新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第11章ザマの章

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 ザマの決戦7−時を巡る戦い(続き)
「おのれ…何たる無様な」
 味方の醜態にマシニッサは怒った。
「ラエリウス殿!勝負して参る!」
 草原の王は、配下の者が次々討たれ、頭に血が逆流していた。
「あ…待たれよ!」
 ラエリウスは狼狽した。
「心配無用。は!」
 気合いと共に馬腹を蹴ると、一散に飛ばした。
「マシニッサ殿!」
 ラエリウスの右手が宙に浮いた。
 彼が咄嗟に心配したのは、剛力無双のマシニッサのことではない。むしろ、その彼と相対する側の人のことであった。




「マニアケス!このマシニッサが相手する!」
 マシニッサが体を震わせ叫ぶと、あたかも大地も揺れんばかりであった。
 彼は間違いなく当代一二を争う勇者。その巨躯を支える彼の愛馬は、駿馬中の駿馬であったが、騎乗する主人が巨大なため、驢馬にすら見える。
 強敵中の強敵を迎えたにもかかわらず、マニアケスは柔和な笑みを浮かべた。
「参られよ、草原の王よ」
 姿勢を正し、槍の胴を握り直した。
「いくぞ」「おう」
 両者、まっすぐに相手を目指し、まっしぐらに駆け向かった。
「おおおおおっ」「うおおおお」
 気合いと共に穂先が繰り出された。
 激しい金属音と共に、二人の体が、衝撃に大きく仰け反った。




「おお」
 驚いたのはマシニッサ。
 自身の剛力をまともに受け止めた相手を初めて見た。
「やるな」
「王こそ」
 マニアケス、酒席の余興の手際を讃えるかのように微笑んだ。
 二人は、穂先の曲がった槍を捨て、長剣をすらと抜き払った。
「いくぞ」
「おおっ」
 二人は猛然と振りかぶるや激しく打ち込んだ。
 一合、二合、馬を踊らせ、マントを翻し、ここぞと敵の体めがけ剣先を振り下ろす。
 馬上獲物を繰り出すのは相当な鍛錬を要する。勇者と渡り合うこと自体、豪傑の証。
 その勇者同士の華麗な闘いに、両軍兵士が周囲にあって固唾を呑んで見守っていた。




 突然、マニアケスは馬首を巡らせると、後方に駆け始めた。
「あっ、逃げるか、マニアケスっ!」
「ほほ。王君よ、こちらへ参られよ」
 マニアケス、あたかも男を誘うかのように挑発した。
 戦場というのに、香をマントに薫きしめていたのか、不思議な香りが辺りに広がった。
 マシニッサ、一瞬、くらとなった。
「おのれ…妖しき女め」
 あしらわれたと感じたマシニッサ、肩を怒らせると、こちらも追いかけ始めた。
 一部始終見ていたラエリウスは不審に思った。
(これはおかしいぞ…)
 やおら、二人の後に続き馬を飛ばし始めた。


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 ザマの決戦7−時を巡る戦い 
 その頃、カルタゴ騎兵隊を追撃していたラエリウスとマシニッサの騎兵隊は、激しい交戦の末に、木っ端微塵に粉砕していた。
 ラエリウスは、カルタゴ騎兵隊を率いるハシュドゥルバルとの一騎打ちに勝利し、これを追い散らすと、マシニッサと力を併せてテュカイオス率いるヌミディア騎兵を包囲して、これも散々に打ち破った。




「ははは、先のイベリア総督の弟も、マサエシュリの勇者を名乗るテュカイオスも、いずれも大したことはありませんでしたな」
 ラエリウス、大して息を乱すこともなく、からからと笑った。
「全くです。これほど歯ごたえがないとは」
 マシニッサ、色黒の顔に白い歯を綻ばせた。
「さあ、急ぎ引き返し、敵の背後を衝きましょう」
「うむ。そうなれば、ハンニバルとてどうにもできまい」
 ラエリウスとマシニッサは、深追いしている一部の騎兵をラッパを鳴らして呼び返した。そして隊列を整えると、今度は元来た道を一散に駆け始めた。




