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父と友、そして決別(さらに続き)
半月前。ヒスパニア総司令官ジスコーネは軍議を開いた。
ハシュドゥルバル、マゴーネというバルカ軍団の将たちがずらりと居並んでいた。
その中で、ひと際光彩を放つ若者がいた。
マッシュリ王国の王子マシニッサがいた。近頃、世界最強のヌミディア騎兵の大軍団を率いて地中海を渡って来たのだ。
「敵はバエティス川沿いを、南北両岸の二手に分かれ進んで来るとのこと」
ジスコーネが告げると、将たちはざわめいた。
バエティス川流域一帯こそがカルタゴ領ヒスパニアの中核。ここを押さえられては、イベリア戦線万事休す、である。
「だが、これは我らにとっても待ちに待った機会」
ジスコーネは言う。
自分がここに司令官として着任したのは三年前の紀元前214年。以降、小競り合いを繰り返すばかりだった。が、その間、ローマはカルタゴに与するイベリアの部族を次々切り崩し、次第に南へ南へと勢力を浸透させて来た。
「このままではじり貧。我らも勝負に打って出なければならぬ」
そして、練りに練った作戦を、矢継ぎ早に明らかにしていく。
「まずは、敵が領内奥深く進むまで、手出しは無用」
「次に、南岸を先行するスキピオの部隊を包囲する」
「そして、北岸に展開するグナエウス軍を攻撃する」
敵を地の利の良い地点まで導いた上での各個撃破の作戦である。
諸将は入念な作戦に得心した。
だが、一人、憮然としている者があった。ハンニバルの次弟ハシュドゥルバルである。
「お待ちあれ」
「ハシュドゥルバル殿、何か意見がおありか」
ジスコーネ、優渥な表情を向けた。
「確かに良い策と思います。ですが、スキピオ兄弟は共に戦巧者。領内深く導いた上で敗れてしまっては取り返しのつかぬことになるのではありますまいか」
彼は、元々ハンニバルにイベリアの守備を一手に委ねられていた。つまり、兄の留守中、イベリア総督も同然に自負していたし、またその権威を身にまとっていた。
だが、連年の敗戦を見て、兄ハンニバルに采配頼りなしと判断され、弟マゴーネの援軍に加え、本国のジスコーネを司令官として送り込まれる羽目に陥った。その経緯があるだけに、素直にジスコーネの采配に服せぬ気分ありありであったのだ。
「心配はごもっとも」
相手はバルカ家の次席にある者。ジスコーネはまずは頷いてみせた。
「だが、我らには協力者があるのだ」
「協力者…それは内通者がおると?」
ジスコーネは、笑みを浮かべて頷いた。
「ゆえに懐深く導くことこそ勝利の途なのだ」
「なるほど…」
ハシュドゥルバルの納得を見届けると、ジスコーネ、すっくと立ち上がった。
「諸君!心合わせて戦うのだ!ならば、必ずや勝利は我らに輝くであろう!」
「おおおう!」
諸将は拳を突き上げた。
「マシニッサ殿。敵は何も知らずに進んで来たの」
眼下に、スキピオ率いる大部隊が堂々進んで来る。
「閣下のお見通し通りですな」
「この地こそ貴公の武勇が発揮される」
そう。あたりは見渡す限り広がる平原。騎兵にとって格好の戦場。
「すぐに攻めかかりまするか」
「いや。敵軍が細ってからだ」
「細ってから?」
「あの軍勢の大半はイベリア兵。今攻めかかれば、その者らとも戦わねばなるまい。だが、あと数日すれば…」
「離脱する…と?」
「そうだ」
ジスコーネは自信ありげに頷いた。
「ジスコーネ殿…。プブリウス君のことを覚えておられますか?」
マシニッサは視線を前のまま、そんなことを訊いた。
彼は、アフリカの平原を共に旅したローマ人のことをなにゆえか鮮烈に記憶していた。
「覚えている」
「あの軍を率いるスキピオは、プブリウス殿の父君であるとか…」
「知っている」
「我ら、完全に、彼とは相対立する側に立つことになる訳ですな」
「そうなるな」
ジスコーネ、寂しげな笑みを浮かべた。
「我ら、この勝利と引き換えに、一人の友を失うことになる。…いや、仇敵となるのだ」
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