新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第10章アフリカの章

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 ウティカの戦い(続き)
「どうしたっ!もう終わりかっ!」
 再びずんと穂先を繰り出して来る。
「わっ!」
 テュカイオス、辛うじてかわし得た。が、
「それっ、それっ」
 ラエリウス、左右上下、次々繰り出した。
「わっわっ」
 襲い来る鋭峰に、テュカイオスたまらず、
「敵わぬ」
 突然馬首を巡らせ、後方へと退き始めた。
「卑怯者め!首を置いていけ!」
 ラエリウスがテュカイオスを追って馬を飛ばし始めると、他のローマ騎兵も喚声を上げ一斉に後に続いた。
 この頃には、マサエシュリ軍は完全に潰乱状態に陥っていた。




 ローマ兵はマサエシュリ陣内を縦横に駆け回った。
 それは肝心の標的を探しまわってのこと。
「シファクスを探せ!奴を捕らえるのだ!」
 だが、王の幕舎に殺到した時は、既に逃げ出した後で無人であった。
「ちっ、どこへ逃げた」
 と、その時。
「おっ、あれは…」
 ラエリウスの視界に、絢爛豪華な四頭立ての馬車が西の方角に走るのが入った。
(王もしくは王の縁者だな…)
 それは王妃ソフォニスバの馬車であった。
 敵襲の大混乱の中、逃げ惑っていたのだ。
「よし!あれを捕獲しろ!」
 ラエリウス、馬上に戻ると、格好の獲物とばかりに数百の騎兵と共に駆け向かった。




「王妃様!敵兵です!」
 御者は仰天して、内なる人に急を告げた。
「急ぐのです。ここで捕まってはなりませぬ」
 ソフォニスバは凛とした声で命じた。
 自分が捕まることはカルタゴ・マサエシュリ連合にとって痛撃。
 だが、駿馬揃いのローマ騎兵、みるみるその距離を詰めていく。





(あと一歩…)
 手を伸ばせば届かんばかりとなった。
 馬上からも内なる人が透けて見えた。
(女か…ということは王妃ソフォニスバよな)
 王妃の危機に、マサエシュリ騎兵が突如馬首を巡らせ向かって来る。
「猪口才な!」
 ラエリウス、槍を小枝の如く振り回し彼らを叩き落とした。
 そして、ついに馬車の横に寄せると、ギリシア語で叫んだ。
「そこにあられる高貴な御婦人よ!諦めて降伏なされよ!」
 だが、馬車の内からは何の反応もない。
「ならば…」
 ラエリウス、ぐいと扉に手を伸ばした。引きずり出そうというのであろう。



 と、その時。
 矢唸りが耳許に轟いた。
「ちっ!」
 慌てて上半身を反らせ、槍をぶんと振り抜くや、矢をはっしと叩き落とした。
 飛んで来た方角を凝視すると、彼は目を大きく見開いた。
 馬上弓を構えてあったのは、女将軍マニアケスであった。
「王妃様は渡さぬぞ。ラエリウス」
「マニアケス…」


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 ウティカの戦い 
 押し寄せて来たのは、ラエリウス率いるローマ軍一万。
 まずは柵の外に屯する油断し切った敵兵を蹴散らした。
 そして、一気に本陣の柵の前に至ると、
「止まれっ!」
 ラエリウスは、軍勢を急停止させた。



「歩兵前に!」
 騎兵の隊列の間から、歩兵が前に出てずらりと並んだ。
 彼ら歩兵の矢籠には、矢がびっしりと詰められている。
 腰に提げた油壷に鏃を浸し、松明の炎に近づけるとぼうと燃え上がる。
「番えよ!」
 暗闇に向け、くんと弦が大きく張られた。
「放てっ!」
 ぶうんと矢唸りを立てて、数千の矢が夜空に放たれた。




 無数の光線がマサエシュリ本陣に落下すると、めらめらと炎が上がり始めた。
 なにせ、葦葺きの木枝を組み合わせただけの陣屋。さらに、吹きすさぶ春風。火の手はみるみる広がり、勢いよく燃え上がる。
 迫り来る火炎に、日頃勇敢なマサエシュリ騎兵も甚だ狼狽した。
「うわっ、火を消せ!」
「火炎に包まれるぞ!」




