新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第11章ザマの章

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦5−主力の激突(さらに続き)
「望むところ」
 ハンニバルは微笑んだ。
(これぞ対等な敵との堂々の対決…)
 これまで彼が干戈を交わした相手は、言うなれば、いずれも格下ばかりであった。センプローニウス、フラミニウス…。否、あの名将の誉れ高きパウルスですらハンニバルに比べれば格落ちといってよかろう。
 だが、今回は違う。ハンニバルをよく知り、よく学び、勝利をもぎ取り続けて来たスキピオが相手だ。
「諸君!あれこそ敵の主力ぞ!あれを破れば我が軍の勝利!奮えや諸君!」
 そう叫ぶハンニバル、武者震いしていた。




「うおあああ!」「おおおお!」
 喚声と共に両軍の主力は激突した。
 ハンニバル軍の歩兵第三列の隊は、ハンニバルにずっと従っているイベリア兵や北イタリアのガリア兵らのいわゆる古参兵たち、そして、南イタリアで新たに加わったブルッティウム人やカンパニア人という獰猛な傭兵たち。いずれも、イタリアでのローマ軍との激闘を生き残った歴戦の猛者たちだ。
 従って、彼らは戦闘の専門家集団であり、戦う術を充分に心得ていた。
 彼らはハスタティ隊に猛然と襲いかかった。




「ここをぶち破れ!」
「背後に出るのだ!」
 特に、ハンニバルから指示があるでもない。だが、当然にそのように動いた。
 横一列に並べたスキピオの布陣は、ハンニバル軍を包み込むのには格好の陣形であったが、隊列を突破される危険と紙一重であった。しかも、中央は、ハンニバル軍第一列、第二列との激戦で疲れているハスタティ隊。
 ハンニバルの采配とはこれであった。将が声を枯らすでもなく、味方が総司令官の意図を察し、自然とそのように動く、それが彼の指揮官としての類希なる才能であった。
 勇猛にして有能なる戦士たち、その猛烈なる突撃に、ハスタティ隊の隊列は持ち堪えられず、どっと崩れ立った。

イメージ 1

↑※GNUフリー文書利用許諾書 (GNU Free Documentation License) 1.2に基づいて掲載しています。

https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦5−主力の激突(続き)
「総司令、ハンニバルが突進してきますぞ」
 ミルトは蒼くなった。
 前方から接近して来るのがハンニバル子飼の精鋭であることが見て取れたからだ。その無類の強さは、かつてハンニバル軍にいた彼女は良く知っていた。
「む」
 スキピオは、襲いかかる無数の敵勢の波涛を凝視した。
 果たして、ハンニバルの見立て通り彼は見誤ったのか。
 確かに、このままハンニバルの精鋭の突入を待てば、ハスタティ隊は持ち堪えることはできまい。そして、ハスタティ隊の潰乱は、そのまま後方に控えるプリンキペス隊、トリアリィ隊の潰乱に繋がる恐れがあった。




「ミルト!」
「はいっ!」
「大旗を触れ!」
「はいっ!」
 身軽な彼女は、総司令官の予備に引かれてあった馬の背によじ登った。そして、兵から受け取った旗を左右に大きく振った。
「おお、合図だぞ」「旗が振られたぞ」
 プリンキペス隊を率いるルキウス・スキピオ、トリアリィ隊を率いるヘレンニウスは、合図に呼応し、直ちに味方に令し、大きく左右に広がり出した。
 この展開こそ、スキピオ渾身の秘策であった。




「閣下!あれを!」
 マニアケスが前方を指差した。
 それまでハスタティ隊だけが前方に展開してあったのに、その左右両側に、新たな歩兵の大兵団がせり出し始めたからだ。即ち、プリンキペス隊が左側(ハンニバルから見て右側)に、トリアリィ隊が右側(同じく左側)に、大きく広がり始めていた。
 そして、新手の将兵どもは声を合わせ、大いに気勢を上げ始めた。
「おお…」
 ハンニバル、隻眼を大きく見開いた。
(やるな…スキピオ!)
 ハンニバルの真の主力を迎え、スキピオも温存した主力の翼を、ここぞと一気に展開して来たのだ。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦5−主力の激突
 ローマ軍とハンニバル軍、対峙する両軍の間には、激闘に倒れた兵士たちの死骸が累々と積み重なっていた。それは全て死者ではなく、重傷者も混じっていた。彼らのうめき声が辺りに不気味に響いていた。
 スキピオは命じた。
「ハスタティ隊に進撃停止を命じよ」
 ラッパが鳴り響き、ハスタティ隊は進むのを止めた。
「負傷者を収容せよ」
 後方の兵がわらわら前面に出て、負傷者をせっせと運び出して行く。だが、戦死者を収容する暇はとてもなく、無数の遺骸は放置されるよりほかなかった。そして、その遺骸の存在が両軍の決戦の行方にも、微妙な影響を与えることとなった。




