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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えイタリアに攻め込んだハンニバルは、連戦連勝、カンネーでローマ軍を撃破(紀元前216年春)し、カプア(紀元前216年)、シラクサ(紀元前213年)、さらにタラス市街を制圧(紀元前212年初頭)することに成功。
だが、ここからローマ軍の大反攻が始まり、猛将マルケルスによりシラクサを奪い返され(紀元前212年秋)、総力を挙げた包囲戦によりカプアも陥落(紀元前211年秋)。
ハンニバルはイタリア全土を攻撃するも、次第に南へと撤退のやむなきに陥り、イタリア戦線は膠着。
戦線の焦点は再びイベリア半島へ移ることに。
狡猾なジスコーネ
紀元前211年初冬。
ローマのスキピオ家では、若きプブリウス・スキピオがあたかも当主のように振る舞っていたが、本来の当主である彼の父は、ずっとイベリアにあった。
ローマの人々は半ばイベリアのことを忘れていたが、それはこの戦線がローマ側の優勢に順調に推移していたからだ。
紀元前217年以降足掛け七年。父スキピオは執政官格司令官(プロコンスル)として、彼の兄グナエウスと共に、イベリアの平定作戦に当たって来た。
ここタラコ(現タラゴーナ)。
「ようやくだな、弟よ」
「ええ。ようやくです」
兄弟は、カルタゴ領イベリア−ヒスパニア−完全制圧のため、大軍を催していた。
元来、晩秋に入ると冬営−冬籠り−の支度に入るのが通例であるが、そこに大攻勢をかけようと画策していたのだ。
「敵が新カルタゴとガデスに籠る時が絶好の機会」
敵兵力が潮引くように消えたその時を狙い、バエティス川(現グァダルキビル川)流域に進攻しようと目論んだのだ。この流域の肥沃な大地こそが、バルカ家繁栄の源泉であるからだ。
「ここを制圧すれば、バルカ家のヒスパニア支配は瓦解する」
だが、彼ら兄弟率いるローマ兵の戦力だけでは、大規模な作戦には不足。そこで、降伏して来たアンドバレス王率いるイルルゲテス族の兵力を募っていたという訳だ。
それが、ようやく集結を見ていた。総勢六万余の大軍勢に膨れ上がっていた。
「それぞれ三万の兵を率い、河の南北を進もうではありませぬか」
「うむ。それがよい」
パエティス川の南北両岸に、カルタゴに服する主要な都市が点在している。それを制圧し、敵勢力を掃討しながら、ガデス方面に進撃する作戦だ。
だが、このスキピオ兄弟の意図を察知した人物がいた。
ヒスパニア・カルタゴ軍の総司令官ジスコーネである。
ここ新カルタゴ(現カルタヘナ)。
街の西北の丘に聳えるバルカ宮殿。ここがカルタゴ軍総司令本部となっていた。
「敵は、冬にもかかわらず大挙進攻するつもりだ」
ジスコーネが言った。
彼の前には、あのマニアケスがいた。
彼女はハンニバルに命じられていた。
「こちら(イタリア)は、局地戦続きとなろう。そなたの活躍する地はイベリアにある。ジスコーネ殿と我が兄弟を助け、イベリアの勢力を回復せしめよ。ならば、自然とこちらの戦線も我らの優位に運ぶであろう」
マニアケスは直ちにイベリアに飛んだ。そして、ハシュドゥルバルでもマゴーネでもなく、ジスコーネ付きの将官となった。
この地で彼女の活躍が始まった。
イベリア全土を駆け巡り、只今現在の人心を探り、そして、ローマ支配下にある地域も丹念に調査した。そして、探り得た結論はこうだった。
(なるほど…司令官スキピオの仁徳により、イベリア人部族を結集し、勢力を次第にヒスパニアに及ぼしていく戦略)
理に適った作戦に彼女は感嘆したが、他方でこう思った。
(だが、その団結を崩せば、たちまち優位は崩壊することになる)
彼女は、調べ上げた全てを、ヒスパニア総司令官のジスコーネに報告した。
それは、あたかも事の全てを俯瞰する地図を披露されたかの如きであった。
「なるほど…我らを取り巻く現況、及び、進むべき道は明らかであるな」
ジスコーネは感嘆した。
(あのハンニバルが、旧怨を捨て、この者を重用する理由がよく分かる)
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