新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

第12章アジアの章

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 東西巨大勢力の遭遇(さらにさらに続き)
 場は静まり返った。
「まず訊きたい」
 アンティオコス大王はおもむろに口を開いた。
「ローマ人は、一体、何の権限ないし根拠があって、アジアのことに口を出すのか。ローマ人はイタリアの支配者。アジアの事柄とは最も縁遠い人々。それゆえ、アジアの事に口出ししないよう要求する。我らもイタリアの事には口出ししないのであるから」
 確かに、ローマのアジア干渉を導く理屈を見出すのは困難であろう。




「また、アジアの内にあるギリシア人都市が自治を保つのは差し支えない。だが、それは我がセレウコス王家の恩恵によるものでなくてはならぬ。なぜならば、アジアを統治する権能を受け継いでいるのは我が王家なのであるから」
 セレウコス朝がアジア秩序の頂点にあるという建前から行くと、当然の帰結になろう。
「さらに、このリュシマケイアに何ゆえ来たのかということだが、我が次男セレウコスの住居をあつらえてやりたいと思ったのだ」
 次男のため、ということだがこれは軽口にも似た冗談であろう。




 大王は真顔に戻ると、
「正当な支配権を回復するためである」
 噛んで含めるように言った。
「トラキアは、かつてリュシマコスが王権を打ち立てたが、我が始祖セレウコス(一世)がリュシマコスに勝利し、以降、ここの支配権は我らに帰属すべきものなのであるから」
 確かに、紀元前280年、初代セレウコス一世は、リュシマコスを撃破しトラキアを制圧した。
 だが、その直後、セレウコスはプトレマイオス・ケラウノス(プトレマイオス一世の息子)に暗殺され、トラキアも奪われた。以降、トラキアはずっとプトレマイオス王朝の支配下にあった。
 ということであるから、ここが本来的にセレウコス朝の領土というのは説得力が弱い。




「我が大軍は、略奪者トラキア人に備えるためのもの。ギリシア人、マケドニア人に備えたものではなく、ましてや、そなたらローマ人に向けられたものではない」
 大王は、王者の鷹揚を見せて微笑した。
 結局、アンティオコス大王とローマ使節団の交渉は決裂した。
 とはいえ、直ちに開戦という空気でもなかった。今後も交渉の余地を残しての決裂であった。ローマはフィリッポスに勝利を収めたばかりで、大戦争に突き進む空気ではない。アンティオコスも、トラキアに進出して来たばかりで、足場を固める段階。
 まさしく、両者、肚の探り合いに終始したのであった。
 アンティオコス大王は、間もなくして、シリア本国へ帰還した。

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 東西巨大勢力の遭遇(さらに続き)
 紀元前196年春。アンティオコス大王は、艦隊を率いてさらに北上し、ケルソネソス半島に上陸した。ついに、ヨーロッパ大陸の一角に足を踏み入れたのである。
 大王は、ここを陸路北上し、半島の付け根にある都市リュシマケイアを占領した。
 ここは、アレクサンドロス大王の部将でトラキア王となったリュシマコスが、王都として建設した都市である。先年フィリッポス五世に占領され、彼がローマとの戦いのため退去した後にトラキア人の略奪に破壊され、廃墟のままとなっていた。
「この由緒ある都市を打ち捨てたままにするのはよろしくない」
 そういって都市再建に取りかかった。ここはアジアとヨーロッパの陸海路を扼する地。肚に一物あるのは明らかであった。




 その年の秋。ローマ使節団が海路リュシマケイアにやって来た。
「もう来たのか」
 大王は苦笑した。
 この年の夏、イストモスで開催されたイストミア競技祭で、ローマの指導者フラミニヌスは、全ギリシアの自由を宣言していた。その自由独立の対象には、アンティオコス大王の占領した地域や都市も含まれていた。
 大王は、使節をイストモスに派遣し、ローマの動向を探ったが、その折、既にローマ側からケルソネソス、イオニア、リュキアからの撤退を要求されていた。
「いずれ大王に直接お会いし、同じ要求をするつもりである」
 そう啖呵を切ったというローマの使節団が、早くもやって来たというではないか。
 いや、ローマとすれば、フィリッポスとの戦いを切り上げ、戦後処理を速やかに進めて来たのは、大王の侵略を食い止めるため。大王の勢威がギリシア世界に及べば、新たな大敵の出現を東方に見ることとなるからだ。



