新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第6章カンネーの章

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−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔におびき寄せ、濃霧の中に奇襲して潰滅せしめる。
 この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。
 ハンニバルとファビウス、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
 軍内の不満にファビウスに代わり指揮を取るミヌキウス、ゲルニウム近郊でハンニバルを一敗地にまみらせることに成功。が、ファビウスは従来の持久戦をなおも主張し、ミヌキウスとついに分裂。
 ハンニバル、これを見て、再び動き出す。



 新たな父(続き)
 ここファビウス軍の本陣。
 カルタゴ軍を撃退し、大いに沸いていた。
 総司令ファビウスは、功のあった将卒を招き寄せ、大いに賞賛していた。
 将兵は歓声を上げつつ、ここにようやく納得していた。
「こういう時のため、ディクタトル閣下は動かずにおられのだ」
「うむ。随分不平をかこってきたが…大いに反省せねばならぬ」
 そこに兵がやってきて告げた。
「騎兵長官殿とその麾下の兵がやって参りました」
「む」
 見ると、口を真一文字にしたミヌキウスが、配下の兵を従えて、ぞろぞろこちらにやって来る。
(ご機嫌斜めのように見受けられるが…)
(我らの活躍が気に入らんのであろうよ)
 ファビウスの兵はこそこそ囁いた。



 だが、そのミヌキウス、ファビウスの前に来ると、片膝を地につけ深々と礼した。
「ディクタトル閣下」
 神妙に切り出した。
「私は、父母に生を享けこの世に生まれました。ところが、今日、その命が尽きんとし、私もそのように覚悟いたしました」
「しかるに、閣下は私を死の窮地よりお救いくださりました。これ新たに生命をお与えくださったのと同じこと。まさしく父母に等しき恩愛をお与えくださったのでございます」
 彼の声は震えていた。
「しかも…しかも我が多くの将卒の命もお救いくださいました。このようなる偉大な恩を被った以上、もはや閣下以外の誰を大将軍と仰ぎましょう。今後は、閣下一人を新たな父とも仰ぎ、その御指図に従い、粉骨砕身働く所存」
 それは、これまでの非礼の言動を悔い詫びると共に、そんな自分を救ってくれたファビウスに、まさに父母に相対するが如き礼をとることにより感謝の言葉を捧げたもの。
 不器用な武骨者らしい物言いであった。
 


 あたりはしんと静まり返った。
 つい先ほどまでミヌキウスの傲慢に憤っていた者たちも、今は感動に涙を流していた。
「ミヌキウス殿、顔を上げられよ」
 ファビウスはいつもと変わらぬ穏やかな口調で言った。
「余は、君が愛国者であることを疑ったことは一度たりともない。これまでのことも、貴君の国を想う熱情ゆえであることも承知。何を恥じることがあろう。今後は、我ら力を併せ、国家のため共に尽くそうではないか」
 そういって手を差し出した。
「ありがたき…ありがたき」
 ミヌキウスは、その手を押し頂いた。
 ファビウスは、ミヌキウスを立たせると、その肩を叩き抱擁した。
 他の将卒も感極まったのか、ファビウスの将兵とミヌキウスの将兵らが、彼方此方で抱き合い、歓喜の涙を流し合っていた。



 それからというものの、ローマ軍は独裁官ファビウスの許に一致結束し、陣を強固に守備し、乱れを見せることはなかったという。
 間もなく、独裁官の半年の任期が終わり、ファビウスはローマ本国に堂々帰還した。


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 新たな父 
 カルタゴ軍を撃退すると、ラエリウスは、ミヌキウスの許に駆けつけた。
「騎兵長官殿!大丈夫にございますか!」
「…おお、ラエリウス、よく来てくれた」
 半ば呆然と立ち尽くしていたミヌキウス、我に返ると、ほっと安堵の色を見せた。乱戦をくぐり抜けたため、鎧が所々解れ、切り傷を多数負っていた。
「命に背き出撃しました。お許しを…」
 まずは軍令に背いたことを詫びた。
「なんの…謝らねばならぬは余の方だ」
 ミヌキウスは面目なげにうつむいた。
「余の不明で、そなたの意見を退けたばかりか、味方の将卒の多くを失った。そなたが駆けつけてくれなければ、余の命もなかったであろう…」
「これ全てファビウス閣下のご指示にございます」
「なんと」
「閣下の御出陣の後、御意思に背くこと承知でファビウス閣下の陣に手紙を遣りました」



 そう。ラエリウスは、ファビウスの陣にいるプブリウスに幼馴染みのディキトゥスを走らせた。
 ディキトゥス、果たして、息を切らして駆け込んで来た。
「御曹司!ラエリウスからこれを預かって参りました!」
 プブリウス、直ちに一読するや、
「ディキトゥス君、ご苦労だった。大手柄だぞ」
 大きく笑って見せると、それを手にファビウスの幕舎に駆け込んだ。
「ディクタトル閣下!ラエリウスから手紙が!」
「む」
 ファビウスはパラと広げるとこうあった。
『ミヌキウス殿、敵の待ち受ける地に進む。ディクタトル閣下におかれては宜しく御味方の救援あらんことを』
 それだけであった。



