新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第12章アジアの章

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 大王への道11−断崖こそ急所
 エジプト軍はコイレ・シリア全土を回復し、さらにエレウテロス川(現カビール川)を越え、シリア領内に進軍した。
 そこにアンティオコスの軍使が現れた。




「アンティパトロスにございます」
 先頃、ラフィアの戦いに一軍を率いて参戦した、アンティオコス王の甥である。
 彼はプトレマイオス四世の前に出ると、こう申し述べた。
「決着はつきました。陛下はコイレ・シリアを収められました。つきましては、これ以上矛を交わすは無益なことゆえ、和睦を取り交わしたいと存じ、まかり越しました」
 それは図々しい申し入れではあった。
 コイレ・シリアを獲ったのだから、もう戦う理由はないであろう、だから和平しよう、そんな申し入れであった。ここにも、アンティオコスの割り切れぬ気分が現れていた。




「ふん。傲慢な申し入れよな」
 四世王は、じろりと使節を睨んだ。
 だが、彼は、厳しくアンティオコスを非難することはなかった。
「よろしい。エレウテロス川以南のコイレ・シリアは未来永劫プトレマイオス王家に帰属すること、我が軍の捕虜を無償にて返還すること、これが和睦の条件だ」
 王は、あっさりと実を取ることを選んだ。賠償金も要求しなかった。
 というのも、四世王は、既にこの戦いに飽き飽きし始めていたのだ。




「元の愉快な生活に戻りたい」
 太鼓を叩き、酒に酔い、美女を侍らせ、友人と狂乱する怠惰な生活。
 そのことを、ソシビオスやアガトクレスには、隠さず明かしていた。
(やっぱり…)(これが本来のお姿か…)
 二人は、王が元の暗愚に戻ったことに拍子抜けし、同時に安堵もしていた。
 この王が合戦で見せた閃光を内政でも発揮されれば、自分たち権臣の居場所はない。それどころか、いずれ粛清されるしかないであろう。
 だから、二人も和睦に大賛成した。
「御聖断、何の否やがありましょうや」
 こうして、プトレマイオス四世は、得意満面な面持ちで王都アレクサンドリアへと帰還した。無論、途中、民衆の歓呼を浴びての凱旋である。




 この後、プトレマイオス四世は、ラフィアの戦いで見せた鋭敏を二度と見せることはなかった。実に不思議な王である。
 そのため、勝利後、王が元の暗愚な君主の位置に戻り、ソシビオスとアガトクレスの専制が当然の如く復活すると、有能な臣下らは、アンティオコスへと寝返っていった。ニコラオスなど重鎮級の武将が続々離れた。これも不思議な現象だ。戦勝国から敗戦国へ身を移すのだ。
「物足りなき君主よ」
 ということであろう。シリア制圧の好機をみすみす見逃すなどあり得ぬ話。
 ともかく、プトレマイオス四世は、王家伝来の領土を保全し、コイレ・シリアの奪還にも成功した。彼の生存中、宮廷の中はともかく、王国はすこぶる平穏であったという。

※関係地図は8月9日掲載「大王への道−炉を奪い返す(続き)−アジアの章31」を御覧ください。なお、合戦地について、地図の表記は「ラフィア」ではなく「ラピア」となっています。ガザの西方に位置します。

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 大王への道10−ひとときの閃光(さらに続き)
 エジプト人の奮闘には理由がある。
 プトレマイオス王朝創建以来、支配階層をギリシア系で占められ、彼らエジプト人は被支配者としてずっと圧政下にあった。軍に動員されても輸送兵など後方の一部を任せられるだけ。当然、宮廷に立身する途などなかった。
(ここで活躍して何としてでも同胞に希望を)
 自身の尊厳を回復するための奮闘。当然、勇猛にならざるを得ない。
 エジプト人歩兵の活躍もあり、ついにシリア軍中央は崩壊を始めた。
 左翼で敗れ、中央で敗れては、シリア軍はもはや総敗北の他はない。



 その頃、アンティオコスはなおも右翼でプトレマイオスの姿を追い求めていたが、
「なに!中央が敗走していると!」
 ようやく中央の戦線の異変に気付いた。
「おおお!」
 味方の歩兵部隊が干潮の如く後方へ後方へ引いていく。
(馬鹿な…!なせだ?!)
 王の位置からは、原因が皆目分からない。
「陛下!このままここにあっては敵に包囲されます!」
 テオドトスが叫んだ。
 早くも、敵の一部が彼ら後方に回る動きを見せていたからだ。




