新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第10章アフリカの章

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 姉と語り合う 
 ここカルタゴ本市。今、ここは息詰まる戦時下にあった。
 兵役を免除される市民は、ローマとの戦時中もずっと普段通りの生活を送って来た。
 だが、スキピオのアフリカ上陸、コルネリア要塞建設からはその生活はまさに一変。
 しかも、先にウティカの戦いに敗れたジスコーネの軍勢が敗走して来ると、街全体を沈鬱な空気が支配した。
「あの傭兵の乱と同じになって来たぞ」
「市外は全て敵。我らどうすればよい」
 古老はかつての大乱の記憶に怯えを呼び覚まし、若者は嵐に漂う小舟の上にある如き不安におののいた。




 元老院も動揺の例外でなはなかった。
 元老院は、和平が白紙となってから独自の作戦に出ていた。海上からコルネリウス要塞を包囲し、かつ陸上の途を封じ、スキピオ軍の補給を断つ作戦だ。
「これならばスキピオも音を上げよう」
 あのボミルカルの子ハンノン主導による作戦だった。
 だが、ウティカの大敗により企ては見事に頓挫した。
「これから一体どうすればよいのか」
「いっそハンニバル殿を呼び返すか」
 バルカ党は、この頃から『ハンニバル帰還』を切り札の一つに思うようになっていた。それは困った時の神頼みにも似ていた。それは、カルタゴ本国における人材不足を、如実に物語っていた。




「いや…ハンニバル閣下の帰還はまずい」
 ボミルカルの子ハンノンが言った。
 彼は、今や本国バルカ党の代表の座にある。だから、ジスコーネの勢力に対し、主導権を握るにはハンニバル帰還は望ましい筈であったが、その彼が首を振った。
「今、ハンニバル閣下を招き寄せれば、イタリア全土がローマに平定されてしまう。ローマは、ハンニバル閣下に向けていた兵力を、全てこちらに向けて来るに違いない」
 この頃、ハンニバルの弟マゴーネの艦隊が、リグリア上陸を果たしていた。そして、リグリア人の協力の下、アペニン山脈を越えエトルリアないしウンブリアを窺っていた。
 即ち、南北よりローマを牽制する作戦だ。
 恐らく、ハンノンの許に、ハンニバルとマゴーネの意向が伝わっていたに違いない。
 それゆえ、ハンノンはこう判断するしかなかった。
「ここは、ジスコーネ殿に再度出馬を仰ぎ、マサエシュリと共にローマ軍に当たってもらう他ない」
 バルカ党の意思即ちカルタゴ元老院の意思。
 元老院はジスコーネを司令官とする軍勢を出陣させることを決議した。




 その頃、帰還したジスコーネは、とある人物としみじみ語り合っていた。
 それはマゴーネの妻エリッサである。ジスコーネの姉でもある。
「左様でござるか…。マゴーネ殿は、無事リグリアに上陸なされたか」
「ええ。先日ようやく便りがありまして」
 マゴーネは、ヒスパニアを喪失してガデスを海上へと退去してから、バレアレス諸島やカルタゴ人の拠点イビサ島を巡り、兵や軍船を集めながら東へ進んだ。
 そして、途中で妻子をカルタゴ本国に送ると、自分はそのままリグリアに向かった。
「再びイタリアに上陸し、兄ハンニバルと共に、南北からローマを攻め立てる」
 即ち、メタウロスに倒れたハシュドゥルバルの果たせなかった事業を引き受ける覚悟であったのだ。




「わたくしは同行をお願いしたのですが…」
 エリッサの面には、寂しげな影が一筋差していた。
 が、夫マゴーネはこういって許さなかったという。
「そなたは息子を連れカルタゴに帰れ。余はそれを心の寄る辺に奮闘するつもりだ」
 夫は甲板の上で、日焼けした顔を綻ばせた。
 それは、かつてハンニバルが妻イミリケに言い渡したのと同じ言葉。




