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ミルトとタウレア(続き)
「よくぞしてくれた。そなたの望むものは何でもとらすであろう」
彼は、自身に尽くして呉れる者に言う決まり文句を吐いた。
それに応じ、ミルトはすかさず申し出た。
「一つ願いがございます」
「何じゃ。遠慮なく申せ」
「はい。タウレア様のおそばに上がりたく存じます」
「なに」
カラヴィウスは目を見開いた。
「それは無理だ。やつは妻帯者」
タウレアは眉目秀麗な勇者。だから、慕う女たちは山ほどにいた。最近の敗北で若干人気は落ち目ではあったが。
ミルトは首を振った。
「妻になろうという野心など毛頭ありませぬ。おそばに仕える召使いでも構いませぬ」
「それでよいのか」
「それで満足です」
ミルトはしおらしげにいった。
「ふーむ。ならば、タウレアに話してみるとしようか」
その後。カラヴィウスの半ば強引な口利きで、ミルトはタウレア家の奉公人となった。
はじめ、妻の手前渋っていたタウレアであったが、最高権力者カラヴィウスのたっての頼みとあって、
「奉公人の一人ということでしたら…」
と、最後には折れてしまった。
そんな経緯ではあったが、
「以後、よろしく頼むぞ」
タウレアは、笑顔で彼女を迎え入れた。
こうなれば、マニアケス仕込みの術がものを言う。タウレアが、ミルトの色香に迷い出すのは時間の問題であった。
しばらくして、ミルトに暇が出された。だが、それはタウレアが妻の目を避け、彼女と会うためであるという、もっぱらの噂であった。
「あなた…」
タウレアの妻は、夫が宵の口に出かけようとするのを呼び止めた。
「なんだ?」
「また…あの女の所でございますか」
それは嫉妬と聞こえぬよう、つとめて平静な口調であったが、後ろめたい人間には、それすらも嫉妬に響く。
「違う。公務で城内を巡察するのだ。そのような邪推は止めにせよ」
不機嫌に言い放った。
「邪推ではございません。あなたの名誉を思えばこそ…」
妻の眉は悲しげに曇った。
近頃、市民の悪評は高まりつつあった。
(戦地で戦果は上げられぬが内地で戦利品を上げている)
そんな揶揄にも似た非難であった。
「私の名誉か…そのようなもの、とうに失墜しておる」
タウレア、自嘲気味に言った。
「いいえ」
妻は気丈に首を振った。
「機は訪れます。そこで勝利すれば、人々は必ずや旦那様を見直すに違いありませぬ。それゆえ、日々の振る舞いが肝要…」
「黙れっ!」
「旦那様!」
「余の名誉は余が考える。よけいな口を挟むな」
そう言い捨てると、タウレアは足音荒らかに出て行った。
妻の見立て通り、タウレアはミルトに溺れていた。
「そなたの腕に抱かれると、心穏やかになる」
彼はそういった。
彼は心底疲れていた。五年に及ぶローマとの激烈なる戦い、そして立て続けの敗北。指導者の叱責、市民の誹謗中傷、罵声。
(もう…武の道を捨てたい)
そう願うようにすらなっていた。だが、四囲の状況がそれを許さない。戦況厳しく、ローマの大軍がカプアの城を取り巻こうとしているのだ。
「なんの。ご心配には及びませぬ」
ミルトは励ました。
「わたくしの占いによれば、旦那様は間もなく勝利を掴む、と出ています」
「ほう…そなた、占いもたしなむのか」
「はい。ヘタイラといえども、何かしら芸を身につけねばなりませぬ。それゆえ、かつて星占いの先生に色々教えを請いまして」
「ふーむ。そうか。勝利が来るか」
タウレア、生気が蘇って来た。やはり、彼は武人だ。勝利を夢想するだけで、ふつふつと体に熱い血が駆け巡るのを覚えた。
そして、その機会は、意外にも早く訪れることになる。
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