新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第7章地中海の章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、カンネーの地でローマ軍を包囲撃滅(紀元前216年春)。その勢いを駆ってローマ最大の同盟国シラクサを味方に付けることに成功する(紀元前215年初頭)。
 が、そのシラクサで政変が起き親ローマ派政府が樹立されると、ハンニバルが送り込んだヒッポクラテス、エピキュデス兄弟は、傭兵を味方につけシラクサ本市に攻め込みローマ派政府を打倒。
 さらに、マニアケスが非常の策を用い、天才科学者アルキメデスを味方に付けることに成功。ローマのマルケルス率いる大軍の襲来も、アルキメデス考案の新兵器により見事退けた(紀元前213年)。
 シラクサを押さえたハンニバル、次の標的をタラスに定め、ローマに不満を抱くタラスの若者を抱き込む策を施した。


 人の心を統御す 
 フィレメノスたちは、それから同志を密かに集め、反ローマ決起の計画を入念に練り始めた。様々な準備も整えていった。
 そして、とある日。
 フィレメノスは、狩猟と称して城の外へ遠出した。親友のニコンとトラギスコスも従っていた。
 フィレメノスの狩猟好きは、よく知られている。だから、誰にも怪しまれずに城外へと出ることができた。
 三人は、郊外に出て市民の目がなくなるのを確認すると、
「よし、一気に駆けるぞ!」
「おう!」「行こう!」
 馬に鞭打ち、飛ぶように一路、西の方角を目指した。
 彼らが城の外へ出て来たのは、密かに従者に命じて調べさせ、ハンニバルの軍が接近していることを確かめていたからだ。



 三日後。
「あれは…」
 向こうの山麓に、軍旗閃く長大な陣営が目に飛び込んで来た。
「ハンニバルの陣営だ…」
「よし、では行って来る」
 フィレメノスが意を決したよう馬から降り立った。
「本当に一人で大丈夫か?」
 ニコンが心配げに訊いた。
 そう。フィレメノス一人で会見に臨み、もし、事が不調に終わり、捕縛されるようなことがあれば、残った二人はそれを同志に知らせるとの手筈であった。つまり、彼らも、ハンニバルをまだ完全には信用していなかった訳だ。
「大丈夫だろう」
 フィレメノス、自身に言い聞かせるように言った。
「ハンニバルは寛仁の将と聞く。そもそも人の話に耳を傾けぬ男が、勝利を重ねられる訳もなし」
 そういうと、フィレメノス、ハンニバルの陣営に向かった。



 そのハンニバル、既に、フィレメノスたちがこちらに向かっていることを知っていた。
「マニアケス、うまくやってくれたな」
 ハンニバル、会心の笑みを浮かべた。
「は。随分と細工を重ねましたが…」
 マニアケス、元のカルタゴ軍将校のいでたちに戻っていた。
「ふふ。アフロディーテの女神にも化けたとか」
 冷徹なハンニバルも、愉快そうであった。
「はい。恐れ多いことでしたが、策の効果はてきめんと」
 彼女は苦笑いを浮かべた。
 タラスに入り、不満を煽り、反ローマの勢力を形成すること。これを命じられてタラス市内に潜入していた彼女であった。要は、語るに足りる相手がいなければ、策の施しようがないからであった。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ネクロポリス(続き)
「おい、ここに!」
 ニコンが指を差した。
 墓石の片隅に、金で文字が刻まれている。
『陽沈む方角に新たな希望出ずる。使命を胸に直ちに立て』
「これは…」「まさに神託ぞ!」
「いや、メトン殿をして、子孫の我らに語りかけさせているのだ」
 三人は、躍り上がらんばかりにして喜んだ。
「陽沈む方角…西方にある勢力」
「それは…」
 三人は顔を見合わせた。
 西方の新興勢力とは、ハンニバルとその軍の外をおいてなかった。
 このとき、三人は、ハンニバルと手を結ぶことを決意した。ローマから離反し、ハンニバルの勢力を招き寄せ、祖国タラスの独立の回復を図ろう、と。