 ファビウスの決断は早かった。
「全軍に令せよ!直ちに出動だ!」
 動くとなると、彼は機敏であった。全軍挙げて出陣し、自ら先頭に立ち、窮地のミヌキウス軍の許に馳せつけたという訳であった。
 ファビウスはこういって味方を鼓舞した。
「ミヌキウスは国を愛する者ぞ!彼の将卒は我が子も同じ!彼らを救わずして、我らの名誉はないぞ!奮えや人々!」
 独裁官の威権に楯突いたミヌキウス、その彼との確執を微塵も見せぬ潔さに、人々は大いに感動した。誰もが、この司令官のために働こうと奮い立った。
「ローマのために!」「ディクタトルのために!」
 ファビウスは、この意気上がる将兵を率いて、カルタゴ軍を攻め立て、撃退することに成功したのであった。味方の危機に即座に動くことを人々に示し、まさに『思慮ある鈍』を証明したのであった。



「そうであったか…」
 ミヌキウスは深く頭を垂れた。
「ラエリウス」
「はっ」
「味方を集めてくれ。ファビウス殿の陣に向かう」
「ははっ」
 ミヌキウス以下数千の将兵は、ファビウスの陣に向かって歩き出した。


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 ゲルニウムの戦い−下(さらに続き)
 ラエリウス、やあと気合いを上げると、猛然とマニアケスに向かって突進した。
「いくぞ!マニアケス!」
「お前に私が討てるか!」
 マニアケス、微笑すら浮かべ、こちらもラエリウスに向かって駆け出した。
 マッシリア、ティキヌスで対決した両者。三度目の対戦。これまでは、いずれもマニアケスが圧倒的な技量を見せ押しまくったが、今回はいかに。
「うおおお!」「おおおお!」
 二つの光が一閃した。
 よほどの衝撃か、二人の手にする槍は折れ曲がっていた。
「むっ」「ちぃっ」
 二人は槍を打ち捨てると、今度は剣を抜いた。
「いくぞ!」「来い!」
 両者は激しく打ち合った。が、容易に決着がつかなかった。
 マニアケスは驚いた。
 僅かに見ぬ間に、ラエリウスの技量が格段に上がっていたからだ。



「貴様…腕を上げたな」
「お前を討ち取るためよ!だあっ!」
 猛然と襲いかかる刃を、マニアケス、はっしと受け止める。それを跳ね返すと、お返しとばかりに轟然と振り下ろす。それを今度はラエリウス、がっと受け止める。
 二人の華麗な戦いに、いつの間にか、周りに両軍の兵士が集まって来ていた。
「そこだ、そこを打てラエリウス!」
「負けるな!我がカルタゴの兵よ!」
 マニアケスの存在は秘密裏のことゆえ、彼女の名は知られていない。だから、そんな風に声援を送った。



 その時である。北の方角から大きな喚声が上がった。
 独裁官ファビウス率いる部隊だ。総勢二万。全兵力を挙げて駆けつけてきたのだ。
「それっ!敵の側面を衝くのだ!」
 ファビウスは叫んだ。
 ローマ重装歩兵が隊列整え、わあっと突き進んでいく。
 疲れを知らぬ新手の大部隊。それが群がるカルタゴ軍の側面を衝くと、カルタゴ側はどっと崩れたった。
「うわっ!」「これはいかん!」
 援軍到来にミヌキウス隊も俄然元気を取り戻し、頑強に押し返し始めた。
 こうなると、元来野戦の得意なローマ軍。強さを発揮する。



「ちっ、またしても邪魔が入ったか」
 マニアケス、忌々しそうにいった。
「勝負はまた後日」
 そういうと、彼女はくるりと馬首を巡らせた。
「待てっ!逃げるか!」
「はは。味方の危急を救うが第一。お前もそうだったのであろうが」
 笑い声を残し、彼女は味方の方へ駆け戻っていった。
 その後ろ姿を凝視していたラエリウスであったが、彼も戻っていった。



 しばらく激戦が続いたが、カルタゴ軍は、ファビウス隊の猛烈な反撃に遭うと、
「よーし!退却だ!」
 マゴーネの合図に、潮が引くように全軍退却していった。
 後には、両軍兵士の死体が無数に転がっていた。
 カルタゴ側の被害も少なくなかったが、それ以上にローマ側の被害は甚大であった。不利な地形に追い詰められ、四方より攻め立てられたため、多くの犠牲を出してしまった。
 ファビウスの救援がなければ、そのまま潰滅していたに違いなかった。


