新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第11章ザマの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全26ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 前のページ | 次のページ ]


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦3−退却(さらに続き)
 合図のラッパが鳴り響くと、ローマ軍歩兵前列のハスタティ部隊−青年兵−が前進を始めた。こちらも剣で盾を叩きながら、喚声を上げ始めた。
 三十年前のガリア恐怖症の時代ならば、この光景に足がすくんだに違いない。だが、今ここにあるローマ兵は違う。なぜなら、連戦連勝、敗北を知らぬスキピオの指揮下の兵士たちだからだ。




 将兵全て勝利を確信し、全身から闘志をみなぎらせた。
 そう。結果を信じる者は恐れぬ者。
「うおおおお」
 ローマ兵の喚声に、ハンニバル軍の傭兵部隊も進みながら
「わおおおお」
 異様な雄叫びで応じた。言葉がまるで異なるため、一層異様に響く。




 両隊は激しく衝突した。
 それは、当然の如く血しぶき上げる死闘となった。
 ハンニバル軍傭兵は、ローマ兵の盾にのしかかり槍や剣を猛然と振り下ろした。
 ローマ兵も負けていない。盾で相手を押し返すや、手にした短めのイベリア剣で振り下ろし、突き出し、前掛かりとなった相手を次々仕留めた。




 スキピオが、槍や長剣に換え短剣を与えたのは、この接近戦に備えてのもの。槍や長剣は間合いのとれるうちは威力を発揮するが、懐に飛び込まれると役に立たない。ガリア人やリグリア人の如き白兵戦を得意とする猛兵相手に用をなさない。
 この点、この短剣のイベリア剣(グラディウス)は接近戦に絶大な威力を発揮した。飛び込んで来る猛兵たちを突き倒し両断した。
 一時、武勇に任せ押しに押したハンニバル第一列の傭兵部隊であったが、ローマ兵の巧みな戦闘、また後ろから次々加勢して来るハスタティ部隊の新手が繰り出されるに至り、逆に押し返され始めていた。

イメージ 1

↑※GNUフリー文書利用許諾書 (GNU Free Documentation License) 1.2に基づいて掲載しています。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 
 ラエリウス、スキピオの重く情味に溢れた言葉を思い出すと、体をぶると震わせた。
「それっ、今こそ我らの武勇を示せ!」
 彼が馬腹を蹴り飛び出すと、配下の騎兵がそれに続いた。
 ローマ市民騎兵は元々勇敢である。
 加えて、麾下のギリシア人騎兵は奴隷から徴募された者ども。この一戦に己の自由と明日の繁栄がかかっている。どれもが必死の形相だ。
「わあああ」「おおおお」
 雄叫び上げて、馬を勢いよく駆って行く。




 だが、その時である。
 カルタゴ騎兵隊は、馬首を巡らせ背を向けるや、後方へ駆け出していった。
「おおお、一合も交わさず逃げ出すか!」
 が、ハシュドゥルバル以下、何も応えず、一目散に退却して行く。
 ならばと、ラエリウスを先頭に、ローマ騎兵隊は追撃にかかった。
 



 同じことが右翼でも起きていた。
 マシニッサ率いるマッシュリ(ヌミディア)騎馬隊は、真っ正面のテュカイオス率いるマサエシュリ騎兵隊に突進していった。
「テュカイオス勝負!」
 だが、テュカイオス率いる騎兵隊も、くるりと馬首を返すと、後方へ駆け出した。
「おお!逃げるか!」
 マシニッサ以下、マッシュリ騎兵隊もここぞと追撃を開始した。
 戦場には歩兵の隊列のみが残される格好となった。





「これはどういうことでしょう?」
 セルギウスが、スキピオの顔を窺い見た。
 獅子の兜の下、その人は微笑を浮かべている。
「ハンニバルも歩兵で決するつもりなのであろう」
「ハンニバルが…歩兵…」
 セルギウスは驚きの色を瞳に浮かべた。




