「御忠告?」
「ハンニバルは、間違いなくミヌキウス殿を引っ張り出すための策を講じてくる。迂闊に打って出ることなきように、との仰せだ」
 軍を分割した後も、独裁官ファビウスは、ミヌキウス隊のことを気に懸けていた。だから、プブリウスを使いに、親友ラエリウスを通じてミヌキウスに知らせるという、迂遠な方法で伝えにきたものであろう。



「確かに、お伝えいたしまするが…」
 対するラエリウスの言葉は、歯切れが悪かった。
「なんだ、その言いようは。味方の大事ではないか」
 プブリウス、少しむっとした。
「左様ではございますが…」
「左様ならばしかと伝えよ」
「とは申せ…」
 ラエリウスはこう弁明した。
「ミヌキウス殿は、ファビウス閣下と同じ大権を手にしておられます。いかに、プブリウス殿を通じてとは申せ、その言葉を素直に聞くことはあるまいかと存じます」
 率直に打ち明けたものであったが、その言葉に、プブリウス、少し怒ったような、それでいてどこか寂しげな色を浮かべた。



「…お前、変わったなぁ」
「それがしは別段何も…」
「要は、騎兵長官のお気に入りとなり、その機嫌を損ないたくない、そういうことなのだろう。栄達が欲しくなったか」
「そんなことはありませぬ」
 今度はラエリウスが少し怒った口調になった。
「ならば言える筈だ」
 プブリウス、決めつけた。
「国家のため、味方のため。ミヌキウス殿の機嫌伺いなどは、その次の話なのだからな」
「それは…」
 ラエリウス、なおも逡巡していた。


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 分裂(さらに続き)
「我が義兄は、どこぞが良くて、あんな強情者を寵愛していたのかのう」
「さあて…分かりかねまするな」
 記録官のソシュロスが苦笑いを見せた。
「ただ、あの自身に真っ直ぐなところが、前の総督閣下が死の際にお許し賜った理由ではありますまいか」
「余は…許す、というてやるべきかのう」
 そんなことを訊いた。
 恐らく、ソシュロスの他に訊ねる者がいなかったのであろう。
 ハンニバルもマゴーネも、とうに義兄のことを恨みに思っていなかった。義兄自身が恨んでいない者を、恨む筋合いにはない。
「その必要はありますまい」
「なぜ」
「そんなお心は、とうにあの者には通じておりましょう。だからこそ、命を捨てて働いておるのです。ご兄弟のご恩情に報いるためにも」



「…そうか」
 ハンニバルは空を見た。
「人とは不思議だ。本来仇敵の間柄なのに…」
 こんな絆で結ばれようとは、ということだ。
「だから、人間は戦うのではありますまいか」
 ソシュロスは、そんな風に言った。
「戦った後に、いつか笑い合うことが出来るがゆえ、大きな目標のため戦う途を選ぶのでしょう」
 戦争とは、究極の非情だが、政策遂行手段の一つである。だから、戦争の被害で失われる国益より大きな国益が得られるのであれば許容される。それが政治力学の必然。
 現代、大規模な戦争が次第に許容されなくなっているのは、勝者となっても被害が大き過ぎ、政策遂行手段として割に合わないからである。
 隣の土地を奪うため戦いをしかけ、自分の家土地が灰燼となっては話にならない。全くのお笑い種で、歴史家の失笑を買うだけ。国のために犠牲になった者も浮かばれまい。



「笑い合うことが出来る…か」
 ハンニバルは呟いた。
 そこに、マゴーネとマハルバルが現れた。
「総司令、お召しに従い参上いたしました」
 その声に、ハンニバル、この戦場の世界に引き戻された。
 ソシュロスも、またもの言わぬ記録官に立ち返っていた。



 ハンニバルは、彼らを見るとこういった。
「ミヌキウスを破る機会が巡ってきた」
「おお」「それは何より」
 二人は勇躍した。
 諸将は前の敗北に切歯扼腕していたのだ。
「この地図を見たまえ」
 ハンニバルは、自陣とミヌキウス陣の中間にある地点を指差した。
「ここに、木々の生えていない険峻な丘がある。ここを占領するのだ」
「え、しかし…それは」
 マゴーネが懸念した。
「木々が生えないということは水源がないということ。そのような所に陣取っては、前の敗北の二の舞になりはしませんか?」
「そこだ」
 ハンニバルは小さく笑った。
「ミヌキウスも、当然そのように考え攻め寄せて参ろう。そこで…」
 二人に何事かを囁いた。
 その夜、マゴーネとマハルバルの二人は、それぞれ一隊を引き連れ陣を離れた。


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 分裂(続き)
 ローマ軍分裂する。
 直ちにハンニバルの陣営の知るところとなった。
 密偵マニアケスが事の一部始終を報告していた。
「…そうか。ローマ軍は、ファビウスの隊とミヌキウスの隊に分かれたか」
「はい。表向きは作戦に従って軍を分けたことになっておりますが、その実、ミヌキウスが強硬に会戦を主張し、ファビウスが拒んだ挙げ句の決裂にございます」



「ふ」
 ハンニバルの顔に明るい血色が浮かび上がった。
「今年は冬籠りに入るのみと考えていたが…戦機が再び到来したか。マニアケス」
「御意。内輪揉めする軍を破るは容易なこと」
「標的はミヌキウス…か」
「御同意申し上げまする」
「よろしい」
 ハンニバルは小さく頷くと、傍らにいた兵に命じた。
「マゴーネとマハルバルを呼んできてくれ」
 その兵は一礼すると、駆け出していった。



「それでは、わたくしはミヌキウスの陣の内偵を進めます」
 マニアケスはそう言って立ち上がろうとした。
「…いや」
 ハンニバルはそれを止めた。
「もうよい。それは余人に任せ、そなたは下がって少し休め」
「なにゆえそのようなことを仰せになられます?」
 彼女の訝しげな視線が返ってきた。
「そのような顔をするな」
 ハンニバル、苦笑した。
「前の戦いから、そなたは働きずくめ。我が身に成り代わっての。休息が必要だ」
 影武者となって獅子奮迅の戦いを見せたからであろう。
 あの戦いの後、彼女を別段褒めもしなかったが、責めもしなかった。



「あれは我がしくじりのゆえ。身を粉にして働くのは当然にございます」
「いや。いかに、そなたが不死身の如きとはいえ、女の身。少しは体を労らねば、働くことが出来ぬようになるぞ。まだ先は長いのだ」
「いいえ」
 マニアケスは頑に首を振った。
「わたくし、前の戦いでミヌキウスめに煮え湯を呑まされました。このお返しはきっちりしておかねばなりませぬ。また、総司令の大業成就までは悠長に身を横たえておられましょうか。そのようなことでは、前の総督閣下(死んだハシュドゥルバルのこと)のお叱りを被りましょう」
「我が義兄は、そのように人使いは荒くなかったぞ」
 ハンニバル、また苦笑した。
「これはわたくしの誓い。どうぞ、そのようにお気遣いなさいますな」
 そういうと、彼女は一礼して幕舎を後にした。

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