|
https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリア進出を果たしたハンニバル。連戦連勝し、ついには平民の英雄フラミニウスを、トラスメネス湖畔におびき寄せ、濃霧の中に奇襲して潰滅せしめる。
この非常事態に、ローマは重鎮のファビウスを独裁官に選任。
ハンニバルとファビウス、穀倉地帯カンパニアで駆け引きを繰り返し戦線は膠着。虚を衝いて奇襲を敢行したファビウスに対し、ハンニバル、火牛の計を施し、無事アプリアへ通過。
軍内の不満にファビウスに代わり指揮を取るミヌキウス、ゲルニウム近郊でハンニバルを一敗地にまみらせることに成功。が、ファビウスは従来の持久戦をなおも主張し、ミヌキウスとついに分裂。
ハンニバル、これを見て、再び動き出す。
新たな父(続き)
ここファビウス軍の本陣。
カルタゴ軍を撃退し、大いに沸いていた。
総司令ファビウスは、功のあった将卒を招き寄せ、大いに賞賛していた。
将兵は歓声を上げつつ、ここにようやく納得していた。
「こういう時のため、ディクタトル閣下は動かずにおられのだ」
「うむ。随分不平をかこってきたが…大いに反省せねばならぬ」
そこに兵がやってきて告げた。
「騎兵長官殿とその麾下の兵がやって参りました」
「む」
見ると、口を真一文字にしたミヌキウスが、配下の兵を従えて、ぞろぞろこちらにやって来る。
(ご機嫌斜めのように見受けられるが…)
(我らの活躍が気に入らんのであろうよ)
ファビウスの兵はこそこそ囁いた。
だが、そのミヌキウス、ファビウスの前に来ると、片膝を地につけ深々と礼した。
「ディクタトル閣下」
神妙に切り出した。
「私は、父母に生を享けこの世に生まれました。ところが、今日、その命が尽きんとし、私もそのように覚悟いたしました」
「しかるに、閣下は私を死の窮地よりお救いくださりました。これ新たに生命をお与えくださったのと同じこと。まさしく父母に等しき恩愛をお与えくださったのでございます」
彼の声は震えていた。
「しかも…しかも我が多くの将卒の命もお救いくださいました。このようなる偉大な恩を被った以上、もはや閣下以外の誰を大将軍と仰ぎましょう。今後は、閣下一人を新たな父とも仰ぎ、その御指図に従い、粉骨砕身働く所存」
それは、これまでの非礼の言動を悔い詫びると共に、そんな自分を救ってくれたファビウスに、まさに父母に相対するが如き礼をとることにより感謝の言葉を捧げたもの。
不器用な武骨者らしい物言いであった。
あたりはしんと静まり返った。
つい先ほどまでミヌキウスの傲慢に憤っていた者たちも、今は感動に涙を流していた。
「ミヌキウス殿、顔を上げられよ」
ファビウスはいつもと変わらぬ穏やかな口調で言った。
「余は、君が愛国者であることを疑ったことは一度たりともない。これまでのことも、貴君の国を想う熱情ゆえであることも承知。何を恥じることがあろう。今後は、我ら力を併せ、国家のため共に尽くそうではないか」
そういって手を差し出した。
「ありがたき…ありがたき」
ミヌキウスは、その手を押し頂いた。
ファビウスは、ミヌキウスを立たせると、その肩を叩き抱擁した。
他の将卒も感極まったのか、ファビウスの将兵とミヌキウスの将兵らが、彼方此方で抱き合い、歓喜の涙を流し合っていた。
それからというものの、ローマ軍は独裁官ファビウスの許に一致結束し、陣を強固に守備し、乱れを見せることはなかったという。
間もなく、独裁官の半年の任期が終わり、ファビウスはローマ本国に堂々帰還した。
|