 ハンニバルといえば、父ハミルカル譲りの騎兵を核とする用兵で名が轟いている。騎兵の活用で、トレビア、カンネーで完勝を収めているのだ。
(信じられぬことだ…)
 だが、スキピオの言葉通り、前面の大歩兵部隊が前進を始めていた。
 ハンニバル軍第一列の歩兵部隊。亡きマゴーネの掻き集めた兵力だ。
 まさに地中海世界の民族の標本であった。
 ガリア人、リグリア人、ギリシア人、バレアレス人、マウルシイ人で成る傭兵部隊。異なる装備に異なる言葉を発しながら、剣で盾をがんがん叩き、猛獣のように雄叫びを上げ、ずんずん接近して来る。
「よし。ハスタティ部隊に前進を命じよ」
「ははっ」


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦3−退却
 今度はスキピオが命じた。
「騎兵隊に突撃を命じよ」
「はいっ」
 ミルトが元気よく応えると、前に飛び出した。
「騎兵隊前進の合図を!」




 ラッパの音が鳴り響くと、両翼の騎兵隊は発奮した。
「合図だぞ」
 ローマ人騎兵とギリシア人騎兵の混成部隊を率いるのはラエリウス。
 睨む前方には、カルタゴ市民騎兵とガリア騎兵でなるこちらも混成騎兵隊。ハンニバルがアフリカ帰還後に急ごしらえした騎兵隊だ。指揮官はハシュドゥルバル。先のイベリア総督の弟である。
(柔弱なる兵に過ぎぬ。一気に蹴散らしてくれる)
 ラエリウス、腰に帯びる剣にそっと手をやった。
 それはスキピオ秘蔵の剣『星天の剣』であった。
 昨夜、決戦を前にスキピオより拝領したものだ。




「わたくしに…これを!」
 祖ルキウス公より伝わる秘宝として、スキピオが肌身離さず身に付けていた名剣。ラエリウス、かねがね羨望の念を禁じ得なかったが、伝来の家宝と知っていたから所望の願いなど口に出せずにいた。
「こたびは将の采配如何が問われる決戦。私に剣は不要だ」
 スキピオの口から初めて『決戦』の言葉が出た。




「…しかし、閣下はローマ軍の総司令官。名のある剣を身に帯びねば…」
 格好がつかぬではないか、ということ。
 と言うと、スキピオはにやとした。
「そなたの姉マニアケスが、これと対の『月光の剣』を持つ」
「え…!」
「カンネーの折、私は、敗走の途中やむなく『月光の剣』を捨てた。それが回り回ってハンニバルの手に渡り、それがマニアケスに与えられたとのこと」
「姉が『月光の剣』を…」
「そなたは、その姉とも対峙するやも知れぬ。ならば、そなたにこそこの剣が必要」
「私に…」
 ラエリウス、唾を呑み込んだ。




「誤解してもらっては困るが…」
 スキピオは微笑んだ。
「その剣で姉を討てと申しているのではないぞ。いかなる敵も追い払えとのことぞ」
 語気を強めて念を押した。
「そなたとて一軍の将。個々の将を討つことにこだわっては戦機を逸するぞ。前進を妨げる敵を打ち払う、そのことに専心せよ」
 そう。戦いの大局は殺し合いにあるのではない。敵勢の隊列を崩壊に追い込めば、実は充分なのである。勝利という事実こそが大事なのである。
 ラエリウス、大きく頷くと、笑みを見せた。
「かしこまりました。閣下の仰せに従い、立ちはだかる敵をこの名剣で悉く打ち払ってみせましょうぞ」


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦2−象(さらに続き)
 ウェリテス兵は、一切背後を顧みず、歩兵の隊列の間を駆け抜けて行く。
「それっ!このまま突入だ!」
 象は重戦車の如く地響き立てて突進した。




 だが、ここで意外なことが起こった。
 最前列のローマ歩兵ハスタティ隊が、一斉に剣で盾をがんがん叩き始めたのだ。そして、猛烈な気勢を上げ始めた。
「うおおお!」
「おおおっ!」
 象が迫れば人は本能的に逃げ出すのが普通。それが、一丸となって立ち向かう裂帛の気迫を露にしたことから、象は驚いた。
 鼻を高々掲げ、前脚を大きく上げた。
 象使いは振り落とされそうになった。




