新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第12章アジアの章

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−これまでのあらすじ−
 東方でセレウコス朝のアンティオコス大王がアジアを制覇し、さらにギリシア世界に勢力を着々と拡大している時、ローマもマケドニアに勝利。こちらもギリシア世界に大きく飛躍しようとしていた。
 そして、紀元前194年、スキピオ・アフリカヌスが再び執政官に当選就任した。
 セレウコス朝とローマとの外交交渉が続く中、194年は平穏のうちに推移した。


 義弟と(続き)
「アンティオコス大王はどう動くのでしょう」
 パウルスが訊いた。
 これが昨今のローマ市民の第一の関心。というより、市民の中には怯えている向きもあった。ハンニバルの恐怖の再来となるのではないか、と。
「それは、恐らく、ここの皆々が予想している通りであろうよ」
 スキピオがちらと見回して、小さく笑った。
 それは、大王が大挙ギリシアに侵攻し、ローマの勢力を根こそぎギリシア世界から追い出し、それが巧くいけばさらにイタリアにまで侵略の手を伸ばして来る、というもの。




「不思議な話ですな」
 パウルスは言った。
「何が?」
「だって、大王は、充分な領土と充分な栄誉を得ている訳でしょう。なのに、なぜ我がローマと戦う危険を冒す必要があるのでしょう」
 アジア全土の支配者として君臨し、アレクサンドロスと同じ格式、大王(メガス)の称号を自他ともに許されているのだ。充たされていると思うのが普通だ。
「我がローマが大敵であること、そして、眼前にギリシア世界があること、それだけであろう」
 



 アンティオコスの行動は現代人にはピンと来ぬも知れぬ。例えるならば、戦国の武将が天下に号令するため京の都を目指すようなもの、あるいは中国の武将が皇帝たらんと中原に兵を進めるようなもの、中世欧州の君侯が帝位を求め教皇のいる聖都ローマに兵を進めるようなもの、というところか。
 とにかく、この時、アンティオコス大王としては、ギリシア世界に覇権を唱えることに最終的な目標を置いていた。
 大敵ローマを打倒しギリシア世界を制圧し、世界の覇者たらんとしたのだ。

イメージ 1

※↑ハンニバル・バルカの胸像です。

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 待ち人来る(続き)
「陛下」
 艦隊司令官ポリュクセニダスが現れた。
 ロードス出身の彼は、大王の進出を渋るロードス相手に、地縁血縁にもの言わせ、大艦隊をエーゲ海域に引き入れる事に成功し、大王のイオニア攻略に多大な貢献をした。
「あの御仁がやって来ましたぞ」
 ポリュクセニダスは頬を紅潮させていた。




「来たか」
 大王の瞳も輝いた。
 それは待ち人である。密かに招請していた人物が、帝都アンティオケイアを経て、こちらに海路やって来たという。都にいる次男セレウコスより先に通報が届いていた。
(見知らぬ人との出会いに、このように胸ときめくのはいつ以来であろうか…)
「謁見の間に通せ」
「ははっ」




 大王はディアデマ(王環)をきりりと巻き直すと、謁見の間に入り玉座に着いた。
 やがて、その人物が入口に立った。
 隻眼である。深紅のマントをまとい、一人の美貌の人物を連れている。
 すっすっと前に歩んで来る。
(これがあの著名な…)
(大ローマを滅亡の淵に追い詰めた…)
 重臣たちも興味津々の視線を注いだ。
 その人物は大王の前に来ると跪いた。
 これが、ヘレニズム王朝の君主の前に出る作法。ペルシア宮廷の流儀を、アレクサンドロス大王がそのまま取り入れたものである。




「ハンニバルにございます」
 その人物は言った。
「早速の拝謁を賜り、ハンニバル、恐悦至極に存じます」
 流暢なギリシア語で挨拶した。




「顔を上げられよ」
 大王は玉座の上に優渥な笑みを浮かべた。
「貴殿の英名、地中海世界に轟いておる。先の戦いは敗戦に終わったが、それは祖国の後押しの少なさによるもの。余はそなたに必要なもの全てを与えるであろう」
 アンティオコスは、いきなり絶大な信任を見せた。
 その言葉に、ハンニバルも隻眼を僅かに見開いた。
「ありがたきお言葉。これよりハンニバルは陛下の臣。微力を尽くし、御国のために邁進する所存」
 それは、アレクサンドロス再来と謳われるアンティオコス、そしてアレクサンドロスに劣らぬ稀代の名将ハンニバル、両者が手を携えた瞬間であった。