 ジスコーネは頷いた。
「やむを得ますまい。マゴーネ殿の思いやり」
「思いやりなら、一緒に来い、そう言ってほしかった…」
 姉の苦情に、弟は苦笑した。
「夫が妻子の安全を祈るのは当然の事ではありませぬか」
「いいえ」
 エリッサは首を振った。
「夫婦とは共に生きてこそ。イミリケ殿を間近に見て、その念を強くいたしました」
「イミリケ殿…」
 イベリア総督の妻、大司令官ハンニバルの妃と重んじられていても、ハンニバルのイタリア遠征の間、夫と暮らすことは全く叶わず、彼女はずっと孤独に耐えて生きていた。
「イミリケ殿は本当にお気の毒。それに対して、我ら夫婦、対ローマ戦の逆境の年月が長く続く中を暮らしましたが…。とても幸せでした」
 エリッサは、しみじみそう言うのだ。




(そういうものか…)
 男は名誉と富を得る。そして、女は男の妻となりその名誉と富に与る。それが、この時代の普通の感覚としての、幸福の概念であった。
(だが、違うらしい)
 ジスコーネ、男の思う幸福と女の思う幸福の違うことを、この時実感した。
「なるほど…。男と女は、穏やかに夫婦として生きるのが最上なのやも知れませんな」
 そう言葉を紡ぎながら、自分も、かつて戦いを回避するため奔走したのも、結局はこれが理由だったのだと思い起こしていた。それ全て、知友との対決を回避し、穏やかな日々を守るため。
 それは叶わず、今、スキピオやマシニッサを敵に回していた。
 カルタゴ軍司令官と人々に仰がれる身ながら、ずっとどこか居心地の悪い思いがするのも、こういうことなのだと腑に落ちた。
(そうか…こういうことなのだ…)
 それは、淡い悔いにも似た、甚だ苦い味のする真実であった。

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 大平原へ(続き)
「アルケラオスよ、これからどうしたものか」
 王は、憤懣に粗雑となった頭脳で思考がまとまらぬのか、苛々意見を求めた。
「は。この兵力ではローマに正面から対抗することは難しいか、と」
 アルケラオスも渋い表情であった。
 マサエシュリの軍勢は半減。しかも、味方の士気は消沈していた。
 ここにも、ローマ軍が押し寄せてくるであろう。
(今のままでは勝ち目はない…)
 誰もそのことが分かるためか、軍議の席は静まり返った。




「我が君。僭越ながら御意見申し上げて宜しいでしょうか」
 王妃ソフォニスバである。
 逃避行の疲れの色一つ見せず、その気品あたかも宮殿にあるかの如きであった。
「む、何か」
「はい。今こそ戦いに向けて一心邁進する時と心得ます」
「一心邁進、とな」
「この敗北は、和戦を天秤に架けた我らの心の隙を衝かれたものと存じますゆえ」
「む…」
 妻の言葉にシファクスは顔を赤らめた。
 だが、王妃は、別の顔に視線を遣った。
 それは王家の執事アルケラオスである。
 彼もその言葉には恥じ入るしかなく、深くうつむいていた。
 彼が和平を強力に進め国論を和平に傾けた。なのに、スキピオの肚を見抜けず、結果、大敗北を招いたのであるから。
「そもそも都合良い和睦の話が勝利もせず転がって来る筈もないことを、この負け戦は教えてくたれものと存じます。まずは戦いに勝利する、そのことを思うべきか、と」
 王妃の正鵠を射た言葉に、諸将は胸を衝かれたように黙りこくった。




 王は深く頷いたものの、だかと言った。
「戦うにも、如何せん兵力が足りぬ」
「そのことはならば…」
 王妃が言いかけた時、外が騒がしくなった。
「何事か。テュカイオス、見て参れ」
「はっ」
 だが、彼はすぐに戻って来た。瞳を輝かせていた。
「王君!お喜びください!」
「どうした?」
「ケルト・イベリアの兵およそ一万が援軍に駆けつけてきましたぞ!」
「なに、どういうことか」




