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肚の探り合い
マサエシュリ王シファクスの使節アルケラオスは、盛大に出迎えられた。
副官ヘレンニウスに導かれ奥へと進んでいく。
陣所は、ローマ式に区画され整備されている。
「こちらが騎兵の陣所となっており」
「こちらに兵糧を備蓄しており申す」
「こちらには、武具を貯蔵してます」
陣内の各所をきめ細やかに案内された。まるで友軍の将校の待遇だ。
アルケラオスは面食らった。
同時に、大きく唸っていた。
(…うーむ。やはりスキピオ…底知れぬ男よ)
それは、彼がヒスパニアの戦いを手の者を使って詳細に調べさせた結果であるし、シガの宮廷でのスキピオの振る舞いからも確めた事実であった。
そして今も…。
敵に対し備えを明かすなど大胆不敵この上ないが、確かに、どれも充分な備えであることが見て取れた。
(これは…強敵だ)
アルケラオス、コルネリウス要塞の至る所を引きずり回された挙げ句、ようやく、スキピオの陣所に案内された。
幕舎の内に入ると、左右にローマ軍の幕僚たちが居並んでいた。
ラエリウスやルキウスという将に混じって、マシニッサもいた。
一瞬目が合ったが、宿敵同士であるから、ふんと目を逸らした。
「マサエシュリ王シファクスの使者として参りましたアルケラオスにございます」
教養あるギリシア人でもある。洗練された物腰で挨拶した。
「うむ。余がローマのプロコンスル、スキピオである。遠路大儀」
「ははっ。痛み入ります。閣下におかれましても御機嫌麗しく…」
二人は、あたかも初対面かの如き挨拶を交わした。シガの宮廷で一面識ある筈なのに、と思う方もいるかもしれぬが、あれは非公式かつ極秘の会談。だから、公式には、これが初対面ということになる。
一通りの形式張った挨拶の後、
「して…存分に拝見されたかの」
スキピオはニヤとして訊いた。
これからの会話は、まさに互いの肚の探り合いであった。
「拝見しました」
「どう感じた?」
「貴軍は強いと」
「ほう…」
スキピオ、大袈裟に驚いた表情を作った。
「そこで…」
アルケラオスが身を乗り出した。
両者共にギリシア語に堪能、だから、会話に小気味良いテンポがあった。つまり、通訳を介した時に生ずる無駄な間がない。
「我が王シファクスは、貴国とカルタゴとの和平を仲介いたしたいと申しております」
「和平のう…」
「は。コンスル閣下のご要望をよく伺って参るようにと…」
そこで、スキピオはさっと手を上げ遮った。
「は。何か?」
「コンスルではない。プロコンスルだ」
傍目からは同じでも、職階は厳しく異なる。プロコンスルには内政の権限は一切ない。
「これは…申し訳ありませぬ」
アルケラオス、大仰に詫びて見せた。
「…ですが、我らから見れば、閣下は只今ローマの最高実力者。コンスルと申してもあながち間違いではないかと…」
王家の執事は、にやとして、追従じみた言葉を返した。
「追従を述べる者は信用ならぬというがの」
スキピオ、ふふんと鼻で笑った。
「いえいえ」
今度は執事が大仰に手を振った。
「閣下はヒスパニアで勝利を重ね、あのハンニバルからもロクリを奪うなど、実を見せておるのです。追従などでは決してありませぬ」
二人は、視線をまっすぐに交わしたまま、しばし黙した。
こんな言葉のやり取りも互いの器量を測る物差しとなる。
「よろしい」
プロコンスルのスキピオが言った。
「和議の条件を、今一度詰めてみるとしよう。また参るがよい」
それは敵味方双方にとって意外な言葉であった。
「はっ。御言葉を聞けば、シファクスも喜ぶに違いありませぬ」
アルケラオスは嬉々としていた。
彼の肚は当初から和議にあった。
(マサエシュリ主導の下、和平を成立させることが、我が国、我が王家の安泰に繋がる)
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