「それっ!突入だ!」
 ラエリウスを先頭に、ローマ騎兵は喚声を上げて柵の中へ突進した。
 そして、馬を見失い狼狽するマサエシュリ騎兵を存分に突き伏せた。
「うわっ」「ぐわっ」
 馬上では世界最強の彼らも、地上にあればローマ兵の敵ではない。
 あっという間に蹴散らされ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「深追いするな!それよりも火を放て!全てを焼き払うのだ!」
 騎兵は馬上から火矢を放ち、歩兵は松明の火を陣屋に点けて回った。
 マサエシュリ陣営は瞬く間に火の海となった。




 縦横無尽に暴れる彼らローマ兵の前に、ようやく一団の騎兵が向かって来た。
「人も無げな振る舞い!マサエシュリにも将はおるぞ!」
 それは、マサエシュリ王家のテュカイオス率いる騎兵隊。
「ローマの将よ、我と勝負いたせ!」
 テュカイオスは肩を怒らせて叫んだ。
 ラエリウス、じろと一瞥を呉れると、
「ふん、かかって来い!」
 手綱をぐいと引き馬首を彼に向けた。
「やあっ!」「はあっ!」
 二騎は、気合いの叫びと共に、互いに突進した。
 があんという音が響いた。




「おおお」
 馬上、大きく仰け反ったのはテュカイオス。
 瞳を大きく見開かせていた。
(な、なんという力だ)
 彼が驚愕してる隙に、ラエリウスが向かって来る。

イメージ 1

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 奇襲とは(さらに続き)
「近い」
 王妃は言った。
「近い?それは…」
「スキピオ殿が動く時です」
 その語感には、ほのかにスキピオに対する親愛がにじんでいたが、マニアケスは、その言葉の意味する重大さの方に心を奪われた。
「我が軍の兵力は優に倍。果たしてスキピオがすぐに動きましょうか?」
「敵がそう思う時こそ絶好の機、あの人ならそう考えることでしょうね」
「あ…」
 マニアケス、胸を衝かれた。
 そうなのだ。スキピオがどうして勝ち続けてこれたのか、それは敵の心の油断を衝いて来たからだ。敵が優位を誇る、まさにその時攻め寄せて来るのだ。
(攻めて来ない、そう思っている敵こそ格好の標的…。そうだ、シラクサの折も、新カルタゴの時も…そうであった)




「王妃様…」
 マニアケスが語気を強めたその時、幕舎の外が急に騒然となった。
「何事か!」
 マニアケス、背後に向かって叫んだ。
 そこに衛兵が転がり込むように駆け込んで来た。
「大変です!」
「どうした!」
「夜襲です!」
「なんだと!」
 マニアケス、マントを翻し、幕舎の外にずかと出た。




「おおお」
 喚声響き、火の手が大きく上がっていた。
 敵の火攻めであることは明らかであった。
(これは…)
 マニアケス、瞳をかっと見開いた。
 事の全容が、ここにはっきりした。
(してやられた…)
 和平交渉は全てこのための偽装。
 砂鉄は鏃の鋳造、木材は矢柄の材料にするため。
(またしてもスキピオに…)
 彼女は歯をぎりぎり噛み締めた。




「マニアケス殿…」
 背後から心配そうな面持ちのソフォニスバが現れた。
「スキピオ殿の夜襲か」
「左様にございます。ここはもはや危険。王妃様は後方に落ち延びてくだされ」
「そなたは…どうする」
「敵を食い止めまする」
 マニアケスは周囲の兵を引き連れ駆け出した。


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 奇襲とは(続き)
 マニアケス、立てられたばかりの幕舎に、王妃ソフォニスバの住まいに相応しい造作が設えられる喧噪の中を案内された。
 当の人は、薄いヴェールを被り、そっと座にあった。
「マニアケスにございます。早速のお目通りありがたき幸せ」
 身なりに従い、カルタゴ軍将校としての礼儀を執った。
「マニアケス殿…」
 ソフォニスバは、にこと微笑んだ。
 それは自然と浮かんだ笑みだった。
(不思議な御方…。血塗られた修羅の人生を送って来られた方というのに…。いや、我がカルタゴには仇ともいえる出自というのに…。なぜか憎めぬ。それどころか、不思議な親愛の情すら湧いて来る…。ハンニバル殿も兄上も、このような感覚なのか…)




