新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第11章ザマの章

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 ザマの決戦10−備えに備えを
 同じ頃、ハンニバル軍第三列とローマ軍歩兵軍団は、がっぷり四つに組み激闘を続けていた。
 果敢に中央突破を試みるハンニバル軍の戦士たち。
「ここさえ突破すれば我らの勝利!」
 それはならじと、その側面から、プリンキペス隊、トリアリィ隊の重装歩兵が喚きかかっていた。
「ハスタティ隊が持ち堪えている間に、挟み撃ちにせよ!」
 突破せんとする圧力に、挟撃せんとする圧力、そして、それらに抵抗する圧力。
 その巨大な力の均衡は、ハンニバル軍の巨大な三角を、ローマ軍の二つの三角が包み込む、そんな図形を大地に描画していた。




 両軍の主力が激突して、まだ僅かな時しか経っていない。
「進め!明日はこの一戦にかかっておるぞ!」
 今は、総司令ハンニバルも馬を前方に乗り入れ、悪鬼の形相で督戦していた。
「奮闘せよ!歴史に名を残すは只この時ぞ!」
 総司令スキピオも、周囲の警護兵全てを投入し、前方に出て味方を鼓舞した。
 防御の線が破れればローマ軍の敗北、挟撃が奏功すればハンニバル軍の敗北。
 この局面をいずれが穫るか、その結果が戦いの勝敗ばかりか、地中海世界の命運を決する。ために血潮噴き出す死闘となった。




 その時であった。
 馬蹄響かせ砂埃を舞い上げ、ハンニバル軍後方に殺到する騎兵の群があった。
「敵か」「味方か」
 ハンニバル軍の兵士は固唾を呑んで、その方角を見た。
 彼らも体のどこかで知覚していた。背後のどこかで、両軍の騎兵が必死の攻防を繰り広げているであろうことを。味方がローマの騎兵を支え、時を稼ぎさえしてくれれば、自軍の勝利に直結することを。
「あれは…」
 現れたのは、鷲をかたどった旗の林立する騎兵の群。それは…。
「ローマ軍だ!」「ローマの騎兵隊だ!」
 ハンニバル軍の兵は慌てた。
「後方の兵は敵の騎兵を食い止めよ!」
 副官ハミルカルが叫んだ。
 前方では、あと一歩でハスタティ隊の列を突破出来るのだ。隊列さえ崩せば、一気にスキピオに迫ることができる。また、両翼より押し寄せるプリンキペス隊、トリアリィ隊の背後に突き出ることができる。そうなれば、一気に敵部隊を崩壊せしめることができるのだ。
ザマの決戦9−『親子』再会(続き)−ザマの章46


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 ザマの決戦9−『親子』再会(続き)
「黙れ、ラエリウス!」
 セルギウスは怒鳴り返した。
「な…なんだと」
 予期せぬ反抗にラエリウスは戸惑った。
「貴様が小僧の時より知っておるのだ、わしは」
 セルギウスは喚いた。
「な、なに…」
「このわしこそが、そなたらの母親の夫、後添え。ハンノンにしてセルギウスだ」
 この土壇場で正体を明かした。
「な…」「なんと!」
 姉弟は仰天した。




 姉弟は馬上の男をまじまじと見詰めた。
 セルギウスは、おもむろに口を開いた。
「そなたらの母上殿は、最後の最後まで、そなたらの無事と行く末を案じておった」
 オリッセス族滅亡後、母親は、セルギウスと共に今の新カルタゴに居を移した。
 その時、姉弟二人共々行方知らずとなっていたが、母親は祈りを止めなかった。
 セルギウスが諦めるようにいくら諭しても、
『いえ、必ず二人は生きております。強い子らです。ならば、その無事を祈らぬ母親がありましょうや』
 そう言って聞かず、死の最後まで、その祈りを止めることはなかったという。
「その母の最後を知っているわしが…そなたらが刃を交わすのを止めるのは、当然ではないか!」
 セルギウス、冷徹無比で涙を知らぬ筈の両の目から熱いものを吹きこぼし、叫んだ。
 姉弟は呆然とし、剣を持った手をぶらりと下げていた。




