新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第7章地中海の章

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※タラス市街の地図については11月28日掲載分を御覧下さい。岬の先端の「城山」と記載ある地点がアクロポリスのことです。


 愛国心を掻き立てる(続き)
「それでは、これから市街に潜むローマ人の掃討にかかる。ついては、我が兵が誤って市民諸君に襲いかかってはならぬゆえ、門扉に『タラス市民』と書き付けておき給え。なお、市民に非ずしてその書き付けをした者は、敵と見なし死罪に処すであろう」
 市民は家々に帰ると、早速に、門や扉に『タラス市民』と大書した。
 間もなく、カルタゴ兵やガリア兵による、苛烈なローマ兵狩りが始まった。家々に潜むローマ人が引きずり出され捕縛されていった。そして、その家にある家財は容赦ない略奪にあった。そう。兵士たちは、その略奪品目当てに摘発に励んでいた訳だ。
 連行されるローマ人に、市民たちの罵声が飛んだ。
 昨日まで、同じ街に住む隣人として挨拶すら交わしていたというのに、この豹変ぶりであった。
「ざまあみろ!」「先に使節を惨殺した報いぞ!」
 僅か一日の間に、市民の気分は全く一変していたのだ。
 ハンニバル軍を解放軍と見立て、独立再復の高揚に取り憑かれていた。



 市内を完全に制圧したハンニバル軍は、ローマ兵の立て籠るアクロポリスに向かって進み始めた。
 アクロポリスは港湾に突き出た半島の先端にある。市域との境界には城壁が連ね、そして空堀が穿たれていた。
「ヒミルコ」
 ハンニバルは、若き将を馬前に呼びつけた。
「はっ」
「アクロポリスの城壁に並行して柵を打ち付けよ」
「ははっ」
 カルタゴ兵とガリア兵は、土中に杭を打ち、そして、木と木を縄でぎゅっと結び、柵をせっせと構築し始めた。万余の軍勢が、秩序正しく総出で作業に当たったため、みるみる仕上がっていく。



 当然、その様子はアクロポリスからも歴然眺められた。
「おおっ、ハンニバルめ!我らをここに閉じ込めるつもりよな!」
 守備隊長リウィウスは焦燥した。
 兵糧を断たれては飢え死ぬだけ。
「あの柵を破壊するのだ!」
 隊長以下、五千のローマ兵は、決死の覚悟で不意に打って出た。
「それっ!カルタゴ兵を討ち取れ!」
 突進したローマ軍は、作業に当たっていたガリア兵を大混乱に陥れ、いっときアゴラに迫る勢いであった。



 だが、その時、ラッパの音が鳴り響いた。
「あっ、右から敵軍だ!」「左からも!」
 右からハシュドゥルバル率いるカルタゴ重装歩兵隊が、左からマニアケス率いるガリア騎兵隊が攻め寄せて来た。
「それっ、敵を討ち取れ!」「負けるなっ、諸君!」
 狭い戦場で両軍入り乱れての激戦となったが、挟み撃ちを受けたローマ兵の隊列はどっと崩れ立ち、やがて多くの犠牲を残し、アクロポリスに退却していった。


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※タラス市街の地図については11月28日掲載分を御覧下さい。

 愛国心を掻き立てる 
 夜が明けると、タラス市民は驚いた。道々にローマ兵の死骸が転がり、ガリア兵が戦利品としてその死骸から鎧や兜を剥ぎ取っていたからだ。
「これは…」
「一体何事が起きたのだ?」
 やがて、ヌミディア騎兵が堂々闊歩するのが見えると、
「これは…ハンニバル軍だ」
「我が街はハンニバル軍に占領されたのだ」
 ようやく、事態が呑み込めてきた。



 間もなく、彼ら兵士の手により札が辻々に立ち、またフィレメノス一派の呼びかけにより、アゴラに集まるよう布告がなされた。
「とにかく行かねばなるまい」
 人々は、これから一何が起こるのか、戦々恐々、アゴラへと集まって来た。
 周囲にはガリア兵が槍を揃え、睨みを利かせている。
 そのガリア兵たちが演壇を設えると、一人の将が深紅のマントを翻らせ颯爽現れた。
「あれは…」「ハンニバルか…」
 市民は口々に囁いた。



「タラス市民諸君!」
 ハンニバルはギリシア語で語りかけた。
 そのことに市民はまず驚いた。
「我らは、勇敢なる市民同志の求めに応じ進んで来たもの。それは、ローマの支配から諸君を解放する崇高なる志に感銘を受けたからである」
 そうして、傍らに居並ぶフィレメノス一派を大いに称揚した。
 青年たちは、顔を紅潮させて、誇らしげに胸を反らせている。