「王妃様…?」
 マニアケス、王妃の凝視に気付いたものであろう。相手の瞳を覗き込むようにした。
「あ…ごめんなさい。少し疲れまして」
 王妃は、少し照れたように、そんな言い訳をした。
「それはいけませぬ。すぐに退散いたしますれば…」
「いいえ。ギリシア語で会話出来る人と久方にお会い出来たのですから…。今しばらくいらっしゃいませな」
 ギリシア語とは、素養ある人間の共通言語、ということは洗練された会話を愉しむアイテムでもあった訳だ。
 王妃は侍女に命じて酒を運ばせた。
 深窓の令嬢から王家の妃へ。その語調も所作も、女主人としての振る舞いが板に付いていた。




「王妃様に是非ともお訊きしたいことがありまして」
「何ですか」
「敵の動きのことです」
「ほほ。わたくし、戦のことは分かりませんわよ」
「いえ」
 マニアケス、小さく首を振った。
「敵の心の動きのことです」
「敵の心?」
「はい。それは、結局は人の事。戦いか否か関わりなきこと。ならば、御聡明な王妃様にお訊ねしてみれば何か分かるのではないかと…」
「そうですか…そういうことでしたら」
「は。これまで…」
 マニアケス、これまでの経緯を事細かく聞かせた。
 笑顔のソフォニスバ、みるみる顔色を変えていた。


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 奇襲とは 
 とある夜。ここマサエシュリ軍の本陣。
 マニアケスがここにやって来て、既に半月が経っていた。
「…そうか。ローマ軍の陣営には異状は見られなかったか」
「はい。コルネリア要塞の内に潜入は出来ませんでしたが、周囲から観察する限り、特段異状は見受けられませんでした」
 マニアケスは、配下の女密偵たちから敵情を詳細に聴き取りながら、もどかしさを覚えざるを得なかった。
(まさに、その内の実情が知りたいのだが…)
 スキピオに策ありとすれば、外から異状を察知できる迂闊はない筈だからだ。




「何か、ほかに変わったことはなかったか」
 マニアケス、あまり期待を掛けずに訊いた。
「ほか…と申しますれば…」
 密偵の少女は首を傾げた。
「頻繁に大量の木材を搬入しておりまするが…」
「なに。木材?」
 マニアケスの眉が訝しげに動いた。
(薪用か…。冬営は間もなく終わるというのに…)




「あと、砂鉄とおぼしきものを入れた麻袋が大量に」
「なに、砂鉄」
 女密偵の頭目の目がぎらと光った。
「どうして砂鉄と分かった?」
「は。密かに運び入れておりましたものを、何とか一部抜き取ることに成功すると、砂鉄がこぼれてまいりましたので」
「木に…砂鉄…」
 マニアケス、眉間に皺寄せ深く思案した。
 砂鉄とあらば、製鉄に用いる以外にない。
(何を鋳造しているのか…。鍬か梳か。いや、剣、槍…)




 と、その時である。
 幕舎の外が騒がしくなった。
「どうした。何事か」
「見て参ります」
 密偵の少女の一人が駆け出した。すぐに戻って来た。
「王妃様がお越しになられたとのこと」
「なに、王妃様…。ソフォニスバ殿か」
「左様にございます。どうやら、和平成立を見越し、晴れの席に同席させるべく王が連絡していたようで…」
 そう。シファクスは、盛儀に妻を同席させるべく、キルタに使者を送っていたのだ。
 だが、その間に、和平は御破算となってしまっていた。
「うーむ、そうか。とんだ行き違いだな…」
 と、マニアケス、ふと立ち上がった。




「どちらへ?」
「王妃様にお会いして来る」
「は」
 少女たちは大人しく見送った。
 ソフォニスバはジスコーネの妹。即ち主筋であるから当然の礼儀と思った。
 が、それは違っていた。
(御聡明な王妃様に聞けば良い知恵が浮かぶやも知れぬ)
 今のマニアケスは、正直、誰かに縋りたかった。喉から手が出るほどに智を渇望していたのだ。


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