「確かに…これまでのようだ」
 マニアケス、剣を鞘にすっと納めた。
「姉上…」
「そなたの勝ちだ」
「いや…まだ決着はついておりませぬ」
 弟は何とか姉を引き止めようとした。これが永久の別れと感じたからだ。いつの間にか、彼も頬を濡らしている。
「決着はついた…。もうそなたとは戦えぬ。…私の負けだ」
 うつむいたマニアケス、ぽたぽた熱いものをこぼしていた。
 馬上に戻ると、ラエリウスとセルギウスの方を振り返った。




「二人とも…ありがとう」
 姉の瞳はきらと輝いていた。
「姉上…」
「最後に、そなたらと会えて、そして、知ることが出来た。感謝する」
 そう言い遺すと、マニアケスは馬に鞭を打って駆けて行った。まさに、飛ぶように駆けて行った。


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 ザマの決戦9−『親子』再会
 姉弟の対決は延々続いた。
 馬上、何合打ち合っても勝負がつかないため、
 マニアケス、業を煮やし、
「馬から降りよ!」
 と叫ぶや、地に降り立った。
「おお!」
 応じてラエリウスも降り立つと、突進していった。
 二人は、まさにこれを一期と名剣を振るい続けた。
 我を忘れ無我夢中、肉親の肉体めがけ打ち込んだ。




 取り囲んでいた両軍の騎兵は遠くに駆け去った。
 姉弟の戦いはなおも続いていた。
 ただ、いかに無双の勇者とはいえ、体力には限界がある。
 二人の息は上がり、肩で息をつくようになった。
「やるな…弟」
 マニアケス、ぜいぜい喘ぎながら、ニヤとした。
「姉上こそ…」
 ラエリウスも、はあはあ息を吐く中、微笑を浮かべた。
 死闘の極限、愛憎の区別すらつかなくなっていた。否、ある感覚が二人を支配し始めていた。
(この名誉ある相手ならば…)
(討ち死にしても…悔いなし)
 そんな不思議な感動と興奮に包まれていたのだ。




 そこに一騎、駆けて来る者があった。
 それは、スキピオの副官セルギウス。
「それまで!両者、それまで!」
 姉弟の決闘に、まさに水を差した。
「神々がかかること喜ばれようか!二人とも剣を引かれよ!」
 スキピオの意を体したものであろうか、割って入った。
 が、ラエリウス、これを喜ばず、ぎろりと睨み付けた。
「正々堂々の対決の最中ぞ。セルギウス、僭上であろう!控えておれ!」
 年長のセルギウス相手に傲慢にも響くが、軍団長と副官、前者が遥かに上位。この物言いは決しておかしくなかったが…。


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 ザマの決戦8−姉弟対決(続き)
「マシニッサ、死ねぇい!」
 マニアケス必殺の剣が襲いかかった。
「くっ!」
 マシニッサ、一合は何とか受け止めたが、次の斬撃に体勢を崩した。
「あっ」
 そのままどおっと落馬してしまった。
「し、しまった」
 落馬してしまえば、屈強な騎兵も歩兵に過ぎぬ。しかも、しびれ薬で体がいうことを利かない。




「覚悟!」
 マニアケス、剣を大きく振り上げた。
 マシニッサは観念し、目をつぶった。
 その時である。
 ごおおという唸りと共にピルム(投槍)が飛んで来た。
「む」
 マニアケス、体を反らせ、それを剣で叩き落とした。
「何奴!」
 きっと見ると、黒光りする馬の背に、ひときわ雄々しき勇者が一人。
 ラエリウスである。
「マシニッサ殿!諦めるは早うござるぞ!」
「来たか…」
 マニアケスは呟いた。