 この頃、イベリア半島の大半はローマにより制圧されていた。
 スキピオがあとを任せたシラヌスとマルキウスが、着々勢力を広げ、反ローマ勢力を駆逐していた。
 だが、ローマの統治を快く思わぬ部族勢力も少なくなかった。
「このままでは、我ら、ローマに隷属するしかなくなるぞ」
 特に、半島北西部に住むケルト・イベリア人−ガリア人(ケルト人)とイベリア人の混血部族−に不満が高じつつあった。半島北西部は、イルルゲテス族の降伏以降、急速にローマ統治が浸透し始めていたからだ。
 ジスコーネは、それを知って、密かに使節を送り、アフリカに兵を送るよう誘い水を向けた。すると、血気盛んな若者たちが呼応し、アフリカにやって来たのであった。
 ウティカの戦いには間に合わなかったが、キルタを経てここにやって来たという訳であった。




「なるほど…これは…戦えるかも知れんな」
 シファクスの頬に血の気が戻って来た。
 そこに今度は。
「王君、カルタゴより使者が参りました」
 衛兵が告げた。
「む。すぐに通せ」
 現れた使者の言葉は、王の意気をさらに高めるものであった。
 カルタゴ元老院は抗戦継続を決議した、再びジスコーネに軍勢を授け送り出すゆえ、これまで通り同盟を堅持し対ローマ戦に当たってもらいたい、というものであった。




「そうか…それならばスキピオと戦える」
 王は体内から闘志が湧く心地がした。
 マサエシュリ単独ではローマとは戦えぬ。だが、ケルト・イベリアの傭兵軍団、さらにカルタゴの新手が加わるのであれば、話は別であった
(確かに、王妃のいう通り、和平に導くにしても、勝っておかねばならぬ…)
「よろしい」
 シファクスは、流暢なフェニキア語で、カルタゴの使者にこう言った。
「ジスコーネ殿にお伝えあれ。『大平原』の地で合流しようと」
 大平原とは、ウティカから西方へ130km、今いるシッカの街からは北へ50kmほどの、山間に広がる平原地帯である。地元民がそう呼慣らわしていた。
 いわば小細工の利かぬ地形で、スキピオに勝負を挑もうという訳だ。


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 大平原へ 
 同じ頃、マシニッサ率いるマッシュリ騎兵軍団並びにシチリア奴隷軍団が、ジスコーネのカルタゴ軍陣営を急襲し、こちらも大混乱に陥れていた。
「ありったけの火矢を打ち込め!」
 あちこちから炎上がり、陣営はたちまち火に包まれた。
 カルタゴ兵は、はじめこれを敵の奇襲と思わなかった。
「火事だ!」
 失火と思い、多くの兵が丸腰のまま飛び出した。
 だが、そこには真っ黒な軍団が待ち構えていた。
「ああっ!」「敵だ!」
 慌てて武具を取りに戻ろうとしたが、もう遅い。
 マッシュリ騎兵が、彼らの頭上に矢を放った。至近から、しかも逃げ惑う敵兵相手である。矢は面白いように命中した。
「ぎゃっ!」「ぐわ!」
 獲物を持たぬカルタゴ兵、右往左往逃げ惑った。




「それっ!突入せよ!」
 マッシュリ騎兵は馬蹄響かせ、怒濤の如くカルタゴ軍本陣に突入した。
 カルタゴ兵は、迫る火炎に恐慌に陥り、敵味方も判別し得なくなった。
 誰彼構わず槍を繰り出し、剣を振り回した。
「このヌミディア野郎めがっ!」
「なにお、やられてたまるか!」
 極度の混乱、あちこちで同士討ちが繰り広げられた。
 こうなっては、いかなる名将も手の施しようがない。
「引け!血路を開いて退却するのだ!」
 総大将ジスコーネは馬に鞭打ち逃げるしかなかった。
 群がる敵兵を懸命にあしらい、何とかカルタゴへと逃れ得た。
 だが、背後では大勢の兵が火炎に呑まれ、同士討ちの犠牲となったのである。




