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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔におびき寄せ、濃霧の中に奇襲して潰滅せしめる。
この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。
ハンニバルとファビウス、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
軍内の不満にファビウスに代わり指揮を取るミヌキウス、ゲルニウム近郊でハンニバルを一敗地にまみらせることに成功。が、ファビウスは従来の持久戦をなおも主張し、ミヌキウスとついに分裂。
ハンニバル、これを見て、再び動き出す。
知る者の務め(さらに続き)
ラエリウス、足早に戻ると、ミヌキウスは既に矢継ぎ早に諸将に指示を発していた。
「閣下」
「お、ラエリウス、早かったな。ププリウス君の公用はなんであったか?とにかく、そなたにも一隊を率いてもらうぞ」
ミヌキウス、早くも闘志満々であった。
「閣下、そのことなのですが…」
ラエリウス、おずおずとした口調で切り出した。
「何だ」
「今少し、様子を見てから行動を起こされた方がよろしいのではないかと」
「なに」
ぎろりと目玉を動かした。
「プブリウス君がそう言ったか。…いや、ディクタトルの差し出口であろうが」
「いえ、実は私も少し不審に思っていたところでして」
「何が不審か」
「先の敗北から日も浅いのに、ハンニバルがこのように進んできたことです」
「冬営の前に戦果を上げ、士気を高めんとする所存であろう。取り立てて不思議なことはあるまい」
「ハンニバルは、そのように浮き足立った人物とは思えませぬ。アルプスを越え、幾多の苦難に打ち克ってきた男。用心が肝要です」
いつの間にか、ラエリウス、懸命に説いていた。この男の元来の誠実さがそうさせるのであろう。
ここは自重し、しばらくは出撃を見合わせるよう、切々と説いていた。
だが、ミヌキウスの額には、みるみる太々と血管が浮き上がっていた。
「もうよいっ!」
「さ、されど…」
「実相はいかようにも見える!最後は己の判断!それに賭けるか否か、それだけだ!」
その剣幕に、ラエリウスは黙らざるを得なかった。
不興を買ってしまった格好のラエリウス、結局、後に残って陣を守備することを命じられたのであった。
数日後、ミヌキウスの読み通り、カルタゴ兵の小隊が三々五々、丘を下り始めていた。
「敵は水の補給に困り始めたに違いない」
ミヌキウスは手を打って喜んだ。
「それっ、今こそハンニバルを滅ぼす時ぞ!」
直ちに軍を勢揃いさせ、大挙出動していった。
見送ったラエリウスは、自分の幕舎に戻ると、急いで書面を認めた。
兵に命じ、ある人物を呼びつけた。
「お呼びですか」
兵士は膝をつき恭しく訊ねた。
「そう畏まらなくともいいよ」
「でも、貴方様は副官だから」
「はは、幼馴染みじゃないか」
そう。やって来たのは漁師のディキトゥス。
一時、馴れ馴れしい態度に出て、他の上官からこっぴどく叱られてから、ひどく他人行儀を構えるようになっていたものだ。
「頼みがある」
「何ですか?」
「これをファビウス閣下の陣にあるプブリウス殿に許に届けてほしいのだ」
といって手紙を差し出した。
「大事な手紙だ」
「なぜ…俺に?」
「私は副官とはいえ若年。しかも、先にミヌキウス殿の不興を買ってしまった。他の者に頼めば、ミヌキウス殿への忠義を先にして、届かぬやも知れぬ。それゆえ、幼馴染みの君に頼むのだ」
ラエリウス、少し寂しげに笑った。
戦場での働きができず、こういう役回りを演じる羽目になってしまったからであろう。
幼馴染みの心情に触れたディキトゥス、持ち前の男気がみなぎってきた。
「…分かった。届けよう」
「頼む」
間もなく、付近の住民の姿に扮したディキトゥスが一人、ファビウスの陣に向かって駆けていく姿があった。
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