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 ゲルニウムの戦い−下(続き)
 重囲に陥ちたミヌキウス。
(ハンニバルにしてやられた…)
 後悔に体中の血が逆流しながらも、必死に槍を振るい続けた。
 そこにまたしても。
「そこにあるはローマ軍騎兵長官ミヌキウスであろう!」
 カルタゴ騎兵が一騎、飛ぶように迫って来る。
「何奴!」
 ミヌキウス、大喝した。
「総司令の衛兵の一人マニアケスだ!勝負!」
 鬼気迫る形相となっていた。彼女も、今日という日に大いに期していた。
 馬を寄せるなり猛然と槍を繰り出した。
 ミヌキウス、辛うじて盾で防ぐも、その凄まじい衝撃に上体をのけ反らせた。



「おおっ」
(こいつ…なんて力だ)
「それっ!それっ!」
 マニアケス、息もつかずに穂先を繰り出した。
「わっ!わっ!」
 ミヌキウス、必死に防ぐも、みるみる間合いを詰められていく。
「おおおお」
 マニアケス、雄叫びと共に渾身の突きを繰り出した。
 ミヌキウスの槍は彼方へと弾き飛ばされてしまった。
「し、しまった!」
「ミヌキウス、覚悟!」
 マニアケス、上段に振り上げた。
 ミヌキウス、観念して目をつむった。



 が、その時。
 凄まじい唸りが彼女の耳許に迫った。
「ちいっ!」
 マニアケス、とっさに槍の胴を左に薙ぎ払った。
 投槍が真っ二つになって、ぽとりと下に落ちた。
 彼女がきっとその方角を見ると、悍馬の上に若武者が一人。
「ミヌキウス殿!まだまだこれからですぞ!」
 ガイウス・ラエリウスであった。
「おお!ラエリウス!」
 ミヌキウスは喜悦した。


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 ゲルニウムの戦い−下 
 その頃、ミヌキウス軍は、ハンニバル軍の布陣する丘に殺到していた。
 補給のため兵を分散させていたためか、丘の麓を守るカルタゴ兵の一隊は、すぐに駆け散らされた。
「ははは。なんと手応えのない奴らよ」
 さらに遭遇した別の隊も、まともに戦うことなく算を乱して逃げ出した。
「見よ!ローマ軍に敵う相手はこの地上にはおらんのだ!」
 ミヌキウス、鞍を叩き快哉を叫ぶと、丘の上を指差した。
「それ!一気に攻め上がりハンニバルを討つのだ!」
「おおお!」
 ローマ兵は士気天を衝かんばかりになって、丘を一散に駆け上がっていく。



 ミヌキウス隊のローマ兵は駆け上がるや、敵陣の柵をめりめりと押し破り、
「それっ!ハンニバルを討ち取れ!」
 と、一気呵成に突入した。
 が、そこには意外な光景が広がっていた。
「こ、これはっ…!」
「どうしたことぞ!」
 そう。陣内は人っ子一人なく、幕舎が整然と並んでいるだけであった。
 これが何を意味するか、すぐに察しがつく。
「罠だ!我らはおびき寄せられたのだ!」
 ミヌキウスは思わず叫んだ。



 その途端。
 ラッパが鳴り響き、東の方角から敵の軍勢が突入してきた。
 副司令官マゴーネ率いる一隊だ。
「それっ、敵は罠にかかったぞ!」
 精鋭のカルタゴ重装歩兵が槍を揃えて、喚声上げ押し寄せて来た。
「いかん!引くのだ!」
 ミヌキウス、慌てて馬首を巡らせた。
 が、西の方からも敵兵が殺到してきた。ヒッポクラテス率いるギリシア人傭兵隊だ。
「憎きミヌキウスを討ち取れ!」
 マケドニア式の長槍を構え、勇気奮わす戦歌も高らか、猛然と突進してくる。
 ミヌキウス隊は東西から挟撃される格好となり、どっと崩れたった。しかも、丘の頂の狭隘な地形。後方に退くことは不可能だ。
「やむをえん!前方へ進み丘を降るのだ!」
 ミヌキウスは声を枯らした。
 ミヌキウス隊は、敵の攻撃を振り切るように、ひたすら前へと突き進んだ。



 ローマ軍は奔流の如くになって丘を駆け下った。
 が、麓には彼らを待ち構えているものがあった。
 ヌミディア騎兵がずらり、真一列になっていた。
「あああっ!」
 ミヌキウス、慌てて手綱を引いた。
「待ちかねておったぞ。ミヌキウスめ」
 隊長マハルバル、槍を隆々しごいた。彼も先の敗戦の雪辱に燃える一人だ。
「それっ、この前のお返しをしてやれ!」
 ヌミディア騎兵が一斉に飛ぶように迫り来る。
 広い平地は騎兵の独擅場。しかも、ミヌキウス隊の隊列は崩れたっている。そんなところを襲われては、騎兵の格好の獲物となるしかなかった。
 馬蹄に弾き飛ばされ、矢にあたり、穂先にかかった。
「うあっ」「ぎゃっ」
 ローマ兵は、あえなく倒れていく。
 そこに、ボミルカルの子ハンノン率いるカルタゴ騎兵が駆けつけてくると、カルタゴ側の優勢が歴然。さらに、背後からマゴーネ隊、ヒッポクラテス隊が追いつくと、四方からミヌキウス隊を猛烈に攻め立て始めた。


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