 ハンニバルは、ローマ軍による負傷者収容を待つかのように、動かなかった。
 彼にしても、戦場に転がる負傷者が減る方が戦いやすいからであった。地に転がる人体に乗り上げ戦うのは、血泥などに足を滑らせる危険がある。 
 そして、ここまでの展開は決して彼の思惑を外れていなかった。
「我らだけになったな」
 ハンニバル、ぽつりと言った。
 両軍の両翼にあった騎兵は全て姿を消していた。ラエリウス、マシニッサ率いるローマ軍騎兵は、ハンニバル軍の騎兵を遥か遠くまで追いかけていた。
 これこそ彼の策。戦力に劣る自軍の騎兵を、意図的に退却させることでローマ軍騎兵を戦場から追いやったのだ。
 そして、味方の歩兵の第一列、第二列の奮戦により、なるべくローマ軍歩兵を消耗させる。こちらの狙いは半ば当たり半ば外れた。ハスタティ隊(第一列)には打撃を与えることはできたが、プリンキペス隊(第二列)、トリアリィ隊(第三列)は無傷のままであったからだ。
 



(だが、我が軍の真の主力も無傷)
 そう。イタリアから連れ帰った精鋭中の精鋭一万五千が、戦意を漲らせている。
 この兵力は敗北を知らぬ。今も、ハンニバルの旗の下、勝利のみを信じている。
 この闘志あふれた兵力が、前方の疲れ果てたハスタティ隊を粉砕すれば、その勢いでプリンキペス隊、トリアリィ隊を撃破することは、さしたる難事とも思えない。
(ハスタティ隊に無理をさせたことが仇となったな…。スキピオ)
 プリンキペス隊とトリアリィ隊は、自軍の不利に応じ前方に駆けつける仕組みだが、前線のハスタティ隊が急激に崩壊すれば、その混乱が必ず後方に波及する、ハンニバルはそう透察していた。
(一気に突き破るのだ)




 ハンニバル、右手を高々と上げた。
「全軍前進だ!」
 一斉に咆哮が上がった。ギリシア語、南部イタリア語、ガリア語、様々な言語が入り混ざり、猛獣の雄叫びのように大地に響いた。
「わあああ!」「うおおお!」
 槍を前に向け、一散に突進を開始した。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦4−弱兵を強兵とする(続き)
 セルギウス、前線に飛び込むと、じりじり後退し始めていた味方に喝を入れた。
「諸君!踏ん張れ!ここを堪えれば、全軍の勝利ぞ!」
「眼前にいるのは、諸君の勇武に怯える寄せ集めぞ!」
 そして、抜刀するや、崩れかけている線に向かい、奮然と敵兵と切り結び始めた。
 彼の後に百人の兵士が猛然と続いた。
 有言実行の彼とその配下の猛勇に、ハスタティ隊の若き兵士たちは発奮した。




「おおっ、副官殿自ら!」
「我らも負けられんぞ!」
 再び、ぐいぐいと押し込み始めた。
 すると、それまで、死地に追いやられ死神に督戦されたかのように無我夢中に奮戦していたハンニバル軍第二列の歩兵の隊列も、急激に崩れ始めた。
「もう駄目だ」
「支えきれぬ」
 彼らは後方へと逃げ出した。もともと性根が据わっていないから、いったん崩れると、一気に戦意を失ってしまう。
 後方には、ハンニバル軍の主力の歩兵が整然と隊列を保持している。




