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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、カンネーでローマ軍を撃破(紀元前216年春)し、攻防の末シラクサ支配権を獲得(紀元前213年)。さらにタラス市街を制圧(紀元前212年初頭)。
他方、マルケルスが再びシラクサに大軍をもって押し寄せ反攻を開始。悪戦苦闘の末、ついにシラクサを攻め落とす(紀元前212年秋)。
戦いの焦点はカンパニアの主都カプアへ。ハンニバルはカプアを包囲するローマ軍を挑発するも相手にされず。ハンニバルは、局面を打開するため、首都ローマに進撃(紀元前211年春)。
ハンニバルは、ローマ近郊のアニオ河畔で挟撃するローマ軍を撃破。大いに気勢を上げる。
だが、カプアの包囲は解けず、落城の時が刻々と迫っていた。
落城する都市(続き)
「カルタロ殿…これはどういうことだ?」
「は…それがしにも、どういうことか…」
分からなかったに違いない。ハンニバル軍の副官とはいえ、彼もカプア城内にずっといるのであるから。
「分からぬ、ではすまぬ!」
カラヴィウスは逆上した。
生命に刻々と迫る危機が、大尽の鷹揚を完全に奪っていた。
「なんとかハンニバル殿に連絡を付けよ!速やかに援軍を寄越すよう手配するのだ!」
「されど…この包囲の有様では…」
城の周りには二重の柵が張り巡らされ、常人では脱出不可能。
「なんとかなるはずだ!」
カラヴィウスは決めつけた。
「マニアケス殿やら、先頃にはハンニバル船長がやって来た。手練の密偵ならば通れるような箇所があるに違いない!」
「は…」
それはそうなのだが、カルタロに思い当たる、それが出来る人間は一人しかいなかった。それは、彼にとっては貴重な人間であった。
「このままでは落城!そうなれば、そなたも我らと同じく死座に着くことになるのだ!一刻の猶予もないのだ!」
「は…分かりました。なんとか取り計らってみましょう」
そう答えるしかなかった。
カルタロは宿舎に戻ると、大きく溜め息をついていた。
(カプアも…もうおしまいだな…)
彼には実は分かっていた。ハンニバルがカプアの救援を諦めたことを。
より大きなもののためには味方の犠牲も厭わぬ、それが彼の仕える主君ハンニバルであるからだ。
(総司令らしいとはいえば、それまでなのだが…)
だが、そのことをカラヴィウスら指導者たちに言い出すことはできない。彼らは、まだ生存を諦めていないからだ。いや、それどころか、なんとか生存の道がないか、あらゆる希望に縋り付こうとしている。
(彼らが人間らしいのだ。わしのように諦めきっている方がおかしいのかもな…)
一人、苦笑を浮かべていた。
と、その時である。脂粉の香りがぷんと漂ってきた。
「カルタロ様。お呼びにございますか」
娼婦のなりをしたミルトがすっと立っていた。
「…おお、ミルト。よく来てくれた。そなたに行ってもらいたい場所があるのだ」
「はい…いずこに参れば?」
「ハンニバル総司令の許だ」
「総司令の許に…」
「うむ。カプアの窮状を伝え、速やかに援軍を寄越してもらうよう申し上げてほしい」
「はい」
と答えたミルトであったが、動かなかった。
「どうした?そなたならば、なんとか城を抜け出すことが出来よう。女の身なれば、投降して参りましたと口実を構えることも出来よう」
落城前に投降した住民には、ローマは寛容であった。彼らの脱落は、それそのままカプアの戦力を細らせる効果を有するからだ。
こういうことだから、近頃、城から抜け出す市民があとを絶たなかった。人々は、反ローマ派政府と運命を共にするのは御免とばかりに、脱出の機会を窺っていた訳だ。
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