(あの遊び呆けていた若者たちが…こんな大それたことを…)
 大人たちは驚きながらも、ようやく今回の事件の全貌を理解した。
「我らは、諸君を支配するため来たものではない。共にローマと戦うために来たもの」
 ハンニバルは、タラス市の独立回復を約束した。無論、カルタゴとの同盟が条件であると付言することも忘れずに。
「我がカルタゴと共に歩むことで、諸君らは、かつての独立したギリシア人国家の姿を取り戻すことができる。勇者ラケダイモン(スパルタ)びとの末裔である祖先の誇りを取り戻すことができるのだ」
 タラスは、繰り返しになるが、スパルタ人により植民建設された都市である。
 ハンニバルは、その出自を想起させ、人々の愛国心を掻き立てた。独立独歩の時代を讃え、それに回帰することが正義であると訴えた。
「諸君!我らと共にローマと戦おう!」
 市民から、わあと歓声が上がった。


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−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、カンネーの地でローマ軍を包囲撃滅(紀元前216年春)。その勢いを駆ってローマ最大の同盟国シラクサを味方に付けることに成功する(紀元前215年初頭)。
 が、そのシラクサで政変が起き親ローマ派政府が樹立されると、ハンニバルが送り込んだヒッポクラテス、エピキュデス兄弟は、傭兵を味方につけシラクサ本市に攻め込みローマ派政府を打倒。
 さらに、マニアケスが非常の策を用い、天才科学者アルキメデスを味方に付けることに成功。ローマのマルケルス率いる大軍の襲来も、アルキメデス考案の新兵器により見事退けた(紀元前213年)。
 シラクサを押さえたハンニバル、ローマに反発するタラスの若者たちを抱き込み、細心の注意を施し、暗闇の中、タラス攻めを開始した。


 食欲に負ける(さらに続き)
 同じ頃。
 ニコンとトラギスコスら率いるタラスの若者たちはテメニデス門に不意に襲いかかっていた。普段、親しく会話をしている間柄ということもあり、ローマ兵は油断を衝かれ、悉く捕縛されてしまった。
「さあ、門を開けよ!ハンニバル殿を迎えるのだ!」
 トラギスコスは、城の外に向け松明をぶんぶん回した。
 すると、向こうでぼうと火が一斉に灯った。まるで炎の大軍である。
 ハンニバル軍である。今か今かと待ち構えていたものだ。
 ハンニバル、すっと抜刀した。
「突入だ!」
 将兵はここではじめて喚声を上げ、ヌミディア騎兵を先頭にカルタゴ重装歩兵の大部隊が続き、城内にどっと雪崩れ込んだ。
 


 その頃。守備隊長リウィウスは、アゴラ近くの宿舎で、泥酔して眠りこけていた。
「隊長!隊長!」
 外でローマ兵ががんがん扉を叩いた。
「うーむ。なんだ」
 リウィウスは、指揮官の本能で剣を掴むと、寝ぼけ眼のまま立ち上がった。
 扉を開けると、血相を変えた兵がまくしたてた。
「大変です!ハンニバル軍が突入して来ました!」
「な、なんだと!」
「はやアゴラにはガリア兵が現れ、我が兵と戦闘を繰り広げております!」
「ばかな!どこから入って来た!」
「詮索している暇はありませぬ!すぐにお逃げください!」
「わ、分かった」
 喚声が既に轟いている。もはや一刻の猶予もない。
 リウィウスは、寝間着のまま宿舎を脱兎の如く飛び出すと、市街の北岸の船着き場に出て、そこに繋いである小舟に飛び乗った。そして、従者に漕ぎに漕がせて、アクロポリスへと逃れていった。



 リウィウスが逃げ出した頃には、ヌミディア騎兵の馬蹄がアゴラを駆け巡り、抵抗するローマ兵を蹴散らしていた。
「ローマ兵は一人残さず討ち取れ!」
 マハルバルは叫んだ。
 そこにカルタゴ重装歩兵が押し寄せて来ると、勝負はあった。政府機関はたちまち彼らにより占拠されていく。
 ローマ兵はアクロポリスに向かって逃げ出すよりほかなかった。
 紀元前212年初め。
 タラスの市街は、ハンニバルの軍勢により制圧されたのであった。


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−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、カンネーの地でローマ軍を包囲撃滅(紀元前216年春)。その勢いを駆ってローマ最大の同盟国シラクサを味方に付けることに成功する(紀元前215年初頭)。
 が、そのシラクサで政変が起き親ローマ派政府が樹立されると、ハンニバルが送り込んだヒッポクラテス、エピキュデス兄弟は、傭兵を味方につけシラクサ本市に攻め込みローマ派政府を打倒。
 さらに、マニアケスが非常の策を用い、天才科学者アルキメデスを味方に付けることに成功。ローマのマルケルス率いる大軍の襲来も、アルキメデス考案の新兵器により見事退けた(紀元前213年)。
 シラクサを押さえたハンニバル、ローマに反発するタラスの若者たちを抱き込み、細心の注意を施した上で、暗闇の中、タラス攻めを開始した。


