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凱旋そして平和へ
スキピオ率いるローマ艦隊は、シチリア島のリリュバエウム(現マルサラ)に食糧と水の補給のため立ち寄ると、レギウム、ネアポリス(現ナポリ)と、海岸沿いにイタリア半島を北上した。
そして、艦隊はローマ近郊のオスティアの港に碇を下ろした。
「帰ったぞ」
スキピオは大きく息を吐いた。
そして。港には、どうして知ったものか、大勢の人々が待ち構えていた。
スキピオが桟橋に降り立つと、
「おおお!お帰りになられたぞ!」
「スキピオ様!」「あなた様こそ我が国の英雄!」
四方からどっと歓声が沸き上がった。
「ありがとう、ありがとう」
笑顔で手を振るスキピオ、たちまち揉みくちゃにされた。
「これ!危ない!」「下がれ下がれ!」
兵がいくら制止しても、言うことを聞くどころではなかった。
うれし泣きに涙する者、兵に抱きついて来る者、港は熱狂と興奮の坩堝となった。
オスティアからローマへ至る街道も、人、人、人、であった。
沿道は一目凱旋軍を見ようと群がり、人垣を延々連ねていた。
「凱旋の大将に!」
花びらが、わっと撒かれた。
ラエリウスやヘレンニウスら将が通るたびに、歓声が爆発した。
凱旋式は、元老院の承認の許に正式に催される予定であったが、既にローマ史上最大の凱旋式の様相となっていた。
人々は知っていた。
スキピオこそが、この戦争終結の立役者であることを。彼が、イベリアで奇跡の勝利を挙げていなければ、反対を押し切りアフリカ上陸を決行していなければ、さらに、ハンニバル相手にザマの決戦に勝利していなければ、ローマ市民は、この日を決して迎えることはできなかったことを。
スキピオ以下将士は、花びら舞う色彩鮮やかな空の中を進んだ。
そう。まさに空にある心地であったのだ。
ローマ市内に入ったスキピオたちは、ここでも民衆の熱烈な歓迎を受けた後に、ようやくパラティヌス丘の自邸に戻った。三年ぶりの我が家である。
待っていたのは、愛する妻アエミリア、そして、執事のティロ以下の家人たち。
「勝利を収めての御凱旋、祝着至極にございます」
名家の女らしく挨拶した後、顔を上げた彼女、涙を流していた。
「帰ったぞ」
スキピオ、いつものおおどかな笑顔を見せ、それだけを言った。
「お帰りなさいませ。ようやく、ようやく…愛する人が戻って参りました」
アエミリア、感に堪えた面持ちでそう言った。
彼女の実父クレオメネスはセラシアの戦いで敗北し、亡命先のエジプトで客死し帰還することはなかった。養父パウルスはカンネーの戦いで敗死し、やはり帰還することはなかった。
(どうか…どうか、御無事に帰還ありますように)
それだけが彼女の願いとなっていた。
「約束したではないか」
スキピオは笑顔を一層輝かせた。
「イベリア人との約束も、カルタゴ人との約束も守る私が、愛する妻との約束をどうして忘れようか」
そういうと両手を大きく広げた。
アエミリアはみるみる涙に頬を濡らし、夫の胸に飛び込んでいた。
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