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※関係地図は8月9日掲載「大王への道−炉を奪い返す(続き)−アジアの章31」を御覧ください。なお、合戦地について、地図の表記は「ラフィア」ではなく「ラピア」となっています。ガザの西方に位置します。
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大王への道10−ひとときの閃光
その頃、シリア軍の左翼では右翼とは全く逆の展開を見せていた。
こちらでも、インド象の突進にエジプト軍のリュビア象は蹴散らされ、味方の隊列に逃げ込む有様であった。そこまでは右翼と同じであった。
だが、エジプト軍の将エケクラテスが、とっさに機転を働かせた。
「混乱に巻き込まれるな!敵味方の象を回避せよ!」
外側に大きく転回した。
「よし!敵騎兵は象軍の優位に油断しておる!その隊列に突撃だ!」
シリア軍左翼は、メディア人騎兵やアラビア人騎兵。彼らは勇猛であったが、それゆえにエジプト軍の騎兵を大いに侮り、おっとり構えていた。
「うっ、敵騎兵隊が攻め寄せて来たぞ!」
その油断を衝かれ大いに慌てた。隊列が大いに乱れた。
そこにエジプト軍騎兵が一散に突撃を敢行して来ると、メディア人騎兵らは持ち堪えられず、ついに後方を潰走せざるを得なくなった。
こうして右翼と左翼で異なる結果を見ることとなった。
残すは中央、重装歩兵隊の重厚な隊列のみが残された。
エジプト軍重装歩兵隊の大将はソシビオス。
「宰相、速やかに前進を」
アガトクレスが苛々と促した。
「うむ…もう少し様子を」
ソシビオスは逡巡した。
宰相という立場上主力を統率しているが、元々文才でエウエルゲテスの側近となり、四世王の宰相となった。軍才には乏しい男。しかも、眼前に、雲霞の如きに埋め尽くす、シリア軍歩兵の隊列。己の直面する運命に萎縮してしまったのだ。
いや、逡巡しているのは、シリア軍重装歩兵隊の将ゼウクシスも同じであった。
左右両翼、異なる結果が出た以上、ここで勝利した方が全軍の勝利者。慎重にならざるを得ない。
その時。エジプト軍の隊列から、白馬が一騎、大きく前に飛び出した。
「え…?!」「あ…!?」
将兵は何が起きたか分からず、呆気にとられた。
躍り出たその人は飾り紐を頭に巻いている。それは王者の証ディアデマ(王環)。
プトレマイオス四世である。
剣をすらと抜くと絶叫した。
「恐れるな!敵は諸国より狩り集められた傭兵の群に過ぎぬ!我ら精鋭の前には蟻の群も同然ぞ!」
そして、シリア軍に向かい剣先をびしと向けた。
「汝らはこの世の掟に背きし者ども!降るならば今しかないぞ!」
それはまこと雄々しき振る舞い。王の日頃の暗愚を知る人は信じ難い面持ちで、ぽかんと口を開けていた。
だが、全土より集められたエジプト人将士は、王の勇姿に震えるほど感動した。
(この王についていけば勝てる)
対して、シリア兵は、敵王の大胆な振る舞いに、明らかに動揺していた。
(あの王は勇敢な人であったか)
「おおお!」「わああ!」
エジプト側から大喚声が上がり、対するシリア側は押し黙ってしまった。
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