新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第9章ヒスパニアの章

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 ヒスパニア平定(さらに続き)
「閣下、とにかく急いで船に!このままでは包囲されてしまいます!」
 マニアケスが叫んだ。
 そして、彼女は傍らのマシニッサに早口でこういった。
「申し訳ないが、閣下の乗船する時を稼ぐため、敵を暫時食い止めてもらいたい」
 無理は百も承知であった。だが、今、味方でまともな戦闘力を保つのはヌミディア騎兵しかなかった。歩兵は誰もが疲れ果て傷つき、とても戦うどころではない。マシニッサの戦力に頼るしか方法がなかったのだ。
 だが、この男は任侠富む人物。
「承知した。我らの武勇をローマの弱兵どもに見せつけて御覧に容れよう」
 胸を叩いて快諾すると、騎兵を引き連れ、敵の隊列に向かって突撃していった。




 はじめ、勇猛果敢なヌミディア騎兵の突撃に、隊列を崩しかけたローマ軍団であったが、兵力で圧倒的に優位に立つ。騎兵を取り囲み、その動きを止めると、形勢は逆転した。槍を一斉に繰り出すと、さしもの騎兵も次々と落馬していったのだ。
 マシニッサは、群がる敵相手に勇戦していたが、所詮、衆寡敵せず。最後は、包囲を突破すると、僅かな騎兵を連れ、落ち延びていくしかなかった。
 だが、彼らヌミディア騎兵の突撃は無駄ではなかった。
 その間にジスコーネは、船に乗ることが出来たからだ。
 しかし、船に乗り海上に落ち延びることが出来たのは、彼の他にはマゴーネやマニアケス、僅かな歩兵たちだけであった。殺到するローマ兵に、多くのカルタゴ兵がここで討ち取られ、捕虜となってしまった。
 ヒスパニア・カルタゴの軍団は、ここに潰滅してしまったのだ。




 ジスコーネ、船上から、陸上の惨憺たる光景を凝視していた。
 スキピオの自在の采配により、彼の麾下の将兵たちが次々と駆逐される様を。
 ぎりりと歯噛みした。
「プブリウス・スキピオ…まごうことなき強敵となって現れたか」
 もはや、面に浮かぶその情念は、かつての同窓を見るものではなかった。それは、年来の宿敵を見詰める形相そのものであった。
「だが、このままではおかぬ。必ず…必ずや雪辱してみせる」
 船縁をぐっと掴んだ。




 間もなく、敵の全てを掃討したローマ軍団から、高らかに凱歌が沸き起こった。
 馬上進むスキピオに将兵の歓呼が降り注いだ。
 だが、彼の視線は海の彼方に向けられていた。
はっきり陸地の姿が見える。アフリカ大陸だ。
(これからだ…これから本当の戦いが始まるのだ)
 彼の頭脳は、人々より先に向けられていた。
 次なる舞台は、そのアフリカ大陸にあった。
 スキピオは早くも心にしっかと刻んでいた。

 第9章ヒスパニアの章終わり。第10章アフリカの章へ続く

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※カナリア諸島から望む大西洋です。GNUフリー文書利用許諾書 (GNU Free Documentation License) 1.2に基づいて掲載しています。


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 ヒスパニア平定(続き)
 ジスコーネ率いるカルタゴ軍は、体に鞭打ち、さらに丸一日行軍を重ねた。
 この間、敵は現れず、それが綿のように疲れた彼らに僅かな勇気を与えた。
「皆の者、あと少しだ。あと少しの辛抱で海に出る」
 そして、日が高くなった頃。
「ジスコーネ殿!海ですぞ!」
 先頭を進んでいたマゴーネが喜悦の声を上げ、前方を指差した。
 その声に、ジスコーネ、思わず馬腹を蹴り、馬を飛ばし駆けた。
 駆け上がると、雄大な海原が視界に飛び込んだ。
 大西洋である。
「おお、やっと…やっと海に出たか!」
 ジスコーネの顔も綻んだ。
 彼だけではない。穏やかな潮風に、誰もが緊張をここで解いた。
 海辺には、マニアケスの報告通り船が繋がれているのが見えた。
「よし、早く船に乗り込み、陸から離れるのだ」




 人々は、丘を駆けるように下っていった。なにしろ、あの浮かぶ船に乗りさえすれば、生還出来る訳だ。生あるものとして、喜びを覚えずにはいられなかったろう。
 だが、その時であった。
「か、閣下!」
 アドヘルバルが愕然とした様子で、北の方角を指差した。
「どうした、そのような顔をして…」
 ジスコーネ、苦笑して振り返った。途端、彼の瞳はこれ以上ないほどに見開いた。
「ああっ!」
 思わず叫んだ。
 そこには、ローマ重装歩兵の大部隊がずらりと並んでいたからだ。
 中央に、鷲をかたどった旗が高く掲げられている。それ即ち、ローマ軍司令官スキピオ率いる部隊である。




