新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第10章アフリカの章

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 大平原の戦い−我が教師(続き)
 この刻々躍動する戦況の推移に、セルギウス、感に堪えない面持ちとなった。
「プロコンスル閣下。御味方は、閣下の命無く適切な行動に移りましたぞ」
「これは我が教師の教えであるからな」
「教師…どなたのことです?」
「ハンニバルだ」
「ハンニバル…」
 セルギウス、思わぬ名に瞳を大きくした。




「ふふ」
 スキピオは含み笑いした。
「人生の教師たるは、何も味方にある者とは限らぬ。敵にある者であっても、立派な教師となりうる。特に、一国の将であるからには」
「なるほど…これはカンネーの戦い…ですな」
「そう。ミルトによると、彼はこう言ったとか。優れた作戦とは、声枯らして令を伝えずとも、味方が適宜行動とれるものをいう、と。あの戦いでは、カルタゴ歩兵は自然と我がローマ歩兵を前方左右から挟撃し、カルタゴ騎兵は後方を衝いて来た」
「なるほど…」
 セルギウスは唸った。




 眼前の光景はまさにそれであった。押されまくっていたローマ歩兵は、ケルト・イベリア兵の鋭峰をよけるように左右に分かれていたが、敵勢の進撃の足が止まると、その両翼に回り込む格好で攻め立て始めていた。そして、背後には騎兵隊が突っ込んでいる。
 これは、カンネーの戦いにおける展開に、驚くほど相似している。
 スキピオは繰り返した。
「ハンニバルこそ、戦場における我が教師なのだ」
 そういうと、彼は右手を上げた。
 後方に退いていたウェリテス兵の再投入を命じたのだ。
 ケルト・イベリア兵の前面で戦うトリアリィ兵の隊列に分厚さが増した。




 その後もケルト・イベリア兵の抵抗は続いた。
 いや、彼らには、その途しかなかったからだ。
 イベリアにある間、ローマに許された彼ら。それに叛いて、遥々とこの戦線にローマの敵方となってやって来た。従って、彼らを受け容れてくれる都市や部族も皆無なこの地。
「戦うのだ!」
「ローマ兵を倒せ!」
 だが、四方全てローマ兵。
 あたかも潮の渦に巻き込まれるが如く、包囲は急激に縮まった。
 ローマ兵の雄叫びの中、ついにケルト・イベリア兵は全滅した。




 数刻あまり続いた戦いは、ローマの大勝利に終わった。
 大平原の草原に、ローマ兵の歓喜の凱歌が響き渡った。
 その中を、兵の歓呼に応え進むスキピオの姿があった。
 彼の瞳は遠くを見詰めていた。
(ついについにここまで来た)
 彼の瞳には、次の舞台が映っていた。そこには、未だ干戈を交わしたことのない相手の姿が映っていた。
(ハンニバル…次はあなただ)


第10章アフリカの章終わり。第11章ザマの章に続く。


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 大平原の戦い−我が教師
 ローマ軍本陣にあるスキピオは、馬上、静かに戦況を見詰めていた。
「ミルトよ」
「はい」
「どちらが優勢と見る」
「は」
 彼女は、その良く利く目を凝らした。
「我が軍の優勢と見ます」
「ほう…中央は押されておるようだが」
 そう。ケルト・イベリア兵は、ここで勝たねば生き残れぬという、まさに必死の戦場で、遺憾なく武勇を発揮し、そのため野戦を得意とするローマ兵を押しまくっていた。トリアリィ兵の隊列が中央の戦線を辛うじて支えている情況だ。
 通常ならば、ここ本陣は狼狽してもいい筈であったが…。




「ですが、両翼で優位に戦っておるようですので」
 ミルトは小柄な体を伸ばし、遠目を利かせた。
 その言葉にスキピオは微笑み、こくと頷いた。
「ほう、そうか。ならば、そなたの言う通りだの」
 若き総司令官は、再び、静かに戦況を見詰める態勢に戻った。
 その後、ミルトの言う通り、スキピオの勇気を必要としなかった。




 両翼で激突した両軍騎兵であったが、こちらでは案に相違し、ローマ軍の側が押しまくっていた。まず、マッシュリ騎兵隊は、元来の馬技に加え、カルタゴに対する報復の気概凄まじく、ぶつかった途端カルタゴ騎兵を圧倒していた。
「ええい、引くな!戦え!祖国を支えよ!」
 ジスコーネの絶叫が響いたが、どうにもならなかった。
 カルタゴ騎兵はたちまち敗走に転じていた。