「閣下、前方から味方が敗走して参ります」
 マニアケスが言った。
「入れるな」
 ハンニバルはそう言った。
 常人ならば解読できぬ彼の言葉も、マニアケスは即座に理解した。彼女はハンニバルの作成を、否、彼のことを味方の誰よりも熟知していた。
「承知!」
 彼女は前方に駆け向かい、歩兵の列に命じた。
「槍を前に向けよ!逃げて来る者を受け容れてはならぬ!」
 非情な命令であった。
 だが、敗走兵をその勢いのまま隊列の内へ引き込んでしまえば、その混乱と臆病が全軍に伝染し手の施しようがなくなるであろう。
 味方の峻烈な態度に、敗走して来たカルタゴ市民兵やリュビア兵は、やむを得ず、左右に分かれて戦場から逃げのびていった。


https://novel.blogmura.com/novel_historical/ にほんブログ村

ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)


 ザマの決戦4−弱兵を強兵とする
 ローマ軍のハスタティ部隊は、次第に反転攻勢の圧力を強めつつあった。ハンニバル第一列の傭兵部隊の隊列は、あちらこちらで解れ始めた。
「後方の兵どもは何をしておるのか!」
 傭兵どもの間から怒号が飛び交い始めた。
 彼らの怒りも無理はない。自分たちが死闘を繰り広げているというのに、後方の第二列の歩兵部隊は一歩も動こうとしないからであった。
 第二列に控えるのは、カルタゴ市民やリュビア人から成る混成部隊。
 装備こそカルタゴ式の立派なものを着けていたが、性根は全く据わっていなかった。激闘の光景に誰もが凍り付いていた。
 だが、彼らのことを、平和な日本に住む我らが笑うことはできまい。私たち普通の市民が、いきなり決戦場に放り込まれたようなものなのだから。きっと足がすくみ、立っているだけが精一杯、卒倒しそうになるのを堪えるのが関の山であったに違いない。




 とはいえ、置かれた空間は、彼らを無為のまま過ごすことを許さなかった。
 前方で戦っていた傭兵たちが支えきれず、後方へ退却し始めたからだ。どれも目を血走らせ、肩を怒らせている。傭兵たちは自分たちが見捨てられたと怒り、彼らに斬りかかって来た。
「貴様ら、何をしている!」
「それでも味方の兵士か!」
 激高のまま押し寄せ、あちこちで同士討ちが始まった。
「わあっ!」「ひーっ!」
 こうなっては一種の発狂状態に陥るしかない。生死を共にしなければ、味方の傭兵に殺されてしまうのだ。
 こうして、第二列の兵士は戦闘に次々加わり始めた。第一列の傭兵たちに足並みを揃えなければ、その傭兵の刃にかかるしかない極限状況にあったからだ。
 その第二列の参戦により、ハスタティ隊の進撃の足はぴたと止まった。なにせ、第二列の兵力は三万。兵数だけで言えば大兵団なのだ。
 まさに、欲せざるとも戦わざるを得ない状況が、弱兵を強兵に変えつつあった。ハンニバルの巧妙な采配が遺憾なく発揮された局面といえよう。
 



 ハンニバル軍第二列の参戦に、ハスタティ隊は頑強に抵抗するも、ずるずると押し戻され始めていた。
「閣下、いかがいたします。プリンキペス隊を進ませまするか」
 セルギウスは総司令官の横顔に訊いた。
 ローマ軍歩兵で合戦に参加しているのは、只今、第一列のハスタティ隊だけ。第二列のプリンキペス隊、第三列のトリアリィ隊は、静かに林立したままだ。
「いや…まだ早い」
 スキピオは言った。
「ですが、このままではハスタティ隊が潰滅してしまいます」
「この後なのだ。本当の戦いは」
「この後?」
「ハンニバル直属兵との戦いだ」
 ハンニバル軍の第三列、即ち敵の真の主力は、この戦いを外のことのように静かに隊列を保ったままであった。それとの対決に、プリンキペス隊、トリアリィ隊の精鋭をぶつけたい、それがスキピオの思いであった。




「そういうことならば」
 セルギウスが勇躍してみせた。
「この拙者に、歩兵を百人授け給え」
「そなたが駆け向かってくれるのか」
「味方に闘志を吹き込んで参ります」
 齢既に五十を越えていた。なのに、この壮健ぶりはどうであろう。
 スキピオは、しばし、セルギウスの若々しい瞳を見詰めていたが、
「…よし。頼む」
「では参ります」
 セルギウス、およそ、この決戦の場に相応しくない満面の笑みを浮かべた。
「いくぞ!」
 彼は、スキピオの周りを固めていた百人の兵を連れ、前方に駆けて行った。


.
アバター
Dragon
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

友だち(3)
  • ダイエット
  • JAPAN
  • 時間の流れ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事