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※合戦開始時の両軍の隊形につきましては、23日の分をご参照ください。
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カンネーの戦い−不思議な騎兵戦(続き)
ハシュドゥルバル、槍を突き上げ、叫ぶように命じた。
「それ!敵の騎兵隊に突っ込め!一気に駆け破れ!」
カルタゴ騎兵隊と言っても、その内実はイベリア人騎兵、ガリア人騎兵である。その猛獣の群れの如き集団を率い、先頭を疾駆していく。
「御大将!そのように先に進まれては危険です!」
マニアケスが諌めるも、彼は聞かなかった。
「何を言う!この一刻一刻が勝敗を分けるのだ!」
ハシュドゥルバル、馬に鞭打ち一散に駆けた。
ローマ騎兵隊の姿が、みるみる大きくなった。
隊列中央には、ひと際華やかな軍装の将が凛と馬上にあった。
ローマ軍の総大将パウルスである。
左右に、プブリウスとラエリウス。
(いた!奴を討ち取れば、全てが決するぞ!)
ところが、ここで意外なことが起こった。
パウルスが右手をすっと上げると、ローマ騎兵が全員下馬したのだ。
「なにっ」
そして、あたかも馬を盾のようにして、槍を構え戦闘態勢に入った。
「おおっ、これは!」
カルタゴ騎兵は、ローマ騎兵の前に群がる馬を前に、慌てて手綱を引いた。
「どうどう」「止まれ止まれ」
結果、障害物にカルタゴ騎兵の機動力が殺されてしまった。
「それ!今だ!突き落とせ!」
馬と馬の間から、ローマ騎兵が飛び出し、馬上のカルタゴ騎兵を突き伏せにかかった。
「うわっ」「ぐわっ」
カルタゴ騎兵がたまらず落馬すると、わっと群がるローマ兵の槍の餌食となる訳だ。
対するカルタゴ騎兵は、ローマ騎兵が捨てた馬が邪魔になって槍を付けるどころか、満足に槍を振るうことも出来ない。
「うぬぬ、小癪な真似を」
ハシュドゥルバル、大いに怒った。
だが、障害物を生かしたローマ騎兵の戦いぶりは、実に巧妙であった。いや、騎兵ではない。もはや完全に重装歩兵として敵と相対していた。
「馬を盾に敵に接近し、突き落としてしまえ!」
パウルスは叫んだ。
やはり、ローマ兵は地上にあって自身の足で駆け回る方が、性に合っているようだ。自在に野を走り、右顧左眄するカルタゴ騎兵の隙を見て近寄り、ずんと突いていく。
「うわあっ!」「ぐわっ」
馬上のカルタゴ騎兵は、次々突き落とされていく。
もはや、これは騎兵戦ではなく歩兵戦であった。野戦に絶対の自信を誇るローマ兵、その利を生かした戦いに引きずり込もうとの、パウルスの秘策であったのだ。
ローマ軍の予想外の戦法に、カルタゴ騎兵は戸惑い、隊列を乱した。
パウルス、してやったりと手を打った。
「よーし!敵兵を川に追い落とせ!」
ローマ騎兵は、狩猟で獲物を仕留めるかのように、カルタゴ騎兵をアウフィドゥス川の流れに追い詰めていく。
この予期せぬ展開に、ハシュドゥルバルは、馬上、地団駄踏んだ。
「これでは埒が明かぬ!我らも下馬するぞ!」
そう叫ぶや、ハシュドゥルバルは馬から飛び降りた。
「御大将!なりませぬ!危険です!」
マニアケスは制止した。歩兵戦では一転ローマ軍が有利となってしまうからだ。
が、ハシュドゥルバル、
「黙れっ!マニアケス!」
と怒鳴り返すや、きっと睨んだ。
「我らが負ければどうなる!全軍の敗北ぞ!」
それはその通りであった。
騎兵戦力の優位を生かし敵の隊列を突き破り、全軍の勝利に結びつける、これがハンニバルの作戦だからである。それが、騎兵戦で敗れてしまっては話にならない。
ハシュドゥルバル、手勢をかき集め、ローマ騎兵の群がる場所めがけ突進していった。
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