 同じ頃、テュカイオス率いるマサエシュリ騎兵も、ラエリウス率いるローマ騎兵に打ち破られていた。テュカイオスがラエリウスに追いかけ回される有様で、こちらもどっと崩れ立ち、敗走に転じていた。
 そして、マシニッサとラエリウス率いる騎兵隊は、敵の騎兵を撃破すると、ケルト・イベリア兵の隊列の後方を衝いた。そう。ケルト・イベリア兵の部隊は、前方のローマ歩兵、後方の騎兵より挟撃される格好となった。


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 大平原の戦い−正攻法(さらに続き)
「プロコンスル閣下。ケルト・イベリア兵が進んで来ますぞ」
 リクトル(警吏兵)に扮したセルギウスが言った。
「よし。ハスタティ(青年兵)に前進を命じよ」
 スキピオの命に、ハスタティの隊列が動き出した。それはローマ市民兵とシチリア奴隷兵の混成部隊であった。
 先頭の隊列は、穂先を前方に向けた。そして、わあっと喚声を上げて突撃を開始した。
 それに負けずにケルト・イベリア兵も突進して来る。
 中央で両軍激しく衝突した。




「イタリアの羊飼いめ、くらえいっ!」
「イベリアの蛮族めが、思い知れっ!」
 互いに言葉を解しない。だが、憎悪というものは全身に伝わる。
 ケルト・イベリア兵が躍り上がるようにして獲物を振り下ろすのを、ハスタティは盾で防ぎ、槍をずんと繰り出す。次第に間合いを詰め、ついには乱戦となり、互いに槍を捨て、剣を手に激闘が始まる。
 接近戦となって、不思議な光景が現れた。それは、両軍将兵、同じ短剣を手にしていたからだ。
 それは、スキピオが、ヒスパニアにあった頃から工夫したもので、イベリア人の短い剣をローマ兵士に持たせたものだ。というのも、接近戦となると従来の長剣は扱いづらい。飛び込まれると大いに不利ですらある。
「我が兵にも短めの剣を与えよ」
 だから、両軍将兵、同じイベリアの剣を手に奮戦格闘した。




「総司令。ケルト・イベリア兵が押し込んでいますぞ」
 今回、一方の大将として指揮するアドヘルバルが言った。
 そう。ケルト・イベリア兵の猛攻に、ローマ側はプリンキペス(中堅兵)を繰り出したが、さらにそれを突破していく勢いで、ついにはトリアリィ(熟練兵)の隊列が動き出すのが見えた。危機要員であるトリアリィが動くというのは、ローマ側が押されている証左に他ならない。
「よし!今だ!騎兵隊に突撃を命じよ!」
 ジスコーネは命じた。
「ははっ!」
 旗が振られ、ラッパが鳴り響くと、連合軍両翼の騎兵隊が動き始めた。
 左翼のマサエシュリ騎兵部隊、右翼のカルタゴ騎兵部隊。
 それぞれ、王家の勇者テュカイオス、アドヘルバルを先頭に駆け始めた。
「それっ、敵の騎兵を破れば、勝利は決まるぞ!」
「この戦いこそ祖国興廃の一戦ぞ!奮起せよや!」
 



 こちら、マッシュリ騎兵の隊列。
「王よ、カルタゴ騎兵がこちらに突撃して来ますぞ」
 甥のマッシワが言った。
 そう。王国を失っても、彼らマッシュリ人には、あくまでも、目の前に立つ雄々しい男こそが部族の君主であった。その男は、あまりの体躯堂々のため、草原の駿馬がまるで驢馬に見間違うほどであった。
「よし」
 その男は僅かに身震いした。武者震いであろう。
 マシニッサである。
(ついに…この時が来た。ついに)
 彼は槍をぐっと握ると、味方に令した。
「我らも突撃だ!カルタゴ騎兵を突き崩せ!」
「おーっ!」
 マッシュリ騎兵は、自慢の馬技を駆使し、一散に突撃した。


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 大平原の戦い−正攻法(続き)
 紀元前203年夏。
 大平原は、さわさわと草の靡く音のみが響いていた。
 スキピオは、すらりと剣を抜いた。
 宝石のちりばめた抜き身は、あたかも生命を得たかのように、きらきら輝いた。