 大王は、リュシマケイア市内の新築なったばかりの迎賓館で会見に臨んだ。
 共に連戦連勝を重ね、日の出の勢いのセレウコス朝シリアとローマ共和国。
 使節団の一人に、スキピオ・アフリカヌスの弟ルキウスがいた。
「メガス(大王)と讃えられる陛下にお会い出来て光栄の至り」
「余もハンニバルを破ったローマ人に会いたいと思うていた所」
 最初は挨拶に雑談を交え、和気あいあいとした雰囲気であった。
 だが、本題に入ると、空気は一変した。
 ローマの使節団は途端に強面となった。




 ルキウスが代表して主張した。
「陛下の占領した、エフェソス、サモス島、リュシマケイアは、いずれも我がローマが偽英雄フィリッポスを打ち破ったためもたらされた戦果。それを横から陛下が横取りするのは、いかにも戦いの掟に反するもの」
 確かに、上記の都市は、全てフィリッポスがローマとの戦いに追われ撤退した地域。
「そして、自治を保つギリシア諸都市を侵さないで頂きたい。それが、このギリシア世界の掟であり、我がローマがフィリッポスと戦った大義なのですから」
 ローマとてギリシア世界に野心はあったろうが、この時点で、ローマがギリシアの独立と自治に貢献したことは確かな事実であった。
「しかも、陛下は何の意図があって、驚くような大軍をもってこのリュシマケイアに入られましたか。素直に推測すれば、ギリシア世界への野心を疑わぬ訳にはいきませぬ」
 なにせ、リュシマケイア沖に二百隻の艦隊、地上に八万余の大軍勢が控えていた。


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−これまでのあらすじ−
 東方遠征に大成功を収めたアンティオコス三世は大王(メガス)を称し始めた(205年)。
 その頃、エジプトではプトレマイオス四世が不節制と放埓の末に死去(204年)。アガトクレスが摂政として権力を握るも、彼の母オイナンテらによる王母アルシノエ暗殺を契機として、民衆の反乱決起、アガトクレス一族は一掃される。
 アンティオコス大王はこの機を逃さず、マケドニア王フィリッポス五世と秘密同盟を締結。エジプト王国の海外領土奪取に動き、コイレ・シリア(現パレスティナ)や小アジアに侵攻開始。



 東西巨大勢力の遭遇(続き)
 ポリュクセニダス艦隊はリュキア(現トルコの南西部沿岸)の手前の地で投錨した。
 というのも、ロードス艦隊が進攻を妨げる気配を見せていたからだ。
「我らが宿敵フィリッポスを救援するためとか。エーゲ海の内へ進むことはまかりならぬ」
 要は、フィリッポス勢力との合流を阻止するため。




「いかがいたしましょう」
 前線のポリュクセニダスからの問い合わせが大王の許に届いた。
 ロードス艦隊と真っ向勝負するか、それとも交渉で解決するか。
「しばし待て」
 アンティオコス大王は命じた。
 ロードス艦隊は最強。それとの正面激突は得策ではないし、消耗すればイオニア制圧にも支障が生じる。




(間もなく時が訪れる)
 彼は慌てなかった。それは、サルディス包囲に三年、バクトラ包囲に二年、それぞれ膨大な時間を費やし確かな戦果を上げて来たからであった。
 そして、ここでも彼は三年の時を待った。
 紀元前197年。この年、ギリシア本土のキュノスケファライの戦いでフィリッポスがフラミニヌス率いるローマ軍に大敗を喫し、講和の運びと伝わってきた。
 すると、ロードスの強硬姿勢にも明らかな変化が現れた。
「もはや大王の行動に我らの利害はありませぬ」
 艦隊通過を認めたのだ。確かに、フィリッポスとの合流阻止の大義は失われた。




「ならば進め」
 王の巨大な旗艦を真ん中に、ポリュクセニダス艦隊はエーゲ海の内へと進んだ。そして、サモス島を占領し、さらにはイオニアの中心都市エフェソスを占領した。
 アンティオコス大王は、労せずしてイオニア制圧に成功したのである。


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 −これまでのあらすじ−
 東方遠征に大成功を収めたアンティオコス三世は大王(メガス)を称し始めた(205年)。
 その頃、エジプトではプトレマイオス四世が不節制と放埓の末に死去(204年)。アガトクレスが摂政として権力を握るも、彼の母オイナンテらによる王母アルシノエ暗殺を契機として、民衆の反乱決起、アガトクレス一族は一掃される。
 アンティオコス大王はこの機を逃さず、マケドニア王フィリッポス五世と秘密同盟を締結し、エジプト王国の海外領土奪取に動きだし、コイレ・シリア(現パレスティナ)に侵攻開始。