第12章アジアの章終わり。第13章世界帝国の章へ続く。


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 待ち人来る 
 紀元前195年秋。ここイオニアのエフェソス。
 アンティオコス大王は、再びここに戻っていた。
「ゼウクシス、ギリシア世界の現況はどうか」
 リュディア総督である腹心の彼に訊いた。




 このゼウクシス、第二次マケドニア戦争では、小アジア全域を舞台に暗躍した。フィリッポス五世に味方すると思わせ、肝心な部分で援助の手を引くなど、アレクサンドロス大王再来を気取る偽英雄を随分と苛立たせたことであった。
 無論それはアンティオコス大王の意図に沿うものであった。
「フィリッポスを助けよ。されど勝利を助けるな」
 大王はそう命じていた。
 小アジアにフィリッポス王の勢力が拡大し過ぎるのは困る。強国ペルガモン併呑となっては一大事。とはいえ、フィリッポスとの同盟がエーゲ海進出の大義であったから、見た目は同盟国の振る舞いでなければならない。




 ゼウクシスは、そこらのさじ加減をうまく塩梅して来た。例えば、フィリッポスがペルガモン包囲戦の際、兵糧の補給を求めて来たことがあった。その時にも、
「承知した。すぐに手配つかまつる」
 二つ返事であったが、兵糧の輸送を何のかんのと理由を付けて遅らせ、結局、補給に詰まったフィリッポスは退却していった。
 結果、目論見は成功したといって良いであろう。フィリッポスの占領地の多くを、今や大王の軍が占領し、さらにイオニア、リュキア、カリアの地域に大きく勢力を張り出すことに成功した。リュシマケイアの再建も順調に進み、長男のアンティオコスを現地軍司令官として派遣していた。




「は。先頃のイストミア競技祭の布告により、ギリシア民衆のローマへの信望ますます高く。アカイア同盟諸国、アテネやスパルタでは、ローマを讃える人々の声で埋め尽くされております」
 ローマのフラミニヌスは、ローマ元老院の名で、イストミア競技会場において全ギリシアの独立・自治の復活を宣言していた。それはギリシア人の歓喜をもって迎えられた。
「そうか…」
 大王は冷笑した。
「ということは、アイトリアは甚だ不愉快であろうな」
「はい。まさにその通りで」
 ギリシアの覇者を自負するアイトリア同盟は、ローマが意のままに和平条約を起草し、ギリシア世界の新秩序を定めていくことを、苦々しく憤懣やり方無く思っていた。
 このアイトリアだけが、イストミアの布告に不満を抱いていた。




「…して、手は打ったか」
「はい。いずれからも、陛下の御来光を切望するとの返事」
 ゼウクシス、会心の笑みを浮かべた。
 そう。アンティオコス大王は、アイトリア同盟と手を組み、ギリシア進攻を企図していたのだ。そのための道程を、腹心ゼウクシスにせっせと均(なら)させていた訳だ。
(時は間近。アイトリアに上陸し拠点を確保し、マケドニア、アカイアを制圧してしまえば、ローマとてどうにもなるまい)
 ローマも、リュシマケイアの決裂以降、アンティオコスの進攻を予期し、デメトリアスとカルキスに守備隊を置き備えていた。

 


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 軍師を所望(続き)
「そなたがおらぬようになって、事を諮る臣がおらぬようになった」
 大王はぽつりと言った。
 確かに、アンティオコスの周囲には、優秀な武将は綺羅星の如く集まっていた。だが、参謀となると、甚だ心許ないことに名を挙げることが出来ない。アポロパネスがそれに該当したが、その彼が病に臥せってしまっている。



