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ザマの決戦10−備えに備えを (続き)
ラエリウス率いるローマ騎兵、マシニッサ率いるマッシュリ騎兵が、まさに火の如くになって、ハンニバル軍の後方に突入した。
「それっ!ここを破ればハンニバルはおしまいぞ!」
「今こそハンニバルを討つのだ!」
ローマ騎兵の突撃に、ハンニバル軍の後方はどっと崩れ立った。
「持ち堪えよ!あと僅かで勝利なのだ!」
ハミルカル以下、後方部隊も奮戦した。
だが、背後を衝かれたこと、それ即ち、四方を敵に取り囲まれたことを意味する。
そう意識した途端、ハンニバル軍将兵の間に急速に恐怖が充満した。
「総司令!このままでは!」
ハンニバルの周囲も、今や叫喚の渦に陥っていた。
ハンニバル、このような時にあっても熟慮を重ねていた。
(躓いた時のこともかんがえねばならぬ…か)
それは父ハミルカルの言葉。作戦の躓くことに備えよ、それは父の鉄の言葉となって、息子ハンニバルの心に刻まれた。
「よし!合図を送れ!」
それは、象軍への合図だ。最後の備えは隠し象軍であった。
これも父ハミルカルと同じ備え。
旗が振られると、地面に穴を掘り隠していたものであろう。平原の向こうから三十頭の象が現れ、後方に押し寄せたローマ騎兵隊の側面目がけ突進して行く。
(これが後方を支えている間に、前方を破ればよいのだ)
だが…。
「総司令!象軍が…!」
兵士の上ずった声に、ハンニバルは後方に馬を駆った。
「おおお!」
それは、象軍の崩壊する光景であった。
象は、ローマ騎兵、マッシュリ騎兵に取り囲まれ、矢と投槍を浴び、倒れていく。
スキピオは、隠し勢を予期し、ラエリウスとマシニッサに言い含めていた。
「敵将は、細心の化身とも評されるハンニバル。必ずや劣勢に備えているに違いない」
「それは一体?」
「セルギウスによると、彼の父ハミルカルは、傭兵の乱の決戦の折、最後の土壇場において象軍を用いたとか。象軍出現に恐慌に陥った傭兵軍は潰滅したとのこと」
スキピオは、敵将の父の戦法まで研究していたようだ。
「まさか…象軍を隠していると!」
マシニッサは驚いた。
「しかし…戦場は大平原。象を隠す場所などどこにも…」
ラエリウス、疑問を口にした。
スキピオは苦笑した。
「そう考える点にこそ油断がある。ラエリウス、トレビアの戦いを思い出せ」
「あ…!」
トレビアの戦いも平原地帯の会戦であった。そのため伏兵を警戒せず、ハンニバル隊と優勢に戦っている最中、マゴーネ率いる伏兵に背後を衝かれ、大敗してしまった。
伏兵が隠れていたのは、なんと川の中であった。
「平原に伏兵し裏を掻く、そのことをハンニバルは熟知しているのだ」
スキピオは、戦術においてハンニバルを師と仰ぎ、そして、その師をまさに今越えようとしていた。
突如現れた象軍に、ラエリウスとマシニッサの率いる騎兵は慌てず、
「それ!左右に展開せよ!」
騎兵を象軍の前面から左右に旋回させ、さらに、
「ラッパを吹き鳴らせ!」
「盾を剣で打ち鳴らせ!」
一斉に大音響を放ち始めた。
象は、驚き足をすくませた。
そこに、今度は騎兵隊は四方から象の周囲に迫り、
「投げ槍を浴びせよ!」「全て放て!惜しむな!」
温存していたピルム(ローマ式投げ槍)を、ありったけ投擲した。分厚い皮膚を持つ象の対策として、切っ先をこれ以上ないほどに研ぎすましてあった。
投げ槍を浴び、まず象使いが倒れた。槍の穂先は象の固い皮膚を突き破った。象は悲鳴を上げ逃げ惑った。やがて、次々倒れ、残る象も四散した。
こうして、ハンニバル秘蔵の象軍は粉砕されてしまったのだ。
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