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イリパの戦い3−旋回する軍団と隊列(続き)
「ふふ。カルタゴ兵め、慌てておるわ」
スキピオは馬上でにっと笑った。
はじめ、この旋回戦法を告げたとき、マルキウスやラエリウスは反対した。
「敵前で隊列の向きを変えるのは危険です」
確かに、騎兵の突撃に側面を衝かれる虞があった。
だが、この意見に、スキピオは笑ってこう応えた。
「象の群が我らに時間を与えてくれよう」
そして、今まさに、事態は彼の予見した通りに推移した。マゴーネ隊は、象軍を前方に配するという伝統的な布陣にこだわり、隊列の移動と整列に大わらわになっていた。
(敵の強みである象が、我らが動くに充分な時を与えてくれた)
スキピオは、にんまりした。
「よーし。全軍、横に広がれ!縦列を横列にせよ!」
スキピオ率いる部隊は、この時、実に器用に動いていた。
軍団そのものは反時計回りに旋回する一方、軍団の中で、それまで細長く縦列で行進していた隊を、時計回りに旋回させて横列に並び替えていたのだ。このような巧みな隊列移動は、軍団長マルキウスによる厳しい調練の賜物であったろう。
そう。軍団が敵の側面に相対した時、横一列に広く展開し、全軍突撃するためだ。
少数のローマ軍、その全てを敵との戦いに投じなければ勝利はあり得ないからだ。
「さあ、いくぞ、ラエリウス。抜かるな」
スキピオは、わくわくして、傍らの友に向かって発破をかけた。
「はっ」
今日を一期と思うのか、ラエリウス、顔を少しこわばらせていた。
そんな様子に、スキピオ、彼元来の天の邪鬼がむくむく起こった。
「おい」
「は?」
「そんなに気負うな。強敵を前に剣を落とし、歴史に汚名を残すぞ」
スキピオは、からからと笑った。
この人物は、肝太いことに自身の運命を疑ったことがない。自身こそ歴史のど真ん中を歩む主人公なのだ、と。その根っからの楽天が、おおらかな輪郭を形成していた。
ラエリウス、思わず顔を綻ばせると、むくむく負けん気を起こした。
「お気遣いなく。それより総司令こそ落馬なさいませぬよう。全軍の恥辱ですゆえ」
そう言い放って見せた。
「申したな。こやつめ」
いつものように他愛無いやり取りになった。
司令官の周囲に、暖かな空気が立ち込めた。
スキピオは、今回、ラエリウスを身近に伴っていた。
はじめ、ラエリウスは中央に陣取ることを願い出た。
「敵陣中央に、総大将ジスコーネ並びにマニアケスという仇敵どもが居並んでおります。彼らをまとめて討ち、お父上と伯父上の仇を取ってみせましょう」
イベリア兵を率いて敵にとどめを刺す役を志願したのだ。
スキピオはそれを許さなかった。
「そなたも心得違いをしておるな。私は復讐のために戦っているのではない。国家の勝利のために戦っておる。そのように功名に駆られた行動は許さぬぞ」
そういって、共に右翼を担うことが取り決められたのだ。
それは、実はスキピオの密かな配慮に基づくものだったが、ラエリウスは気付かなかった。
当時、右翼に精鋭部隊が配されるのが一般で、奇異に感じられなかったからであろう。
ただ、彼の妻で密偵のミルトが、スキピオの言葉に、安堵の色を浮かべていた。
スキピオ隊には、そのラエリウスに、リクトル(警吏兵)の一員に混じってミルトが、そして、あの油断ならぬ密偵ハンノンが一箇所に集まっていた。
スキピオは抜刀して命じた。
「よし!全員前進だ!」
「おおお」
スキピオ隊は、騎兵と投槍兵(ウェリテス)を先頭に、力強く歩武を進め始めた。
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