「よし。ハンニバルの陣営に向かおう」
 フィレメノス、語気を強めた。
「…でも、どうやって渡りをつける?」
 トラギスコスが訊いた。彼らにハンニバルへの伝手など全くない。
「俺に考えがある」
 フィレメノスが言った。
「とにかく、俺の家で打ち合わせをしよう」
「うむ。とにかく、女神の御加護あること」
「なんと心強いことか」
 三人は、期待した通りの神託を得て大いに喜び、元来た道を急いで戻っていった。



 やがて、木の陰から一つの影が現れた。
 灯火が、その顔を照らし出した。
 神殿にいた巫女であった。いや、その衣装を脱ぎ捨てると、別の正体が現れた。
 マニアケスである。
「ふふ。うまく運んだな」
 彼女は、独りごちて笑った。
 そう。デルフィから来たと称して巫女に化け、アフロディーテ神殿で怪しげな神託を授けていたのは彼女であった。彼女の美貌に魂を奪われた神官たちは、すっかり信じ込み、彼女の操るまま動いたという訳だ。



「この私が女神アフロディーテ…か」
 我ながらおかしく、ついには堪えきれなくなり、美しい笑い声を当たりに響かせた。そして、女神の化身の如く姿を消した。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ネクロポリス
「では、未明に集まろう」
「うむ」
 三人は、再び参集することを約し、一度別れた。
 数刻後、三人は、街の東のネクロポリス近く、即ち、墓地の近くに再び集まった。



 タラスでは−極めて珍しいことであったが−他の都市と異なり、城壁の中に墓地があった。普通、死者の眠る地は城外と定められている。死を遠ざける禁忌の意識からであろう。
 これは、ある神託が理由とされる。即ち、昔のタラスの人々は神託を求めた。どのようにすれば豊かになれるか、と。
 下された神託は以下のものであった。
『もっと城壁の内に多くの人を住まわせれば、タラスは豊かになれよう』
 とはいえ、総じて人口乏しい古代。また、嬰児の生存率の極端に低い時代のこと。人口をそんなに簡単に増やせるものではない。
 そこで、死者も内に住まわせればよいと解釈し墓地を城内につくった。その後、それが奏功したのかどうか、タラスは南イタリア屈指の豊かさを誇る国に成長したという。



 三人は、松明を手に、墓地の中をてくてく歩いた。当てのあるようなないような、という感じで。
「少し…気味が悪いな」
「ふふ。怖じ気づいたのかニコン」
  フィレメノスがそういうと、
「そういうフィレメノスも、震えているではないか」
 トラギスコスがからかった。
「なにをいう。トラギスコス、貴様も顔色が悪いぞ」
 ニコンが口を挟んだ。
「なんだと」
「よせよせ。これから身を清く誓願せんとの我ら。下らぬ言い争いはよしにしよう」
 フィレメノスがたしなめた。
「なんだ。結局、フィレメノスがまとめおった」
 トラギスコスが仏頂面になった。
「ずるいぞ。お前が口火を切ったのに」
 ニコンも言った。
「ふふふ。争いとは、第三者が得をするものぞ」
 フィレメノスは、したり顔でそういった。



 と、その時。
 前方に灯火が浮かび上がったかと思うと、サンブカの音色が流れて来た。
「おっ」「これは!」
 三人は、神の降臨の兆しと見て走り出した。
 と、そこにはアフロディーテ女神の石像が立ってあり、灯火を手にしていた。
「おお…」
 その灯火が煌々照らし出していたのは、一つの墓石であった。
「この墓標は…」



 それは、メトンという人物の墓であった。
 その昔の元老院議員で、かつてローマと戦うに際し、エピロスのピュロス王への援軍要請に、最後まで反対した人物である。
『ピュロスを招くことは、独裁を招き寄せるだけ』
 国家の自由と独立の保持を第一に、暗にローマとの和平を図った。
 だが、そうはならなかったのはご存知の通り。その後、ピュロスの敗退によりタラスはローマに降伏した。内政の自治こそ保ったが、外交・軍事の自主を失った。
 はじめからローマと和平や同盟の協議をしておれば、こんな属国の地位に転落することはなかったであろう。
 敗戦後、人々は、メトンの言葉が身に沁みたに違いない。

