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戦列を変える
出陣・退陣が繰り返されて七日目の夜。
スキピオは、夜の帳がすっかり落ちると、副将シラヌス、軍団長マルキウス、副官ラエリウス、ヘレンニウス、副官で弟のルキウス、そして、密偵のハンノン、ミルトと、最も信頼する人々のみを、自身の幕舎に集めた。
そう。この数年に及ぶ遠征で、これらの人々とは何でも打ち解けて話し合う間柄となっていた。
「諸将は、恐らく、この数日、さぞ怪訝な面持ちで我の采配を見ていたことと思う」
スキピオは、ここでも含み笑いした。それは、こっそり仕掛けたいたずらがまだ見つからない、そんな風にしてやったりと喜ぶ少年のようであった。
「はい。そろそろ、我らにもそのお心を教えて頂ければと存ずるが…」
シラヌスが諸将を代表して訊いた。この頃、彼は、完全にスキピオ軍の副将としての立場に収まっていた。それが味方にとって最良との年長者らしい判断からであった。
そんな温厚な老将に、スキピオは頷いてみせた。
「貴殿すらも察し得ぬという点にこそ、この作戦の眼目はある」
「どういうことで?」
「これ即ちジスコーネも気付いていないということ。戦場にて狡猾この上なしと評される彼も、我が意図には至るまい、ということ」
「なるほど…。して、いかなる意図が隠されていると?」
「敵の戦列に変更があるか否か、それを確かめたかった」
「戦列に変更?」
老将は首を傾げた。
シラヌスが首を傾げるのも当然だ。この時代、敵が誰であっても同じ戦列で臨むのが普通だ。中央に歩兵。両翼に騎兵。前方に序戦を務める軽装歩兵。これがこの時代のオーソドックスな戦列だ。
「マルキウス殿」
「はっ」
「そなたは我が軍の弱点はどこにあると思う」
「はい…。第一に敵より寡勢であることです」
それは誰もが知っていること。
「第二は?」
「それは…」
マルキウス、ちらと皆を見回し、
「イベリア人の歩兵どもです」
と、やや遠慮がちに答えた。
「なぜ、そう思う?」
「それは…閣下の父上のときもそうでしたが、彼らは後背定まらず。現に、只今も敵勢の優位を見て、明らかに動揺している節が窺えますので」
そう。エデタニ族やイベリア人首長コリカスが送って来たイベリア兵は、敵の大軍を見て、明らかに尻込みしていた。
「うむ。私の気にかける点もそこにある」
スキピオは真顔に戻っていた。
「かといって、ローマ兵と信頼に足る同盟国の兵だけでは、ジスコーネの大軍の前にあまりに小勢となってしまい、ひいては味方の士気にも関わろう」
それだから、頼りなきイベリア兵であっても数の上で不可欠であると前置きして、
「私は来る決戦に戦列を変えて臨もうと考えている」
といった。
これこそ、スキピオの戦略の核心を吐露したものであったが、誰もその言葉の重みに気付いていなかった。いや、一人、目を大きく見開いていた。
密偵のハンノンである。彼は、我が意を得たりとばかりに大きく頷いていた。
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