 他方、シファクス王は、ラエリウス隊の奇襲に際し、いち早く脱出すると、ローマ軍の追撃を振り切り、遠くシッカ(現エルケフ)まで落ち延びていた。
 ここでようやく一心地ついていた。
 味方の甚大な被害が明らかになった。子飼の数千の騎兵を失っていた。
「スキピオめ…よくも計りおって」
 シファクス、途中馬を飛ばしている間から、ずっと毒づいていた。
 続いて、王妃ソフォニスバとマニアケスの一隊が追いついて来た。
 その後も、続々敗兵が辿り着く。どの顔も疲労困憊。ローマ軍の昼夜の追撃に、夜通し敗走していたのだから。


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 姉弟まみえる(続き)
 その姉が強敵として再び現れた。いや、敵の中枢に攻め入れば、これ必然。
(来たか…)
「ラエリウス!いくぞ!」
 そのマニアケスが駆け向かって来る。殿(しんがり)を買って出たに違いなかった。
 ラエリウス、腹にぐっと力を込めた。
「おお!かかって来い!」
 槍をぐっと握ると、馬腹を蹴った。
 二騎は互いに向かい馬を飛ばした。
「やあああっ!」「うおおおっ!」
 二人は、渾身の一撃を繰り出すや、火花が散った。
 その衝撃に、二本の槍は真ん中から折れ曲がった。
「ちっ」「むっ」
 二人は、棒切れと成り果てた槍を捨てると、ならばと剣を抜いた。
「いくぞ!」「おおっ!」
 再び互いに向かっていく。そして、容赦なくその剣先を相手目がけ振り下ろした。
 頬を染め、瞳輝かせ、己の力を遺憾なく発揮する。
 その華麗な戦いぶりに両軍の兵士が集まっていた。




 そこに駆けつけたスキピオ、姉弟の一騎打ちを、息を呑んで見守っていた。
「セルギウス。なんとかならんのか」
 二人の戦いを凝視しながら言った。
 どちらに決着しても悲劇でしかない。 
「とは申せ、二人ともこれを一期と戦っておりますれば…」
 セルギウスも前を向いたまま答えた。目を離せないのだ。
 ラエリウス、神に対する誓いにまさに忠実に、相手が姉であることを忘れたかの如く無心に剣を振るっていた。
 対するマニアケスは、まだ真実を知らぬから、当然、猛烈に打ち込んで来る。
「神々がかかること望むとは思えぬ。そなたの知恵で何とかせよ」
「は…そういうことでしたら」
 セルギウス、ふっと姿を消した。
 



 姉弟の死闘は続いた。
「おっと」
 マニアケス、はっしと受け止め、ぶんと振り払うと、呼吸を整えるため、少し後ろへ下がった。
「貴様…随分腕を上げたな」
 薄ら笑いを浮かべた。いや、それは人が人を認める笑みそのものだ。
 ラエリウスは動揺した。ある感情が胸元に衝き上がってきたからだ。
 急に剣を持つ手がこわばり出すのが分かった。
(ええい…目の前にいるのは…宿敵マニアケス)
 ラエリウスは、我が心を奮わせ、剣を振りかぶった。
「ふん。減らず口を叩くな。いくぞ!」
「ふ。残念だな。敵味方となったのが」
「だ、黙れ!」
 ラエリウス、馬腹を蹴り、馬を煽った。




