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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔に潰滅せしめる。
その後、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
ゲルニウム近郊でローマ軍とハンニバル軍、本格的な戦闘に及ぶも決着はつかず、そのまま冬を越し、紀元前216年春を迎える。
待望の執政官パウルス着任。ハンニバルの糧道を断つ作戦に打って出るも、ハンニバル、ローマ軍の兵糧基地カンネー急襲。対決の機運一気に高まる。
テレンティウスの変心(続き)
こちらは、執政官テレンティウスの幕舎。
執政官格司令官ミヌキウスが訪れていた。
「…ということで、パウルス閣下は、しばらくは敵の様子を睨み、慎重に作戦行動に出たいと仰せでの。貴下の御存念を確かめよ、と。それがしを遣わされたのだ」
「そういうことでござるか。それは痛み入る。無論、否やなどありませぬ。そうパウルス殿にお伝えありたい」
「そうですか」
ミヌキウス、明らかに安堵する色を見せた。
「わさわざ御足労いただき、相済まぬこと」
「なんの。我ら、同じプレプスの出ではありませぬか。いわば同志。先年の戦いの折には元老院で随分骨折りいただいたことでもある。気付いた点あれば、何なりとこのミヌキウスに御申出ありたい」
「ありがたきこと」
それからも、様々に歓談して後、テレンティウスはミヌキウスを送り出した。
それは一見、同じ平民党の政治家として胸襟開いた会談のようであったが…。
「ふふ。随分と私のことを気にしておられるような…」
テレンティウスは小さく笑った。
待ち詫びた、この戦場での日々。
(戦場に出なければ、執政官になったといっても、それほど意味はない)
なにしろ、同僚執政官パウルスはイリュリア平定の英雄。平民の信望の篤さも、テレンティウスの比ではない。となれば、ローマに留まったままでいれば、その政策のほとんどがパウルスより出ることになるのは必然であった。
(ようやく、この私の、年来の所信を遂行する時が来たのだ)
とはいえ、彼は、陣営内にあって浮いた存在に成り下がっていた。
作戦の大本はパウルスが決め、それを執政官格司令官たちが遂行する、そんな格好が出来上がっていたからだ。無論、それはパウルスの、本国にあるときから積み重ねた深謀でもあったが、テレンティウスは、それにこれまで表立って逆らうことはなかった。
(戦場に出るまでの辛抱だ)
そう心に思い定めていたからだ。
彼には彼なりの勝算があった。
(いかに敵に騎兵戦力あろうとも、重装歩兵軍団で突貫し、決着してしまえばそれで勝利は掴めるのだ)
彼は、独裁官ファビウス以来ローマ軍の基本戦略となった持久戦術に大いに不満を抱いていた。加えて、盟友とも恃んでいた、ミヌキウスまでもがそれに靡いたことに、心外であったし失望していた。
(勝敗は歩兵戦力で決まる。騎兵で劣勢であろうとも八万の歩兵を擁するのだ。それでハンニバルの歩兵戦力を押し潰してしまえば、それまでなのだ)
この重装歩兵戦力に対する強い信頼は、伝統的なローマの武人であればあるほど強烈なものがあった。なにしろ、その歩兵戦力で半島の覇者となり、前のカルタゴとの戦いにも勝利したからだ。
翌日。軍議が開かれた。
「これより戦地である。法により、総軍の指揮権を交互に取ることにする」
執政官パウルスは諸将を前に宣した。
「では、今日はテレンティウス殿に行ってもらうこととする」
パウルスはそう言って、目配せした。
執政官テレンティウスは、すっくと立ち上がった。
「それでは…」
テレンティウスは笑みを浮かべた。
「諸君に、早速に、今から申す作戦行動に移ることを命ずる」
諸将は、えっ、と戸惑いの表情を見せた。持久戦が暗黙の了解であったからだ。
「敵は、我らが接近せぬものと油断している。直ちに出撃し、これに急襲をかけよ。そして、敵に一撃を与えるのだ」
テレンティウス、拳を上げた。
人々は唖然とした。
テレンティウス、ついにその正体を現したのだ。
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