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−これまでのあらすじ−
アルプスを越えて来襲したハンニバルに、ローマはカンネーで大敗(216年春)するなど連戦連敗。
だが、反攻に転じてシラクサを奪回(212年秋)。カプアも攻略(211年秋)。ハンニバルをイタリアの南へ追いやることに成功する。
ところが、ヒスパニア戦線では父スキピオはバエティス川流域の戦闘でジスコーネの策にかかり潰滅(211年冬)。後任のネロはハシュドゥルバルを山間に追い詰めるも、取り逃がしてしまう(210年)。
新司令官に弱冠二十五歳のスキピオが選出され、ヒスパニアに着任するや内偵を進め、新カルタゴ北に広がる遠浅の海(潟)に道筋を見出すや、一気に急襲。新カルタゴを一夜にて攻め落とす(209年春)。
翌紀元前208年、ローマはついにタラスを奪回。
だが、ローマの一方の雄マルケルスは斥候に出た所をハンニバル軍に急襲され、あえなく戦死。
微妙な均衡の中、スキピオ率いる軍勢がバエティス川流域に進攻。バエクラでハンニバルの弟ハシュドゥルバル率いる大軍と激突し、勝利を収める(208年)。
敗れたハシュドゥルバルはイベリア半島を北進。アルプス山脈を驚く速さで越えイタリアに進攻するも、かえってハンニバルの予測を裏切り合流を難しくした。207年春、ハシュドゥルバルは、メタウルス川上流でネロ率いるローマ軍と激突、優勢に戦うも背後を不意に衝かれ、急転直下滅亡する。
攻防の舞台は再びイベリア・ヒスパニアへ。
甦る記憶
ネロとサリナトル率いるローマ軍は、任期を終えるとローマに帰還した。
元老院は、両将に対して、市民最高の栄誉である凱旋式の挙行を許した。
まず、サリナトルの乗った戦車が堂々先頭を進んだ。
だが、ネロは戦車に乗っての入城は許されなかった。
彼は無断でアプリアの戦線から離脱してメタウルスに向かった。そのことを譴責された訳だ。だから、徒歩でサリナトルの戦車の後に続いた。
しかし、市民は知っている。誰の勇戦で敵将ハシュドゥルバルを討ち取ることが出来たのかを。堂々歩く彼に、ひときわ大きな喝采を送ったのである。
ネロは、市民の拍手喝采に満面笑みにして応えた。彼は、これで充分であった。
(私の栄誉は、ローマの歴史に明らかに記されるであろう)
紀元前207年初夏。ここ新カルタゴ。
ここにも、メタウルスの勝利の報が届いていた。スキピオ以下、主立った将たちは、バルカ宮殿にて盛大に祝宴を催していた。
「わははは。これでハンニバルは手も足も出まい」
「左様。我らもイタリアのことを気にかけずにじっくり戦う事が出来るというもの」
「あとは、ジスコーネだけということだな」
ヒスパニアのローマ軍が連戦連勝している折に本国からの朗報に接し、誰もが美酒に酔いしれていた。
「ふうう」
一人の男が、人々の熱気から逃れるように、テラスへと出て来た。
ラエリウスである。
見上げると、満天の星々が明滅している。
「どうした。酒に酔ったのか」
スキピオが続いて出て来た。
酒に弱いから、部下どもの酒攻めを逃れてきたものであろう。
「あ、いや。少し考えごとを…」
「どうした。近頃、何か思い悩んでいる風だが」
スキピオは訊いた。
そう。味方の誰もが勝利に沸き立つ中、彼だけが取り残されたように、一人憂えた表情を見せるのが気になっていた。
「総司令にそのように患わせていたとは…申し訳ありませぬ」
「何の遠慮。悩みがあれば聞かせよ。我らは親友ではないか」
「ありがたきお言葉…」
実は、と重い口を開き始めた。
ラエリウスら将たちは、新カルタゴ周辺の土地を巡察していた。
それは、人心の慰撫に務め、イベリア人の心を確実にローマ側に引き寄せ、新カルタゴ近辺を確固たるローマの拠点にしようという政策の遂行であった。
ラエリウスは、一隊を率いて、とある土地に赴いた。
やがて、廃墟と化した村に差し掛かった。
「どうしてこのようなことになっている」
道案内に伴っていた、年長のイベリア兵に訊ねた。
「は。ここはかつてオリッセス族の支配する土地でして。先の総督ハシュドゥルバルにより滅ぼされたのでございます」
「ほう。そのオリッセス族とやらは、なにゆえ滅ぼされたのか」
「は。オリッセス族はかつて初代総督ハミルカルに刃向かい…」
イベリア人は滔々物語り始めた。
オリッセス族はハミルカルに服従せず、そのためハミルカルの討伐を受けたこと。勝ち目乏しきオリッセス族が、奇策を用いてタデル川にハミルカルをおびき寄せ、彼を討ち取ったこと。しかし、その復讐としてハシュドゥルバルの猛攻の前に滅亡してしまったことを。
「ハシュドゥルバルは、生き残った部族の者どもをこの村に押し込め、火を放ち女子供もろとも皆殺しにしたということにございます」
「ふーむ。むごい話よな…」
ラエリウス、眉をひそめた。
その時である。
頭の奥深くから、きーんと、金切り音の如き耳鳴りが響き出したのだ。
(な、なんだ)
次に、頭の芯が、きりきりと痛み始めた。
「ううっ」
ラエリウス、思わず両耳を押さえると、馬上にうつ伏した。
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