 と、その時であった。
 遠く後方から一筋の叫び声が上がった。
「マニアケス殿!王妃様の馬車が、敵に取り囲まれております!」
 並の者なら聞き逃してしまうものであったが、マニアケス、くるりと馬首を巡らせた。
「あっ、逃げるか!」
「ふん。貴様の相手より王妃の身の方が大事。また後日」
 言い捨てると、マニアケス、あっという間に駆け去っていった。
 ラエリウス、ほっと息をつき、その姿を見送った。




 そこに、セルギウスが馬を寄せて来た。
「見事な戦いぶりでしたな」
 褒めそやす彼に、ラエリウスは、じろりと一瞥を与えた。
「そなただな」
「は?何のことです?」
「そなたが退散するよう小細工したのであろ」
「ほ…。お見通しでございましたか」
「すぐに分かった」
「さすがですな…」
 セルギウス、嬉しげにラエリウスの顔を見た。
 それは、誰かの面影を偲ぶような色であった。
「総司令とそなたは知っているもの…な」
「は。総司令は見るに忍び難しと仰せに」
「そうか…」
 ラエリウス、少しうつむいていたが、顔を上げた。
「よし。敵を追撃するぞ!徹底的に打撃を与えるのだ」
「ははっ」
 ローマ軍は再び進み始めた。


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 姉弟まみえる 
 ラエリウス、スキピオの言葉を鮮烈に思い出していた。
「この私がマニアケスの弟…!そんな…!」
 運命の織り成す偶然に愕然となった。
「そうだ。お前の姉はマニアケス。祖国滅亡の時に生き別れた、この世に無二の血縁だ」
 スキピオ、ずしとした語気で、その真実を繰り返した。




「そんな…ありえませぬ…」
 ラエリウス、信じられぬという面持ちで頭を振った。
 だが、その時。きーんという金切り音が頭の奥から響いた。
(う…。な、なんだ!?)
 瞬間、頭脳の深奥に封印されていた記憶が、吹き上がるように甦って来る。
 それは、母の笑い声に混じり、幼い自分の頬を優しげに撫でる少女の笑顔。
(あれは…)
 それはみるみる鮮明なものとなって脳裏に像が描かれる。
「あ…あ…」
 それは、まさしくマニアケス。いや、姉の笑顔であった。
(そ…そんな…)
 ラエリウスは崩れ落ちた。




「そなたの自由にするがよい」
 スキピオは穏やかに言った。
 姉弟対決を強いるのは忍びない。ローマに帰還しても良い、と。
 ラエリウス、ううっと嗚咽を漏らしていたが、ぽつりと言った。
「そうはいきませぬ…」
 腕で頬を拭うと、すっくと立ち上がった。
「なぜ。このままでは、そなたは肉親と刃をかわすことになろう。いや、既にこれまで幾度か交わしている。悲劇が現実となる前に回避すべきであろうが」
 姉が弟を、弟が姉を、いずれもあってはならぬ、と。
 スキピオ、懸命に説得する側に回っていた。




「私は…ある誓いを立てました」
 ラエリウス、呟いた。
「それは…何か?」
「たとえ血族と敵対してもある方に叛くまじ、と」
 自身の出自がイベリアのオリッセス族らしいと打ち明けた折に、スキピオは全てを受け容れてくれた。その時、心に固く誓ったのだ。




 スキピオは、まじまじと親友の顔を見た。
「それは…私のことか。義理立ては無用ぞ」
「確かに総司令のことです。が、誓いは天地の神に向けてなしたもの。それに叛いて、我が軍に運がありましょうや」
「いや、神々も姉弟の死闘を望むまい。姉と分かって…」
「御懸念無用。たとえ、姉、否、生き別れた親が馬前に現れても、それが敵ならば討ち取って御覧に入れましょうぞ」
 ラエリウスは目を血走らせ、そのように言い切った。
「ラエリウス…」
 スキピオは言葉を失った。
 そう。その覚悟で、ラエリウスは、この戦陣に臨んでいた。


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