イメージ 1

※↑ギリシア本土デルフィのアポロン神殿の遺跡です。ここが神託の本場とされていました。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 煙の女神(続き)
 すると、音曲が朗々流れ始めた。何かを宥めるような、優しい音色であった。
「これは…サンブカの音色か?」
 と、その時であった。
 煙の中に紫色の模様が浮かび上がったかと思うと、みるみる人の形になっていく。
「こ、これは…」「女神アフロディーテか…」
 眼前の神異に、三人は思わず腰を浮かせた。



 その煙の『女神』はいった。
「願いを言いなさい」
「は、はいっ!」
 三人は慌てた。この驚異に疑念など消し飛んだ。
 代表して、フィレメノスが身を乗り出した。
「実は…」
 彼は、ローマによる市民の処刑に憤っていること、いかにしてローマの支配から脱することができるか、心の内を赤裸々に明かした上で、
「我が国の今後進むべき道をお示し頂きたいのです」と訊ねた。
 内室はそれきり静寂となった。なかなか『女神』が答えないのだ。
(おい…今一度申した方が良いのでは)
(いや…神に念を押すなど無作法だぞ)



 随分待たされた挙げ句、『女神』はこう答えた。
「ネクロポリスに向かいなさい」
「ネクロポリス?」
 三人は顔を見合わせた。
 ネクロポリスとは死者の街、即ち、墓地のことだ。
「そこに汝らの希望の言葉がある」
(死の支配する空間に希望とは…)
 三人は変な顔をした。



「…でも」
 口を挟んだのはニコン。
「ネクロポリスといっても広うございます。どこに行けば…」
「行けば分かる。明日の日没後、暗闇の落ちた後に向かえば、そなたたちを導くものがあろう」
 それきりであった。もう何を訊ねても、『女神』の言葉はなかった。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)

−これまでのあらすじ−
 アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、カンネーの地でローマ軍を包囲撃滅(紀元前216年春)。その勢いを駆ってローマ最大の同盟国シラクサを味方に付けることに成功する(紀元前215年初頭)。
 が、そのシラクサで政変が起き親ローマ派政府が樹立されると、ハンニバルが送り込んだヒッポクラテス、エピキュデス兄弟は、傭兵を味方につけシラクサ本市に攻め込みローマ派政府を打倒。
 さらに、マニアケスが非常の策を用い、天才科学者アルキメデスを味方に付けることに成功。ローマのマルケルス率いる大軍の襲来も、アルキメデス考案の新兵器により見事退けた。
 シラクサを押さえたハンニバル、次の標的をタラスに定めた。


 煙の女神 
「本日はいかなる趣で御参詣に?」
 巫女が静かな口調で訊いて来た。
 甘い匂いが漂って来る。気のせいか、頭がくらとした。
(不思議な香りだ。東方のものか…)
 フィレメノスはそんなことを思った。
「はい。昨今の我が国を巡る情勢に心を痛め、そのため国の行く末いかにと、アフロディーテの女神にお尋ねしたいと…」
 ニコンが、当たり障りない言い回しで誓願の趣旨を伝えた。



「そうですか…」
 巫女は微妙な表情になったが、右手を奥の方に向けた。
「では、どうぞ内室へ。ただ、お断りしておきますが、心清らかでなければ、聞こえるものも聞こえないということがございます」
 巫女はそんな釘を刺した。
「はい」「心得ました」
 三人は、半ばわくわくしながら、神殿の奥に進んでいく。
(いよいよ御神託を授かることができる…)
 だが、内室に入った途端、三人は顔をしかめた。
「うわ…」「これは…」
 香が焚かれているのか、煙って何があるのか誰が居るのか、分からない。



 巫女は、三人を所定の位置まで案内すると、
「そこでお待ちを」といって出て行った。
 間もなく、煙る向こうで、人が唸るような声が聞こえて来た。
 神託を告げる巫女のものであろう。
 それは、はじめぶつぶつ言うようなものであったが、だんだん甲高くなり、ついには叫び声に変じた。神託の儀式を初めて見る者は、さぞ驚いたことであろう。
(お、おい、大丈夫か)
 案の定、トラギスコスがうろたえた。
(ばか。まさに神が降臨なされようとしている時ではないか)
 ニコンがたしなめた。
「お座りなさい」
 谺するような声が部屋中に響いた。
 三人は、素直にそこに座り込んだ。





.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • ダイエット
  • JAPAN
  • 時間の流れ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事