 東西巨大勢力の遭遇
 アンティオコス大王の軍勢は、その後、キュプロス島、キリキア、リュキアといったプトレマイオス王朝の海外領土を次々奪取した。さらには、コイレ・シリアの中にあって強固な独立を維持していたユダヤ共同体も支配下に収めた。
 紀元前200年に入ると、大王の圧倒的な勢威の前に、エジプト王国の勢力は本国に退却せざるを得なかった。
 



「ポリュクセニダス、次はそなたの出番だぞ」
 大王は笑ってそう言った。
 ロードス人の彼を指揮官に、大艦隊を率いて西進を開始した。そもそも、ポリュクセニダスを雇い入れたのは、ロードス出身で海事に詳しい彼に艦隊の指揮を委ねるため。
「はい。ようやく拙者の本領発揮の機会が来ました」
 ポリュクセニダスも笑った。
 これまでは、アカイオス征討に東方遠征と陸戦続き。艦隊を用いる機会はなかった。
 ようやくエーゲ海に進み、イオニアのプトレマイオス王朝の領土に手を伸ばす戦機を得た。ここを獲ればギリシア本土を眼前に望むことが出来る。




 実は、この地域は、先行してフィリッポス五世の侵略に遭っていた。
 だが、フィリッポスは、第二次マケドニア戦争(紀元前200年〜197年)の真っ最中。ペルガモン・ロードス連合軍との激闘に忙殺されていた。しかも、マケドニア本国に、ハンニバルを破ったローマの大軍が迫りつつあった。そのため、主力をギリシア本土に移し始めていたのだ。




「同盟国マケドニアを救援するため」
 それを名目に艦隊を進めたのである。そう。あくまでも名目。
(この隙にイオニア全てを頂戴する。そして、さらに…)
 大王は将来を見据えていた。
 それは、マケドニアとローマの戦いの勝者がいずれになるか、である。その勝者こそ、大王のギリシア世界制覇に立ちはだかる強敵になるだろうからだ。
 とはいえ、大王はある帰結を見通していた。
(ローマが勝利を収めよう)
 そして、そのローマと、ギリシア本土を舞台に干戈を交えるであろうことも。


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 大王の侵略(続き)
「我が王フィリッポスは、この好機を逃すことなく、プトレマイオスの支配地を陛下と折半したいと申しております」
 その申し出に、大王は呆気にとられ、そして笑い出した。
「ははは。そうか。フィリッポス殿は、先頃プトレマイオス四世に仲介された経緯もあるから、と思うておったが…。そうか」




 フィリッポスは、プトレマイオスの仲介でアイトリア、ローマと和平を実現し、フォイニケの和約(紀元前205年)で念願のイリュリア割譲をローマから克ち取っていた。その大恩があるから、拒まれるやもと懸念していたのだ。
(なるほど…フィリッポス。冷酷無比、狡猾無類の噂は、本当のようだな)
 大王は侮蔑に似た感情に一瞬むらとなったが、そんな気振りを微塵も見せなかった。
「いや、王者たる者そうでなくてはならん。獲物あらば仮借してはならんのだ」



 紀元前202年。アンティオコス大王率いる大軍は、大挙南進するとコイレ・シリアに進攻した。当然、エジプト側はこれに激怒した。
「条約の侵犯ぞ」
 だが、王は幼少、アガトクレス一族粛清直後で政権の体制も盤石ではない。
 それでも、アイトリア傭兵部隊の司令官スコパスを送り込んで来た。この男は、本国アイトリアの長官を務めたこともある猛将。ただ、凄まじき貪欲で有名で、海賊稼業に手を染めていたこともあった。




「ふん。スコパスか」
 アンティオコス軍の先陣の大将ニコラオス、彼もアイトリア出身。だから、スコパスのことはよく知っていた。
「奴が将ならば、幾らでも手がある」
 彼は密かに敵の部隊長らに賄賂を贈った。
 なにせ、総大将が賄賂を受け取ることで有名な男。従って、誰も悪びれず受け取る。
 こんな軍が士気の高い訳がない。上が腐敗しているのに、下が清く正しく、となる訳がない。上が腐敗すれば、下の下、爪先まで全て腐敗するものだ。腐敗はまさに自壊を導く巨悪なのだ。
 アンティオコス軍は、ヘルモス山麓でスコパス軍に勝利すると、ガザの戦いでも勝利を収めた。スコパス率いる軍は、ナイルデルタへ敗走するほかなかった。
 コイレ・シリアの大地に、ついに大王の御旗『ヴェルギナの太陽』が高々と上がった瞬間であった。


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