「うぬぬ…」
 王は顔を真っ赤にした。
 最前まで勝利を確信し切っていた。それがこの急転直下。
(配下の者を信じ過ぎたか…)
 王はそんな風に思った。それは自身の責任ではない、そんな感覚だ。大失敗に直面した際、人がとっさに逃げ道を求める、あの心理状態である。
 だが、この戦いの敗因は、明らかに、全軍に目配りをしなかったアンティオコスの不注意にある。もし、彼が、プトレマイオスの左翼を撃破した後、すぐに中央に戻って味方を鼓舞すれば、反対の結果になっていたことだろう。




 とにかく、事態は退却しかないことを示していた。
「やむを得ん!全軍退却だ!ラフィアに退却せよ!」
 王直属の近衛部隊も馬首を巡らし、退却に転じた。はじめ整然と退軍にとりかかっていたが、エジプト軍の追撃が急で、追いつかれた後方の兵が次々討ち取られていった。
 やがて、その退軍は混乱を極め、多くの歩兵が敵の包囲に落ち、捕虜となった。




 その後、アンティオコスは、ラフィアを捨ててガザに退却し、そこで敗軍をまとめると、コイレ・シリアの地を後にして、王都アンティオケイアに帰還するほかなかった。
 ラフィアの戦いは、戦前の予想を全く裏切り、プトレマイオス四世の活躍により、エジプト側の大勝利に終わったのである。それは、四世王が酔いから醒め、人生において只一度見せた、まさに閃光であった。


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 大王への道10−ひとときの閃光(続き)
「ソシビオス!」
 王の眼光が白く光った。いや、そう見えた。
「は、ははっ!」
 宰相は背筋を直立させた。
「直ちに前進を始めよ!恐れるな!」
「はーっ!」
 宰相ソシビオス、事の意外に興奮、血液が脳天に逆流した。王に促されるまま、夢中に周囲に矢継ぎ早に指図した。



 エジプト軍歩兵はサリッサ(マケドニア式長槍)を正面に構えた。マケドニア人にクレタ人にアイトリア人、そして、今回の戦に初めて動員されたエジプト人。
 ざっざっと地を踏みしめ進み始めた。
「それっ!突撃だ!」
 プトレマイオス四世は味方を鼓舞し続けた。
 全軍、熱狂となり敵の隊列に突入していく。



「落ち着け!酔いどれ王の戯言に過ぎぬ!」
 ゼウクシス、味方の動揺を鎮めて廻りながら、激しく苛立った。
(なぜ我が王も、戻って来て味方を鼓舞してくれないのか…)
 その頃、アンティオコスは勢いに任せ右翼を突き進んでいた。中央を軽視して勝利はないというのに…。
 そこは若さなのだ。自身が全軍の総司令官であることを忘れていたものであろう。
 彼が中央に舞い戻り味方を鼓舞督戦していたら…。局面は全く異なったであろう。



 前面から悲鳴にも似た叫び声が上がった。
「ゼウクシス殿!敵が凄まじい勢いで攻め込んできましたぞ!」
「なに!」
 前方に馬を飛ばした彼の視界に信じ難き光景が飛び込んで来た。
 アジアの勇猛な重装歩兵が、エジプト兵に押しまくられていた。
「ば、馬鹿な!」
 エジプト兵は弱いとの思い込み。それは、古代文明の繁栄に慣れ、いつしか惰弱な人種となってしまったエジプト人、その思い込みがギリシア人にはある。


※関係地図は8月9日掲載「大王への道−炉を奪い返す(続き)−アジアの章31」を御覧ください。なお、合戦地について、地図の表記は「ラフィア」ではなく「ラピア」となっています。ガザの西方に位置します。

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 大王への道10−ひとときの閃光
 その頃、シリア軍の左翼では右翼とは全く逆の展開を見せていた。
 こちらでも、インド象の突進にエジプト軍のリュビア象は蹴散らされ、味方の隊列に逃げ込む有様であった。そこまでは右翼と同じであった。




 だが、エジプト軍の将エケクラテスが、とっさに機転を働かせた。
「混乱に巻き込まれるな!敵味方の象を回避せよ!」
 外側に大きく転回した。
「よし!敵騎兵は象軍の優位に油断しておる!その隊列に突撃だ!」
 シリア軍左翼は、メディア人騎兵やアラビア人騎兵。彼らは勇猛であったが、それゆえにエジプト軍の騎兵を大いに侮り、おっとり構えていた。
「うっ、敵騎兵隊が攻め寄せて来たぞ!」
 その油断を衝かれ大いに慌てた。隊列が大いに乱れた。
 そこにエジプト軍騎兵が一散に突撃を敢行して来ると、メディア人騎兵らは持ち堪えられず、ついに後方を潰走せざるを得なくなった。
 こうして右翼と左翼で異なる結果を見ることとなった。
 残すは中央、重装歩兵隊の重厚な隊列のみが残された。