 食欲に負ける(続き)
 門が開くとフィレメノスがにゅっと顔を出した。
「お役目ご苦労に存ずる。ただ今戻りましてございます」
「おお。無事であったか」
「無事?何かあったのでございますか?」
 フィレメノス、白々と聞いた。
「今日、近くにヌミディア騎兵が出没していると聞いた。だから、戻って来ないのではないかと案じていたのだ」
「ああ、あれですか。わたくしも見かけましたが、なにやら斥候のようで。間もなく遠くへ退散するのが見えましたが」
 フィレメノス、そんなことかという風にいった。



「おお、そうか」「それはそれは」
 守備兵は、ほっと緊張を緩めてしまった。
「さあさあ。そんなことより、今日の獲物は大物ですぞ」
 従者らしき男たち四人が戸板を運び込んだ。従者たちは、いずれも大男で見慣れぬ顔であった。しかも、なにゆえか頭巾を深くかぶっていた。
 明らかに怪しい出で立ちであったが、守備兵ははや舌なめずりして、注意を猪に奪われていた。
「おおっ、これは大したもの」
 兵たちは、大喜びして戸板の周りに集まってきた。ある者は猪を撫でたりしている。



 その時である。
 フィレメノスが目配せするや、彼の従者たちが一斉に棍棒を振り上げた。
 そして…。
「ぐわっ」「げっ」
 ローマ兵たちは一声呻くと、その場にどうっと倒れた。
 全員大の字に伸び、気絶してしまった。
「ふふ。これがこれまでの肉の物代。悪く思うな」
 フィレメノスは冷笑した。
 従者たちは衣服をかなぐり捨てた。すると、筋骨逞しいガリア兵が現れた。
 そして、彼らが声をかけると、重武装したガリア兵が内へ続々入って来た。
「さあ!市域に前進だ!」
 フィレメノスを先頭にガリア兵三百が市内に向かって突き進んだ。


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 食欲に負ける 
 その頃。ローマ軍タラス守備隊長のリウィウスは、とある報告に接していた。
「なに!ヌミディア騎兵が現れたと!」
 ヌミディア騎兵といえば、ハンニバル軍の主力。当然、すわとなった。
「兵力は!」
 守備隊長は腰を浮かせ、急き込んだ。
「それが…」
 八十騎に過ぎないこと、そして、兵は自身の見込みとして、斥候か調達に出て来たものらしいと付け加えた。
 それは、確かに合理的な見立てであったが、不用意に上司に先入観を与えるものであった。



 案の定、リウィウスは、ほっと安堵の息をついた。
「なんだ、その程度か。ならば、何の問題もない」
 いかにヌミディア騎兵が勇猛とはいえ、八十騎では城攻めは不可能だし、そもそもそんな意図はないと思い込んだ。
「ただ、相手はハンニバル麾下の精鋭。城門を守る兵には注意怠るなと命じておけ」
「ははっ」
「では、わしは、市民との会合に行って来る。何かあれば知らせよ」
 浮かれた足取りで出かけていった。
「はい…」
 そう答える兵の顔は、少し苦いものになっていた。
 隊長が、夕刻になれば、将校を伴い有力市民たちとで恒例の酒盛りをしていることを知っていたからだ。はじめは、市民との融和という正当な目的があったが、途中から酒を飲むこと自体に目的が変じ、勘付いた将兵たちの緊張が緩んでいた。



 守備隊長リウィウスの命令が伝えられると、各門の守備兵は持ち場を固めた。交代で寝ずの番に立ち、警戒に当たった。
 テメニデス門から一つ南の小さな門。
 ここも警戒厳しくしていたが、ここの守備兵には、今日、ある愉しみがあった。
「間もなくフィレメノスが帰って来る」
 兵たちは、彼の持ち帰る肉を待ち詫びていた。
 はじめ、夜に門を開けることを渋っていたが、近頃は進んで開けていた。この時代、肉はそれだけ贅沢品だったのだ。
 そう。彼らローマ兵は、いわば食欲に負け、監視すべき市民と馴れてしまっていた。
(なに。相手は一人。しかも名家の子)
 そんな油断が、そういう異例を正当化させていた。



 間もなく。
 城の外で口笛が鳴るのが聞こえた。
「おっ、帰って来たぞ」
 閂をさっと外し、いそいそ門を開けにかかった。
 そう。すっかりとそんな要領が習慣付いていた。


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