「馬鹿な!一体どうやって先回りしたのか!」
 そう。ローマ軍の夜襲奇襲を振り切り、それから急ぎに急いでこちらに来たのだ。
(足の遅い重装歩兵が先回り出来る筈がない…なぜだ)
 無論、これには理由がある。スキピオは、敗れたカルタゴ軍が西方に進路をとると予測すると、こちらにまっすぐ進んで来たという訳だ。
 そのスキピオは右手を上げた。
「さあ、勇敢なるローマ将兵よ、闘志を見せよ!」
 若き司令官の鼓舞に、ローマ軍団は、高らかに雄叫びを上げ始めた。
 そして、ざっとざっと草を踏みしめジスコーネたちに向かって来る。


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 ヒスパニア平定
 翌朝。
 ジスコーネ率いるカルタゴ軍は、ローマ軍の追跡を逃れるため、夜通し行軍していた。
 奇襲攻撃を脱した後も、さらに、ヘレンニウス、ルキウス率いるローマ重装歩兵隊の伏兵攻撃を受け、散々な敗北を喫した。
「我らの行動が見通されている」
 さしものジスコーネも、必死に馬に鞭打ち、血路を開いて逃げ回るしかなかった。
 執拗なローマ兵の追跡をなんとか振り切ると、敵の目を紛らすためバエティス川から離れ西へ進んだ。要は大西洋岸に出て、そこから海路ガデスに戻る算段だ。
 夜が白々明けると、甚大な被害が明らかになった。また、多くのイベリア兵が離脱したことが分かった。イベリア人は、ここでカルタゴを見限ったのだ。
 ジスコーネの手元には、直属の兵ほか五千の兵が残るばかりとなった。




「…さて、この先、どうすべきかの」
 ジスコーネ、駆け通しで喘ぐ愛馬の首をしきりにさすりながら、手綱を握っていた。
「この上は、ガデスに戻り態勢を立て直すのみ。なんの、まだまだ挽回出来ます」
 マシニッサが磊落に笑ったて見せた。
 このヌミディア人の王子は、いかなるときも冷静を失わない優秀な男であった。彼らヌミディア騎兵は、この逆境にもジスコーネを決して見限らず、今も二千の兵で守護してくれていた。
「うむ…」
 ジスコーネは頷いた。
(ガデスにさえ戻ることが出来れば…)
 それが彼の唯一の希望となっていた。海運の便に優れ、物資充分の都市に戻れば、幾らでも態勢を巻き返すことが出来る。その希望に縋り進むしかなかった。




「船は何とかなろうかのう」
 ジスコーネは案じた。
 兵力大きく減じたとはいえ五千の人間を乗せるには少なからざる船がいる。ガデスから回してもらうことは無論可能であったが、それでは時間がかかり過ぎる。
「ご案じなさいますな。マニアケス殿が先行して手配しておりますれば…」
 副官アドヘルバルが言った。
 そうこうするうちに、前方から数十騎の騎兵が駆けて来る。
 マニアケスたちであった。




 彼女は、ジスコーネの馬前に至ると、ひらりと飛び降りた。
「閣下、遅くなりました」
 マニアケスは、まず詫びた。
 だが、敗軍のために船を確保するのは想像を絶する労苦であったろう。既に、地域の住民はカルタゴ軍敗北を聞いている。となれば、金銀の力も働かず、脅しなだめすかすなど、ありとあらゆる手管を駆使したに違いないのだ。
「いや、ご苦労であった。…して、どうであった、船は」
「なんとか大小数十隻の船を手配しました。御味方全て乗せることができようかと」
「そうか…」
 ジスコーネはほっと息を吐いた。
 体の底から力が涌く心地がした。
「よし。先を急ぐぞ」
 カルタゴ軍五千は再び進み始めた。

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 追撃戦(続き)
 その頃、ジスコーネ率いるカルタゴ軍は、スキピオの予見通り、バエティス川河口方面に進んでいた。イリパに通ずる道が、早くもラエリウス率いる部隊に封鎖されていると知ったからであった。
「なんたる手回しのよさよ」
 ジスコーネは、スキピオの周到な采配に舌を巻いた。
 だが、彼は狼狽していなかった。さらに下流にも、幾らでも渡河するに適した地点のあることを知っていたからだ。




「ならば下流に向かうのだ。さすがに、そこまでは手が回っていまい」
 ということで、全軍進路を変え南東の方角に進み始めた。
「下流に向かうぞ!」「川に沿って進むのだ!」
 兵たちは、傷ついている身を濡らし、あえぎあえぎ行軍した。
 だが、イベリア兵の多くは、もはや戦意を喪失していた。
「このままついていっても見込みはないぞ」
「そうだ。逃げ出すならば、今のうちだぞ」
 雨は敵の目を紛らすのに好都合と同様、脱走兵にもまたとない逃走の機会を提供していた。彼らは雨と闇に紛れ、行軍の列からこっそり抜け出した。
 カルタゴの上将たちに咎める余裕はなかった。追撃を振り払うのが先決。そういうことだから、道々、こぼれ落ちるように兵が姿を消していく。




