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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔に潰滅せしめる。
この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
ゲルニウム近郊でローマ軍とハンニバル軍、本格的な戦闘に及ぶも決着はつかず、そのまま冬を越し、紀元前216年春を迎える。
待望の執政官パウルス着任。ハンニバルの糧道を断つ作戦に打って出るも、ハンニバル、ローマ軍の兵糧基地カンネー急襲。対決の機運一気に高まる。
パウルスの演説(続き)
広場に集まった将兵は、迫る決戦に不安な眼差しを寄せ合っていた。
「ハンニバルは、我らが蓄えた兵糧を悉く奪ったとか」
「そのため、周辺の諸都市も大いに動揺しているとか」
「アプリア地方は、もはやハンニバルの天下というぞ」
不利な話は、不安により増幅され、かつ速く広がる。
事実、ローマ軍は負け続きだから、根も葉もない話ということもできない。
パウルスが、この将兵たちに活力を与えることを真っ先に思いついたのは、正しいことであったといえよう。
パウルスは、壇に上がると、将兵の顔を見回した。
「ローマの将兵諸君!」
彼は、常と同じくにこやかであった。
「我らは必ず勝つ!まずそれを強く思うのだ!」
彼は言い切った。
怪訝な眼差しを向ける兵も多かった。なにしろ、これまで連戦連敗なのだ。
「これまでは確かに敗北してきた。だが、その理由は明白。従って、その敗北の原因を弁え、勇敢に戦いさえすれば、勝利は疑いないのだ」
パウルス、次第に語気を強めていく。
「一つは、不運が重なったことだ。トレビアでは執政官の一人が負傷していて采配を取ることが出来なかった。二人の執政官が力を合わせ戦った訳ではないのだ」
トレビアの戦いは、スキピオが負傷し、センプローニウス一人が指揮を執った。充分な意思疎通を欠き、戦機に逸ったため敵の計にかかり敗北を招いたもの。
「そして、トラスメヌス湖畔の戦いでは、天候も味方に災いした」
湖畔の濃霧のため、敵の奇襲に抗する術無く、味方は潰滅してしまった。
「もう一つは、敵の襲来が急であったため、兵の調練が充分でなかったこと。しかも、トレビアの折には、シチリア駐留の部隊を長駆、パドゥス川の畔まで馳せ向かわせるしかなかった。その兵は、充分の休養も与えられず、戦いに臨まねばならなかった」
パウルスの言は正確さに欠ける。実際は、パドゥス川の陣営に到着してから、しばらく休養の時があった。
だが、今は、そのような些事は関係ない。味方に勇気を与えることさえ出来れば、少々誇張が混じっていても差し支えないのだ。
「しかし、である。今、ようやく時は我らに幸いしておる」
パウルス、言葉を高ぶらせた。
「まず、我ら執政官二人が、こうして揃って諸君の前にあるということ」
そういって、右手でテレンティウスの方を差した。
「そして、昨年執政官を務めたゲミヌス殿、そして、騎兵長官を務めたミヌキウス殿にも御助力を依頼し、こうして諸君と共に戦場に臨んでもらうことにした。今、ローマが用意し得る知勇優れた指揮官が、こうして諸君と共にあるのだ」
ちなみに、執政官格司令官の一人レグルスは、首都防衛のためローマに戻っていた。
「さらに、諸君は、この二年に渡る戦いで鍛えに鍛えられている。隊列の組み方にも習熟し、武器の使い方にも慣れた筈。いわば勇猛の兵となった訳だ」
パウルス、いつの間にやら、己の言葉に自ら確信を得たかのような高揚を見せ始めた。言葉通りの自信の塊となっていた。
「加えて、我が軍は敵兵力の倍!これでは敗北を夢想することすら困難ではないか!勇猛な兵が雲の如く馳せ参じ、我が国の誇る指揮官が一堂に揃い、しかも敵より多数!となれば、勝敗の帰趨は誰の目にも明白!勝利以外に何が待つというのか!どうだ諸君!」
パウルスは、叫ぶようにして締めくくった。
将兵も、大いに勇気づけられ、彼方此方で歓声が沸き起こった。
「勝利以外なし!」
「我らを待つものは勝利のみ!」
「コンスル閣下!早く戦いに打って出て、敵に目にもの見せてやりましょう!」
パウルスは、言葉が将兵らに伝わったことを確かめ得ると、満足そうに頷いた。
「我らは慎重に戦機を窺う。諸君は、士気を保ち、団結を乱さず、その時に備えるのだ」
そういって、解散を命じた。
こうして、パウルスは、味方の士気を高めることに成功したのであった。
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