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大王への道12−悠久の都サルディス(続き)
ところが、彼の威令が悉く地域に行き渡り、王の如き待遇が当然のようになると、次第に心変わりした。
(あっさり甥に王位を譲ったのは早計であった…)
強く後悔した。
しかも、王都において実権を握っているのが奸臣ヘルメイアスと聞いては、王族であっても安穏としていられない。ヘルメイアスが、密かに自分の叛心をアンティオコスに吹き込んでいるとの噂も届いて来る。
現に有力な重臣たちが次々と粛清されていく。
(あの奸臣の策にかかるくらいならば…。男の本懐を遂げるべきである)
アンティオコスが、モロン征討にかかり切りになった時を見計らい、ついに自らディアデマ(王環)を戴き、王号を称した。
だが、ここからがアカイオスの計算違いであった。
アカイオスは、モロン征伐に出たアンティオコスの隙を衝くべく、タウロス山脈を越え進攻すべく東進を開始した。だが、途中、将兵が騒ぎ出した。
「これは…よもや」
「アンティオケイアに攻め込むつもりでは…」
動揺俄然全軍に広がり、将兵の間から反乱に与した覚えはないとの声が沸騰した。
そう。彼ら将兵はアカイオスの王位を望んでいたが、それは正統なるもので、叛乱自立した僭称などでは決してなかった。王位に就くのならばセレウコス三世死去の際に即くべきであった、自立するとしてもセレウコス王家の承認を得てもらいたい、そういう声が陣中に充満した。
(これはまずい…)
アカイオスは自身の思い違いを痛感せざるを得なかった。
自身の威徳タウロス以北に浸透し切っていると思いきや、人望この程度であることが図らずも地上に明らかとなっては、帝都進撃など思いもよらない。そのため…
「帝都進撃の意図など毛頭なく、ただ、この地域の安定のための進軍」
そのように言い繕い、撤退せざるを得なかった。
以降、タウロス以北の人心安定に務め、ひたすら時を待つことにした。
幸い、好機は時を措かず訪れた。紀元前217年のラフィアの戦いである。
(来た!)
アカイオスは雀躍りした。
すぐさま大軍を率い、タウロス山脈の北麓にあって、シリアの中枢を窺った。
(王権瓦解を目の当たりにすれば、将卒も、余のシリア王位継承を望むに違いない)
だが…。
「なにっ、プトレマイオス四世王がアンティオコスと和睦したと!」
「は。ラフィアの勝利後シリア領内深く攻め込んでおりましたが…」
「なぜだ!帝都アンティオケイアを眼前に引き返すなどあり得ぬ!」
信じられなかった。エジプト軍の帝都攻撃開始と同時に山越えと踏んでいただけに、梯子を外された心地であった。
その後、エジプト軍撤退が確認されると、アカイオスも計画を断念せざるを得ず、リュディアへと帰還した。そして、この時を境に、アンティオコスの逆襲が始まった。
そして…。翌年紀元前216年、アンティオコスの大軍がタウロス山脈を越えて来た。
雪解けの奔流の如き怒濤の進撃に、抗戦を試みたが、全く歯が立たない。
「サルディスに立て籠るよりほかない」
この天険に拠れば、敵に百万の軍勢あろうとも互角に戦うことが出来る。
万が一のことを考え、数年前よりこの城に兵糧武具の備蓄を進めていた。
「こんなに早くここに籠ることになろうとは、な」
アカイオス、己の境遇の急転に苦笑した。
だが、籠城戦は確かにアンティオコスを苦しめた。
一年経ても、城は頑として落ちなかったのである。
紀元前215年。
「あとは時機が巡り来るのを待つのみ」
アカイオスは肚を決めた。
それからは、昨日も今日も同じ光景が延々続いた。小競り合いが日課の如くなった。
「今日も無事に過ぎた」
夕刻、アクロポリスの頂きで安堵するのが常となった。
明日も訪れるであろう日常を思い浮かべ、そのことに安心し、ぐっすり深い眠りに落ちるのである。
だが、歴史の静寂というものは、突如破られる。
そのことを、人々は改めて思い知ることになる。
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