 やがて、下流のとある地点に達した。周囲は緩やかな丘陵が広がっている。
 川幅は1スタディオン(約177m)ほど。だが、折しもの雨に水嵩増し、大蛇がうねるように流れていた。
「よし。ここらは浅瀬だ。小舟並べ橋を架けて渡河するのだ」
 ジスコーネの命令に、早速カルタゴ兵は橋を架け始めた。
 山に遭えば道を切り拓き、川に遭えば橋を架け渡す。これも戦いの一つだ。しかも、カルタゴは元々鉱山開発など土木工事を得意とする。
 だが、豪雨のため水嵩増し水流速いとあって、工事は甚だ難渋した。
 それでも、なんとか小舟を繋ぎ合わせ船橋を対岸へと伸ばしていく。
「間もなく橋が完成いたします」
 アドヘルバルが言った。
「うむ。渡河さえ出来れば…」
 ジスコーネ、祈るような心地であった。
(対岸には敵もいないであろう。ガデスまでの退路が開ける)




 と、その時である。
「閣下!」
 アドヘルバルが叫んだ。
「どうした?」
 振り返ったジスコーネの顔が凍り付いた。
 それは背後の丘陵の上に、ずらりと松明が灯っていたからだ。
「あれは…ローマ軍か!」
 その軍団は、喚声を上げると、なだらかな丘を駆け下って来る。
「それ、一気に突き崩すのだ!」
「バエティス川に追い落とせ!」
 押し寄せて来たのは、シラヌスとマルキウス率いる軽装歩兵と騎兵隊だ。
 背後から襲われたカルタゴ軍は、大混乱に陥った。




「うわっ!」「ひいい!」
 カルタゴ兵は逃げ惑った。
 彼らは昼間に手痛い敗北に遭ったばかり。戦意既になく、ローマ兵の剣槍の鋭峰をよけるべく、散り散りに逃げ始めた。
「引くのだ!ここを捨てて退却するのだ!」
 ジスコーネ、渡河を諦めると、敵の包囲網を突破し、西南へと馬を走らせた。


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 追撃戦 
「閣下、直ちに追撃の命令を!」
 マルキウス、俄然、猛将の顔に戻ると、そう急き込んでいった。
「もう命令は出してある」
 スキピオは笑った。
「え!」
「ラエリウスに五千の兵を授け、密偵のハンノン殿を付け、既に送り出してある」
「な、なんと」
「だから申したのだ。諸君は、ヒスパニア全土平定の大功という大きな宝玉を、ラエリウス一人に奪われてよいのか、と」
 その言葉に誰もが唖然とした。
 スキピオは、勝利に酔うどころか、次の手を早くも打っていたのだ。それも、この勝利に乗じ、ヒスパニア全土を頂戴するために。




 そのことが分かった瞬間、幕舎の中は将たちの叫び声が充満した。
「わたくしも是非向かわせて下され!」
 ヘレンニウスが吠えるように志願すると、マルキウスが彼を押しのけて前に出た。
「何をいうか!それはこの俺様の役目だ!」
「いかに軍団長殿とてこれは譲れませぬ!」
「なにを!」
 誰もが我も我もと身を乗り出した。
 このままでは、掴み合いになりそうな雲行きであった。




「諸君、静まり給え!」
 スキピオは手を上げ、軽く制すると、
「働き場所はまだ幾らでもある。…というより、働いてもらわねば困るのだ」
 苦笑して見せると、手招きしてミルトを呼んだ。
 彼女は机に大きな地図を広げた。真ん中にバエティス川の流れが太々とひかれ、本営のある現在地からイリパの城、バエティス川の河口一帯、そして、ガデスに至る地形を詳細に記したものであった。
 イリパの戦いの前から、ミルトに命じて作製させていたもの。
 スキピオは合戦後の追撃も考慮に容れ周到に動いていたのだ。
「イリパに至る途は、ラエリウスらの手勢で封じてある。それゆえ、ジスコーネは、こう進むに違いない」
 彼の持つ筆先が、すっと斜め下へ動いた。
「このように下流へと南西へ走り、そして、バエティス川を南東へ渡ろう。そして、ガデスに退却する筈」
 諸将の目が、その筆先に釘付けとなった。どこが己の働き場所となるか、食い入るように見詰めていた。




「そこで…」
 スキピオが諸将の顔を見た。
「まず、シラヌス殿、マルキウス殿」
「はっ」「おう!」
「貴殿らには、軽装歩兵と騎兵合わせて五千の兵を授けますゆえ、渡河にかかろうとする敵勢の背後から襲いかかって下され」
「なるほど…」「それは妙案」
 二人の熟達の将は唸った。
「ヘレンニウス、ルキウス」
「ははっ」「はっ」
「そなたらには重装歩兵五千を授ける。シラヌス殿らの軍勢に敵勢が追い散らされ退却する所を、どこまでも追撃せよ」
「おう」「かしこまりました」
「他の者は、私が率いる後方部隊と共に行動する。討ち漏らした敵を掃討するのだ」
 まさしく、スキピオは、ヒスパニアの陸上からカルタゴ勢力を一掃せんとしたのだ。
 間もなく、ローマ軍の陣営も慌ただしく動き始めた。

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