「ウェリテス、前へ!」
 序戦は、軽装歩兵同士の飛び道具の応酬。
 ウェリテス(初年兵)が駆け足で前進し、横数列に隊列を整える。
「構え!」
 一列目の兵が、ピルム(投擲用の細身の槍)を手に、大きくふりかぶった。
「放て!」
 ぶうんと唸りを上げ、それは放たれた。
「わあ!」「ぎゃっ!」
 最前列に居並ぶカルタゴ兵がばたばた倒れた。




「ええい!こちらも撃ち返せ!」
 ジスコーネが怒鳴った。
 バレアレス投石兵の石つぶてが一斉射撃された。
 まさに、それは古代の弾丸。
「ぎゃっ」「うわっ」
 ローマ兵は、血しぶきを上げ、ぶっ倒れる。
「負けるな!もっと撃ち返せ!」
 スキピオも怒鳴った。
 ウェリテス兵は、入れ替わり立ち替わり、ありったけのピルムを敵兵目がけぶんぶん投擲した。




 やがて、投擲・射撃の応酬を繰り広げていたウェリテスとバレアレス投石兵は、後方へ退いていく。軽装歩兵の役目は序戦のみ。あとは後方で控え、味方の危機に備えるのだ。
 ピルムが止むと、ジスコーネが前方に馬を駆って来て命じた。
「ケルト・イベリア兵を進ませよ」
 この戦いで頼りにするのは、この傭兵軍団。
 というのも、歩兵の戦闘力ではカルタゴ兵もマサエシュリ兵も、到底ローマ兵の敵ではない。彼らが中央で支えている間に、得意の騎兵の戦闘力で、両翼のローマ軍騎兵を破り、転じてローマ歩兵を挟撃して蹴散らす、これが彼らの思い描いた筋書きだ。
 そのケルト・イベリア兵は、盾を剣で打ち鳴らしながら、意気揚々進み始めた。彼らも、野戦には無類の自信を誇る。


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 大平原の戦い−正攻法 
 翌朝。ローマ軍は前進を開始した。
 応じてカルタゴ・マサエシュリ連合軍も押し出した。
 真っ青に澄み切った空。降り注ぐ朝陽が兜に反射した。
取り囲む全てが青と白の光で、きらきら輝いていた。




 スキピオは将兵の前に進んだ。慣例の訓示をするためだ。
「諸君!」
 手綱を引き、輪乗りして全員を見回した。
 伝来の鎧兜に身を包み、腰に愛刀『星天の剣』を佩いている。
 まこと落ち着いた騎乗ぶりで、全身、自信に満ち溢れていた。
 将兵たちの目にも、勝運に乗りに乗ったこの青年指揮官の姿は、さぞ頼もしく映ったことであろう。




「こたびの戦いは勝利と決まった!」
 指揮官は迸るように断じた。
「なぜなら、ここは、我がローマ軍古来の戦法の効用が遺憾なく発揮される地形であるからだ!」
 大草原に自信に満ちた声が響き渡る。
「必要なものは諸君の勇気勇戦のみ!必然、勝利は我らのものぞ!」
 指揮官の自信は、草原にある全員に瞬く間に伝播した。
 なにせ、スキピオの作戦はヒスパニア以来悉く的中している。その自信満々は、将兵らも同じであったのだ。
「おおおお!」「わあああ!」
 将兵の喚声が轟いた。




 両軍は再び接近を開始した。
 その陣形は、この時代の地中海世界における伝統的なもの。
 前方に軽装歩兵を配し、中央に歩兵部隊、両翼に騎兵隊だ。
 即ち、カルタゴ・マサエシュリ連合軍は、中央に先に援軍としてやって来たケルト・イベリア傭兵部隊を中心とした歩兵部隊、左翼をシファクス王率いるマサエシュリ騎兵軍団、右翼をジスコーネ率いるカルタゴ騎兵隊。
 対するローマ軍は、中央にシチリア奴隷軍団・ローマ市民兵を主力とする歩兵部隊、左翼をマシニッサ率いるマッシュリ騎兵軍団、右翼をラエリウス率いるローマ騎兵隊。スキピオは、歩兵の後方にあって、全軍の采配を取ることにした。

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