「こ、こら!」
 ひしとしがみつき、鞭を入れ、必死に統御しようとした。
 が、いったん怯えた象を従わせることは、熟練の象使いといえども至難の業。
 象の半数が恐慌に陥った。
 それら怯えた象は逃げ道を求め、右往左往した挙げ句、両側へと流れていく。
 その象に対し、ローマ兵は一斉にピルムを投擲したから、たまらない。背や尻に槍を突き立つと、象の群は一目散に戦場の外へと逃げ去った。
 だが、残りの半数は、何とか踏みとどまると、一散に突進を始めた。




 半減したとはいえ四十頭。象軍の威力としては充分。
「それっ、一気に踏み潰せ!」
 このままハスタティ隊の隊列に雪崩れ込みさえすれば、いかに勇猛なローマ歩兵といえどもひとたまりもないのだ。
(このまま踏み潰してやる!)
 象使いはしめたと思ったに違いない。
 その時、再び意外なことが起こった。
 ローマ歩兵の中隊の塊が、あたかも一つの駒の如く、すっと横に移動したのだ。
「なに!」
 それは、あたかも象の通り道を開くかのようであった。
 象は方向転回を苦手とするから、そのまま突き抜けて行く。




 何ということはない。気勢を上げていたローマ兵は、いざ象が向かって来るや、立ち向かうではなく、中隊ごと左右にすっと動き、象との衝突をあっさり回避したのだ。
 象の群は、勢いのついたままローマ軍の隊列を突き抜け、後方へ走り抜けて行く。こうなっては、手練の象使いといえども手の施しようがなかったろう。
 スキピオが、各中隊を真っ直ぐ縦列に並べさせたのは、ウェリテス兵を後方へ逃がすためだけではなく、象の攻撃の矛先を回避するためであったのだ。
 その意図は的中し、重戦車たる象の群は、戦場から遥か遠くに姿を消した。

イメージ 1


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦2−象(続き)
 両軍将兵、再びざっざっと地を踏みしめ進み始めた。
 顔つきが見て取れる至近に接近すると歩みを止めた。 
 剣で盾をがんがん叩き出し、わあっと気勢を上げた。
 スキピオとハンニバル、総司令官が右手を上げると、ぴたと止んだ。
 一転、静寂が辺りを覆い、風鳴りの音だけがひゅうひゅうと響いた。
 二人は剣を抜くと高々と掲げた。
「進めっ!」 「前進だ!」
 ここに地中海世界の命運を賭けた決戦の火蓋が切って落とされた。




 ローマ軍からウェリテス兵が、カルタゴ軍からバレアレス投石兵が飛び出した。
 ウェリテス兵は長槍(ピルム)を大きく振りかぶり、バレアレス兵は棒に付けられた網に石を入れ、勢いよく振り回し始めた。
「放て!」
「撃て!」
 槍と石は無数の放物線を描き、相手の頭上に落下した。
 射程内にある兵たちは、盾を頭上にかざし身を縮めた。
 それでも、槍石は前列将兵の誰彼に容赦なく命中した。
「わっ!」「ぎゃっ!」
 血しぶきあげ、その場にぶっ倒れる。
 序戦に倒れるとは非運。だが、これも合戦の一コマ。誰かが必ず非運の犠牲となる。それが戦場にある者の定め。




 ハンニバル、応酬を見詰めていたが、
「バレアレス兵を退かせ象軍を進ませよ」
 と命じた。
「はっ!」
 マニアケスは馬を駆って叫んだ。
「象を進ませよ!ウェリテス兵に向かって突進せよ!」
 合図のラッパの音が鳴り響くと、バレアレス投石兵は潮の如く退き、入れ替わりに象が前進を始めた。
 全頭合わせ八十頭。この時、これほどの大群を動員出来るのは、インドの諸王国を除けばカルタゴだけであったろう。大カルタゴの富が知れるというものだ。




 バレアレス兵を追いかけ前に大きくせり出したウェリテス兵は、巨大な敵影の出現に足を止めた。
「あれは!」
 ピルムを投擲し尽くしたウェリテス兵に、この巨大な敵と戦う術はない。
 くるりと踵を返し後方に向かって駆け出した。もっとも、それは決して狼狽している風はなく、整然とした足取りであった。
「やつらを追い歩兵の隊列に突っ込め!」
 象使いは鞭をびしと打ち据えた。
 ローマ軍主力の隊列を崩せば、たちまち全軍の勝利。

全26ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • JAPAN
  • ダイエット
  • 時間の流れ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事