|
https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
ザマの決戦4−弱兵を強兵とする
ローマ軍のハスタティ部隊は、次第に反転攻勢の圧力を強めつつあった。ハンニバル第一列の傭兵部隊の隊列は、あちらこちらで解れ始めた。
「後方の兵どもは何をしておるのか!」
傭兵どもの間から怒号が飛び交い始めた。
彼らの怒りも無理はない。自分たちが死闘を繰り広げているというのに、後方の第二列の歩兵部隊は一歩も動こうとしないからであった。
第二列に控えるのは、カルタゴ市民やリュビア人から成る混成部隊。
装備こそカルタゴ式の立派なものを着けていたが、性根は全く据わっていなかった。激闘の光景に誰もが凍り付いていた。
だが、彼らのことを、平和な日本に住む我らが笑うことはできまい。私たち普通の市民が、いきなり決戦場に放り込まれたようなものなのだから。きっと足がすくみ、立っているだけが精一杯、卒倒しそうになるのを堪えるのが関の山であったに違いない。
とはいえ、置かれた空間は、彼らを無為のまま過ごすことを許さなかった。
前方で戦っていた傭兵たちが支えきれず、後方へ退却し始めたからだ。どれも目を血走らせ、肩を怒らせている。傭兵たちは自分たちが見捨てられたと怒り、彼らに斬りかかって来た。
「貴様ら、何をしている!」
「それでも味方の兵士か!」
激高のまま押し寄せ、あちこちで同士討ちが始まった。
「わあっ!」「ひーっ!」
こうなっては一種の発狂状態に陥るしかない。生死を共にしなければ、味方の傭兵に殺されてしまうのだ。
こうして、第二列の兵士は戦闘に次々加わり始めた。第一列の傭兵たちに足並みを揃えなければ、その傭兵の刃にかかるしかない極限状況にあったからだ。
その第二列の参戦により、ハスタティ隊の進撃の足はぴたと止まった。なにせ、第二列の兵力は三万。兵数だけで言えば大兵団なのだ。
まさに、欲せざるとも戦わざるを得ない状況が、弱兵を強兵に変えつつあった。ハンニバルの巧妙な采配が遺憾なく発揮された局面といえよう。
ハンニバル軍第二列の参戦に、ハスタティ隊は頑強に抵抗するも、ずるずると押し戻され始めていた。
「閣下、いかがいたします。プリンキペス隊を進ませまするか」
セルギウスは総司令官の横顔に訊いた。
ローマ軍歩兵で合戦に参加しているのは、只今、第一列のハスタティ隊だけ。第二列のプリンキペス隊、第三列のトリアリィ隊は、静かに林立したままだ。
「いや…まだ早い」
スキピオは言った。
「ですが、このままではハスタティ隊が潰滅してしまいます」
「この後なのだ。本当の戦いは」
「この後?」
「ハンニバル直属兵との戦いだ」
ハンニバル軍の第三列、即ち敵の真の主力は、この戦いを外のことのように静かに隊列を保ったままであった。それとの対決に、プリンキペス隊、トリアリィ隊の精鋭をぶつけたい、それがスキピオの思いであった。
「そういうことならば」
セルギウスが勇躍してみせた。
「この拙者に、歩兵を百人授け給え」
「そなたが駆け向かってくれるのか」
「味方に闘志を吹き込んで参ります」
齢既に五十を越えていた。なのに、この壮健ぶりはどうであろう。
スキピオは、しばし、セルギウスの若々しい瞳を見詰めていたが、
「…よし。頼む」
「では参ります」
セルギウス、およそ、この決戦の場に相応しくない満面の笑みを浮かべた。
「いくぞ!」
彼は、スキピオの周りを固めていた百人の兵を連れ、前方に駆けて行った。
|