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和議問答(さらに続き)
ハンニバル船長、四十年前の故事をつらつら述べて、
「我ら、閣下に寛容を願うしかない立場と重々承知いたしております。閣下の痛罵にも甘んじなければならぬ立場であることも。…ですが、祖国を失うとなれば、我らも命を捨てて戦うよりほかありませぬ。それは、かつてのハミルカルが述べたのと同じく、ローマ国家にとっても宜しくない結果をもたらすであろうと拝察いたします。それよりも」
船長は唇を湿らせた。
「今一度、カルタゴ人に恩顧を賜れば、我らは以降ローマの忠順な同盟国となりましょう。それは御国にとっても、速やかな勝利を確定する上でも、戦果を確かなものにする点でも、大いなる幸いをもたらすものであろうと確信するのであります」
ローマの将たちは、その堂々たる弁論に目を見張った。
大平原の敗戦後に幾度か送り込まれたカルタゴの使者たちは、卑屈そのものであり、スキピオの前に這いつくばって和平を乞うたものであった。だが、この目の前の使者は、敗者なれど堂々国家の尊厳を守り通そうとし、それが守られないのであれば、決して屈服するものでない気概を凛々見せていた。
そう。敗者であっても気概を見せねば、戦後の尊厳ある自立はあり得ないのだ。
(さすがハンニバル)
この人物を送り込んで来たのが、彼であると誰にも知れていたから、誰もが肚から唸っていた。
「よろしい」
スキピオは言った。
「おお」
ハンニバル船長は喜悦した。が、スキピオは手を上げて遮った。
「喜ぶのは早い。和平の条件を申し述べる」
「謹んで承ります」
船長、上目遣いとなった。
スキピオは、条件を淡々と列挙していく。
「第一、カルタゴ国家は、ローマとの戦争開始前にアフリカの内に保有していた土地・都市を引き続き保有するものとする」
「第二、カルタゴ国家は、独立と自治とを享受し、これまで通り自らの法と慣習の下で暮らすことが出来る」
ハンニバル船長は、口をあんぐりとさせていた。
スキピオが多大なる恩恵から告げ始めたからだ。
いや、この場にいる誰もが、ぽかんとしていた。
スキピオは笑みを浮かべた。
「ふ。寛容はここまで。以下カルタゴ国家の負うべき義務を告げる」
そして、ローマ国家の要求を次々と突きつけていく。
「第三、カルタゴ国家は、停戦中に犯した不正を全て賠償すること」
これは停戦交渉中に奪ったローマ軍の積み荷や船舶の損害のこと。
「第四、ローマとその同盟国から逃亡した奴隷と脱走した兵士を時期に関わりなく返還すべきこと」
今回、この免除は認められないことになった。
「第五、軍船は三段櫂船十隻を除き引き渡し、象も全て引き渡すこと」
「第六、カルタゴ国家はアフリカの外に戦争を仕掛けてはならず、アフリカの内でもローマの同意無くして戦争をすることを許さない」
これは厳しい条件だ。宣戦布告の権能を奪われてしまったも同然。主権の制限だ。
「第七、ローマの指定する範囲内において、マシニッサとその父祖が有していた土地と家屋、都市全てをマシニッサに返還すべきこと」
「第八、この和平案についてローマ本国より承認の返答あるまで、三ヶ月分の兵糧を供給し、期間全てに渡りローマ軍将兵に給与を支払うべきこと」
ハンニバル船長ら使節団は、眦を決し聴き入っていた。
ここまでは、ほぼ想定の範囲内。第六が厳しいが、二度の敗戦の後であるから覚悟を決め受け容れねばならぬとも思える。
最大の懸念の賠償額、あとハンニバルら『戦犯』の処遇を確かめねばならない。
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