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宮中の攻防(続き)
その日の夜。ジスコーネの屋敷。
ジスコーネは、寝室の片隅で、小さな影とひそひそ会話していた。
「そうか…。やはり、そのような動きがあったのか」
「はい。くれぐれもご注意遊ばすようにと仰せです」
「…相分かった。これからも慎重に探ってくれ」
「は」
影はすっと消えた。
そう。ジスコーネは、マニアケスの手下の女たちを密かに宮中に潜り込ませていた。王妃ソフォニスバ付きの女官として。そうして、宮中の機密を探り、またソフォニスバと連絡を取り合っていたのだ。
(やはり、シファクスめ…油断ならぬ狐よ)
マシニッサから王権を奪取する際には、頭を低くしてジスコーネ率いるカルタゴ軍の武力を借りておきながら、ひとたび王権を奪うや、カルタゴの宿敵ローマにも色目を遣う。
(このままではつけあがるばかり。こうなれば…)
翌日。
朝日と共に、ジスコーネは、大勢の兵を帯同し、シファクスの宮殿に現れた。
美々しい鎧に身を包み、従うマニアケスもアドヘルバルも完全武装していた。
従う兵も、槍を握り、あたかも戦場に赴く体の殺気に全身を包みこんでいた。
「あっ!」「これは何事でございます!」
宮中付きの衛兵は立騒いだ。
王家の執事アルケラオスが、慌ててやって来た。
いつも沈着な彼も、武装した彼らに一瞬驚いた表情となったが、すぐに、いつものやんわりとした笑みを浮かべて見せた。
「…これはこれは閣下。一体いかがなされました」
「王君に謁を賜りたい」
「王君は只今休息中にございます。それゆえ、後ほど取り次ぎ、追って沙汰いたすでございましょう」
近頃、こんな口実を構えられ、王に会うことができないことが多かった。
だが、今日はジスコーネはてこでも引き下がる様子はなかった。
「このジスコーネが、どうしても会いたいと申しておる」
ジスコーネ、声音にドスを利かせた。
「いかに、お妃様の兄上と申せ、それは無礼でございましょう。後刻、謁見の段取りをいたしますれば…」
「黙れっ!」
抜刀するや、剣先を執事に突きつけた。
「こ、これは無体な」
「貴様…。このジスコーネが下手に出ているからとて侮るな」
「な、何を仰せある」
「汝の旧主マトスの如く八つ裂きにしてやってもよいのだぞ」
凄まじい眼光に射すくめられ、さしものアルケラオスも動けなかった。
その彼らを押しのけると、ジスコーネらは、ずかずか通り過ぎていく。
ジスコーネと配下たちは、立ちはだかる役人や衛兵を押しのけ、女官たちの悲鳴の中を、王の間にどやどやと押し入った。
すると、シファクスは既に玉座にあって彼らを見下ろしていた。
輝く白衣に身を包み、ディアデマ(王環)を頭に巻き付けているその様は、うろたえている様子は微塵もなかった。
(…ふん。さすがだな。肝太いわ)
ジスコーネ、一瞬冷笑を浮かべたが、すぐに謹厳な表情に戻った。
「王君、ジスコーネにございます」
外戚が国王に相対する礼をとった。
「うむ。その姿はいかがいたした」
「はい」
ジスコーネは、配下に目配せすると、一人、玉座の前へと進んだ。
「これは我らの覚悟、にございます」
「覚悟とな」
「はい」
ジスコーネはこくと頷いた。
「王君。我らが手を結んだ時のことを覚えておいてですか」
「手を結んだときの…」
それは、ジスコーネが旧交厚かったマシニッサ王を裏切りを見せた時の事。
先年、彼とその兵力は、マシニッサの居るキルタの王城におめきかかった。
軍を指揮するジスコーネ、優勢を誇る色など微塵もなく、眦を決していた。
「王君。我らは、あの穏やかで愛すべきマシニッサをここに捨てます。また、最愛の妹の夫を捨て去るのです。取り交わした信義を裏切り、貴方との同盟を選択するのです」
「う、うむ」
シファクスは、相手の覚悟にたじろぐように頷いた。
「それは、ひとえに我がカルタゴ国家のため。アフリカで我らカルタゴ人が生きていくための選択。そのことを、もし王君が忘れるときがあらば、我らは王君を決して許しはしないでしょう」
多大な犠牲を払って汝を王座に着けようとしておるのだ、それを決して忘れるな、ということ。
「分かった。心にしかと銘じておこう」
総攻撃が始まり、夜が明けると共に、マシニッサの王権は瓦解した。
代わってシファクスがマッシュリの支配権を継ぎ、東西ヌミディアの王位に即いた。ジスコーネは妹を彼に嫁がせ、外戚となった。約束通り、カルタゴとヌミディアは攻守同盟を締結した。
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