 が、しばらく進むと、前方に砂塵を上げ突き進む騎兵の一団が視界に飛び込んで来た。
「誰だ?味方か?」
 ラエリウス、目を凝らしたが、見分けられない。
「いや、違いますぞ…。マッシュリでもローマ騎兵でもないようです」
 対するマシニッサはすぐに判別した。草原の住人は視力が尋常ではない。
 煌びやかな鎧兜に身を包み、深紅のマントを翻し疾風の如く駆けて来る。
「あれは…!」
 マシニッサの瞳が広がった。
「マニアケス!」
「なにいぃっ!」
 たちまち周囲は騒然となった。
「マニアケスだと」「あのマニアケスか」
 ここにいるのは猛者たちばかり。しかも、兵力は圧倒的にこちらが優位。それなのに、彼女の出現に誰もが浮き足立った。
「落ち着け!」「敵は少数だ!」
 ラエリウスとマシニッサは、怒鳴りつけるようにして、味方の動揺を鎮めにかかった。




 そこに、マニアケス以下五十騎の騎兵が突入した。
「このマニアケスと渡り合える者はいるか!」
 初めうろたえた騎兵たちであったが、気を取り直すと、大いに勇躍した。大物が自ら網にかかりに来たようなものと思ったのだ。
「よし!生け捕りにせよ!」
 若いマッシュリ騎兵たちは、彼女の美貌にも邪悪な舌舐めずりを見せながら、おっとり囲みにかかった。だが、男たる者、美しい花にこそ用心しなければならない。
 大柄な騎兵がおもむろに接近しようとした。
 だが、接近したと思った途端、転げ落ちた。彼女の一突きに一合も交わせず突き落とされたのだ。
 それからも、近寄る者全て間合いに入った瞬間、閃光の如く繰り出される穂先に、馬上から突き落とされていく。
「うわっ!」「ぐわっ!」
 彼女の前を遮ろうとした者は、悉く馬から転げ落ちたのであった。
 マニアケスの勇猛に、麾下の騎兵が続き、面白いように敵兵を追い散らしていく。


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 ザマの決戦6−敵を学んだ男(さらに続き)
「ふふ」
 スキピオは意味深長な笑みを瞳に浮かべた。
「今、あの時のハンニバル軍と同じく、我が軍の真ん中が劣勢になっている訳だが…。これをプリンキペス隊、トリアリィ隊が見過ごすと思うか」
「あっ!」
 途端、ミルト、思わず異様な声を上げた。
 手下の少女たちがびっくりしてこちらに視線を向けた。




 カンネーのとき、ハンニバルは、ローマ軍歩兵の大兵力を中央におびき寄せるため、わざと中央の隊列を前方に膨らませ、なおかつ薄くした。その真ん中が崩壊を始めるとローマ軍は勢い中央に殺到し、それと同時に、左右両翼の味方がローマ軍を取り囲んだ。
「まさか…閣下はこうなることを承知でハスタティ隊に無理を…」
 ミルトは唖然とした面持ちをスキピオに向けた。
 スキピオは頷いた。
「そういうことなのだ。我が教師ハンニバルから学んだことは。眼前の優勢劣勢に拘泥することなく、最後の勝利を掴むために何をなすべきか。そのための戦術をどのように将兵に理解させるか。それを考えることこそ将たる者の務め」




 スキピオの言葉は、まさに現実となりつつあった。
 中央ハスタティ隊の劣勢に、至極当然のように、プリンキペス隊、トリアリィ隊が、中央に向き直った。そして、真ん中に我武者らに突っ込んで来るハンニバル第三列の大部隊の両翼から攻撃を開始したのだ。
 これは、ハンニバルが、カンネーの折に凝らした工夫に酷似している。
「ですが…あの時は、ここに騎兵隊が…」
 ミルトはそう言った。
 そう。カンネーでは、ローマ軍が自軍の優勢と勝利を確信したその瞬間に、背後から、カルタゴ騎兵隊が背後よりどっと襲いかかった。包囲されていると認識した途端、兵士は動揺し、恐怖が恐怖を呼び、 ローマ軍はたちまち瓦解してしまった。




