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−これまでのあらすじ−
ローマは、アルプスを越え来襲したハンニバル軍に連戦連敗するも、反攻に転じハンニバル軍をイタリア半島南端へ追いやることに成功する。
ヒスパニアの新司令官にスキピオが選出されるや、新カルタゴを急襲し(209年)、バエクラでハンニバルの弟ハシュドゥルバル率いる軍に勝利を収め(208年)、イリパの戦いに勝利し、ついにヒスパニアからカルタゴ勢力を駆逐(206年)。
次なる戦いの舞台はアフリカ大陸へ。
スキピオとジスコーネ、熾烈な外交戦を展開。マサエシュリ王都シガで思わぬ遭遇。激論を交わす。
スキピオ、ヒスパニアを平定するとローマに帰還。執政官選挙に出馬するや、年齢の壁を飛び越え、圧倒的支持を得て当選(206年秋)。
シチリアで充分戦備を整え、海洋に進んでアフリカ大陸上陸。カルタゴの近くウティカ近郊の岬に要塞(カストゥロ・コルネリア)を建設。マシニッサもスキピオ軍に合流。
だが、戦線は膠着。シファクス、和戦両様の構えで講和を申し入れる。スキピオ陣営とシファクス陣営の間を和平の使節が往来。にわかに和平の機運高まるも、一年越しの交渉の末に決裂(203年2月)。
乾いた冬の大地に戦雲が覆い始めた。
乾いた空気
紀元前203年2月の末。
こちらカルタゴ軍の陣営。
増強に増強され五万余の大軍に膨れていたが、こちらも緩み切っていた。
例の如く、兵の大半は傭兵。彼らは目敏い人種。戦いの終わり近しと見込み、戦後の給金目当てに軍籍に身を投じた連中も多かった。
「なにっ、和平交渉を放棄すると!」
驚くジスコーネに、
「左様。中断ではなく放棄である、とわざわざ断りを容れたそうな」
シファクス王は憮然とした面持ちで応えた。
王は、アルケラオスよりローマ軍からの通告を聞き、大いに驚くと共に、善後策を協議するため、急ぎジスコーネの許へ馬を飛ばして来たものであった。
「ふーむ。随分急な話であるな」
ジスコーネ、あご髭を撫でた。
彼は、初め、マニアケスと同様、この和平交渉をスキピオの策略と強く警戒した。
だが、先にスキピオがカルタゴの和平案同意の返答あるまでマサエシュリ陣営から立ち去らぬという使者を寄越したと聞くと、急速に和平へと気分は傾いていた。
(この条件で和平成るならば応じた方が良い)
概要は、ヒスパニアを割譲する代わりに、ハンニバルのイタリア撤退、スキピオのアフリカ撤退でけりをつけるというもの。賠償金の要求もなく、アフリカのカルタゴ本国領土が維持されるという内容で、只今劣勢のカルタゴには御の字といえるものであった。
これまで、ジスコーネが、ことあるごとに、スキピオに対し和平はあり得ぬと突っ張って来たのも、祖国を破滅的な講和から救うため。即ち、天文学的な賠償金の負担を恐れてのことに他ならない。
(和平の受諾により国家財政が破綻しては、結局は亡国の途しかない)
賠償放棄、それは彼のそういう琴線に触れるものであった。
それが、急転直下和平放棄となってしまったものであった。
大いなる肩すかしを覚えざるを得ない。
「ともかく」
ジスコーネが言った。
「和平は白紙、即ち敵対関係に戻る訳だ。気を引き締め直さねばならぬ」
「左様」
シファクスも頷いた。
「改めて作戦を練り直さねばなりませんな」
とはいえ、突然の和平破棄にも緊迫した空気はなかった。
二人が落ち着いていられたのは、長期に及ぶ交渉の間に、戦力増強が着実に果たされていたためであった。カルタゴ・マサエシュリ両軍合わせ、ローマ軍の倍近くに兵力は膨れ上がっていたのだ。
「スキピオとて、すぐには攻めかかって来れまい」
その安心と自信だ。
だが、なおも懸念する人物が一人いた。
マニアケスである。
(何か臭う…。あのスキピオが無為に時を過ごすであろうか。和平が策略ならば…)
だが、彼女にも分からなかった。
会議は、何か宙ぶらりんの空気のまま、散会となった。
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