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ザマの決戦3−退却
今度はスキピオが命じた。
「騎兵隊に突撃を命じよ」
「はいっ」
ミルトが元気よく応えると、前に飛び出した。
「騎兵隊前進の合図を!」
ラッパの音が鳴り響くと、両翼の騎兵隊は発奮した。
「合図だぞ」
ローマ人騎兵とギリシア人騎兵の混成部隊を率いるのはラエリウス。
睨む前方には、カルタゴ市民騎兵とガリア騎兵でなるこちらも混成騎兵隊。ハンニバルがアフリカ帰還後に急ごしらえした騎兵隊だ。指揮官はハシュドゥルバル。先のイベリア総督の弟である。
(柔弱なる兵に過ぎぬ。一気に蹴散らしてくれる)
ラエリウス、腰に帯びる剣にそっと手をやった。
それはスキピオ秘蔵の剣『星天の剣』であった。
昨夜、決戦を前にスキピオより拝領したものだ。
「わたくしに…これを!」
祖ルキウス公より伝わる秘宝として、スキピオが肌身離さず身に付けていた名剣。ラエリウス、かねがね羨望の念を禁じ得なかったが、伝来の家宝と知っていたから所望の願いなど口に出せずにいた。
「こたびは将の采配如何が問われる決戦。私に剣は不要だ」
スキピオの口から初めて『決戦』の言葉が出た。
「…しかし、閣下はローマ軍の総司令官。名のある剣を身に帯びねば…」
格好がつかぬではないか、ということ。
と言うと、スキピオはにやとした。
「そなたの姉マニアケスが、これと対の『月光の剣』を持つ」
「え…!」
「カンネーの折、私は、敗走の途中やむなく『月光の剣』を捨てた。それが回り回ってハンニバルの手に渡り、それがマニアケスに与えられたとのこと」
「姉が『月光の剣』を…」
「そなたは、その姉とも対峙するやも知れぬ。ならば、そなたにこそこの剣が必要」
「私に…」
ラエリウス、唾を呑み込んだ。
「誤解してもらっては困るが…」
スキピオは微笑んだ。
「その剣で姉を討てと申しているのではないぞ。いかなる敵も追い払えとのことぞ」
語気を強めて念を押した。
「そなたとて一軍の将。個々の将を討つことにこだわっては戦機を逸するぞ。前進を妨げる敵を打ち払う、そのことに専心せよ」
そう。戦いの大局は殺し合いにあるのではない。敵勢の隊列を崩壊に追い込めば、実は充分なのである。勝利という事実こそが大事なのである。
ラエリウス、大きく頷くと、笑みを見せた。
「かしこまりました。閣下の仰せに従い、立ちはだかる敵をこの名剣で悉く打ち払ってみせましょうぞ」
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