 アポロパネスは頷いた。
「そのことについては、わたくしめも案じておりました」
「ほう…」
「陛下は大変御聡明。ですが、そういう御方こそ不意の事変に足をすくわれる恐れがあります。良き軍師が必要でございます」
「そのことよ」
 大王も同意を示した。そのために、ここに来たのだ。
 人間とは先天的にしくじる存在。どんなに優秀な人間も必ず失敗する。それを少なくし予防するには、自分とは違う他人の頭脳が必要なのだ。




「誰かおらぬか。異国にある者でもよい。すぐさま招聘しよう」
 これは難問であった。
 アンティオコス大王の眼鏡に適う、というのは相当程度の高い人物が必要。政治に軍事に精通している人材でなければならぬ。となると、地中海世界広しといえども、希少な存在に違いない。
 アポロパネスは蒼白い顔に微笑を浮かべた。
「一人おります」
「誰だ?」
「ハンニバルにございます」



 それからしばらくして。重臣アポロパネスは死去した。
 侍医の身で権臣ヘルメイアス誅滅の大事に身を賭し、その後、王国の再建に尽力し、セレウコス王家の再興に貢献した忠臣がこの世を去った。
「彼は、良き薬だけではなく、良き言葉を余に与えてくれた。そして、言葉通りの勇気を我が身をもって示した。まことに名医にして名臣。彼の名を忘れてはならぬ」
 大王は大いに顕彰した。


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 軍師を所望
 紀元前196年冬。シリア帝都アンティオケイア。
「それではお父様、行って参ります」
 八歳ぐらいの少女が、礼儀正しく、父に挨拶していた。
「うむ…達者でな」
 父は娘の手を握りしめた。
「心配いたすな。エジプト王はそなたを大切にしてくれよう」
「はい」
 父はアンティオコス大王。娘の名はクレオパトラ。大王の次女である。あの有名なクレオパトラその人では勿論ない。
 クレオパトラという名前自体、ヘレニズム王家の女性によくある名前なのだ。ギリシア語で『父の栄光』という意味が込められている。




 先頃、ローマの調停により成立したプトレマイオス王家との和睦に従い、婚姻関係を結ぶこととなった。ただ、長女はバクトリア王国のデメトリオス一世に既に嫁いでいた。ゆえに、クレオパトラを嫁がせることになった訳だ。
 ただ、この女性は長じてエジプトの統治権を獲得しクレオパトラ一世となる。即ち、後世の著名なクレオパトラの先祖となる訳だ。




 大王は、娘を見送ると、僅かな従者を伴い城下に出かけた。四頭立ての馬車を引かせ、ある人物の屋敷を訪れた。
 屋敷の前で大王が馬車から降り立つと、
「これは…陛下!」
 突然の行幸に、その屋敷の家人たちは仰天した。
 大王はからからと笑った。
「忍びで参った。行儀を取り繕う必要はない。主の許に案内いたせ」
「されど、主は病床に伏せており、誰とも会わぬと申しております」
 老家人は声を潜め、申し訳無さげに言った。
「知っておる。医者のくせに病に克てぬ迂闊者に会いに来たのだ。よいから通せ。これは勅命だぞ」
 大王は笑って命じた。
 ただ、冗談半分でも勅命を持ち出されては否やはあり得ない。
「は…それでは、こちらに」




 家人に案内されて、通された部屋には…。
「おおお…これは陛下」
 慌てて起き上がったのは、かつての侍医で、権臣ヘルメイアス誅滅の後、重臣に連なったアポロパネス。
「起き上がらずともよい。突然来たのであるからな」
 大王は右手を上げた。




「わざわざ拙宅にお越しとは」
「見舞いに来たのではないか」
「それは過分、勿体なきこと」
 アポロパネスは身を縮めた。




 二人は四方山話となり、当然の如く、先ほど見送った娘の話になった。
「泣きもせず異国に出かけていったわ。 我が娘ながらたいそう感心した」
「はい。クレオパトラ王女様は、幼少の頃よりしっかりしていましたから」
「まだ八歳ぞ。それであのしっかりぶり。エジプトを治めるやもしれんな」
 大王の言葉は、冗談の響きであったが、それは後世現実となる。
 

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