 エジプト軍重装歩兵隊の大将はソシビオス。
「宰相、速やかに前進を」
 アガトクレスが苛々と促した。
「うむ…もう少し様子を」
 ソシビオスは逡巡した。
 宰相という立場上主力を統率しているが、元々文才でエウエルゲテスの側近となり、四世王の宰相となった。軍才には乏しい男。しかも、眼前に、雲霞の如きに埋め尽くす、シリア軍歩兵の隊列。己の直面する運命に萎縮してしまったのだ。
 いや、逡巡しているのは、シリア軍重装歩兵隊の将ゼウクシスも同じであった。
 左右両翼、異なる結果が出た以上、ここで勝利した方が全軍の勝利者。慎重にならざるを得ない。



 その時。エジプト軍の隊列から、白馬が一騎、大きく前に飛び出した。
「え…?!」「あ…!?」
 将兵は何が起きたか分からず、呆気にとられた。
 躍り出たその人は飾り紐を頭に巻いている。それは王者の証ディアデマ(王環)。
 プトレマイオス四世である。
 剣をすらと抜くと絶叫した。
「恐れるな!敵は諸国より狩り集められた傭兵の群に過ぎぬ!我ら精鋭の前には蟻の群も同然ぞ!」
 そして、シリア軍に向かい剣先をびしと向けた。
「汝らはこの世の掟に背きし者ども!降るならば今しかないぞ!」




 それはまこと雄々しき振る舞い。王の日頃の暗愚を知る人は信じ難い面持ちで、ぽかんと口を開けていた。
 だが、全土より集められたエジプト人将士は、王の勇姿に震えるほど感動した。
(この王についていけば勝てる)
 対して、シリア兵は、敵王の大胆な振る舞いに、明らかに動揺していた。
(あの王は勇敢な人であったか)
「おおお!」「わああ!」
 エジプト側から大喚声が上がり、対するシリア側は押し黙ってしまった。

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※↑プトレマイオス四世です。GNUフリー文書利用許諾書 (GNU Free Documentation License) 1.2に基づいて掲載しています。
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 大王への道9−ラフィアの戦い(さらに続き)
 大地は静まり返った。
 アンティオコスは、左翼に陣取るプトレマイオスの真向かい、右翼に陣取った。




「ふん、臆病者め。一衝きで潰走せしめてやる」
 すっと右手を上げた。
 象が咆哮を上げ、ずしずし進み始めた。
 同時にプトレマイオスも右手を上げた。
 こちらも象が鼻を振り前進を開始した。




 戦いは象の格闘から始まった。牙を絡み合わせ相手を組み止め捩じ倒そうとする。
 が、ここで優位に立ったのはアンティオコス軍の象であった。こちらはインド象。プトレマイオス軍のリュビア象に比べ格段に巨体。だから、リュビア象はインド象の突進してくる様に怯え、足を止めて動かなくなった。
「こらっ、動かぬか!」
 いかに象使いがぴしと鞭打っても、びくともしない。
 とうとう象使いや兵士を乗せたまま、その場から逃げ出してしまった。



 序戦の優位に、アンティオコスは太腿をぱしと叩いた。
「よし!敵象は崩れた!騎兵隊は我が象軍を迂回し、敵騎兵隊の側面を衝け!」
 味方の象軍は敵の前面に突入し優位に戦っている。その象を邪魔せずに、敵軍の隊列に突撃するという訳だ。
「わああ」
 配下のアンティパトロス率いる近衛騎兵四千が飛ぶように駆け出した。
 そして、前面の象軍の混乱で隊列を動揺させていた、プトレマイオス軍の左翼の騎兵隊の列に突入した。



「うっ、敵騎兵が側面から攻めて来たぞ!」
 慌てて隊列を左の方に向き直そうとしたが、象が逆流するなど混乱の最中とあって、間に合わなかった。
「それっ、一気に突き崩せ!」
 シリア軍の騎兵は猛然と槍を繰り出し矢を放った。
「わっ」「ぎゃっ」
 エジプト軍騎兵は次々と馬から転げ落ちた。




「よし!我らも進むぞ!」
 アンティオコスは勇躍した。真正面にはプトレマイオスの旗が閃いている。前面を破れば全軍の勝利と確信したからだ。
 アンティオコス王を先頭にシリア軍右翼の騎兵隊と歩兵隊が突進を開始すると、エジプト軍の左翼は持ち堪えられず、どっと崩れ立った。
「プトレマイオスを探せ!臆病者を引っ捕らえよ!」
 アンティオコスは駆け回り叫んだ。
 右翼で圧倒するシリア軍。このまま全面的な勝利かと思われたが、戦場はここだけではなかった。


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