 ラエリウス、一散に丘陵を駆け下って来た。
 抜刀するや高らかに叫んだ。手にするは名剣『星天の剣』。
「マニアケス!勝負!」
「おお!望むところ!」
 マニアケスも叫ぶと馬を飛ばし、こちらも名剣『月光の剣』を振りかぶった。
 『星天の剣』と『月光の剣』。
 二振りの名剣は、百六十年の時を経て、再び決闘に臨む戦士の手に握られていた。




 ラエリウス、最大の敵として迫る姉の姿に、己の誓いを思い出していた。
(血族と敵対してもスキピオ殿に背くまじ。命を賭け守ることを天地天上の神々に誓う)
 誓言が体内に響鳴し否応にも血潮がたぎって来る。
「おおおお!」
 マニアケスも自己の存在理由を思い起こしていた。
(ハシュドゥルバル様の愛にお応えするのは、まさにこの一期!)
 二人は、譲れぬ誠のため、姉弟でありながらここに対決するのだ。
「うおおおお!」
 二人の名剣が一閃した。


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 ザマの決戦8−姉弟対決
 マニアケスはどこまでも駆けていく。
 それをマシニッサは執拗に追跡した。
「マニアケス!どこまで逃げるつもりか!」
「ほほ。王君は草原の覇者でしょう。追いついて見せなさりませ」
 兜からこぼれた黒髪をなびかせ、草原を軽やかに駆けていく。
「おのれ…女の分際で愚弄しおって。その髪を振り回してやる!」
 マシニッサ、歯ぎしりした。




 だが、彼の巧みな馬術をもってしても、不思議なことに、マニアケスの髪は手に届きそうで届かない。
(おかしい…なぜだ?)
 マシニッサも、ようやく不審に思った。自身の乗る馬は部族一の駿馬。体力抜群で、夜通し駆けてもびくともしない筈が、ぜいぜい喘いでいるではないか。
(う…なんだ)
 しかも、自身も頭がくらくらして来る。




 と、その時。突然、マニアケスが馬首を巡らせ、こちらに突進して来た。
「うっ」
 まさにあっという間であった。
 マニアケス、間を詰めるや、先ほどの笑みが消え、鬼の形相で刃を振り上げて来た。
「ちいっ」
 マシニッサ、とっさに切っ先をかわすや、剣をぶんと振り上げた。
 マニアケス、柔らかな肉体を反らすや、反動を生かし、刃をぶんと振り下ろした。
「くっ!」
 王は何とか受け止めた。だが、受け止めた右手ががくとなった。
(これは…!力が入らぬ…)




 マニアケスは何ゆえか襲いかかって来ない。いや、薄笑いを浮かべていた。そして、先ほどからの香りが強く漂って来る。今や、異臭の如く、鼻につんと来る。
 マシニッサ、はたと勘付いた。
「貴様…その香りは…もしや!」
「ほほ。ようやくお気付きか。しびれ薬ですわ」
 マニアケス、悪びれず種を明かした。
 駿馬の脚が鈍ったのも、マシニッサの力が入らなくなったのも、これが原因だ。




「うぬ。一対一の対決に卑怯な!」
「ほほほ」
 マニアケスは冷笑し、氷のような眼差しを向けた。
「愛する女も守れぬ男が何を偉そうに」
 それが全てであった。
「王よ。あなたはあの時なんと申した」
「なに?」
「ソフォニスバ様に危害を加えぬと固く約束した筈」
 マシニッサにソフォニスバを会わせる時、そう誓わせてから対面を許した。
「う…」
 マシニッサは言葉に詰まった。苦悩の挙げ句とはいえ、難詰する相手が戦場の敵であっても、返す言葉がなかった。
「それが何。ローマのスキピオの恫喝に怯え、その女の命を毒を盛ってすすんで奪う。そのような男に正々堂々の刃など不要」
 そう。ソフォニスバの仇を討つため、マニアケスは狡猾な罠を張ったのだ。


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