「間もなく現れる筈だ」
 スキピオは語気を強めた。
「そなたの愛する者が、な」


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 ザマの決戦6−敵を学んだ男(続き)
 他方、こちらはスキピオ。
「総司令…このままでは中央が突破されてしまいます」
 ミルトは顔面蒼白となっていた。
 無理もない。歩兵部隊を横一列に並べたため、前方の隊列がどこか一つ破られると、スキピオのいるこの場所まで支える線は何もないのだ。セルギウスを筆頭に、ハスタティ隊はなおも奮戦していたが、ハンニバル軍精鋭の猛攻に決壊寸前となっていた。




 事態の緊迫に、ミルトも手下の少女たちも抜刀し、スキピオの周囲を守護していた。
「ふ」
 当のスキピオは、剣に手をやるでもなく、危険を知らぬかのように笑みを見せた。
 名将とは、こうでなくてはならないのだろう。己の勝利を信じ微塵も疑わぬ、その鉄の如き自信を胸に抱かなくては。所詮、祖国の命運を背負うなど土台無理なのだ。




「ミルトよ。そなたはカンネーの戦いを知っておるな」
「はい。よく存じております」
 マニアケスの下で見習い密偵であった時、あの大会戦はあった。
 少女の折、会戦の全貌を、まさに肝を潰す心地で見詰めていた。
 半数の兵力で倍する大軍を包囲撃滅する光景は、この世のものと思えぬ壮絶なものであった。包囲の鉄鎖がみるみる縮まり、その輪の中で万余のローマの兵士が血潮の中に次々倒れていくのだ。




「あの時、私はローマ軍の一兵士であった。だから知っている。あの戦場で戦っていたローマの兵たちは皆、途中まで優勢を信じて疑わなかった」
 騎兵戦力でこそ劣勢ではあったが、歩兵戦力では圧倒的に多数であり、その分厚い兵力で押しまくり、中央突破を敢行していた。そして、それはあと一歩のところまで迫った。すぐ向こうに、総大将ハンニバルの姿すら見たのだ。
「中央で優勢に戦い、必然、敵の懐深く飛び込む格好となり、両翼から敵の兵力が迫って来た。だが、それは優勢の証なのだ、と理解した訳だ」
 噛んで含めるように言うスキピオであったが、ミルトは、よく理解出来なかった。


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 ザマの決戦6−敵を学んだ男
 歩兵の中央部では、ハンニバル軍優位の戦いが続いていた。
 ハスタティ隊の兵士は、なおも勇敢に戦うも、なにせ疲れていた。押しまくられ、敵勢の攻勢の圧力に、隊列が大きく後方へ凹む格好となった。
「マニアケス」
 ハンニバル、最も信頼する彼女を呼び寄せた。
「はい」
「そなた、ここに残る騎兵を連れて後方に向かえ」
「え?」
 彼女は当惑の色を浮かべた。
 この優勢の最後に訪れる突撃に自ら参加し、自身の勇猛で戦いの決着を付けるつもりでいたからだ。




「ここは私の采配だけが意味を有する」
 ハンニバルはそう言った。要は、重装歩兵隊の集団激突戦において、個々の兵の勇猛の果たす役割は小さいということ。
「ここに必要なのは時間だ。そなたにはその時間を稼いで欲しい」
「あ…」
 意味が分かった。
 要は、後方の見えぬところで繰り広げられている筈の、ローマ軍騎兵と自軍の騎兵の攻防に駆け向かい、ローマ軍騎兵が背後から襲いかからぬようにせよ、その命令だ。
 いかに歩兵で優勢に戦っていても、後方を衝かれては勝負にならない。
 となると、前方の歩兵同士の戦いの時間を稼ぐことは勝利に直結する。




「かしこまりました。直ちに」
 馬首を巡らせた彼女に、
「マニアケス」
 ハンニバル、なにゆえか呼び止めた。
「は?」
「死ぬなよ」
 マニアケスが瞳を見開くと、隻眼の司令官の真っ直ぐな光があった。
「勿論にございます」
 彼女は涼やかな笑みを見せた。
 そして、そばにいた副官ハミルカルと密偵クサンティッペに命じた。
「総司令の御身を守ってくれ」
「はっ」「かしこまりました」
 マニアケス、数十騎の騎兵と共に、飛ぶように後方へと駆け向かった。


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